表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
47/82

ペンは剣より強し

皆さま、お久しぶりでございます


投稿再開します。またスローペースですが、今後もよろしくお願いいたします


休載中に誤字報告してくださった方、ありがとうございました。見てくれているんだなぁと、とても励みになりました

聖帝クルジド国

首都 ハーファル

審判の間(ヴァンス・ヒル)


クルジド国は四代に渡ってクルジドの王族が統治してきた歴史ある王国である

元は豪雪地帯にあった小さな国だったが、優れた治世と度重なる戦争で領土を拡大していったのだ


だが三代目の国王、クルジド・アーサー・ハルディークが放蕩と暴虐を繰り返し、市民に重税を科して革命が起こるまでは良い国だったのだ


時の聖職者と若き王子がクーデターを敢行し、王権は転覆、そして共産主義めいた全体主義による王国が爆誕してしまったのである


ここはクルジド王国の王城、歴代の王族や将軍が軍議を重ねた広間である


そこへ扉を開けて1人の青年が複数人の人を連れ立って入ってきた


「これはこれは、ベラディータ殿下」

軍議を交わす巨大な机についていた一人、アラヒュト教の教皇の儀礼服を纏った好々爺めいた老人が挨拶した


「皆のもの、遅れたな」


「理由は概ね察しております、殿下。我々が集まったのも同じ目的でしょう」

そう言ったのは無骨な軍服を纏った男である。歳は中年といっても差し支えない歳だが、顔に刻まれたシワや傷から察するに武人、それも歴戦の武人だというのが窺える


「そうだ、あの亜人どもの国が和平協定を申し出てきた、今その特使と話を終えてきたところだ」

そういうと青年は全体を見渡せる席に着いた

部屋の中で一番豪華に飾り付けられた玉座、そこへ当然のように腰掛けた。彼こそクーデターで王権を転覆させた張本人、クルジド・アーサー・ベラディーダその人である

肩甲骨の辺りまで伸びた金髪に黒の瞳、舞台俳優のように整った中性的な容姿、まさに絵に描いたような、選ばれしものという印象を与える人だった


「全員揃ったようだし、さっそく軍議を始める。まずは外交担当大臣のファルジャンより、例の和平協定についてだ」


「はい、殿下。ご報告します」

そこで立ち上がったのは左眼に片眼鏡をつけた中年男性である

歳は30いくかいかない、だが歳の割には後退した頭髪が老けた印象を与える男だ


「リラビア魔法国の外務卿直属外交官兼リラビア魔法国全権交渉担当官のハリスという者が本日持ってきた和平案の草案です」

活版印刷で複製された書類を見たクルジド国の高官たちは一斉に唸り、僅かな怒気を散らした


「なんだこれは、まるで自分たちが対等な立場にあるような言い回しではないか」


「全くだ、首都手前の都市まで迫られているというのに、なんだこいつらは」

最初の数枚で読むのをやめた高官達が思い思いにリラビア魔法国への悪口を言う中、軍服を着た男が言った


「ファルジャン、このダイニッポンコウコクという国はなんだ?」


「ウォルガン卿、私も存じ上げません。北の海の果てからやってきたリラビア魔法国の同盟国だそうです、この聖戦にも彼の国が出兵しているとか」

その言葉を耳にした高官達は再び投げ出した草案書類を拾い、読み始める


「諸君、南方の海から来る魔族に対抗しているせいで情報が遅いのかもしれん、よって聖帝である余から直接現在のリラビア魔法国戦線への状況を説明しよう」

そういうとベラディーダは仰々しく巻物を取り出した。その巻物は前線からの報告書である


「まず、リラビアの蛮人どもはマッポレア平原の辺りまで勢力を伸ばしている」

その言葉に会議室はざわついた。二年前謎の巨大な爆発と共にクルジド国が制圧したはずの土地の名前だからだ


「そして敵はマスドットリオも占領。兵器廠を破壊し、完全に占領している」


「マスドットリオが!?」


「で、ではアクバル殿がここにいないのは……」


「アクバルは死んだ。最後までマスドットリオ奪還に尽力したが、力及ばずな」

そこまで言うとベラディーダは書類を仕舞い、玉座に腰掛けた


「敵は我が国より遥かに高性能な銃や兵器を保有している。さらには空飛ぶ未知の竜や移動手段もだ」


「おそれながら、聖帝陛下」


「トムスキン卿、発言を許可する」

立ち上がったのは白髪をオールバックに整えた初老の男性だ。糸のように細められた目に銀縁のメガネ、老いてもその目に宿る眼光は鋭い

クルジドでは財政などを担当する大臣であり、いわば金庫番である


「ありがとうございます。陛下、何故今までそのような大ごとを我々に伝えなかったのです?何故このタイミングで発表したのか、どうか愚昧な私に教えていただきたく、存じます」


「では、正直に言おう。余もつい数時間前に知らされたのだ」

ベラディーダは堂々とそう言い切った


「順序だって説明しよう。元々リラビア攻略にはアストン最上級将とアクバル侯爵の二人に任せていた。アストンが前線で集めた情報はアクバルの元に集められ、精査された情報は年に一回、報告書という体で余の元へ送られる。余程火急の知らせでなければこのルーティンで良いと、余が許可した。リラビアなど領土が広いバスディーグと猛者揃いのルドグシャさえ落とせば後は箒で履くように片付けられる。そのはずだったが、そのダイニッポンコウコクの登場でそのルーティンが乱れたのだ」

喋り好きな皇帝はそこまで喋るとそばに控えた召使に水を汲ませ、二口で飲み干す


「だが、アストンが戦死し、アストン直轄の軍団は壊滅、離散し報告の事はうやむやになった。一部の軍団長はアクバル侯爵に報告を送っていたが、そもそも伝令も偵察も殆どがリラビアとダイニッポンコウコクの攻撃により全滅、とりわけルドグシャ方面軍は完全に報告が途絶え、アクバル侯爵も困っていた所へ、敵がマスドットリオに奇襲を仕掛け、アクバルも戦死、つい先日、前線から第44軍団のディンギィル上級三等士とトイルマン督戦官の二名による報告でそれらが発覚したのだ」

皇帝から告げられる言葉に参加者達は言葉を失った。リラビア攻略には八十万人以上が動員されたのだ。クルジド史上でも例がないほどの大軍勢。それらが瞬く間に壊滅し、撤退や報告もままならぬうちに撃退されたというのだ


「陛下、それは、その、事実、なのですね……」


「事実だ。それらの報告を踏まえ、現在の敵勢力圏を地図に纏めさせた、持ってまいれ」

すると四名の兵士が大きな地図を持ってきた


「ウォルガン戦争大臣、説明せよ」


「はっ」

すると立ち上がったのは軍服を纏った男、ウォルガンと呼ばれた彼は読み込んでいた資料を小脇に抱え、腰に吊るした指揮棒を取り出す

運び込まれた地図を眺め、指揮棒の先端で敵の勢力圏に塗られた箇所をなぞる


「敵の主力はここマッポレア平原、バステト要塞近郊、ルドグシャ王国跡地、そしてマスドットリオ、完全に開戦前の状態まで押し戻された、もしくはマスドットリオを失った分悪化してると見て良いでしょう」

ウォルガン戦争大臣は元軍人、瞬時の状況分析と戦局の把握は得意である、故にベラディーダはウォルガンに説明させたのだ


「ウォルガン卿、マスドットリオはマッポレアから少なく観ても山四つは離れている、いわば僻地だ。この僻地を敵は維持し続けられるはずがない。我ら軍勢を送り込めば取り返せる、違うか?」


「現状では難しいと考えるべきでしょう。報告書を見る限り、敵は海から現れ、強力な艦砲射撃によりこちらの防衛線を僅か二時間足らずで完全に崩壊させ、その間に数百人規模の部隊を上陸させています、これだけの規模の上陸を行いつつ、コロモクやルドグシャ方面への攻撃も同時進行で行う、綿密に練られた作戦です、予備兵力の概念もあると観て間違いないです、僻地とはいえ、簡単に取り戻せるはずがありません」


理詰めで改めて説明されると唸るしかなくなるのが人間である


「我が軍でこれと同じ規模で上陸しよう物なら、まぁざっと観て二時間で五十人、上陸出来れば良い方でしょう。このダイニッポンコウコクというのはとにかく異常です、敵に回してはおそらく勝ち目は薄いでしょう」


「何故だ!そういう弱腰姿勢が敗北を招くのだ!」


「そうだ!神聖なるアラヒュト神への信仰と植民地軍の物量が有れば勝てるだろう!」


「それはどうでしょう。戦況資料を見る限り少なくとも今までの様に物量責めは得策ではありません、敵の大砲で一度に十人の兵士が吹き飛び、敵の竜から落とされる爆弾は五十人の集団を纏めて消し飛ばすほどの威力、バラードではその竜が空を埋め尽くすほどの数で攻めてきたとあります」

ウォルガンはどこまでも冷静に切り返した


「なるほど、戦争大臣の意見はよく分かりました。それを踏まえて教えてください、ダイニッポンコウコクとリラビアに勝てる可能性はありますか?」

悲観する他の大臣を差し置いて声を上げたのは教皇の儀礼服を纏った老人である


「……わからない」


「ほう?」


「ウォルガン卿、正確に申せ」


「はい陛下、()()()()()()。情報が少なすぎます、正面きっての戦争が不可能な以上、隠密に情報を集め、弱みを握り、一挙にそこを突くべきです」


「なんとも気の遠い話だ、しかし武勇高いウォルガン卿の事だ、その考えに至った理由があるのだろう、話して余を安心させよ」


「はい、根拠はこの和睦案そのものです」


「どういうことかね?」

高官の数名が頭を傾げる中、ウォルガンはグラスの中身を傾けながら喋りだす


「このダイニッポンコウコクが仮に我々を上回る軍勢を持ち合わせておきながら、何故和睦案などを出しますでしょうか?おそらく限界が近いからと推察されます、であれば、スパイを放ち、その限界を探り当てるのが得策かと」


「ふむ、論理的だ。ウォルガン卿の提案に何か意見がある者は?」

ベラディーダの問いかけに誰も答えなかった、小国であったクルジドを大陸の覇者にまで育て上げた軍略の父とまで呼ばれたウォルガンの論に付け入る余地は無いのだ


「よろしい、では王室直属の隠密部隊を動かそう、ウォルガン、好きに使え」


「ハッ!ありがたき幸せッ!」


「ファルジャン、交渉には色良い返事をせよ、ただし、和睦では無く、休戦と名打つのだ。体裁はかまわん、いつでもやりあえるのだと、圧を掛けておくのだ、期間はウォルガンと相談せよ」


「かしこまりました」


「セルブス教皇、国内の治安と情報統制は任せるぞ、マッポレアを取り返されたことは今はまだ公表するべきではない、南方魔族に対抗するための一時的休戦という形を取り、国民には発表せよ」


「わかりました、陛下」

儀礼服を纏った老人、セルブス教皇は好々爺とした笑みを浮かべ頭を下げた


「トムスキン、対リラビア攻略予算を南方魔族討伐予算に回せ、それと同時にダイニッポンコウコクを相手にする際の予算案も想定した計画を立てるのだ」


「かしこまりました」


「他の諸君はいつも通りで良い、各地の統治に励み、同化政策を引き続き実施せよ。クルジドこそ世界を征するのだ」


ベラディーダはそう締めくくると左拳を頭と垂直の位置に掲げた

すると座っていた高官全員が立ち上がり、ベラディーダと同じく左拳を掲げた


『『『聖帝万歳ッ!クルジド万歳ッ!』』』

























リラビア魔法国 王都ガローツクン

翡翠の間


ガローツクンの中心、街を見下ろす山を丸々城にしたこの巨大な王城

その一画に設けられた重要かつ機密性の高い会議を行うためにある部屋である


大日本皇国、リラビア魔法国の外交、軍事、政治、経済を司る役職者が席に座って侃侃諤諤の会議をしていた


「クルジドの使節団は一ヶ月後にマスドットリオにやってくると、ハリスから連絡がありました」


「であれば、こちらが派遣する使節団の人選はどうされますか?移動時間を考えると一週間以内には選定しないと」


「移動時間は我が軍の航空機を使えば短時間ですみます。マスドットリオの飛行場が完成したので、海路以外にも道ができました」

ローズ中佐がスクリーンにマスドットリオの航空写真を映す

マスドットリオの街から少し離れた兵器廠の隣、クルジド軍の練兵場として使われていた平野とも呼べる大地に規則正しく白線が引かれた滑走路や無数のハンガーが作り出されていた


「であれば少しは根を詰めて決められそうだ、クルジドは何人の外交官が来くるのかわかるか?」


「十名と聞いております」


「では日本とリラビア、それぞれ代表して五名ずつにしましょう。護衛は両国から代表して出す形で」

ローズ中佐が手元のリモコンを操作して次の映像をスクリーンに映す


「では次に、我々は和平にあたり、どこまでを譲歩するかを決めましょう」

ローズ中佐の言葉に会議室が一気に凍りついた。大日本皇国側だけでなく、特にリラビア側は殺気すら芽生えていた


「奴らには全てを奪われてきた、苦労して取り返した成果を手放すなど!」


「しかし和平とはお互いが納得できる箇所を探り合い、着陸地点を見つけるもの、向こうだってはいそうですか、とならんだろう」

リラビアでも意見が割れていた。多くの犠牲を払い取り戻した国土をみすみす敵に渡すのか。それとも権益を固持して交渉するのか


「……一つ、いいかな?」

そこで声を上げたのは大器だった


ぼんやりと会議に参加だけでしていた彼だが、大日本皇国の王太子役を演じているのだ、当然自国の行方を左右する会議での発言権はある


「我が国の情報収集によると、クルジド国はもう一つ、海の向こうの国と戦争している」

それらの報告は度々大器の元に上がってきていた、クルジド国の北東、軍港から何十隻もの軍船が出航し、対岸からやってきた軍船と争うのが衛星や長距離偵察機から確認されていた


「左様、クルジド国が拡大政策を取る前はかの大陸でも戦乱が起こり、今ではどの国が残っているのか、クルジド国が何処の誰と戦っているのか我らでは把握できないですが……」


「クルジド国にとって、今回の和平を受けるということは、一旦リラビアを置いといてその海の向こうの国とやり合うつもりではないか?」


「……なるほど」

参加者の大勢が頭を傾げる中、リラビア国の外務卿がうなづいた


「流石、大器殿下。素晴らしい御慧眼でございます。このファストフ、眼から鱗でございました」


「いえ、私は部下の報告を信じたまでです」


「と、言いますと?」

リラビア国の軍務卿が不思議そうな顔で聞いてくる


「クルジド国は大陸の覇者です。その大国が追い詰めている国からの和平に応じるのは余裕がないか、あるいは新しい脅威があるかのどちらかです。この場合は後者でしょう。つまり向こうにも弱みがある以上、休戦には前向きなはずです、つまり多少交渉は有利な着地点が見えるでしょうし、最悪相手を脅すだけの軍備を急ピッチで作り出せるはずです」

大器がそう説明した。ミリア大将はその間パソコンを操作し、根拠や裏付けになる資料をタイミング良く表示していく。この分析は開戦当初からずっとなされており、高高度偵察やクルジド国の物流の状況や捕虜の尋問などから判明したことの地道な積み重ねの成果とも言えた


「後は外交担当の者たちにお任せします」


「お任せください」


「では、次の議題に移ります」


会議はまだまだ続く。休戦したとはいえ、課題は山積みだからだ


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ