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灰の降る夜にあなたと共に

元ルドグシャ王国 王都フェルーデン


ルドグシャ王国の王都、クルジド国の侵攻を受ける前は屈強な傭兵と優秀な魔法使い達が集う国だったが、クルジド国の軍勢が押し寄せ、進軍路を強引に開拓し、ドラゴンと共に攻め込まれ、今では瓦礫と火災で降り積もった灰や焼け跡で埋もれた廃墟とかしてしまった


そんな灰被りの街にはクルジド軍ルドグシャ方面軍として八個の軍団、およそ十六万人程の兵士が派遣されていた

だが日本皇国軍の活躍により二個軍団が壊滅状態に陥り、クルジド軍は徐々に戦線を後退、アビド鉱山に隠されたアースドラゴンといった隠し兵器も存在が露呈しリスクを避けるために徹底した毒ガス攻撃でアビド鉱山のクルジド軍を撃退した日リ連合軍はとうとうルドグシャ王国の王都、つまりクルジド軍の最後の砦まで駒を進めたのだ


ルドグシャ王国には生き残ったクルジド軍の部隊があちこちに駐留しており、都市の建物は激戦でほとんど焼け落ちているが飲み水などは奇跡的に残っていたため、後方から細々と来る補給と元々の備蓄と合わせてクルジド軍はなんとか持ち堪えていた

クルジド軍は燃え落ちたルドグシャ王国の王城、その前に作られている迎賓館に司令部を置いていた

ルドグシャ王国に残る燃えていない数少ない建物であり、駐留する各クルジド軍の軍団旗が掲げられている


「総司令官殿!」

迎賓館に駆け込んだ伝令兵が総司令官のアシュモフ上級将の部屋に入り、各地の報告書の束を渡した


「ご苦労、アビド鉱山が落ちたか……」


「はっ!敵の毒霧によりアースドラゴンを率いていたベルフ下級将殿は戦死!生き残った兵士も失明や呼吸不全といった症状が激しく、全滅です!」


「ふむ、となるといよいよここも危ないか。各軍団長に伝えよ、一週間後に全体会議を開く、決戦が近いぞ」


「ハッ!」

伝令兵が部屋から出て行き、アシュモフ上級将が椅子に深く腰掛けた


「ここでの我々の抵抗は、果たしてアラヒュト神の御許への聖戦か、それとも破滅の先延ばしか……」

毛量がだいぶ減った頭を撫でながらアシュモフ上級将は呟いた。外は相変わらずの曇り空で、窓辺には自分たちが焼いた街の灰が今でも降り積もっていた





















一週間後……


日リ連合軍

アビド鉱山近郊 前線指揮所


制圧したアビド鉱山、鉱山の奥底には毒ガス攻撃から未だに生き延びたクルジド兵が息を潜めているが、組織的反撃はほぼ不可能であり、壊滅はもはや時間の問題だった


そんな最中、連合軍は前線指揮所をアビド鉱山まで前進させ、いよいよ最終攻勢のための作戦会議を行なっていた

設置されたプレハブ小屋には日リ連合軍の将校が大勢詰めかけており、階級は最低でも大尉クラスの者達で構成されており、その数は60名を超えていた


「では、作戦の説明をさせてもらいます」

そういうと作戦参謀のベイカー少佐がプロジェクターを起動させた


「本作戦を説明するにあたり、四段階の工程に分けて説明します。この四段階は実際の作戦遂行に反映されるのであしからず、では説明します」

ベイカー少佐がリモコンを操作するとルドグシャ王国の衛星画像が映った


「UAVや捕虜尋問によれば敵の司令部はここ、王宮前の迎賓館です。敵はここを中心に王都内に駐留しており、食糧事情も現状は逼迫しておらず十万程の兵が中に籠もっております。敵の防衛設備はまず王都の外周には5m程の石の城壁、一部は天然の丘陵や山をくりぬいた要塞が存在しており、外部からの守りは堅牢です」

ルドグシャ王国の地形はいうなればクレーターの中に都市があるようなイメージだ

大昔がどうだったのかはわからないが円形状に抉れた大地の内側に人々が暮らし、天然の防壁としてクレーターの外縁部に防壁や要塞を建てて外部からの魔獣の襲来を防いでいるのだ

もっとも度重なる戦乱で魔獣の多くが食料としてクルジド軍に捕獲されてしまい、その甲斐あって魔獣の被害も相対的に減っているのは余談である


「そこで作戦の第一段階として後方の敵退路、ならびに敵司令部への空挺部隊降下を提案します」

ルドグシャ王国の背後にはクルジド軍が魔獣やルドグシャ王国軍と戦い、おびただしい死体を積み上げて数年かけて森を開拓し作り上げた街道が存在している

この街道は数万単位の軍勢が行動できるほど大きく、これを作るのにかかった労力は計り知れないだろう

ちなみにリラビア軍はこの街道の事を死者の道と呼んでいる。建設中に死んだ作業員はそのまま道の脇に捨てられていたからであり、高度偵察機でも分かるほどに道の脇にポツポツと白い丸ができている、何が積み上がっているのかは考えたくもない


「夜間に2個大隊からなる空挺部隊を投入し、敵後方を遮断、敵司令部にはヘリボーンにて特殊部隊を投入し、敵司令官の捕縛、もしくは暗殺を決行します、その際に敵の目を逸らすために砲兵隊による敵前線陣地への砲撃を行います」

そこで次に映ったのは複数人の男性の顔写真。全てが上空から撮影された写真だ

彼らはクルジド軍を指揮する将軍クラスの者たちである


「そして両目標の確保が成功したのち、空挺部隊からの合図と同時に敵正面に展開した機甲部隊と歩兵隊を前進させ、戦力誘引と敵戦力の漸減を行います」

ルドグシャ王国の地図に味方の記載が加えられる。前と後ろの両側に味方の記載が加えられた


「そして地上部隊が想定ラインに到達した場合第二段階、航空戦力の投入を行います」

地図上に皇国軍の飛行場から伸びる線がくわわった


「投入するのはAC-130ガンシップの他にブラックホーク並びにリトルバード、爆装したF-16、つまりこちらが保有する航空戦力のほぼ全てです」

その一言に将校達の間でため息のようなざわめきが漏れた。前代未聞と言ってもいい出撃率だ


「そして、正面の機甲戦力と航空戦力で正面防衛線を突破、橋頭堡を確立後、第三段階として輸送車両部隊を投入し、ルドグシャ市内から敵要人と共に特殊部隊を脱出させます」

ルドグシャ市内から伸びた矢印が味方の勢力圏に伸びる


「そして最終段階。正面戦力に押し出されたクルジド軍と後方の火力に挟まれた敵を一挙殲滅、敵増援は後方部隊が遮断し、空と地上からの挟み撃ちで敵を殲滅します」


作戦の内容を纏めると敵退路と指揮系統を空挺部隊で潰し、陸と空からのゴリ押しで敵を粉砕、ついでに敵の重要人物を拉致する。大雑把に言えばこういう作戦だろう


一通りの説明が終わると将校の何名かが手を挙げた


「我らリラビア軍の配置はどうなっている?」

最初に声を上げたのはリラビア軍、ルドグシャ方面派遣軍のミュルドラン将軍である

彼はエルフでありながら剣の扱いに優れた武闘派の将軍であり、細身で魔法を使うことの多いエルフとは真逆、筋骨隆々の美丈夫、左目に走る某赤毛の海賊王のような傷、従兵に持たせた二本の大剣、しかし知的な光をたたえた新緑の瞳を持つエルフである


「ミュルドラン将軍の装甲魔法兵達は戦車隊の随伴として参加してもらいます。コゼル将軍の擲弾翼兵は空挺部隊やヘリボーン部隊に同伴して同じ様に地上部隊の援護に当たってもらう予定です」


「是非もなし、妾は問題ない」

そう言ったのはリラビア軍のコゼル将軍だ、白鳥や鶴を思わせるような純白の翼を生やした翼人であり、非常に蠱惑的な美貌と色香を振りまく魔性の将軍として有名である


ちなみにリラビア魔法国はルドグシャ方面の戦線にもう二つ、ドワーフ族中心の軍と各種族混成の軍の二つを展開している


それらの軍勢はアビド鉱山や道中の女王の息吹の街道警備やクルジド軍の敗残兵の追跡に当たっているため不在だ


「他に質問のある方?」


「質問、この作戦が完遂とされる具体的な目標はなんだ?我々はどこまでやっていいんだ?」

そう手をあげたのは戦車師団を率いるマントイム少将だ。こちらもミュルドラン将軍に負けず劣らず頬に大きな切り傷がある軍人である


「作戦の完遂目標は敵指揮中枢の完全破壊、ならびに後方退路の破壊にあります。西部戦線が決着に向かいつつある今、ここで我が軍が力押しで灰塵に帰したルドグシャを取り返しても旨味がない。後方の退路は同時に敵の補給路としても機能しているため、ここを抑え、兵糧攻めにします。戦闘行動は市内に突入した部隊が帰還した瞬間に停止、その後は降伏するまで遠距離から撃ちまくるのを想定しています」


クルジド軍の輜重隊に対し、皇国空軍は無差別の爆撃を手当たり次第行っているが、それでも阻止できない輸送部隊の方が多く、その膨大な補給体制の維持こそここまで戦力に格差があるのに戦争が長引いている原因の一つである


「戦車隊は市街地に入らず、橋頭堡近辺の確保にあたって貰います。空軍ヘリや航空機は要請がある場所、すべてに向かい、敵を殲滅してもらいます」


「ブラックだなぁ」

そう呟くのは空軍の戦闘機隊を代表してやってきた王中佐である。顎に生えた無精髭を撫で、言葉とは裏腹に楽しそうに笑った


「……空挺部隊がしくじった場合はどうなる?」

次に手をあげたのは敵司令部に突入する部隊の役割を受けたストーン大尉である


「その場合は任務が救出作戦にかわります。砲兵隊と戦車隊の砲撃支援の元、ルドグシャ市内の国王広場、ここまで退避し、迎えに来たヘリに飛び乗って撤退します」


「司令部からそこまで7kmもあるじゃないか、正気かよ」


「故に失敗は許されません、ストーン大尉、この作戦の成功は貴方にかかってます」


「……わかった、必ず成功させよう」

特に焦ったような動作も無く、ストーン大尉は椅子に座り、資料を退屈そうに読み始めた


その後も質疑応答が繰り返され、その日の夜はふけていった



















《ジャンプマスター1よりナイトクロウへ、目標α(敵司令部)を確認、目標β(敵退路)も確認できた》


《ナイトクロウより誘導信号を確認、降下予定時刻まで後三分》


《気象班よりグッドニュースだ、現在北北西より微風、ハゲオヤジの髪すら揺れない、流されることはほぼ無いぞ》


《全ジャンプマスターへ、こちらゲームマスター。これよりテンペスト作戦を開始、予定通りだ、砲兵隊は砲撃を開始せよ》


《後部ハッチ解放》


《ナイトクロウからの誘導信号受信、今だ降下!》


《行け行け行け!》

C-130の機内のランプが赤から青に変わった瞬間、待機していた60名の空挺部隊の隊員が飛び降りた


飛び降りてしばらくしたらパラシュートを開く。空挺部隊の隊員を次々と吐き出すC-130が合わせて20機以上。中には装甲車や重火器が固定されたパレットなどを投下している機体もある


そして中にはパラシュートを開かずに自前の翼を開く存在もいる。リラビア軍の擲弾翼兵である

様々な鳥類の羽根を羽ばたかせ、パラシュートで降下していく兵士を抜き去り地上から見つからないように降下予定地点の安全を確保していく

地を這うネズミに襲い掛かる猛禽類の如く、上から真っ逆さまに降り立ち、首や脳天に銃剣を突き立て、クルジド兵の息の根を止めていく


パラシュートを操り、クルジド軍司令部から2ブロックほど離れた空き地に降下したストーン大尉以下40名は欠員無く、集結し、パラシュートを切り離した


「レスケ中尉、状況は?」

ストーン大尉が隣に降り立ち、銃剣についた血をズボンで拭っていた翼兵のレスケ中尉に尋ねた


「我々の存在に気付いた奴はみんなあの世だ。まだ勘付かれてない、砲兵隊はいい仕事してるよ」

連続した遠雷のような轟音がそこら中に響き渡る。クルジド兵も曇天から降り注ぐ灰に紛れた空挺部隊の存在に気付かないようで、最前線の砲撃に気を取られていた


「よし、第二分隊が先遣、5m間隔で分隊ごとに前進、レスケ中尉、上空から援護を頼みます」


「任せとけ」

そういうとレスケ中尉は薬莢受けを取り付けたSVD狙撃銃を取り出し、銃口にサプレッサーを取り付けた


「前進」

レスケ中尉が飛び立つと同時に部隊が小走りで動き始めた


クルジド兵の多くは無理矢理戦場に連れてこられた民間人や捕虜となった植民地の元軍人がほとんどだ、それを魔法で縛っているだけに過ぎず、ほとんどは士気が低い、なので大体の兵隊が路上で酔っ払って寝ていたり、突然始まった砲撃に気を取られ、真っ先に物陰に隠れていた


《左から敵巡回兵、先頭のやつ、受け止めろ》

突然レスケ中尉から無線が入り、次の瞬間、7.92mmロシアン弾が真面目に巡回していたクルジド兵の眉間を貫いた

崩れ落ちる敵兵を受け止め、路地裏に引き摺り込み、音を立てないように物陰に隠す


「ナイスカバー」


《そりゃどうも》

人目を避けて空を飛び、屋根の上に降り立ち、時には飛びながらレスケ中尉とその部下達は上空からサプレッサーを付けたSVDやVSSヴァントレスで障害となるクルジド兵の眉間を撃ち抜いていく

小隊はやがてクルジド軍の司令部へと辿り着き、煌々と焚き火が焚かれ、警戒のための兵士が集まっている司令部前の建物からひっそりと周りを眺めた

司令部前は馬車用のロータリーになっているが真ん中にアースドラゴンが乗り手と共に大勢の警備兵と共に守りを固めていた、砲兵隊の砲撃を警戒しているようだ


《ブラボーリーダー、こちらシエラリーダー。目標αは包囲した》


「よし、こちらブラボーリーダー、目標α前に到着した、直ちに速達を頼む」


《こちらレイニーテイカー、位置についた。建物から出るなよ、デンジャークロース》


「伏せろ!」

ストーン大尉の叫びと同時に空から降り注いだ40mm砲弾の掃射がアースドラゴンを粉々に粉砕した

アースドラゴンの硬い装甲とも呼べる甲羅砲弾を弾くがすぐに至近弾で炸裂した砲弾が柔らかい胴体を切り裂いていった


アースドラゴンが死んだのち、25mm機関砲が空から斉射され、逃げ惑うクルジド兵が次々と弾幕に絡みとられていく


《こちらレイニーテイカー、配達完了。作戦終了時刻まで上空で待機する、要望があれば呼ばれたし》


「ありがとう、感謝する」

ストーン大尉が無線を締めくくると自分が手にしたAK102に弾が装填されているのを確認した


「進め」

ストーン大尉の号令と共に小隊が動き出し、ふりしきる灰や土埃の中、砲撃を生き延びた敵にとどめを刺す散発的な銃声が響く


やがて司令部前にたどり着き、ストーン大尉が左手で何かをひねる動作をくりだす

先頭のバヌハ伍長はニヤリと笑うとAK102をスリングで脇に吊るし、M9を引き抜いた


反対に陣取ったレイトン軍曹は背中から四角い白い板を取り出した。ブリーチング用のセムテック爆薬である

対象物に貼り付けてスイッチを押すと指向性を持たされた爆薬が対象物を粉々に粉砕する、市街地では道を作ったり敵が立て篭もる建物に突入したりするのに必要な物だ


設置から三秒後、爆薬が起爆し、続けてバヌハ伍長が手榴弾を投げ入れた

手榴弾起爆と同時にバヌハ伍長とレイトン軍曹が先頭で中に入り、続けて他の兵士も後に続いた


「りぃやあああああああ!!!」

バヌハ伍長は雄叫びと共に至近距離で相手の眉間をM9で撃ち抜き、もう片方の手に持ったククリナイフで剣を振り下ろしてきた敵の攻撃を受け止め、返す刃で相手の喉を切り伏せた


ほとんどの敵は大盾を構えていたようだが、爆発の衝撃でほぼ全員が倒れておりすぐに制圧された


「レイトン軍曹、お前の分隊でここを守れ、誰も入れるなよ」


「了解です」


「他はついてこい、司令官を抑えるぞ」

ストーン大尉の短くも的確な命令に忠実な兵士達は再び一丸となり階段を上る


途中、現れるクルジド兵のほとんどは混乱し切っており、曲がり角から飛び出てきてもその勢いを利用され、右から左へと受け流すように足払いされ、壁に叩きつけられた所を脳天に一発撃ち込まれていた


そして司令官がいる部屋にたどり着き、再び扉の両側に陣取る

そしてドアの蝶番と鍵の所に小さな爆薬を仕掛けていく。今回は中にいる人を殺しては意味がないので殺傷力を抑えた爆薬を使うのだ


「爆破ッ!」

顔を伏せた直後、貼り付けた爆薬が起爆、流れるような動作でドアを蹴り飛ばし、フラッシュバンを投げ込む

フラッシュバンの起爆直後、大勢の悲鳴が上がり、続いて部隊が突入した


よろめく人を殴り倒し、結束バンドで縛り付けていく


「ゲームマスター、こちらブラボーリーダー。標的(VIP)を確保した」


《了解した、作戦は第二段階に移行する。増援到着まで現在地を死守せよ》


「ブラボーリーダー了解」




















《ブルーリーダーより全機へ、作戦開始だ》


「やるぞ、コルト軍曹」


「……了解」

キーゼル中尉のウキウキした顔をゲンナリとした顔でみたコルト軍曹は痛む胃を押さえながらうなづいた


《こちらレッドリーダー脱落機無し、各中隊、密集陣形を維持せよ》


《こちらイエローリーダー!一番槍は頂くぜ!》


《レディファーストだ、ブルー、レッド隊は進路を開けろ、お嬢様が通るぞ》

その直後、爆装したF16が通り過ぎた。数は30機を超していた


《派手なお嬢様だ》


《地上部隊の位置を確認、ターゲッティングスモークを確認した》


《敵要塞の主要線を確認、イエロー3、4紫のスモークをやれ、1、2は赤、5、6は緑をやれ》


《投下まで20秒…10秒》


《じゅーーびょーーーッ!!!》






















直後、クルジド軍の要塞が爆発に包まれた


F16八機から投下されたクラスター爆弾がクルジド軍が立て篭もる要塞に降り注いだ


「戦車隊前進!」


「上空の擲弾翼兵との連携を密に!敵を近寄らせるな!」

呼応するように地上部隊も前進した。要塞線は数時間で陥落、後方部隊が到着し防衛体制を着実に整えていった




















フェルーデン クルジド軍総司令部


「……静かですね」


「ああ、静かだ」

総司令部の建物の屋上で周囲を監視している(フウ)二等兵とジェイス兵長は呟いた

M249に載せたACOGサイトから見えるのは燃え落ちた建物と降り積もる灰と暗闇、それだけだ


「兵長殿、敵は来ますかね?」


「くるさ、外から戦車とヘリの大軍が来てて、その先には敵の生身の歩兵のみ、お前ならどっちが勝てそうだと思う?」


「歩兵の方です」


「ああ、そういうなめ腐った奴らを撃滅するんだ」

ジェイス兵長が暗視装置のレンズを擦る。灰が降り積もるお陰で精密機器の調子が悪い


「こちらウォッチャー3、十時方向に人影」


《了解、監視せよ》


「兵長殿、二時方向に動きが」


「本当か?」


「わかりません、灰が舞ったので、誰かが物陰に隠れてるかと」


「くそったれ、ウォッチャー3よりDO(ドローンオペレーター)、監視ドローンの修理は終わったか??」


《くそったれな灰のおかげで不調だ、援護は不可能、ちくしょう》


「……埒があかん」

馮二等兵がゴーグルとバラクラバの位置を調整する。ゴーグルが曇りだし、狭まる視界になんだか勝手にイライラする


《ストーンより各ウォッチャーへ、各々が怪しいと思う所二箇所へ五発ずつ、弾丸を叩き込め》


「ウォッチャー3了解」

そういうとジェイス兵長はM249のグリップを握り、機関部を守るために被せていた布に頭を入れた


「ウォッチャー3撃つぞ」

ジェイス兵長は先程怪しかった箇所に単発で弾丸を撃ち込んだ。降り積もった灰が舞い上がり、煙幕のように広がった


その直後、降り積もった灰が一斉に立ち上がり、雄叫びと共にこちらへ駆け出した


「くそっ!ウォッチャー3より全隊へ!敵が潜んでやがった!20人程がこちらへ来てる!馮!クレイモアを!」


《こちらウォッチャー1、こちらは異常無し!》


《ウォッチャー2!敵が同じく20名ほど!来やがった!》


《ウォッチャー4も敵が来てる!くそっ!》

馮二等兵がクレイモア起爆のスイッチを押すと並べられたクレイモアが起爆し、撒き散らされたボールベアリングが灰色の灰の中に真っ赤な血肉を撒き散らさせた


「いまだ撃て撃て!」

降り積もる灰や廃墟に隠れて近寄ってきた敵に対し、散発的に銃撃を繰り出す


《ウォッチャー2、3、4へ増援を出せ!》


《こちらレスケだ!そちらへ二個小隊クラスの敵部隊が向かっている!注意されたし!》


「冗談だろ、くっそ」

馮二等兵が悪態を吐き、銃の機関部に灰が入らないように新しくマガジンを差し込む


《こちらレイニーテイカー、南西より魔獣の大部隊がそちらへ向かっている、それらを処理する、しばらく援護不可能だ!》


《わかった、各ウォッチャー!いいニュースだ!もうじきリトルバードの援護が来る!フレアで敵をしめせ!》


「よぉし!騎兵隊の参上だ!」

ジェイス兵長がM320グレネードランチャーを取り出し、敵の位置にフレアを撃ち込んだ


《こちらブルー2-1、フレアを確認、かますぞ》





















降り積もった灰を撒き散らしながらキーゼル中尉はリトルバードを全速力で飛ばしていた


「灰が舞い散って視界が悪いです!速度を落としてください!」


「ヘリパイロットがなに眠たいこと言ってんだ!」

キーゼル中尉が笑みを浮かべながら射撃トリガーを押し込んだ


リトルバードの両脇に吊るされたミニガンが掃射され、赤いフレアの周りに着弾する


「オラオラオラァ!」

撃ち込まれたフレアを中心に建物の残骸に蹲った敵にも容赦なくミニガンを斉射する


蜜を吸うハチドリのように小刻みに動きながらも的確な射撃を繰り出し、灰色の土煙の中に赤い血飛沫を生み出していく


《ブルー2-1、援護に感謝する!他も頼むぞ!》


「まったく楽しいお仕事だぜ!」


《こちらレッド4-3、目標αに到達、これより支援攻撃を開始する》

到達したブラックホークやリトルバードが司令部上空を飛び回り、ブラックホークから垂らされたロープをつたって増援の兵士が辺りに展開していく


「ここは大丈夫そうだな、次は行くぞ」


「ところで中尉、正面のガラスは灰で真っ黒なのになんで敵の位置がわかるんですか?」

ワイパーが動くより早く、窓ガラスに張り付く灰が多い、視界はほぼ無いに等しかった


「あ?勘だよ、勘。なんとなくわかるんだ」


「うそでしょ」


















二時間後……


「私が車両部隊を指揮するムハメド少佐です!」


「ストーン大尉です。お会いできて光栄ですよ!」


二人は迎賓館の前の馬車用ロータリーで握手していた


辺りの空にブラックホークやリトルバード、アパッチと言ったヘリが乱舞し、時折街の一角へ狙いを定めロケット弾やガトリングを放っている

重機関銃を搭載したハンヴィーやMRAPに守られるように幌のついたトラックが数珠つなぎのように一列に並び、目隠しと猿轡、後ろ手に縛られたクルジド兵が次々と載せられていく


「捕虜の積み込みに20分かかります!防衛体制は我々にお任せください!」


「なるべく急いでくれ!市街地は敵のアンブッシュだらけだ!来る時も散々マスケットで撃たれた!」


「部下に急ぐように伝えます!こんなくそったれな街、さっさと離脱しましょう!」


「賛成だ急いでくれ!」

低空飛行するブラックホークに負けないように大声をあげる二人、その二人の思いと反比例するように捕虜の足は遅い

目隠しされて後ろから小突かれているから当然と言えば当然である


《こちらブルーリーダー、地上部隊へ通達。リトルバード各機は燃料と弾薬を使い果たしたので、基地へ戻り補給したのち再出撃する》


「了解した、ブルーリーダー協力感謝する」


《お安い御用さ》


「レスケ中尉、そちら側は大丈夫か?」


《今は地上に降りて大勢が休んでる、補給も受けているからいつでも展開できるぞ》


「よし、では予定通りだ!捕虜の積み込みが終わり次第、我々も乗り込み、離脱する。急げ!後15分だぞ!」




















15分後……


捕虜輸送車列上空

ブラックホーク

レッド2-1


《こちらブラボーリーダー!捕虜を乗せた車列が出発した!上空から援護してくれ!》


《了解した、ヴィクトリカ大尉、バロン中尉!車列の障害となる敵への狙撃任務です!》


「了解した!」


「中尉、監視を頼む……」


「了解、ボス」

バロン中尉が隣で双眼鏡を覗き、ヴィクトリカ大尉は愛用の九九式歩兵銃を構えた


スコープはサーマルサイトに換装しており、ヘリのプロペラで巻き上げられた灰が吹き荒れる中でも的確に潜んだクルジド兵の体温を感知していた


「…………フッ!」

ヴィクトリカ大尉が細く息を吐き、引き金を引いた


発射された弾丸は灰に埋もれた瓦礫に伏せていた敵の脳天に命中した


「大尉、車列の真ん中の路地に一人!」


「了……」

素早くボルトを前後させ、路地で火薬袋を抱えているクルジド兵に狙いを定めた


弾丸が当たると同時に貫通した弾丸が火薬袋に直撃。結果爆発と共に血飛沫が舞った


《頼もしいぜ、まったく》


「流石ですね、大尉」


「…………」

しかしヴィクトリカ大尉は答えない。ブッシュハットの下に銀髪を押し込み、ローターの風圧で飛ばないように整えた


「車列前方の民家、屋上に三人、対岸の建物に二人いる」


「ミニガンで掃射する!90°右旋回!」

するとブラックホークのガンナーが安全装置を解除し、旋回と同時にミニガンが掃射された

反対の二人はヴィクトリカ大尉が狙撃し、目にも留まらぬ速さで九九式歩兵銃をコッキング、もう一人の脳天も撃ち抜いた


《脅威を排除、前進する》

車列の最後尾が移動するのを確認したブラックホークは前進を開始した


レスケ中尉が率いるリラビア軍の擲弾翼兵もブラックホークに追随するように飛んでゆく


「お嬢さん!さっきから見てるが、いい腕してんなぁ!俺はレスケ、リラビア軍中尉だ!よろしくお願いします!」

途中から相手が大尉だと気付いたレスケ中尉は慌てて空中で敬礼した


「…………よろしく」

他国の軍人であってもヴィクトリカ大尉は気にした風でもなく、スコープを覗き続ける


「つれないねぇ、いい女なのに」

そう呟きながらレスケ中尉は部隊の元へ戻っていった


「大尉、知り合いですか?」


「…………さぁ?」

ヴィクトリカ大尉はレスケ中尉の事を気にもせず、発見した敵兵に弾丸を撃ち込む


制空権を奪われたクルジド兵達の動向は上空から丸見えだった。動くたびに灰が舞い上がり、狼煙のようにそこで煙が発生するのだ。それがなくて動いていても雪原の足跡が目立つように痕跡は残るのだ


ヴィクトリカ大尉はその痕跡を目ざとく見つけると弾丸を撃つ、何度も何度もそれを繰り返す


コンボイの上空には常に四機編隊のブラックホークが張り付き、それに乗り込んだ狙撃兵やミニガンが散発的に射撃を繰り返し敵の伏兵を撃ち倒していく


作戦は順調、フェルーデン市街地脱出まで後2kmだった






















「シヴィル殿!もう辞めましょう!それ以上はお身体に触ります!」


「うるさい黙れ!」

もうじき車列が通る通りにあるクルジド軍の宿営場、その屋上に一人の少女が手を貸した兵士に怒鳴りながらよじ登っていた


彼女はシヴィル、上級魔法士という大佐クラスの階級を持つ少女で、クルジド軍でも右に出るものがいないと言われた最強の風魔法の使い手である


以前、女王の街道で狙撃され、右足を喪失し、撃たれた弾丸がまだ体内に残っている彼女あれ以来復讐に燃え、今の今まで力を温存してきたのだ


「敵の距離は!?」

松葉杖につかまりながらシヴィルは愛用の杖を取り出す

対して半ば無理やり巻き込まれた通りすがりの兵士は片眼鏡を覗き込む


「えぇっと……建物四つ分ぐらいです」


「上出来だ!後はいい、どこにでもうせろッ!」


「言われなくても!」

そう言った兵士はすぐさま立ち上がり、登ってきた場所へ走り出した

その直後、その兵士は後頭部から血を流し、そのまま頭から落下していった


「おのれ!また悪魔か!」

シヴィルは身体を覆うように布を被り、杖を空へ向けた

狙うのは空を飛ぶ敵の飛行物体と翼人兵、今のシヴィルには地上の車列ごと殲滅する魔法は撃てない


先頭を飛んでいる飛行物体が頭を横に向けた。ポッカリと四角く空いたスペースに二人の人が腰掛けてこちらに銃を向けていた


シヴィルは見た。足を失ったあの日、痛みを堪えながら前を見た時、草むらに光る金色の光

暗闇から獲物を狙う、山猫のような眼だ


その眼と同じ光りがシヴィルをスコープ越しから見ていた


「悪魔めぇええええええええ!!!!!!!」

力の限りを振り絞り、シヴィルは暴風を放った


それと同時にシヴィルは眉間を正確に撃ち抜かれた


そしてシヴィルは確信した。この弾丸は奴だ。私の脚を奪った憎き悪魔の弾丸だ、と






















《メーデー!メーデー!こちらレッド2-1、墜落する!墜落する!座標はッ!》


痛む頭を抑え、ヴィクトリカ大尉は目を覚ました


転落防止のハーネスを外し、這いずるように外へ出る


「大尉、無事ですか?」

外にはパイロット二人を引き摺り出したバロン中尉がいた


「中尉、頭……血が」


「えぇ、大尉も出てきてくださったので、ようやく包帯が巻けます」

そういうとバロン中尉はヴィクトリカ大尉の隣に腰掛け止血帯を取り出した


「……貸して」

ヴィクトリカ大尉はバロン中尉から止血帯を取り上げると代わりに巻き始めた


「ありがとうございます、大尉って結構器用ですね」


「別に……普通」


「細かい作業とか好きそうな印象があるんですけど、好きですか?」


「特別、好きではない……」


「そうなんですね、俺も苦手なんですよ」

止血帯を巻き終わり、ヴィクトリカ大尉はパイロットの方へ向かう


「二人ともかろうじで生きています、ドアガンナーの奴はヘリの下敷きになってますが」


「……そう」


「さっき無線で救助の部隊が向かっていると報告がありました、無事にたどり着いてくれるといいですけど」

ヘリのパイロットが持っていたMP5と自分のM4カービンに異常が無いか確認しヴィクトリカ大尉に水筒を渡した


「……ありがとう」

水筒を口につけ、自分の九九式歩兵銃を手繰り寄せる


「大尉、銃は?」


「……スコープが割れたけど、他は、問題なし」

破損したスコープを外し、ヴィクトリカ大尉はライフルに新しく弾を装填する


「十五発……あと拳銃」

ヴィクトリカ大尉がガバメントを引き抜き、初弾が入ってるのを確認した


「こっちはM4弾倉が四本とMP5は二本だけか、ミニガンが使えたらな」

バロン中尉の視線の先では青白い火花をあげているブラックホークがあった。電気系統は全滅している


「おぉーい!墜落したヘリの乗員さんよぉ!」

そこへ現れたのはレスケ中尉と数人の部下達だった


「レスケ中尉!無事だったか!」


「いやぁ、なんとか無事でしたよ、ヴィクトリカ大尉もお変わりないようで。さっそく脱出しましょう!つかまってください!」

リラビアの擲弾翼兵の強みは場所を選ばない展開力にある

ヘリのようにある程度の広い場所も必要ない航空戦力、要人や取り残された人々を助けるのに非常に役に立つ存在である


「待ってくれ、俺はいい、あっちのパイロットを頼む」


「バロン中尉、正気かよ、敵が大勢迫って来てるんだ。そういうのは映画の中だけにしてくれ」


「いいんだ、そのパイロットの二人はまだ生きてる、それに本土で結婚してるんだ。彼らを先に返してやってくれ」


「あっ、えっ……だ、だかなぁ……」

レスケ中尉が振り向いた先には二人の部下しかいない。原則翼兵が持てるのは人一人まで

つまりレスケ中尉がヴィクトリカ大尉を、残る二人の翼兵がパイロット持てばバロン中尉はここに置き去りということになるのだ


「参ったなぁ、増援を要請しろ」


「レスケ中尉!敵です!」

その叫びと共にレスケ中尉の部下が手にしたStg44を撃った。物陰に隠れて機会を窺っていたクルジド兵が一斉に頭を下げた


「レスケ中尉!大尉と二人を頼みます!」


「……レスケ中尉」


「な、なんですか!?」


「命令です、パイロット二名を収容してください、二人を安全圏に連れていったのち、戻ってきて我々を救助してください」


「そんな!ですが!」


「命令です」

その直後、ヴィクトリカ大尉の九九式歩兵銃が火を吹き、屋根から忍び寄っていたクルジド兵が眉間を撃たれて崩れ落ちた


「我々はそれまでここで持ち堪えます、なるべく早く」

それだけ伝えるとヴィクトリカ大尉は遮蔽物に飛び込んだ


「頼みましたよ、レスケ中尉!」


「はっ!いや、ちょ!勝手に話を決めるな!」

これ幸いにとバロン中尉もM4カービン片手に前線に戻った。集結したクルジド兵の数は多く、矢やマスケット銃の弾丸があちこちに飛んできていた


「中尉!どうしますか!」


「…………くっそぉ!お前ら二人はパイロットをかつげ!責任俺が持つ!武器は置いてけ!」


「はい!」

そういうと二人の翼兵は手にしたライフルや手榴弾をレスケ中尉に渡す


「バロン中尉!」


「なんだ!?」


「我々が前線基地から戻るまで往復で一時間!それまで持ち堪えろ!」

預かった武装を全て渡し、レスケ中尉はバロン中尉の胸ぐらを掴んだ


「おい、あのヴィクトリカ大尉に何かあったらただじゃおかねぇぞ」


「へへっ恐ろしいねぇ、任せとけ」

身軽になったレスケ中尉と部下はすぐさま飛び立った


「大尉、やってやりましょう。いつも通り、二人だけです」


「……了解」





















三十分後……


日リ連合軍前線橋頭堡


ルドグシャ王国の王都フェルーデンを守るために作られた要塞群のうちの一つを連合軍は接収し、橋頭堡として活用していた


要塞手前は切り開かれ、練兵場として使われてきたが、今では皇国軍のヘリの離着陸場として使われていた

そんなヘリポートの脇、パイロットの打ち合わせや作戦会議に使われるプレハブ小屋で大勢のヘリパイロット達が集まっていた


「戦地に取り残されたヘリからの狙撃要員二名が現在、押し寄せるクルジド兵の大群を前に苦戦中だ、直ちに火力支援を投入し、救助に当たる。以上だ」

救出部隊の隊長であるゲルガルド少佐はそれだけいうと部屋をさっさと出て行った


「相変わらずうちの空軍にはボディとツラは百点満点だけど愛想のない女が多いなぁ」

キーゼル中尉がゲルガルド少佐の後ろ姿を眺めながら呟いた


「キーゼル中尉、自殺が趣味なんですか?」

コルト軍曹は錠剤ではなく液体タイプの胃薬を飲みながら呟いた

ゲルガルド少佐に欲情し口説こうとした兵士の末路は口に出すのも憚られるような無残な姿になって発見されている、具体的にいうならばゲルガルド少佐の忠実な下僕に調教され、公衆の面前で椅子になったり馬になったりして幸せそうな顔をするのである。コルト軍曹はそれを言ったのだ


「ばっかオメー、ゲルガルド少佐の尻と胸を見てそう考えない奴はゲイかEDって相場が決まってんだよ、さてはオメー、ホモか?」


「鬱になりそうだ……」

ストレスで減衰した性欲の行方はひとまず置いといてコルト軍曹は渋々ヘルメットを被った


キーゼル中尉お得意の目の前が土煙で見えなくても勘で道がわかるという特技のおかげでどうにか生きて帰れたが、神はどうやら俺をストレスで殺したいらしい


登場するリトルバードの前に来たコルト軍曹、メインローターのブレードが新しくなっていた


「おいキーゼルてめぇ!またブレードをぶつけやがったな!これで何枚めだ!」

そこへ殴りかかったのはキーゼル中尉の搭乗機をメンテする整備兵である


「いやいやぶつけてないよう、劣化だよ劣化」


「ローターのあちこちに血飛沫がついてたぞ!さてはてめぇ、またローターブレードで敵を切り裂きやがったな!何度言ったらわかるんだ!肉片がプロペラに絡めばヘリは墜落するんだぞ!」


「あの時は弾が無くてよぉ、仕方なくだって」


「もう勘弁ならん!今度やってみろ、ローターブレードをてめぇのケツに突っ込んでやる!」

そういうと整備兵は怒りながら去っていった


「やれやれ、やっぱり機銃弾二千発じゃ足りないよな、ローターで敵を切り裂くのもやっぱり危ないし増設するか……」


「仕事辞めたい……」

フラッシュバックしてきた凄惨な光景と衝撃からコルト軍曹は先ほど飲んだ液体タイプの胃薬が喉を駆け上がってくる感触を感じ、かろうじで飲み込んだ


口の中は胃薬の甘い味と苦い胃液、そして若干の血の味がした


《フェルーデンコントロールよりブルー中隊、動作をチェックせよ》

士気高揚の為に流れるパンクロックの曲に合わせてキーゼル中尉がハンドルを指で叩く。八機のリトルバードが一瞬浮き上がると方向を転換する


「火器管制システム、オールグリーン、油圧、ローター、動作系、全て問題なし、仕事を完璧にこなしてくれる整備班流石だぜ」


《ブルー中隊へ通達、離陸を許可する》


《ブルーリーダーより各機へ、我に続け》

ゲルガルド少佐の無線と共に雪の結晶が描かれたリトルバードが飛び立った


「了解、続きます」

リトルバード全機が飛び立つと同時に擲弾翼兵が乗り込んだブラックホークも後に続くように飛び立った


《仲間を救ってくれた恩人達だ、必ず助け出すぞ!》






















「装填ッ!」

バロン中尉がそう怒鳴るとヴィクトリカ大尉がStg44を単発で撃ち、近寄るクルジド兵を牽制する


クルジド兵の数はさらに増え、飛んでくる矢や弾丸の数も徐々に増え始めていた

ヴィクトリカ大尉とバロン中尉も後退を余儀なくされており、墜落したヘリの残骸に篭っていた


「弾切れッ!」

ヴィクトリカ大尉がStg44を脇へ投げ、脇に吊るしたMP5を取り出した


「こいつで看板だ!」

バロン中尉がM4に弾倉を差し込み、再び撃ち始めた


先ほどから弓矢やマスケット銃だけで無く、時折魔法が着弾するようになり始めた


「くそったれぇ!」

バロン中尉は諦めずとにかく撃つ。自信を奮い立たせる為に叫び、ACOGサイトに映った敵にとにかく弾を叩き込んだ


「くらえっ!」

ヴィクトリカ大尉もレスケ中尉が置いていった柄つき手榴弾を投げる。纏めて複数人が吹き飛ぶが、それでも敵は引かない、それ以上の数が現れる

弾が無くなったMP5を放り、ガバメントを引き抜いた


「大尉!クソッ!今までありがとうございました!」


「……フッ縁起でもない」

ヴィクトリカ大尉は小さく微笑んだ


「大尉、実は自分。大尉の事、好きでした!生きて帰れたらプロポーズしていいですか!?」

バロン中尉も弾が無くなったM4を放り投げ、ヴィクトリカ大尉の隣に腰掛けてそう言った。破れかぶれである


「……今言うのは、良くない」

いつもと変わらぬ無表情に僅かに照れの朱を入れながらヴィクトリカ大尉はどこか遠くを見ていた


「大尉!お願いします!万に一つ、生きて帰れたら!検討してください!」

そういうとバロン中尉は手榴弾を手に機外へ出ようとした

だがヴィクトリカ大尉がそれを止めた


「待って……」


「止めないでください、大尉!今俺何言ったんだ、うわもうやだ死にたい死なせて恥ずかしい忘れて、今なら死ねる、死なせてぇ……」


「……救援」


「…………………………えっ?」

その直後、リトルバードの猛烈な機銃掃射とハイドラロケットポッドの斉射がクルジド兵の頭上に降り注ぎ、無数のクルジド兵が吹き飛んだ


《友軍はヘリの残骸の中だ!それ以外は吹き飛ばせ!》

そんな命令が無線から響くと同時に無数のリトルバードがクルジド兵の軍勢に襲い掛かり、あっという間に爆発の海に沈めてしまった


逃げ惑うクルジド兵達を執拗に追い立て、辺りは瞬く間にクルジド兵の死体で埋まってしまった


「……助かった」


「うわやべぇ……」

勢いで告白してしまったバロン中尉、ひたすらに深呼吸を繰り返して冷静さを取り戻そうとしていた


「ヴィクトリカ大尉!おまたせしました!レスケ中尉、約束通り戻ってまいりました!」


「ん……ご苦労」

いつも通りの眠たげな無表情のヴィクトリカ大尉はヘリの残骸から這い出るとレスケ中尉の元へ歩いていった


「バロン中尉」


「は、はい!」


「…………返事は、帰ってからで」


「はい、えっ?」





















ルドグシャ方面のクルジド軍はこの日を境に大きく変わった


細々と来ていた後方補給は空挺部隊が完全にシャットアウトし、後方退路を切り開こうにもそのような戦力も無く、オマケに司令部要員も設備ごと全滅したのである


後は日リ連合軍の思惑通り敵はジワジワと飢餓状態に陥り、やがて降伏した


ルドグシャ方面を完全に取り返し、南方戦線は終結した


クルジド軍は南方方面の全軍を喪失する結果となった

すっげぇ長くなりましたけどご意見ご感想お待ちしてます

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