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トンネルラット作戦

言葉にならなかった


この一言はあまりにも無責任なのではと感じたからだ


兵士たちに塹壕に留まり戦うように決断を下したのは自分だし、砲兵にガスマスクの着用を徹底させなかったのも自分のミスだ


その判断ミスで、彼らを死なせてしまったのだ。それを「死地に送り出してしまった」では、俺を信じて踏みとどまった彼らが報われないのではないか


だがここで「彼らの死を無駄にはしない」みたいなカッコいい事を言えるほど威厳も自信も無いのだ

元は一般人。突然の今の状況についていけていないのも事実であり、大器は正直なところ、すぐに全てを投げ出して逃げたかった。なんなら拳銃を今すぐ作り出して頭撃ち抜けば楽になれるのでは、とも考えた

でも、自分の為に命を賭してくれた兵士達に顔向けできない


つまるところ、大器はくそまじめであり、自分で気づかないうちに指揮官としての自覚が無意識に芽生えつつあるのだ


「……ミリア少佐」


「……なんでしょう?」


「一つ、確認したいことがある……」


「はい。私にわかることなら」


「……例えばだ。俺のポイントがゼロになり、君たちに弾薬や装備の補給が出来なくなったとしたら、君は私をどうする?それでも俺を総統と呼んでくれるかな?」


「……それは」

ミリア少佐は俯いた。答えを濁すかのように


大器の最大の不安はここだった。部下が最後までついてきてくれるか。それに尽きた

大器は配下のNPCが敵を倒す事よってポイントを稼ぎ、そうして武器弾薬を補給出来るのだ

つまり、部下が大器に愛想を尽かしたら最後、大器一人でこの先を切り抜けなければならないのだ


「……総統閣下、言いたいことはそれだけですか?」

顔を上げたミリア少佐が真剣な眼差しで大器を見ながらそう言った


「……あぁ」

どんな答えが返ってきても大器は受けいれるつもりだった。正直この重責から一刻も早く楽になりたい気持ちでいっぱいだった


だが、大器の望みは叶わなかった


「……………なぁーんだ。そんなことかぁ」

ミリア少佐は安堵したような顔になり、安心したようなため息をついた


「は?」


「私はてっきり、総統閣下を殴った事を責められるのかとヒヤヒヤでしたのに!総統閣下を見捨てるなんてそんな滅相も無い!私達は最後の審判の日まで、総統閣下におともいたしますよ!」

ミリア少佐の安心しきった顔を見て大器はあっけにとられた


「先程は乙女の沽券にかかわる事態とはいえ、大変な失礼を致しました!謝罪も遅れてしまい、申し訳ございませんでした!今後は誠心誠意、閣下に尽くし、胸を差し出す所存にあります!」


「い、いや。俺も悪かったから……あと胸はもういいから」


「そんな閣下!もっともんでくださってもいいんですよ!?」


「揉まねーわ!俺をどんな人間だと思ってんだ!?」


「ですが、興味……ございませんか?」

また軽く傷ついたような、瞳を潤ませながら上目遣いで大器を見上げるミリア少佐

あざとい格好ながらも蠱惑的ですらあるかわいさに大器は


「無いといえば……なくは無いと言えば嘘にならんでも……」

女性経験の無さを露呈するリアクションしか出来なかった


しどろもどろな反応をしている大器の肩に手を置き、ミリア少佐は大器の目を覗き込んだ


「であれば閣下、どうぞご命令ください」

ミリア少佐の目はいつになく真剣で、自信に満ちていた


「閣下が一言、ご命令くだされば我々は身命を賭して命令に従事し、勝利をもぎ取ってご覧に入れましょう」

ミリア少佐の目は輝いていた

自信にあふれていた。彼女の言うことは事実だ。大器の命令一つで、ミリアだけじゃ無い。全ての兵士は忠実に確実に作戦を遂行してみせる。ミリア少佐の瞳はそう訴えたいた


大器は指揮所を見渡した。状況把握の為に無線機に取り付いていた技術兵、砲撃支援を伝達に来た伝令兵、指揮所の両脇に立つ警備兵、全員がこちらを見ていた

なにかを待ちわびているような、何かを期待する目でだ


「……………………お前ら」

大器はあっけにとられた。こんな明らかに素人な自分に命を預けるとこの人達は言ってるのだ、死ぬのかもしれないのに


「閣下、閣下はご存知ないのかも知れませんが、我々はあなたが最後まで戦いを投げ出さない人だと知っています。損害を最低限に抑えようと常に努力しておられるのも知っています、仮にここで命を落とそうとも、そのような閣下の志の礎になれたと言うのであれば、我々はこれ以上の幸せはありません」

ミリア少佐は大真面目だった。ミリア少佐だけじゃない、他の兵士も全員が冗談で言ってるのではなく本気でそう思ってるのを伝えていた


「……わかった、お前らの命、預かるぞ!作戦開始だ!工兵隊に作戦を通達!必ず作戦を成功させろ!誰一人置き去りにするな!」


「「「「了解ッ!」」」」
















ハートスリー塹壕線から20m後方

ハートエイト塹壕


戦闘の喧噪に包まれる基地、スペードシックス塹壕と同じように第一線を突破されたこの塹壕線は現在絶望的な戦略差を前に果敢にも反撃していた


「あの化け物を寄せ付けるな!弾幕を張れ!」

士官が声を張り上げ兵士たちが果敢にライフルで弾幕を張る


しかし押し寄せる軍勢の先頭を行く巨人、額に生えた角や時折あげる咆哮や鋭い犬歯から察するにオーガやオークのような存在と仮定すべきか。そういった連中が重装鎧を纏い、ライフル弾を弾きながらこちらに肉薄してくるのだ


「対戦車手榴弾、投げろ!」


「はい!投げます!」

士官の指示の元、いくつもの手榴弾が束ねられ、破壊力が増した対戦車手榴弾が投げられた

対戦車手榴弾がオーガの足元で爆発し、鎧を纏ったオーガの脚を吹き飛ばした


「ようやく一体……このままでは……」


「隊長!戦車です!味方の戦車が来ました!」


「ようやくか!」












ハートエイト塹壕線から50m後方

A7V重戦車隊 一号車 ハンター1

ハンケイル少尉


「榴弾装填!急げ!」


「榴弾装填完了!」


「連中のど真ん中にぶち込むんだ!テェッ!」

ハンケイル少尉の号令の元、A7Vの主砲が火を噴き、発射された榴弾が味方塹壕を蹂躙するオーガに命中した


登場した当時、世界でも屈指の破壊力と突破力を誇ったA7Vの砲撃はオーガの胴体を真っ二つに引き裂き、さらに後ろに迫っていた別のオーガに直撃し、爆散。敵の隊列に衝撃と大穴を穿った


「二号車、三号車も命中!」


「よぉーし!前戯は順調だ!各車に通達!10m前進し、歩兵たちを援護する!連携を密に!敵にヒィヒィ言わせて、足腰立たなくさせてやれ!パンツァーヴォーッ!」

発光信号でやり取りし合うハンター隊はハンケイルが乗車する一号車を先頭に鏃の様な三角形を描いて前進を開始した


歩兵の銃撃を防ぐ重装甲のオーガとはいえ、鍛え上げられた鋼鉄の装甲を粉砕する事が出来る戦車砲を前にしたらその強靭な肉体も鎧も紙切れのように引き裂かれる運命にあった

敵もオーガが倒されて浮き足立っているのか、進軍が鈍っている


「よし、伍長!下とやり取りしてくる!少しの間指揮をまかせる、歩兵の撤退を支援しろ!」


「わかりました!お気をつけて!」

ハンケイル少尉はルガーP08を引き抜き、後部ハッチから塹壕内に飛び降りた


飛び降りた塹壕は戦列の崩れた敵に対し猛射撃を繰り返しており次の弾と怪我の治療を求める兵士たちの声で溢れていた

ハンケイル少尉は怪我人に包帯を巻いている衛生兵から指揮官の居場所を聞き出し、そこへ向かった


塹壕内に土嚢を壁のように積み上げた臨時の指揮所に着くなり、士官の怒鳴り声が聞こえた

中には大柄で野戦電話を持って大声で話す大男と細身で眼鏡をかけた雰囲気や立ち振る舞いは軍人だが、容姿は軍人というより研究者のような男の正反対な印象の二人がいた


「あなたがハンター隊の指揮官ですか?」


「そうだ、そちらは?」


「グーリッヒ少尉です。貴方がしくじった時の控えです」


「ほぉ、その身体で戦車乗りだったか、てっきり書記の将校かと、失礼いたしました」

ハンケイルの皮肉も慣れているのか、グーリッヒ少尉は涼しい顔で受け流した


「よく言われます。まぁ今回の命令は残念なことに我々ゴリアテ隊はあなた方のケツ持ちです。せいぜいドジ踏んで、とっとと選手交代なんてことにならないでくださいね、ハンケイル少尉」


「フッそうか、テメェこそ後で活躍できなくても、俺を妬むなよ」

お互い皮肉を飛ばしながら握手する。互いに皮肉を気にしないタイプの人のようだ


「はい、はい!わかりました!工兵隊の支援に当たります!お任せください!」

ハンケイルとグーリッヒの二人が連絡方法や世間話をしてる間、ずっと電話で命令を確認していた指揮官が野戦電話の受話器を戻すと同時に、ハンケイルとグーリッヒは敬礼した


「重戦車隊指揮官のハンケイル少尉です」


「同じく重戦車隊指揮官のグーリッヒ少尉です」


「おう、ハート塹壕線を任せれてるグレゴリー大尉だ。助太刀に感謝する」

言葉を喋る熊のようなワイルドで大柄な男だった。挨拶もそこそこにグレゴリー大尉はハート塹壕線の地図の前に移動する


「総統閣下より撤退の指示があった、待ちきれない武器弾薬を破壊し、総司令部に撤退する。工兵隊が弾薬庫に爆弾を設置するまでの間、時間を稼いでもらいたい出来るか?」


「撤退の順番は?」


「工兵隊の準備が整い次第、我々と共に諸君らも離脱する事になっている。それまで存分に暴れてくれ、歩兵隊が撤収完了したのち、ハンケイル少尉の戦車隊をグーリッヒ少尉の戦車隊と我が歩兵隊の援護射撃で後退、それを繰り返す形だ」


「了解しました。歩兵隊が撤退する際は戦車に伝令を寄越してください。それまで我々は敵の注目を集め続けます」


「頼む、工兵隊の中尉によると概ね30分ほどかかるそうだ」


「その程度ならお任せあれ。塹壕から頭を出さないよう、徹底してください、戦車の動きに巻き込まれる恐れがあります」


「わかった、伝えよう」


「ではハンケイル少尉、砲撃支援を要請する時は赤の信号弾を打ち上げてください。私はそこに準備出来次第、全力で砲撃を食らわせます」


「頼むぞグーリッヒ少尉」


「ええ、お任せください」















ハートエイト塹壕線


「くそッ!なんてこった!」

戦場に戻ったハインリヒ少尉が見たのは炎上する部下の戦車と集中砲火を浴びる満身創痍のA7Vだった


「おいお前!なんで戦車が炎上してる!?何があった!?」


「魔法です!連中が火の玉を連続で発射して、戦車が燃えちまったんです!」


「畜生がァ!」

怒りに任せてハインリヒ少尉は塹壕の壁を殴り、履帯が焼け切れている二号車を庇っている一号車に駆け寄った

敵陣から飛んでくる弓矢と火の玉の爆発を掻い潜りながらA7Vの搭乗員口をルガーの銃尻で殴りつけ、中の乗員に合図して扉を開けさせる


「伍長!よく守った!後退するぞ!」


「少尉!ゴリアテ隊は!?」


「奴らは予備部隊の殿だ!もうじき連中の一斉射撃が始まる!二号車!早く退避しろ!」

ハンケイル少尉はグーリッヒ少尉から受け取った信号銃を取り出し、中に赤い信号弾を詰め込む


「火の玉はどこから飛んできた!?」


「正面!やや左寄りです!」


「わかった!」

車長用の覗き窓から見ると、味方が放棄した迫撃砲陣地の跡地から確かにローブをまとった一団があり、その一団が手にした杖のようなものを振ると確かに火の玉が生成されそれがこちらは飛んできていた


(火の玉自体は強力だが、投石機のように無誘導で風や空気の影響をもろに受けるのか、50m先の目標を当てられないというのは、連中の魔法も完璧ではないということか)

位置を確認したハンケイル少尉は信号銃を空に向け、発射した


信号弾が真っ赤な閃光を放ったのは敵の魔法使いが篭る迫撃砲陣地から10mほど離れた位置だった

そしてしばらくすると三発の砲撃が信号弾の周りの地面を抉り取った


「今のは準備砲撃だ!ボヤボヤしてると効力射に巻き込まれるぞ!とっとと退避しろ!」


「二号車履帯修理完了!退避!退避ィ!」

A7Vが踵を返して後退すると同時に風切り音と共に砲弾が一発だけ降ってきた

砲弾はやや戦車隊の側に着弾。巻き上げられた泥がA7Vに降り注いだ


「ちくしょう!あのメガネ、どんな狙いしてやがる!」


「少尉!伝令です!後退せよと!」


「待ってたぞ!威嚇射撃しつつ後退!急げ!」

魔法使いの放つ火の玉が戦車の周りに次々と着弾し、敵の攻勢がいよいよ本格的になり始めていた


「まずい、敵が突撃を開始した……!」

今まで隠れていた敵の歩兵がこちらの後退を察知し、塹壕から這い出てきたのだ

雄叫びをあげながら鬼気迫る迫力でこちらへ真っ直ぐ突撃してきた


武器が剣と槍が中心とはいえ一個の塊になって突撃してくる、おまけに鎧を着た兵士だけでなく引っ込んでいたオーガや二足歩行する巨大なトカゲや、半獣半人みたいな連中と一塊になってくるのだ


「こいやぁ!バケモノどもがぁ!」

照準器越しに敵の軍勢を睨みつける砲手が怒鳴った


「装填よし!」


「テェッ!」

発射された散弾が敵の軍勢に浴びせられた


その直後、敵の先頭集団が爆発した

複数の爆発が同時に巻き起こり、先頭を走っていた集団は瞬きする間に撒き散らされた鉄片や爆風により物言わぬ肉塊に成り果てていた


「味方の砲撃か!助かる!今のうちに下がるぞ!味方の砲撃に巻き込まれるわけにはいかん!」



















リバティ基地 重砲指揮所


「砲撃効果大!」

観測要員からの報告に砲撃士官の村田少佐は細く息を吐いた


「どうせ廃棄するのだ、ならば最後にこの重砲も一仕事させてやらねば、砲が泣くってもんよ、それに総統閣下もそれを見越して我々砲術要員を呼ばれだのだろう。ならば身命を賭して、任務に当たるのが我らの本分よ」

村田少佐はそういうと野戦電話を取った


「こちら村田、ゴリアテ隊これからいう座標に効力射を叩き込め、信号弾が上がった座標だ」


《こちらゴリアテ1、了解した、座標を求む》


「座標4-5-0だ」


《4-5-0、確認した。支援に感謝する》


「構わん。ハンター隊の仇だ。消しとばしてやれ」


《お任せください》

そこで野戦電話を置き、村田少佐は手に持った戦術電子タブレットに視線を戻した


「周囲の地形を電子データとして読み込み、上空に飛ばした観測用ドローンと連携。砲の種類と装薬さえ入力すれば現時点の場所から指示した地点までの距離、方位、風向き、湿度、自転といったものを自動で計算し超精密な砲撃が行える、未来の兵器……」

村田少佐が持ってるタブレットやドローン、もちろん大器が創り出したものだ


タブレットだけでなく、亡くなった砲兵の補充として村田少佐率いる一個中隊二百名を急遽召喚し、半分に分け迫り来る両陣営に砲撃を叩き込ませたのだ


「進行速度からしてあと一斉射出来るかどうか……いややる!すぐに第二陣の準備!急げ!」

村田少佐の命令と共に砲兵達が慌ただしく動き始める。中には後方からやってきた手すきの兵も混じって砲兵を手伝ってるところもある


(少ない労力で多くの実りを総統閣下にもたらす……せめて我々を呼ぶのに使った分くらいはここで取り戻さねば……)

村田少佐は戦術電子タブレットを注意深く観察しながら次の砲撃地点を決めた

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