探しなさい、さすれば見つかるであろう
今回は短めです
バステト要塞近郊の平原
コロモクからバステト要塞への列車の中継点の一つ、前までは資材置き場であるプレハブ小屋が一つあるだけだったその地点はいまや皇国軍の集結地点として大いに賑わっていた
緩やかな丘の上に、皇国軍の工兵隊が設置した大型プレハブ小屋があり、そこに大勢の上級将校が集まっていた
その中へ、扉を開けて入ってきたのは作戦参謀のベイカー少佐である
「さて、諸君。今回の作戦と状況を説明する」
ベイカー少佐がプロジェクターを背景に話し始めた
「作戦開始場所はここ、バステト要塞南東約20kmのこの平野、我々がいる集結地点から始まる」
プロジェクターの映像が切り替わり、衛星から観測された地理情報が映し出された
「この、群狼の巣窟はこの一ヶ月で半径20kmの巨大な規模にまで成長した、今でも緩やかにだが拡大は続いてる、このままではコロモクからバステトへの補給路、鉄道網、更には周辺の村落や駐屯地へ被害が出る。それを食い止めるために我々が派遣されたのだ」
この作戦に集ったのはバステト駐留の第Ⅱ軍団から歩兵二個師団と二個砲兵大隊、列車砲連隊に二個攻撃ヘリ小隊がやってきていた
そこへコロモクの第Ⅴ軍団から二個装甲車中隊と一個戦車中隊を基幹とした機甲師団と制空部隊、更に地上攻撃用のAC130ガンシップが投入されていた
「砲兵隊は全て配置に付いている、航空部隊ももう間も無く到着だ。歩兵である諸君の目標は、中央にある巣窟核、そしてこの森のどこかに隠匿されている化学兵器だ」
ダンジョンコアを破壊すればダンジョンの浸食は止まる。リラビア側から提供された情報の中にはそのような記述があった
ダンジョンコアやダンジョンのことはよくわかっていない。この世界の有史以前、空から降ってきた無数の光芒が大地や海に降り注ぎ、そこから見たことのない魔獣が現れ、燃え盛る火山に洪水が生まれ、緑の生えない砂漠に木々が生い茂り、ダンジョンコアは人々に恵みと災厄をもたらしたのだ
皇国軍は現在玄武島鬼泣市のダンジョンコアを含め、ダンジョンコアが何なのか、その原理を解明するために日夜研究しているが、宇宙人がテラフォーミングするための環境改造装置などといった憶測しか出てこない
だがダンジョンコアについてわかることは活性化してる個体と休眠している個体の二種類があるということだった
ダンジョンコアは発見されている全てが六角形で赤子ほどの大きさの宝石の形をしている。そして休眠しているダンジョンコアは何も害をなさない。ただの大きな六角形の宝石であり、中には装飾品や魔法の触媒などに使われたりもする
そんなダンジョンコアだが、ある一定の刺激を受けると活性化し、周辺をダンジョンに変貌させ、魔獣を生み出すということがわかっている
その刺激は様々だ。治水工事をして水が流れ出すと活性化しり、舞踏会の最中令嬢のネックレスが突然活性したり、原因はいまだに不明である
そして今回の活性化の原因は盗まれた化学兵器の漏洩だと発表されていた
エンディル達はこの森に化学兵器を投棄したのだ。その際一部が漏れ出し、たまたまそこにあったダンジョンコアを活性化させたのだ
そして漏洩した化学兵器は一帯の水脈を汚染し、伝染病のような症例がバステトやコロモクで流行したのだ
「化学兵器を無毒化する中和剤を直接発生源の元にミサイルで叩き込む。そのためには正確な化学兵器の位置を知らねばならない。諸君らにはそれを探してもらう」
ベイカー少佐の講義が終わり、スクリーンが次の映像に切り替わった
「諜報部と航空偵察によると、化学兵器はこの3箇所の何処かにあると思われる。そしてダンジョンコアはこの中心にあると思われる、諸君らの任務は化学兵器の捜索、ならびにダンジョンコアの確保ないし破壊だ、諸君らの進軍路は既に砲兵隊と航空隊の爆撃により確保されている、後は指定されたエリアを捜索するだけだ。質問は?」
「ダンジョンコアは破壊して構わないのですか?」
「出来れば確保してほしい、とのことだ。無理なら破壊して構わん、責任は上層部が取る、諸君らには化学兵器の位置を確実に明かしてもらいたい」
ベイカー少佐が手元のリモコンを操作すると周辺地域の航空写真が映った
「化学兵器の位置が確定され次第、中和剤をB52爆撃機が投下する。コロモクの飛行場からここまでの到達時刻はおよそ30分、それまでに投下地点にこの端末型ビーコンを設置し、離脱せよ」
ベイカー少佐が持ち上げたのは携帯端末型のビーコンだ。三回連続で起動スイッチを押すと内蔵バッテリーが切れるまで、人工衛星のみが受信できる特別な発光信号を発し続ける機械だ
「予想される敵の総数は?」
「わからない、というのが正直なところだ。ブラックウルフ、トレント、トロル、様々な魔獣の群体が確認されている、それぞれが連携しているのも確認されている」
その言葉に会議室は騒ついた。皆この世界の魔獣と呼ばれる存在のタフさ、凶暴さは骨身に染みており、さらにそれが連携となるのだ
「その三箇所全部に中和剤をブチ込むのはダメなんですか?」
「ダメだ。汚染された水脈や土壌を無毒化するには今ある量をピンポイント1箇所に叩き込まなくてはならないという計算が出ている。三箇所に分散しては効果が薄まる、これ以上汚染を広めるわけにはいかないのだ」
「いいねぇ、やりましょう。チップは俺たちの命ですけどね」
「陽動部隊はそれぞれ東西南北の四箇所から同時に攻撃を開始し、魔獣を誘引する。その後突入する部隊はそれぞれ、南東、北西、北東の3箇所から予定地点に向かってもらう、スピードが命だぞ、いいな?」
ダンジョンの特性はまさに侵食とも呼べる。ダンジョンコアを中心にジワジワとその領域を広げていくのだ
前に来た時は一時間もあれば回れるほどの小さな森だったのだが、今では半径10kmを超す巨大な大森林に変貌していた
ダンジョンコアの影響と思われ、劉少尉の足元の木の芽が十分ばかりですくすくと伸びていくのを目の当たりにするとその異常性は嫌でも分らされた
先ほどのブリーフィングでは最初に現れたブラックウルフの他にも動樹やトロルの軍勢も確認されているそうだ
「中隊諸君、念のためもう一度確認だ。我々の任務はこの森に遺棄された化学兵器の座標を確定する事だ。各自、化学兵器を見つけたら支給された誘導マーカーを投げつけろ、そうすれば人工衛星と空中警戒機がその地点を、記録して中和剤をぶち込んでくれるわけだ、わかったな?」
中隊長の鎮目少佐がそう説明した
「全員、もう十分したら機甲師団とリラビア軍が陽動作戦を開始する、それまで、装備をもう一度確認しろ!」
鎮目少佐がそう命令し、自分も左腕に取り付けた情報端末を操作し始め、進軍路を確認する
劉少尉も新しく支給されたG36cを持ち上げ、チャージングハンドルを引き、チャンバーの中を覗き込む
初弾があるのを確認し、安全装置がかかっているのを確認。マガジンもチェストリグいっぱいに入っている
「劉少尉」
「ネルソン大尉」
そこはやってきたネルソン大尉はG36にドラムマガジンを差し込んだモデルを担いでいた
「また戻ってきたな、今回も宜しく頼む」
「はい、全力を尽くします」
「まぁなんだ、陽動部隊もいるし、今回は設置したら即撤退出来る、気楽に行こう」
「はい」
《こちらアマテラス、定刻となった。対戦車ヘリ中隊、陽動攻撃、開始》
《ラジャー、カッター1-1、攻撃!》
AWACSからの指示の元、空中に一列に待機したAH64アパッチとMi28ハヴォックの攻撃ヘリ合わせて十六機の一斉攻撃が始まった
四機が森の東西南北に分かれ、搭載したヘルファイヤとハイドラをありったけ撃ち込んだのだ
森の一部に爆発の火柱が立ち昇り、木陰に潜んでいた魔獣達を燻り出した
《こちらハンターリーダー、偶数番号車右へ、奇数番号車、左へ全力射撃、撃てぇ!》
ヘリが展開する下、掩蔽壕から砲塔のみを覗かせ、即席の固定砲台と化したティーガーやバレンタイン戦車が戦車隊の指揮官の指示の元、一斉に撃ち方を始めた
ダンジョンの森の外縁の木々が爆発でなぎ倒され、たまらなくなった魔獣達が外へ飛び出てきた
「撃ち方始めぇ!」
戦車隊の前方およそ600m地点に塹壕と有刺鉄線、地雷原により守りを固めたヘルガント将軍とホメロス将軍麾下の大隊がそれぞれ同じように東西南北に分かれて戦車部隊の前衛をしていた
彼らは囮部隊、自らの身を魔獣に晒し、ダンジョン内に突入する大日本皇国軍の負担を減らすための部隊
故に派手に撃ち、音を立て、魔獣をなるべく多く引き寄せる
防衛線が破られそうになったら列車砲や砲兵が援護し、戦車隊が待機する地点まで後退する、そこから先は想定されていない。割と後がないのだ
森に対し、緩やかなVの形で構成された防御陣地はまさに鶴翼の陣に近いものがあり、迫りくる魔獣を十字砲火で次々となぎ倒していった
兵士達にとって、長い一日が始まった




