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それは取るに足らない日常の1ページ

バスディーグ

バステト要塞から東へ数km地点

大日本皇国陸軍 第一鉄道輸送連隊 四号装甲列車大隊

最後尾 バルト伍長


鉄道輸送と軍隊は切っても切り離せないものである。一度に大量の物資、兵員をある地点に持っていけるのであり、列車の登場により軍隊だけでなく人類の物流は画期的に進歩したのである

広大な面積を誇るバスディーグ城塞都市内をトラックによるコンボイでの移動はいらぬリスクやコストを高めるだけである


そこで大日本皇国、もとい大器は装甲列車という手段を投入したのだ


現代ほど人の手が届いていない土地の方が多いこの世界はただの人だけでなく、魔獣や列車強盗といった脅威が多く存在する

そこで装甲列車の出番である。ただの列車を走らせても防御力には限界がある。中には機銃弾を弾き返す魔獣もいるのだ、大口径火砲を搭載してパワーのある装甲列車の需要がここに来て増したのだ


この列車は武装車両の後ろに貨車を二台、その後ろに武装車両で挟んだ車列を三つ合わせており、兵員数は七百人程を載せており、バステト要塞の工事のための人員や機材を運搬していた


「おらぁ!フルハウスだ!」


「クッソ!また曹長の勝ちかよ!」

ハミル曹長が机代わりの木箱に叩きつけたトランプを見て他の兵士三人が天を仰いだ


「へっへっへっ、全員ブタか。今日はついてるなぁ!」


「クッソ!曹長、これでフルハウスは三回連続ですよ!?何かイカサマしてるんじゃ!」


「ハッハッハッ!さっきそう言われて俺は長袖を脱いでカードもお前らが切っただろ?自分達のツキの無さを俺のせいにするなっての!」

そう笑いながらガサガサと軍票を集めるハミル曹長


「ちくしょうめ……」

バルト伍長はくわえたタバコに火をつけ、換気用に開けた銃眼めがけて煙を吐いた

外は長閑な草原地帯、つい一年前には無数の装甲車や戦車が前進し、クルジド軍と血みどろの戦争をしていたとは思えなかった


「曹長、どうやったらそんな強くなるんですか?」

勝者の余裕からか、ショットガンシャッフルをして遊んでいるハミル曹長に機銃手がきいた


「知りたいか?」


「是非!」


「やめとけやめとけ」


「そうだぞ、怪しい壺でも売り渡されたらたまったもんじゃない」


「心配すんな、秘訣は、これだよ」

そういうとハミル曹長は懐から小さなペンダントを取り出した


「なんですか、これ?」


「捕虜のクルジド兵からタバコと交換してもらった。なんでも一部地域にしか出回らない貴重なお守りだとか、これを貰ってからツキが回ってくるんだよ!」


「ホントですか、すげぇや」

ハミル曹長の与太話好きは今に始まった訳ではないがお守り一つで四人のポーカーで6連勝出来るほど世の中は甘くない

その時全体放送用のスピーカーから音声が流れた


《各所へ通達。前方1kmに倒木を確認。待ち伏せの可能性あり。総員第一種警戒態勢、繰り返す》


「おらおら仕事だ、ジャガイモども!」


「くそぉ、曹長の勝ち逃げかよ」

ぶつぶつ文句を言いながら各々ヘルメットや防弾装備を身につけ、銃眼や上部機銃のハッチを開けた


やがて列車は警笛と共に停止し、外部警戒用の兵士が外へ降りた


バルト伍長が乗る車両には現代の駆逐艦に乗せるような127mm速射砲が車列を見下ろすように突き出た形で載っており、その突き出た下のフロアではコンソールやタッチパッドで装填する弾頭や撃つ方向や角度を切り替えることが出来るのだ

他にもこれと似たような形で対空ミサイルやCIWS、レーダーといった装備が載せられており、まさに陸のイージス艦といった様相であり、非常時には海上の防空網を突破した敵集団に対峙する事も想定されており、本土の玄武島ではそれ専門の部隊が設立されていたりする


「対空、地上索敵レーダー感なし」


「警戒用ドローン射出用意」


「すぐ後ろは化学弾頭を満載した貨物車だ。絶対に誤射だけは避けろよ」

車両の責任者であるフィンボルト大尉がそう良い、腕時計を覗き込んだ


「ハミル曹長、バルト伍長入ります!」


「遅いぞハミル、一分遅刻だ」


「ハッ!すみません!」

二人は謝罪もそこそこに自分の席に座り、タッチパッドを起動し、127mm砲塔の操作を開始する


その直後、車両が爆発音と共に揺れた


「被害報告ッ!」

倒れたフィンボルト大尉が起き上がり、レーダースコープを覗き込んだ


「主砲に敵の攻撃が直撃、大破しました!」


「右翼側から敵の奇襲です!」


「くそがっ!捻りつぶせ!」

周辺警戒の兵士が弾幕を張り、ダメコンチームが消化器片手に炎上する砲塔に駆け寄った


「隔壁閉鎖!弾薬に誘爆だけは防げっ!ハミル曹長、外の戦闘を指揮しろ!」


「了解!バルト、こい!」


「イエッサー!」

使い物にならなくなった火器管制システムの座席の下から護身用のM16を取り出し、ハミル曹長についていく


指揮所から出るとすぐさまに銃弾と矢が飛んできた


「曹長ッ!連中、連射式の銃を使ってます!鹵獲品のMG42とMP40です!パンツァーファウストのような物も確認されます!」


「クソが!全員指揮所を守れ!後方は貨車だけだ!貨車の守備隊と協力してここを守れ!優先するべきは荷物より人命だ!」


「イエッサー!」


「弾幕張れ!撃て撃てぇ!」

伝令兵を守るように猛烈な射撃をくわえていく

それだけでなく、他の車両からの援護射撃も開始された


空を攻撃兼射撃観測用のドローンが飛び交い、正確無比な速射砲の砲撃やCIWSの圧倒的弾幕が敵のタコツボ陣地を丸ごと吹き飛ばして盗賊の墓穴に変えていく


「敵さん、来ないですね!」


「だな!穴と草むらに隠れて出てきやがらない!」


「ひきこもりがぁ!」

ハミル曹長が悔しそうに地面を殴る

状況は膠着状態に陥った。前後左右の視界が隠れるほど草は背が高く、敵のアンブッシュを跳ね返せるほど兵士がいない、何せこちらは列車を警備するだけの兵士なく、突撃しても敵に包囲殲滅される可能性の方が高いのだ


「曹長!あれを!列車が!」


「なんだっ!?」

振り向くと後ろの貨車の下から強烈な青い光があふれていた


「まずい!転移魔法だ!総員退避!魔法陣からでろ!」

その声に反応して警備兵達が急いで魔法陣から離れる


光が治ると同時に貨車が線路や地面ごと円形にえぐれて消えてしまった


「くそったれ!荷物を奪われたぞッ!」


「分隊ごとに点呼ッ!警戒を怠るな!」

ハミル曹長が声を張り上げる。それに呼応するように射撃が収まり、辺りに静かさが戻ってきた


「連中の狙いは積み荷か、列車強盗とは……」


「曹長、点呼終わりました。転移魔法に巻き込まれた奴は居ません、負傷者が八名、いずれも軽傷です」


「ふぅ、最悪の事態は免れたな。私は大尉に報告してくる、この場は任せたぞ」


「ハッ!」


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