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Go ahead!!

《オーロラリーダーよりゲームマスターへ、敵陣地への爆撃を完了。効果は大、敵は混乱してると思われる》


《砲撃第一波、撃ち終わり、第二中隊、撃ち方始めッ!》


《こちらアークロイヤル3、敵陣地に多数の熱源を確認、広域地図にマッピングした》


《砲撃第四波、撃ち終わり、続けて第七中隊が撃ち始める》


《ドンフェン3-1よりゲームマスター、爆撃効果大とみとむ》


《こちらインディゴ2-1、敵の突撃を視認、攻撃する》


《こちらファイヤーアロー、目標を確認、攻撃する!》


《砲撃十五波、撃ち終わり》


《了解した、ゲームマスターより全地上部隊へ通達。攻勢の時だ、一気に決めるぞ》






















「ゲームマスター!こちらスペード2-4!中央陣地の敵防衛線に到達!魔法による抵抗が激しい!」

ミゼット中尉が無線機に向かって怒鳴り、すぐ目の前の土嚢に着弾した火の玉の爆発に首を竦めた


《こちらゲームマスター、航空支援到着まで後三十分だ、それまで持ちこたえてくれ》


「くそったれ!この位置を死守だ!押し返せ!」


「一斉射撃!」

サウザー曹長の号令と共に部隊全員が銃を発砲。三列横隊で交互にマスケット銃を連発していたクルジド兵の隊列が一気に倒された


「あんだけ爆撃されたのに、どこから湧いてきやがるんだ!くっそぉ!」


「中尉!ドローンオペレーターより報告!敵が槍を構えてる、突撃してきますよ!」


「くそっ!10m後退する!合図したら、手榴弾を投げて全員走れッ!」

そういうとミゼット中尉はサウザー曹長に手榴弾を投げ渡し、自分も手榴弾を取り出す


「投げろぉ!」

一斉に宙をまう複数の手榴弾。剣や槍を構えて突撃してくるクルジド兵の目の前で炸裂し、突撃の勢いを止めた


その先にミゼット達は今まで伏せていた砲撃穴から這い出て、もう一つ後ろの砲撃穴に滑り込んだ


「敵が見えたら胸に二発、頭に一発、ぶち込め!後退の合図を聞き漏らすなよ!」

ミゼット中尉はそう言いながらHK417に新しい弾倉を差し込み、サイトを覗き込んだ。敵は直ぐに態勢を立て直し、ゆっくりとまた突撃を始めようとしていた


その直後、プロペラが空気を切り裂く音と共にクルジド兵達が弾け飛んだ


「増援だ!味方の零戦だ!」


「やったぜ!これでいくらでも戦える!」

四機編成で飛び去る零戦、排出された空薬莢が降り注ぐが、魔法使いが発射する火の玉が降り注ぐよりはるかにマシだった


「勢いが弱まった!前へ!」





















度重なる空爆と砲撃によりもはや将校用のテントも張ることすら出来ず、塹壕の一角にひっそりと偽造する形でクルジド軍は司令所を設営していた

辺りの地面はひとしきり砲撃と爆撃で掘り返され、もはや原型を留めていないほどだった


「へい大将!これ以上は厳しいですよ!」

伝令兵として駆け込んできたクルジド兵を見て、ディンギィルはパイプをいつものようにくわえた


「どこまで来られてる?」


「一の壕は取られちまった!二の壕はエンディルの旦那が抑えてるけど、敵の竜の攻撃でだいぶやられてる!」


「督戦隊の被害はどうか?」


「けっこうやられてるみたいッス、エンディルの旦那もだいぶやってるみたいっスよ」


「では順調ということだな、エンディルにこれを渡せ」


「了解ッス!」

指揮所から出て行った伝令兵の背中を見て、ディンギィルはため息をついた


「後は例の援軍が到着するのを待つのみ、か……返事は来たから、後は転移魔法がうまく作動すれば……」

近くの爆発で指揮所が揺れた。天井から砂埃がパラパラと落ちてくる


「ちくしょう、あのテント暮らしが懐かしく思えるとはな……」





















「計画通りだ!二の壕を破棄!下がれぇ!」

エンディルが大声で指示を出し、手にした大筒を牽制に放ち、真っ先に後ろの壕へと逃げ出した


第44軍の撤退速度は異常な程速い。元々アウトローの集まりなので思い切りの良さと逃げ足だけは別次元なのかもしれない


「牽制射撃!撃ちまくれ!」

ミゼット中尉が加えて号令を出す。他の小隊は立ち上がり、追撃に転じた


「中尉、やけにすんなり引きましたね」


「あぁ、何かおかしい、勘だがな」

ミゼット中尉は壕から顔だけだし、撤退する敵の後ろ姿を眺めた


「我々を誘い込んで何が得するんだ……」

ミゼットは戦闘中にも関わらず、側の敵の死体を眺めた。クロスボウを持ったクルジド兵、矢は完全に撃ち尽くしていた

戦車が塹壕を乗り越え、同軸機銃を撃ちながら前進していく


「……うーん?」


「中尉、そろそろいかないと」

ミゼット中尉はそのクルジド兵の死体の後ろに隠れていた紐を摘む


「サウザー曹長、これなんだと思う?」


「えっ?紐?」


「ただの紐を後生大事に持ってる兵士なんていないよな……」

ミゼット中尉が紐の行き先を目で追う。クルジドの言葉で火薬庫と書かれた横穴に入って言ってた


「……総員退避!塹壕からでろ!地雷だ!」




















坑道戦術、というものがある


簡単に言うのであれば敵陣の下にトンネルを掘り、爆薬を仕掛けて足元から纏めて吹き飛ばしたり、陣地の自重で足元から崩壊させるという戦法である


クルジド軍は今回これをやったのだ。元々爆心地でなにより発掘作業のための横穴はいくらでもあった。ディンギィルはそこに目をつけ、掘り出した不発弾や火薬を点火させたのだ


その結果はというと攻勢に出ていた皇国軍の先遣三個大隊が全滅、吹き上げられた爆煙で航空支援も不可能となったのだ


「今だ、野郎ども、突っ込めぇ!」

エンディルが号令を出すとクルジド軍が一斉に動き出した


爆発のショックで前後不覚の皇国兵をたやすく刈り取り、後ろに下がって難を逃れたミゼット達に襲いかかった


「こちらスペード2-4指揮官!敵の坑道戦術で先遣隊は全滅!座標M5-8-1に大至急火力支援を要請する!なんでもいいからやってくれ!」


「全周防御!円陣をくめぇ!」

サウザー曹長の号令で生き残った皇国軍兵士が爆撃穴に集まり、互いの背中を守るように布陣した


《敵味方の距離が近すぎる、砲撃支援は不可能だ!》


「構わん、私たちごと撃て!」


《正気か!?死ぬぞ!》


「お前らの砲撃が私たちに当たるはずないし、当たっても恨まねぇよ、早くやれ!これ以上は持たないぞ!」

怒涛の勢いで突撃してくるクルジド兵達、激流に取り残された立木の如く、今にも押しつぶされそうな圧迫感だった


《了解だ、これより当該地区へ砲撃を行う、神の御加護を!》


「縁起でもねぇや!砲撃が来るぞぉ!」

サウザー曹長が怒鳴り、集結した皇国兵が地面にめりこみそうな勢いで伏せる


ミゼット中尉は手首のスナップで弾き飛ばすように空のマガジンを吹き飛ばし、新しくマガジンを装填する

剣を振りかざしながら突っ込んでくるクルジド兵に次々と弾丸を撃ち込み、装填不良で撃てなくなったライフルは脇に放り、拳銃を引き抜き、続けて撃った


地面を爆破した事により、敵の進軍は困難を極めた。故に勢いは弱いが正確な航空支援や砲撃支援が受けられなくなってしまった


それでも頼んだ以上砲弾は降ってくる。間伸びた風切り音と共に砲弾が着弾した


着弾範囲はミゼットから3mも離れない箇所だった。おおよその砲撃位置は向こうも分かっているが、当たってるかどうかわからない不安と砲の摩耗、そして神様の気まぐれでこちらに着弾してもおかしくない距離だ


「ちくしょう!」

クルジド兵の我武者羅な突撃も敵味方問わない砲撃により犠牲が増えるばかりだった


《ミゼット中尉、こちらゲームマスターだ。後方より増援の戦車二個中隊が接近中だ》


「助かるゲームマスター!全員後退だ!味方戦車の位置まで下がれぇ!」






















上空


「くそったれ!なんにも見えん!」

リットリオ少尉が悪態をつき、キャノピーを殴った


《アヴェンジャー隊、空中管制機より報告。敵のドラゴンライダーが南西より接近》


「数は!?」


《二十騎程、既にスカイフォックス隊とレッドアイ隊が交戦中、合流してくれ》


「了解、アヴェンジャー隊続け」


《コピー》


《コピーッ!》


《了解!やってやるぜ!》

出力を上げ、南西へ急行。現場に近づくにつれ、パイロット同士の入り乱れた無線がノイズのように入ってきた


《くそっ!敵も編隊を組んでる!ケツにつかれた!》


《レッドアイ3上だ!》


《トカゲ如きが!やるじゃねぇか、うぉっ!?》


《スカイフォックス4、弾切れ(アモロウ)!燃料もあまりない!》

坑道爆破で巻き上げられた煙に隠れ、低空で接近したらしいドラゴンライダー達は上空警戒に徹していた戦闘機達に襲い掛かっていた。流れは完全に向こうに握られていた


零戦の上下を反転させ、天地がひっくり返った状況の中、リットリオ少尉は見た


「あの旗ぁ!」

剣と盾を携えたドラゴン。因縁の旗だ


「アヴェンジャー隊、突っ込めぇ!」


《少尉!?》

エル軍曹の静止も意味をなさず、リットリオは旗を掲げたドラゴンへ一直線に降下していった
























転移魔法を使い、再び戦場へと戻ってきたクルジド軍第一軍団、竜騎兵大隊

前回の戦いで敵の竜(複葉機)を撃墜した功績で下級一等士まで昇格したヴィルヘルムは再び懐かしの戦場に戻ってきたのだ

坑道爆破の爆煙に紛れ、敵の地上戦力を壊滅させ、敵の進軍を止める。ヴィルヘルムに与えられた任務はそれだった、が


「全然前と違うぞ!」

敵が乗る竜の形が違うのだ。前は木と布で出来た貧弱そうな竜だったのに、今はどうだ、全身金属で出来た一本の翼、個体差はあるが強力な銃撃と速度、何より動きの良さが前回とは段違いだ


「ッ!!?」

ヴィルヘルムは反射的に相棒の竜のラーキンの手綱を引いた


その直後、眼前を無数の光条が掠めていった。敵の竜が放つ銃撃だ


「ハァ!」

ラーキンをすぐに左へターンさせ、空を眺めると真っ直ぐこちらへ突っ込んでくる敵の竜


「うぉおおお!」

ヴィルヘルムは杖を振りかざし、ファイヤーボールの魔法を牽制で放つ、が奴は身軽に身体を捻り、攻撃をかわした


(こいつら、俺たちの動きをッ!)

竜騎兵の攻撃は竜自体が放つブレスと乗り手の魔法のみだ。戦闘機のように前にしか攻撃出来ないというわけではない

速度や持久力に劣る分、生き物にしか出来ない急制動や前後左右に放てる攻撃により優位を保っていたのだが、それらの種が明かされてしまうと一気に竜騎兵側が不利になった


「負けてられるかッ!」

竜の負担を減らすために竜の背中に積んだ野営道具を捨てる、もちろん敵がそれにぶつかる事はなく、かわしてきた


《少尉!落ち着いてください!》


「うるさい!」

相方のエル軍曹からの無線を無視し、リットリオはヴィルヘルムがまたがる竜の後ろを追い掛ける

速度は零戦の方が圧倒的に上だが、やはり急制動や後方への攻撃能力は竜が一枚上手だ。乗り手のヴィルヘルムも熟練の竜騎兵であり、愛竜のラーキンとの阿吽の呼吸もあいまり、必中距離まで詰められずにいた


「ラーキン、いくぞぉ!」

すると相棒は任せろと言わんばかりに唸り声を上げ、翼をコンパクトに折り畳み、急降下し始めた


「逃すかぁ!」

リットリオも続くように急降下。急なGの変動で頭が冷え切り、腹の中が煮え繰り返るような感触をうけた


若干霞む視界の中、HMDの照準装置を降下する竜の中心に合わせる


「死、ねぇ!」


「おらよぉ!」

リットリオとヴィルヘルムが動いたのは同時だった


リットリオは必殺の機銃掃射を、ヴィルヘルムはマスケット銃の火薬を振り撒いた

機銃の発泡炎か、それとも戦場に舞い散る火の粉か、それとも神の悪戯か、とにかく何かに引火した火薬は爆発。舞い上がった塵や砂埃に連鎖的に引火し、擬似的な粉塵爆発を引き起こした


黒く濁った戦場に一機と一匹が落ちていった




















数時間後


その日の戦闘は終結した。結果はクルジド軍の粘り勝ちで、日リ連合軍は僅か数百メートルの前進のみの結果に終わった


原因としては度重なる砲爆撃による地面の緩み、坑道戦術により中央部隊の大幅な損失、同時に攻勢を開始した両翼の部隊も敵の強固な護りと火竜により擲弾翼兵が大打撃を受け、制空権の喪失という事態に陥り、同じような結果に終わった


そんな最中、ミゼット中尉は部下数名を連れて戦場を這いずっていた


「ちくしょうが、人使いの荒い上層部だぜ……」


「ぼやくな、神奈月、戦いだけが兵士の仕事じゃない。負傷兵の救助も我々の仕事だ」

暗視ゴーグルによる緑の視界の中、ミゼット中尉は辺りの倒木や爆撃で捲れ上がり、丘のようになった地面の合間を縫うように歩いていた


「この辺りか、墜落した零戦は?」


「神奈月、ドローン」


「お待ち下さい、よっと」

神奈月上等兵が左腕に嵌めた端末を操作すると背中に背負ったバックパックの側面が外れ落ち、四枚羽のドローンが飛び立った


「周辺警戒、どうだ?」


「……零戦を確認。機体は燃えていません。コックピットに熱源確認、生きてます」


「よしいくぞ、全周警戒」

再び立ち上がり、物陰から警戒しながらゆっくりと墜落した零戦に近づく


「おい、リットリオ少尉」

声をかけながら脈を測る。微かだが動きがある


「ハブロック、頼む」


「了解」

衛生兵のハブロック伍長がリットリオに近寄り、拘束具を取り外していく


「しかしドラゴンが零戦を落とすとはねぇ」


「動きが速ければ強いって事じゃないのさ、うかうかしてると足元掬われるぞ」


「そうだな、中尉?」

神奈月上等兵はある一点をジッと眺めるミゼット中尉を不思議に思い、声を掛けた

ミゼットが眺めていたのは戦場に残る一本の木だ、葉は戦火で燃え落ち、幹は炭化しており、太い枝が数本残るだけのそこらによくある木だ

しかしミゼットが目を奪われたのはその木に引っ掛かった布である。剣と盾を持ったドラゴンの旗である


「……ほぉ」

ミゼット中尉はおもむろにG36cのチャージングハンドルを引き、初弾を装填した


「中尉?」


「神奈月上等兵、ドローンを上げろ。他に熱源はあるか?」


「はぁ、ここから西に100m程に大きな熱源があります、たぶん墜落したドラゴンかと」


「よし、神奈月、フレア。二人こい。残りはこのパイロットを陣地へ連れ帰れ」


「中尉、まさかドラゴンハントですか?」


「そうだ。奴は殺さねばならないのだ、武器をチェックしろ」


「敵も探しに来るかもしれません!危険です!」


「黙れ、行くぞ」

神奈月上等兵の懇願も意に介さず、ミゼット中尉は駆け出した


「嘘だろ、くっそ!ROEが息してねぇぞ!」


「仕方ないさ、行くぞ」

フレア上等兵と神奈月上等兵の二人が装備を持ち、駆け出したミゼットの後を追いかけた

皆様もどうかお身体にお気をつけて下さい

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