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影の戦い 前哨戦

マスドットリオ

旧公爵邸宅


かつてマスドットリオを統治したフランドルド公国の主人が住んでいた屋敷

国が滅び、マスドットリオに変わってからはクルジド国の高官達がすごす別荘のような扱いだったこの屋敷。今では大陸中の人々の注目の的だった


クルジド、リラビア、大日本皇国の三国の代表者が集まり、休戦協定を結ぶための話し合いを二週間にわたり、話し合っていたのだから


「ここにリラビア魔法国、聖帝クルジド国の二カ国による三年間の休戦協定が結ばれたことを、この書面と、両国の全権委任大使の握手によって承認することとします」

日本皇国の外務大臣の猿渡がそう宣言し、クルジド国のファルジャン、そしてリラビア魔法国からはリディアビーズ第一皇女が、二週間、話し合いに話し合いを重ねた休戦協定の内容を記した書類にサインしていく


話し合いの結果。マスドットリオはリディアビーズ王女の交渉により、実力で奪い取ったリラビア魔法国が保有する運びとなった、他の取り返した領土もである

その代わりに賠償金と言った物は無し。クルジド国は戦争によって得た物を賠償金がわりに所有することができる。今後三年間は両国は互いに一切の軍事行動を行わない。休戦協定は三年刻みで延長という形に終わった


大まかに決まったのはこれだけであり、今後も戦争犯罪の追求や捕虜の交換などを話し合う方針である


色々言ったが、これだけは確かに言える



戦争は終わったのだ





















それは、リラビアの何処か忘れ去られた部屋


「終わるわけねーッス、戦争なんて、ならわざわざ俺らが出てくるはずねーッス」


「あのな、もう少し言い方があるだろ」


「書面上、終わっただけ、だ。これから、は、我ら、影の、戦い」


「頭、さっそく聞こう。俺たち全員が集められた目的を」


「そうッスよ!四人全員集まるなんて、いつ以来ッスか!?」


「先帝を、滅ぼす、時……」


「懐かしいな、あのクーデター以来か」


「そうだ。諸君。聖帝直属の隠密部隊諸君。我ら四名の任務は三つほどある」


「勿体ぶらないでほしいッス」


「まぁ待て。リーダーの特権だ。そうだな、待ちきれない"クラウン"には『レッドバルーン』と呼ばれる兵器を見つけてもらいたい」


「了解ッス!」


「リラビア軍の内通者にフラティーズという男がいる。そいつへの工作は既に俺がやっておいたが、証拠を消し、なおかつ兵器を持ち帰れ、日本国の諜報部隊ははっきり言って素人だ。目を瞑った俺でも余裕で把握できる」


「うッス!」


「"ティーチャー"と"キャラバン"には大日本皇国の情報収集、並びに破壊工作を頼む。役割はそれぞれ、わかるな?」


「わか、った」


「心得た、してリーダーは何を?」


「俺か?俺はなぁ」









「ちょっと皇女を殺してくる」
























リラビア国 とある廃村


戦争の最中、打ち捨てられた村々


戦火に焼かれ、人が居なくなったこの村にひっそりと息を潜める人々


「お頭、また二名、死にました」


「いつも通り埋めとけ」

元クルジド軍第44軍団のエンディルは報告に来た部下にそう言った


彼らはマッポレア平原の戦いの後、味方を裏切ったディンギィル達は協力した代わりにクルジド国がかけた軍用の隷属魔法を解除させ、エンディルは自由の身となり、この廃村に潜伏していた


ディンギィルの読み通り、程なく戦争は終結。第44軍は解散した


だが多くの兵士はエンディルの元に集ったのだ


44軍の母体となるのは囚人や死刑囚がほとんどであり、基本的にスネに傷があるような者が多い


故にそう言った人々は寄る辺が無く、真っ当に生きていくことができない

そこへエンディルの大盗賊としてのカリスマが働き、いまだに数百人規模の兵士がエンディルの元に残っていた

だがそれだけの犯罪者が集まると動きづらくなるのは至極当然。物資の調達も難しくなっていた


「ところで、お頭。あの列車から奪った、アレ。どうするんですかい?」


以前、皇国軍の列車の積荷を奪えば多額の報酬を支払うとクルジド国の者から持ちかけられ、エンディル達は怪しいと思いつつも、明日を生きるために列車を襲撃し、マッポレア平原の戦いを生き残った転移魔法が使える兵士の協力の元、貨車を一台奪い取っていた


だが直前で相手が裏切り、積荷は未だにエンディル達のもとにあるのだ


「食い物じゃないし、もういい、くせぇし何処か遠くに捨てとけ」


「……へい」
























数日後……


マスドットリオはまさにお祭り騒ぎだった


何年も続いた戦争が一応終わったのだ。市政の人々は大いに騒ぎ立て、訪れた平和を享受していた


そんな中、橘少尉は一人街を歩いていた


目立つ憲兵の制服を脱ぎ、周りの人と同じような格好でエール片手に飲み歩く人々を交わしながら、橘少尉はサーカス小屋の中に入る


すり鉢状の円形のホール。客は満員、調教師のムチと共にブラックウルフが燃え盛る火の輪を見事に潜っていた

客席をピエロの扮装をした人々が練り歩き、飲み物や食べ物を売り歩いてる

橘少尉はそのピエロや観客を避けるようにして歩き、しばらくしたらエールのグラスを一つ、ピエロから買い、壁にもたれかかった


「報告せよ」

いつのまにか隣に現れていた巨漢の男、ジャンヌ大佐がそう言った


「フラティーズ中佐はバステト方面の秘密の別荘にいることがわかりました、正確な場所も特定済みです」

ジャンヌ大佐はニヤリと笑みを浮かべると手にしていた腸詰にかぶりついた


「今夜しかけます、詳細はこれに」

橘少尉は小さな紙片を差し出した


「……わかった、予定通りに行えよ」


「了解です」


「作戦は奇を持ってよしとすべし。ぬかるなよ」


橘少尉はそのまま、何事もなかったようにそこから立ち去った。後にはサーカスの喧騒だけが残された

























フラティーズはリラビア国の軍人の家系に育った


代々軍人を輩出する男爵家の次男として育ち、厳格な父とそれに付随する厳しい母と共に育った

邪道を許さない。狼系獣人の血統に誇りを持つ軍人気質の父親は幼いフラティーズの憧れだった


幼い子供の頃から優秀な軍人になる為に教育が始まり、二つ上の兄は十五歳にして百人騎兵隊長に任命された


フラティーズもそれに負けじと努力と鍛錬を重ね、百人隊長に就任。順風満帆とも言える人生だった


しかしある日、母が殺されたのだ


原因は母親の浮気。たまたま父親が浮気現場を目撃し、浮気相手もろとも切り捨てたのだ


そこから衝撃だったのは兄がその男との間にできた子供だと発覚したのだ


そのスキャンダルは兄の経歴に大きな汚点として残り、兄は軍を去った


今でも目を閉じればいわれのない非難を受ける兄の姿が目に浮かぶ


「正義、そう。純真純血こそが正義なのだ」

フラティーズ中佐は拳を握りしめた


余計な混ざり物は不純、悪だ。母も兄も最初から余計な誘惑や血統に疑いのあるものだったからこうして落ちぶれてしまったのだ

つまり純血こそが正義。後ろめたいことは悪であり、潔白そこが真の正義なのだ


フラティーズはいつしかそう思いこむようになった。白は白に、黒は黒に。余計な混血は()()()()


フラティーズの目の前には地図が張り出されている。リラビア国の王都、ガローツクンの地図だ


その地図のあちこちには丸が描かれている。円と円が重なり合い、複雑な図形を描いており、ガローツクンをすっぽりと覆い隠していた

その図は例えるなら砲兵の散布図のようであり、まるで()()()()()()()()()()()()()()()()()()()図のようであった


「悪は滅さねばならない。余計な物が混ざらない、純粋なもののみが生き残る世界を……」

フラティーズは大きく息を吐いた。顔を覆う狼の灰色の毛を撫でつけ、耳の付け根を荒々しく掻き毟る


「エルフもドワーフも獣人も人間も、何もかも、純血でなくてはならないのだ!」

狼が咆哮するような、荒々しい叫びと共にフラティーズ中佐は壁を殴りつけた


「純血で無いものは、この世にいてはいけないのだ」


()()()()()()。複数の獣人や妖精を祖先に持つエルフやドワーフ、そこに別大陸からのルーツを持つ吸血種、そして人間が入り混じり、国として存在するリラビア魔法国は大なり小なりこういう考え方が存在する

過去にはその差別から悲しい事件なども起きており、今でもその爪痕は根深く残る


その点のみでいえばフラティーズ中佐はある意味クルジド国寄りなのかもしれない


フラティーズ中佐は荒々しく息を吐き、卓上のワインを飲み干した


「もう少しだ、もう少しで、理想の世界が……」


フラティーズ中佐は不気味に笑った。理想に必要なパズルのピース、足りないのは後一つだった

最近凄まじく暑いので投稿遅れるかもしれません

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