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探偵は戦場にいる

バスディーグ バステト要塞から東へ数キロ

大日本皇国陸軍

第28歩兵師団 第一大隊 第二中隊

スペード2-2


未だに舗装が行き届いてない、人が踏みしめた獣道のような街道を四台のハンヴィーと三台の運搬トラックが走っていた


「ああ、ちくしょう、酷い道だ」

アマル上等兵がそうぼやいた


「おい、賭けをしないか。俺のケツが割れるのが先が、タイヤがパンクするのが先か」

アマル上等兵の呟きに反応したステファヌス上等兵がそう返した


「割れたケツに玉を挟むなよ」


「ついでにお前の棒も挟んでやろうか?」


「死んでもごめんだ」


「ガハハ!そういや聞いたか、ヒルズ中尉の話、いよいよ手術だってよ!」


「マジか!とうとう取るのか?」


「あぁ、取るってよ」


「自分のナニとおさらばするってどんな気分なんだろうな」

アマル上等兵とステファヌス上等兵の二人が自分の股を見つめる


「くわばらくわばら……」


「まぁ会う時があっても珍しがらないようにしようぜ、あの人と関わるとやべーから」


「だな」


「おいお前ら、そろそろ目的地の森だ、支度しろ」


「はい、劉少尉殿!」

助手席の劉少尉の言葉に反応した二人は脇に置いたG36cを取り上げる


やがてハンヴィーが街道脇に停車し、兵士達が全員降りて整列した


「改めて任務内容の説明だ。最近この森に入った猟師やハンターが帰ってこない、なので我々が探しに行く、第四小隊は待機、残る三小隊は森へ捜索に入れ。打ち合わせ通りだ、誤射に注意しろ、前日の雨で足元が悪い、味方を見失うな、以上」

この隊の指揮官のネルソン大尉の声と共に居残り組は格納した重機関銃やTOWランチャーを組み立て、突入組は予備の弾薬や装備品をしまった背嚢を背負い始めた

またトラックの一台の荷台が貝殻のように大きく開き、オペレーターがパソコンを操作すると格納された無数のドローンが飛び立ち、渡り鳥の群れのように規律正しく飛び始めた


「二列横隊、進めぇ!」

完全武装の兵士七十二名が森の中へと入っていった


先頭を行く者が鉈やマチェットで枝や草木を切り払い、道無き道を切り開いていく


《各員、観測ドローンより通達。前方からブラックウルフの大群接近、攻撃用意》

その無線と共に先頭の兵士は手にした鉈やマチェットを足元の地面に突き刺し、各々ライフルを構えた


《ドローンによる擲弾攻撃を開始する》

その無線と共に六枚のプロペラを高速回転させ、機敏な動きのドローンが後方より現れた

各ドローンが下部に抱えるのは60mm迫撃砲弾を改良した攻撃ドローン用の無誘導爆弾である。今回は榴弾とテルミット弾を中心に構成されており、投下された迫撃砲弾が群れをなして突撃してくるブラックウルフの群れに直撃した


「一匹たりとも逃すな!」

劉少尉が撃ち出すと同時に全員が発砲。爆撃を乗り越えたブラックウルフに銃弾の雨を降らせた


コロモクの戦いで大まか、脅威となる魔物のデータはとれており、皇国軍の兵士達はその弱点や習性、戦いかたを心得ていた


DC(ドローンコマンダー)、敵の位置は!?」


《少尉から見て9時方向から4体、来てるぞ!》


「もっと早く言え!」

劉少尉はアンダーバレルに取り付けたM320グレネードランチャーを発射。爆発と共にブラックウルフの肉片が飛び散り、生き残った一匹にも弾丸を叩き込んでいった


《DCより捜索隊へ、接近するブラックウルフは全滅。脅威を排除した》


「了解した、前進しても良いか?」


《あー待て……索敵ドローンに新たな熱源、デカいぞ、こいつは、トロールだ!》

その直後、木をメキメキとへしおり、現れたトロールは死んだブラックウルフの死体を掴み上げ、美味そうに食べ始めた


「遅めのランチの真っ最中か、RPGを持ってこい!早く!」

トロールがブラックウルフの死体を貪るのに夢中になっている間にM72 LAWを持った兵士が二人出てくる


「撃てぇ!」

劉少尉の号令と共にM72 LAWが発射され、トロールの胴体に二発とも直撃。右肩と一緒に胸元に大きな風穴を開けた


「DC、反応はもう無いよな」


《全て遠ざかっていく、オールクリアだ》

その言葉を聞いても劉少尉は油断なく辺りを見渡す


「少尉、どうかされましたか?」


「いや、やけに敵が大勢来るなと思ってな」


「異常繁殖ってやつですかね?」


「わからん、とにかく進むぞ、アマル、先頭を任せる注意しろ」

劉少尉は粉砕されたトロールやブラックウルフを観察しながら慎重に歩みを進める


(妙だな、こいつら、何か違和感が……)

血飛沫に塗れたトロールやブラックウルフを尻目に劉少尉は歩みを進める


しばらく歩みを進めると、またブラックウルフの群れが現れた


同じように擲弾が投下され、機銃を吊るしたドローンの援護射撃が加わり、程なくブラックウルフは全滅した


「なんなんだこの森は、これだけブラックウルフや魔物がいれば人が帰ってこないのはうなづける。しかしなぜ急にここまで魔物が発生した……」

劉少尉は譫言のようにぶつぶつと考える。小休止の立番の兵が怪訝そうな顔をしている


一箇所に集められたブラックウルフの死骸を見つめる。身体中に穴を開け、血に濡れて真っ赤になってる


「うーん、ん?」

ふと、自分の足を見る。森に入って既に二時間、歩き倒しで泥や草がいっぱいついてる


それに対してブラックウルフを見るが、前日の雨でぬかるんだ地面にも関わらず足の汚れは少ししかない。毛並みも艶がある、野生の生活をしていたとは思えないほどに


「なんでだ?魔獣とはいえ、そんな急にポンと生み出される事は……」

劉少尉は頭を悩ませた。この現象に凄い覚えがあるような気がしてならないからだ


「小休止終わり!前進するぞ!」

劉少尉の悩みは脇へ、部隊は動き始めた


劉少尉は隣を歩くエルフの兵士に話しかけた


「おい、シェルフ軍曹」


「なんでしょう、少尉殿?」


「この辺、何か変じゃないか?」


「少尉殿もですか?私も先程から辺りの魔力の流れが妙な感じでして」


「妙、とは?」


「森に入った直後ぐらいから、不自然に魔力が漂い始めたんです。普通ならありえない」

シェルフ軍曹はStg44を肩に担ぎ、眉間にシワを寄せた。魔法適性とも呼べる魔法との親和性の高いエルフならではの彼の意見は劉少尉の疑惑を加速させた


「大気中の異常な魔力に、綺麗な魔獣の死体、同一種ばかり……あっ」


劉少尉は気づいた。というよりも思い出した


「ネルソン大尉!」


「どうした少尉、持ち場を離れるな!」


「この森は巣窟(ダンジョン)です!」


「ダンジョンだと?根拠は?」

怪訝そうな目でネルソン大尉は劉少尉を見た


「やけに綺麗な魔獣の死骸、空気中の異常な魔力、これらはダンジョンの特徴です。ダンジョンコアに生成された魔獣は生まれたまま、目の前の生命体に襲いかかります、これまでの奴らの特徴と合致してます」


「それだけの報告の為に来たのか、貴様は?」


「それだけじゃないです。鬼泣市のダンジョン制圧作戦に参加しました。あの戦いの時と同じ流れなら、おそらく」

その直後、無線に報告が入った


《ドローンコマンダーより捜索隊へ、全周から数え切れないほどの熱源を感知!ブラックウルフの群れがそちらへ向かってる!》


「なに!?少尉、こうなると言いたいのか!?」


「そうです。最初は緩やかに魔獣をけしかけ、あるタイミングから一気に魔獣の大群が押し寄せる。ダンジョンは確固たる意志を持って人を殺しに来るのです!」


劉少尉は思い出していた。玄武島のダンジョンでも最初はゴブリンの小規模な群勢を排除していったが、ある程度奥までいくと鉄砲水のような勢いでゴブリンの波が押し寄せたのだ

その為、突入部隊は第一波、第二波が全滅。劉少尉はその時の少ない生き残りなのだ


「上申ご苦労。総員きけ!ここがダンジョンという可能性が高くなった!現有戦力では対処は不可能と判断!後退する!集まれぇ!全周防御!」


《ドローンによるテルミット弾の投下を行う、ガスマスクの着用を!》


「テルミットが来るぞ!全員ガスマスク!ガス!ガス!」

ネルソン大尉の声と共に全員が慌ててガスマスクを取り付ける


「劉少尉、教えてくれ、ダンジョンとはどういう流れで敵が来る?」


「波のようなものです。ある程度の強烈な波が終わればしばらくは来ないです」


「今までもそうだったな、ちくしょう、この波を乗り切れば撤退の隙が生まれるということか!」

ネルソン大尉が悪態をつきながら待機中の第四小隊と連絡を取り合う


「予備弾薬やRPGは手元に出しとけ!手榴弾も忘れるな!」

劉少尉の言葉に反応した兵士達はM72LAWや軽機関銃を手近な岩や倒木に立てかける

リラビア兵達も銃の先端に魔法用の杖を取り付けていく


「来るぞぉ!」

テルミット弾が着弾し、暗い森に強烈な閃光とガスマスク越しでもわかる強烈な熱風が伝わってきた


テルミットが巻き起こした白煙の向こうで松明のように煌々と燃え盛るブラックウルフ

さらにその奥から無数のブラックウルフの姿が現れようとしていた


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