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リバティ基地撤退戦

リバティ基地 司令部壕


「こう、かな……」

何度かの試行錯誤の末、大器は地下通路の構成をWWC上のエリアマップに加えた、後は実行のボタンを押すだけだ


「ポイントの残りは……」

ポイントのほとんどを地下通路の耐久と広さに費やしてしまい、残りのポイントは後の作戦に使える分を差し引くとほぼゼロであった


「こんなことになるなら、本垢でプレイするんだった……」

ため息と共に大器は実行ボタンを押す。所持ポイントが凄まじい勢いで消費され、拡大投影された地図に一本の地下通路が設置された


「ミリア少佐、脱出用の地下通路が完成した。どの部隊から下げるのが一番いいと思う?」

ミリア少佐に地下通路のホログラム地図を見せつつ聞いてみる


「まず先遣隊を送りましょう。ここは我々の常識が通用しない異世界、地面の下に何が埋まっているかわかりません、安全が確保され次第、総統を先頭に撤退します、貴方がいなくては始まりませんから」


「そうか、そうだ、な……」

後ろめたさを感じつつも大器は撤退を選んだ。最前線で戦ってる兵士を置いて逃げるのは気が引けたが、大器はそれよりも早く、戦場から逃げ出したいという気持ちが勝ったのだ


「ご安心ください、閣下の後に他の兵士も続きます。誰一人置き去りにはいたしません。私が約束します!」


「…………わかった。信用するぞミリア少佐、君も必ず生きて戻るんだ!」


「はい!お任せを!」

キチッとした綺麗な敬礼をするとミリア少佐は先遣隊編成の為に他の将校と話し始めてしまった


そうなると必然的に暇になる大器。前線で戦闘を指揮する程の気概や経験も無いし、銃なんて実際に撃った事も無いのだ。となると後方にいるしかない


しかし作戦指揮所や司令部に居場所があるはずがなく、結局どこにいてもバリバリ仕事してる人の横でボーッとするだけである


(まぁ周囲の戦況をホログラム地図で投影したり、追加の弾薬を召喚したりする役割があるから全く無駄というわけではないけど……)

とはいえ、気まずい思いを抱えながら刻一刻と変わる戦況を眺めていた





















スペードサーティーン塹壕


戦闘開始からすでに数時間が経とうとしている


障害物がある防衛線の最後を示すスペードサーティーン塹壕まで押し込まれ、兵たちの顔にも疲れが見え始めていた


「後退!後退しろぉ!」


「ようやくか!引くぞ!」

レイヴン軍曹が叫び声をあげると身体中泥と血糊で汚した兵士達がゾンビのようにノロノロと立ち上がる


それに対する敵の兵士も重装備の鎧などを着た騎士などでは無く、粗末な作りが明らかに見て取れる鎧や手製の槍などをもった徴募兵達だ

統一性や規律のようなものもなさそうで、死んだ兵士から武器や防具を奪い合い、中には逃亡を図る者もいた


「危ない!」

油断していたレイヴン軍曹の死角から棍棒を振り下ろそうとした男を名も知らぬ兵士が手にしたゲヴェアー小銃で撃ち殺した


「ありがとよ、先に行け」


「わかりました!」

二等兵と軍曹という階級の立場すら忘れるほどの疲労。レイヴン軍曹は疲れ切っていた


「クソが、こいよ遊んでやる」

1分だけ休もう。足を止めたレイヴン軍曹は弾の切れたゲヴェアーの銃剣を外し右手に構えた


「ぇやあああああああああ!!!!」

レイヴンにまっすぐ突撃してきたのは20歳いってるかも怪しい少年。何処から拾ったのか泥に汚れても高価な物だとわかるほど立派な装飾の剣を振りかざして襲いかかってきた


「フン」

ゲヴェアー小銃の真ん中を握り、銃床で振り下ろされた剣を横から弾き、バランスを崩した少年の喉元に銃剣を突き刺した

驚愕の表情で固まり、膝を折って絶命した少年。肩に足を置き蹴るようにして銃剣を引き抜いた

肩で息をしながら周りを見ると逃げ遅れたのか、それとも自分同様踏みとどまってるのかわからないが幾人かの兵士が敵と血みどろの殴り合いをしていた


有刺鉄線が巻き付いた角材で粗末なナイフを持った老人を殴り倒し、敵の首を切り裂いたかと思えば後ろから槍でそいつごと貫かれ、ライフルが壊れるのもいとわず、防具ごと敵の頭蓋をかち割る

大きめの岩を何度も何度も頭に向けて振り下ろし、毒ガスが溜まった砲撃穴に敵騎兵を体当たりで落とし、振り下ろされた大剣が防御の為に掲げた小銃ごと兵士を真っ二つに切り裂き、豪奢な旗付きの槍を兵士に突き立てるが、絶命の瞬間腰から抜いたモーゼル拳銃で脳天を辺りにぶちまける

リボルバーの弾が尽いた将校は三方向から槍を突き立てられ最後は手榴弾で敵兵諸共自爆。弾を撃ち切った機関銃を捨て、ライフルや拳銃で応戦する奴はまだマシな部類で、敵に塹壕へ落とされ、飛び降りた敵兵を塹壕の端材で串刺しにしてやり、用足し穴に顔を押し込まれて溺死する味方を足蹴にした敵兵の後頭部にスコップがめり込む

スペード塹壕に派遣された戦車のうち、残った二台のA7Vは砲弾を使い尽くし、側面機銃と火炎放射器による攻撃で敵の注目を集め、歩兵の負担を減らしながら後退しているが注目を集めすぎ、少なくない敵兵が戦車の屋根や乗員用扉に取り付き、乗組員が拳銃で撃ち落としているのが現状だ


戦線は崩壊。後は互いが全滅するまで殴り合いの殺し合いをジワジワ続けるしかない


瓦礫と泥、火と鉄と塹壕で満たされた地獄の釜に何千もの死体と臓物が満たされた


「あああっ!!!チクショ!クソッ!クソクソクソ!」

正気に戻ったレイヴン軍曹の目の前で先ほどの二等兵が敵の兵士ともみ合いをしていた

二等兵は自分に突き立てられようとしてる細剣を手で直接握るが、切れた掌から溢れた自らの血で滑り、ゆっくりと二等兵の眼前に迫りつつある


「死んでたまるかよ!」

再び闘志を燃やしたレイヴン軍曹は力を振り絞って駆け寄り、マヌケにも背中を見せる敵兵の首を左手で締め、心臓に銃剣を突き立てた


「ぐ、軍曹殿!」


「後にしろ!撤退しろ!ここにいたら死ぬぞ!」

掠れた声だが、現場を預かる一指揮官として声を張り上げる。その後ろでメイスを張り上げた敵兵のみぞおちを別の兵士が銃剣付きの小銃で貫いた


「司令部まで後退!全力で走れ!負傷者を置いてくなよ!」

レイヴン軍曹は先程助けられた兵士に肩を貸し小銃を杖にしながら立ち上がるが死にぞこなった敵兵が再びメイスを持って立ち上がり、雄叫びと共に襲いかかってきた


「邪魔すんじゃねぇ!」

肩を貸した兵士を投げ捨て、メイスの振り下ろしを転がるように回避し、体制を崩した敵の膝を鋲が打たれた鋼鉄の靴で踏み抜き間髪入れずゲヴェアー小銃をフルスイング。顎を粉砕し、血飛沫をあげながら吹き飛んだ

レイヴン軍曹が助けた二等兵も襲いかかってきた敵の足を払い倒れた所を銃剣で一突き。心臓を銃剣で掻き回した


「しっかりしろ、行くぞ!」

放り出された兵士に手を貸し、今度は肩を貸すまでもなく二人で立ち上がり塹壕内を司令部へ向けて走り出した



















「工兵隊の進捗は?」


「各前線の弾薬庫、武器集積所に爆薬セット完了。兵の撤退が確認されたのち、起爆します」


「そうか……」

大器は空中に投影されたホログラムの地図に映る自分の基地はすでに敵をしめす真っ赤な表示でいっぱいだった


「撤退は後どれくらいで完了する?」


「もう間も無くです。今は兵たちを信じましょう」

撤退を指揮するミリア少佐は指示をまとめたメモを伝令に押し付けて大器を真っ直ぐにみつめた


「報告します!」

その時司令部に伝令が一人駆け込んできた


「脱出経路の偵察に向かったオートバイ分隊から報告、経路の安全確保完了です!」


「ぃよぉし!オートバイが通れるくらい広めに作っといて良かった!後は兵が来るのを待つのみだ!」


「よし!いよいよ撤退計画も最終段階だ!トンネルラット作戦発動!ネズミを放て!」

ミリアの号令と共に電話手がタイプライターや野戦電話を脇に置き、近未来的な軍用のタッチデバイスを取り出した


「閣下がわざわざ我々のために用意してくださった全地形走破型自立四足歩行の実力の見せ所ですね」


ここがゲームならいざ知らず、現実の自分の命がかかってる最中、雰囲気や縛りで自らが不利になるような事はしない。そう吹っ切れた大器は急遽第一次大戦の世界観に無人兵器を投入したのだ


大器が生まれる遥か前、世界は三度目の世界大戦を地球から飛び出して宇宙空間で迎えたがそれでもしぶとく生き延びた人類が生み出した数々の殺戮の美術品、それらのほんのごく一部、それらが動き出した




















「ハンケイル少尉!左の履帯はもう無理です!直せません!」

拳銃とスパナを握った操縦手が顔を煤で真っ黒にしながら叫んだ

その悲痛な叫びを聞いたハンケイル少尉は苦虫を噛み潰したような顔になり決断した


「戦車を放棄する!武器を持て!火を放つぞ!」


「了解!クソ!クソ!死ね化け物どもが!」

操縦手が涙を流しながら拳銃を敵兵に向けて乱射する


「すまんな連れて帰れなくて…ゆっくり休んでくれ……」

慌てて自身の拳銃や荷物を掴んで戦車から飛び出す乗組員に対し、ハンケイル少尉は自分が座っていた車長席を寂しそうにみつめ、小さくため息をこぼした


kar98騎兵銃を掴み、車外へ出る。外では大器が召喚した未来の四足歩行兵器が重機関銃やグレネードランチャーを乱射し敵軍を圧倒していた


塹壕に飛び降りると震える手つきでkar98に銃剣を取り付けている二等兵がいた


「それじゃダメだ」

ハンケイルはその二等兵から銃剣とライフルを奪うとしっかりと取り付けた


「あ、ありがとうございます……少尉殿」


「フン、野郎に礼を言われてもなぁ。まぁなんでもいい。とっとと行くぞ!ここは砲兵の弾薬庫に近い、モタモタしてたら肉片も残らず吹っ飛ぶぞ!」


「りょ、了解です!」

なんとか立ち上がった二等兵とハンケイルはお互いを支えあいながら司令部へむけて走る


途中、すれ違った総統閣下の召喚した新兵器は防弾、耐熱の装甲を貼り付けた四足歩行のカメのような形で、時折飛んでくる火の玉や弓矢など意にも介さず、敵の集団に榴弾を叩き込み、ガトリングガンや火炎放射で敵の集団をなぎ倒し、崩れかかった戦線を一時的に押し返している

その姿を見て戦場に戻り、大切な愛機や大事な仲間たちを奪った連中に思い知らせてやれるのでは


「……いや、ダメだ。余計な事は考えるな。今は撤退あるのみ!」

雑念を払うように頭を振り、無人兵器の猛攻勢を切り抜けた敵兵に牽制射撃を浴びせる


「走れ走れ!」

周りの味方か、それとも自分に対してなのかわからないほど声を張り上げた


























「総統閣下、無人兵器、全機機能停止。完全に破壊されました」


「予定より少し早いな。まぁよし、司令部も役目を終えた。後はお行儀よく撤退するのみだ。いいな諸君」

大器の問いかけに対し、司令部要員は全員が敬礼で返した。部隊の完全撤退、爆薬のセット、無人兵器による時間稼ぎ、準備は完璧に整った


「押し返されていた両軍が再び侵攻してきています。おそらく予備部隊を投入したと思われます」


「敵も必死だな……それはこっちも同じか」

大器が司令部の地上部分から眺める風景は大勢の兵士でごった返していた


大器が作成した地下通路。横幅は大人が三人手を広げられる程広く、高さは人が屈まずに歩けるほどの広さがある


「閣下こちらです!お急ぎを!」

先導の兵に導かれ、傷つき、疲れ切った兵士をかき分けて地下通路の中に入る

中には準備万端のサイドカーとドライバーが用意されていた


「ミリア少佐は!?」


「少佐は殿の指揮を務めます!ご安心ください!兵を収容しだい、撤退する手はずですから!閣下もお気を付けてください!」


「ミリア少佐に伝えてくれ、必ず生きて戻るようにと!」


「わかりました!伝えます!」

先導の兵の敬礼を見つつ、大器はゴーグルで目を覆い、口元を布で覆った


「出してくれ!」


「わかりました!しっかり捕まってくださいよ!」

ドライバーがそういうと、サイドカーのエンジンが唸りを上げ、通路を爆走し始めた

クラッチを次々と切り替え、トップスピードになり、先導の兵はおろか、ごった返す兵士たちの喧騒も置き去りに聞こえなくなった



















「怪我人は荷車に載せろ!余裕はまだあるぞ!」


「歩けるものは歩くんだ!武器弾薬は捨てていくなよ!」

地下通路入り口はすでに多くの兵士でごった返しており、それらを誘導する司令部要員や将校の大声や治療を求める兵士の呻き声でいっぱいだった


「ミリア少佐、被害の集計が出ました」


「よこせ」

ミリア少佐に手渡された集計された被害が書かれた書類。派遣した戦車隊は乗員の八割は無事だが戦車は全損、砲兵は新しく大器が召喚した者たち以外は全滅、塹壕の歩兵の損耗率は六割と想定以上の被害だった

ミリア少佐の眉にシワがよる。大器に心配をかけまいと今まで封印してきた不安顔である


「残存兵力はおよそ七百名、そのうち無傷なのは予備の一個中隊百五十名、残りは怪我人や立つのがやっとなほど疲れ切ってます」


「……わかった、ごくろう」

兵を下がらせ、ミリアは砲兵用に出された偵察用小型ドローンの映像受信タブレットを取り出す


「無人兵器で敵も勢いが削がれてる。だがこちらが逃げ腰なのはいずれバレる……」

ミリア少佐は改めてタブレットを見つめる。勢いがあるのはスペード塹壕から攻めてくるクルジド国とかいう勢力だ。前線には未だに一個大隊程の兵がこちらの部隊の牽制射撃に晒されているが、その後ろで部隊の再編成を行なっている。対してリラビア帝国の軍勢は積極攻勢には出ていない。突出してる部隊も極少数でまるで命令系統が無くなったような印象を受ける


「……伝令!」

ミリア少佐は伝令兵を呼ぶと命令をメモした紙を伝令に渡した


「予備大隊の水無瀬大尉にこれを渡せ」


「ハッ!」


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