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Peace of Parabellum

マッポレア平原 ジャイアントシャドー

クルジド軍中央陣地 第30軍指揮所


「右翼への攻撃隊、全滅!」


「敵の火竜が接近!数は二十以上!」


「ビルス上級三等兵長、死亡!」


「最終防衛線が突破されます!」


「左翼から伝令です!ホランドル中級将死亡!左翼軍団が壊滅し、敵主力がこちらへ向かってきます!」


第30軍団の総指揮官のピカトニー中級将の元に続々と凶報が寄せられた

司令部と外の塹壕を仕切る垂れ幕が忙しなくめくられ、傷だらけの伝令兵が出たら入ったりする。その列はまだまだ途切れなかった


「なぜた、なぜ、こうなったのだッ!」

ピカトニー中級将は円卓を殴った。数日前までは腹心の部下と共に軍議を繰り返した机だが、今ではピカトニーただ一人であり、彼らの遺品である穴だらけ、血塗れの兜だけが乗っていた


「奴が、ディンギィルが示した作戦は完璧だった!アンデットにすり減らされた敵軍の陣地も奪い返した、しかし何故敵が右翼陣地を占領して、こちらへ攻撃してきているッ!」


クルジド軍がこのマッポレア平原に踏みとどまれたのは塹壕陣地の活用と右翼の反斜面陣地、左翼の森林を活用した天然の防衛線、そして三つの陣地からの相互攻撃により、常にリラビア軍を挟み撃ちにしていた事による数的、地理的有利による物が多い


その最中、ディンギィルとピカトニー中級将は密約を交わしたのだ


「中央陣地での戦果を全てピカトニー中級将にお譲りします。代わりに私にはそれ相応のお礼をいただけますか?」


ピカトニー中級将は植民地支配された国の軍人である。純クルジド人で無い以上、戦果もなければ出世も無いこの後方で燻っていたのだ

それ故に彼は応じたのだ。さらなる立身出世と占領された故郷に住む同胞達の為に、クルジド正規軍でも止められなかった軍勢を自分で倒すために


だが、現実は甘くはなかった


ディンギィルは陣地転換を完了させるとすぐに一部の督戦隊と結託し、足枷となる者を皆殺しにし、部下と金と武器を持てるだけ持って逃げたのだ


するとどうなるか。右翼はたちまちリラビア軍に取られ、今度は我々が反斜面陣地を攻略する羽目になるのだ


高さにして40mも無いハイキングにしても物足りない丘だが、全身に武具を携えて障害物や機銃掃射を乗り越えながら進むとしたら話は別だ。何の対策もなしにやろうものなら5歩も歩かないうちに物言わぬ死体の仲間入りである


敵は右翼と正面から中央陣地へと圧力を強め、反対に左翼陣地への圧力を弱めた

それを機と見たホランドル中級将は攻勢に出たが出迎えたのは曳光弾と戦車、そして後方より飛来する大砲である


そしてたった今左翼壊滅の知らせが届いた。限界だった


「ディンギィル、あの裏切り者めぇ……覚えておくがいい、我がここで死のうとも、貴様は必ず報いを受けるッ!祖神と精霊の名において、必ず、貴様に、復讐するぞッ!」

ピカトニー中級将は懐から取り出した紋章を握り締めた


クルジド国に占領されて以来、邪教として禁止された彼の生まれ故郷で盛んに信じられてきた精霊信仰のペンタクルである

国破れて山河あり。彼の祖母がいつも言っていた言葉であり、国が滅びようとも山や河と同じように人の思いは消えないという意味だと、言っていた


その言葉を信じ、彼は今日まで生きてきた。いつの日かクルジド国に否定された文化や宗教を取り戻すために


だがそれも終わりだ。この局面は覆せない


























玄武島


所変わってここは大日本皇国の本拠地である玄武島


その中でも裁判所があるエリアでは厳重な警備の中、一人の軍人に沙汰が下されようとしていた


「では、議論も纏まったので、判決を言い渡します。トスカーナ・エル元少尉」


「はい」

リットリオの部下のエル少尉は手錠を嵌めた姿で法廷に立っていた


罪状は上官暴行罪、反逆罪と許可無しに搭乗する零戦に乗り、それを墜落させた罪である


エル少尉はあの日、ドラゴンスレイヤー作戦で気を失ったリットリオ中尉のシュトゥーカに零戦で近寄り、()()()()()のである

その後、零戦は操縦を失い、墜落。エル少尉はシュトゥーカを操り、機体を味方勢力圏に不時着させたのである

リットリオ中尉を救うためとはいえ、許可無しにやったこの事実は覆されない。しかし彼女は後悔してなかった


(リットリオ中尉にあのまま死なれる方が嫌だ)


その考えだけでここまで行動し、全てを為したのである


「さて、貴女のこれまでの軍歴と皇国に対する多大なる貢献を加味し、当軍事法廷が貴女に懲罰部隊へ一年間の転属を命令します、拒否権はありません」


「はい」


「それと同時に貴女を少尉から伍長へ降格、自分が犯した罪をそこで償ってきてください」


「はい、わかりました」


「では、被告の同意と共に、当軍事法廷は閉廷とする」


その判決と共にエル伍長は警備兵に連れられ、外の護送車へと連れて行かれる


護送車に一人乗り込み、やがて車が動き出した


「…………ふぅー、疲れた」

エル伍長は無機質な金属の天井を見上げた。頭をよぎるのは自分が片思いをしている朴念仁な上官の事である

あの後、一命は取り止めたと面会に来たヴィクトル中尉は言っていた、だがそれ以外はわからなかった


あの人はまだ軍にいるのだろうか、それとも左目を喪失した今、パイロットを引退して民間に移ったのだろうか、今は何処で何をしているのだろう、食事は出来るのだろうか、まだ入院しているのだろうか、怪我をしてるのに飛行機に乗ろうとしてないだろうか、腕が鈍るからと操縦席に座ってないだろうか、ヴィクトル中尉に唆されてたらどうしよう、最後にぶん殴ったから嫌われただろうか、会いたい会いたい会いたい会いたい会いたい


「会って、話がしたい」

一人呟き、深いため息を吐いた


「合わせてあげましょうか?」


「ファッ!?」

一人だと思っていた護送車の中にいつのまにか一人の男がいた


その男は極度の肥満体、特大ウィンナーのような太い指に弛んだ顎、見たこともないような巨大なサイズの軍服ですらはちきれんばかりに突き出たお腹、絵に書いたような肥満体の大男だ


そんな異常なまでに目立つ存在の男が、何故かこの密室の護送車にいることに気づかなかったのだ


「あんたは?」


「私の名はジャンヌ大佐。陸軍広報部第四局で働いている、しがない軍人さ」


エル伍長は一発でただの広報官ではないと思った


まずただの広報部の人間が囚人兵が乗る護送車に忍び込まないだろうし、突然現れた事も驚きだし、大佐階級なのに広報官をやってるのも異常だ


「まぁまぁそんなに怪しまないでくれ、私は君にいい話を持ってきたんだから」

そういうとジャンヌ大佐は怪しいセールスマンよろしく脇においた鞄から封書を取り出した


「実はだね、今特別な飛行小隊を新設しようという話があってね、パイロットが必要なんだよ」


「それを私が?」


「そう!でもその飛行機は厳密にいうと戦闘機じゃなくて急降下爆撃機で、後部座席の人員が不足してるんだよ、何処かにいないかと探していてね、君が適任なんじゃないかなと思ったのだ」


「…………そのパイロット、名前は?」


「リットリオ大尉さ。ドラゴンスレイヤー作戦で左眼を喪失したんだが、ウチで預かることになったんだ。興味あるかね?」


「詳しく」

ジャンヌ大佐の笑みが深くなった。今のエル伍長に怖いものはなかった





















リラビア魔法国

ガローツクン 王城


リラビア魔法国の王族が住う王城。去年の動乱の痕跡もすっかり消え、街の中央では亡くなった人々の慰霊碑が静かにそびえている

その街を見下ろす位置に立つ王城で、大器とリビーが二人、並んで紅茶を楽しんでいた


「終わり、ましたね……」

リビーが紅茶の入ったカップをソーサーへ戻し、呟いた

王城にいるときは外交官のリビーではなく、第一皇女のリディアビーズ姫殿下として振る舞う彼女、いつもより気品あふれる所作で大器がお土産に持ってきたケーキを口に運んでおり、年相応の愛らしい笑顔を見せた


「ええ、マッポレア平原は完全にこちらの支配下になりました、敵の九割は殲滅、残った一割は敗走しています、犠牲も最小限に済んだ」

大器も同じようにソーサーを机に置いた。最初はローズ中佐とリラビア側の将軍がいたのだが、いつの間にかいなくなっており、今では大器とリビーと二人のみだった

王城のテラスから差し込む夕日が部屋を赤く染め上げ、二人の呼吸音のみが微かに聞こえる


「我が国の外交官がクルジド国からの正式な返答を得ました」


「どうでしたか?」


「……一ヶ月後、クルジド国の代表団が交渉に来ます」


「なるほど、では一段落ですかね」

大器もケーキを口に含み、フォークを置いた。皇族らしい所作というのは疲れるが、それもだんだん慣れてきた


「えぇ、その過程で分かったのですが、クルジド国は海の向こうの大国と戦争している様子、あまりこちらに力を裂けないのかもしれません」


「ほぉ、それはそれは」

大器はリディアビーズ皇女を見た。向こうも大器の眼をまっすぐ見つめていた


「長かった、ですがいよいよここまで来ました」


「ですね、大器さんの協力のおかげです」


「何度でも言いますが、これは我々の共同事業。この喜びは二人で分かち合いましょう」

大器は席を経つと夕日で赤く染まったガローツクンの城下町を眺めた


「……二年前、突如この世界に飛ばされて、そしてこの街で、我々は初めて会った」


「はい、そして始まりの地であるマッポレアを取り戻し、原点に戻った」


「これはまだ始まりだ。振り出しに戻ったに過ぎない。戦いはこれからです、リビーさん」

そういうと大器は隣に来ていたリディアビーズ皇女の方を見た


「これからも、どうぞよろしく」


「はい、共に参りましょう」


次回から新章を始めたいと思います


内容は今までの派手な戦争というよりかは裏でチマチマやっていく、スパイ物とか内政とか最近放置気味だったレイヴン少尉の辺りとか、新しい国とか大器とリビーのイチャイチャだったりを書いていけたらなと考えております


新章開始までに少し時間をいただくかもしれません、ご容赦ください


今回も読んでくださりありがとうございます。ご意見ご感想お待ちしております

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