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明日の事は明日自身が思いわずらうであろう

モチベーションが息してなかったので初見です

マッポレア平原

リバティ基地跡地(クルジド国側呼称ジャイアントシャドー)

聖帝クルジド国軍 第44軍団


大器達がこの世界に飛ばされて最初に降り立った始まりとも呼べるこのリバティ基地

撤退の際、基地もろとも大量の爆薬で吹き飛ばした為、元々酷い荒地だったのだが巨大なクレーターのようになっていた


不発弾や腐乱死体がそこら中に埋まっているのだがそこはただのクレーターではない。この世界の技術レベルからしたら異常なほどのお宝が眠るクレーターだ

拳銃や小銃に始まり、野砲や重砲の部品や残骸の回収も行われており、クルジド国はこのクレーターから掘り起こした部品を回収する為にこの地に軍を派遣しているのだ


そこに導入されているのはクルジド国軍、第30軍、44軍、147軍、合わせて六万人にも及ぶ軍勢が駐留していた


その中でも異彩を放つのが第44軍。他の二つが植民地支配された国々の元軍人を中心にした植民地軍なのに対し、この軍団はいわゆる囚人兵。刑務所や流刑地から集められた人々が中心となっていた

大日本皇国参戦となるトライデント作戦の頃から戦火に晒されて最前線を戦い抜いた第44軍。だが度重なる督戦隊の集団死、脱走、許可のない撤退を繰り返した為、この後方で最も危険なこのクレーターに移されたのだ


そのクレーターの隅でクワを使い、地面を掘っているのはベリス。元は空き巣で捕まり、刑務所に入れられて労働刑に処されていたが、国がクルジド国に征服され、あれよあれよという間にこの軍団に配属となったのだ


最初の頃はブツブツと文句を言いながら地面を掘っていたが一日11時間近く、日が暮れても地面をあちこち掘らされており、積もり積もった疲労からしゃべる気力も無くなっていた


「あ?」

手にしたクワの先に硬い感触。擦り切れた手で地面を掘ると出てきたのは細いチェーンで繋がった二枚の金属片


「またハズレ」

ベリスはチェーンを共用荷車に放り投げた。積み上げられた金属に当たり、カツンという音がした


荷車には穴の開いた兜のようなもの、ジュウという物体のパーツや残骸、よくわからない歯車、腕ぐらいなら入りそうな金属の筒、様々な物が雑多に積み上げられていた


督戦隊が居ないのを確認し、曲げていた腰を反対方向に伸ばす


「これじゃ戦争が終わる前にジジイになっちまう」

腰をトントン叩き、呟く


「おい、ベリス!来てくれ!」

声をかけてきたのは数m隣で地面を掘っていたのは同郷のリーバル。浮気相手を殺したというクズやろうだがその逃げ足と嗅覚だけは信用していた


「どうした?」


「これ!ひょっとして隊長が探しているっていうホウダンじゃないか!?」

周りに聞こえないようにひっそりとした声でリーバルは言った


「はぁ?んなわけねーだろ。この辺は散々掘り尽くしたんだから」


「でもよ、ほら。形が似てるだろ?手伝えよ」

囚人兵に渡されたリストにはクルジド国が特に欲しがって探している物品がリストとして渡されていた。こういう形をした物を持っていけば褒美として一日2回のスープだけの食事にパンがつくのだ。これは最底辺の生活を余儀なくされている囚人兵にとって最高のチャンスなのだ

その為囚人兵は地面に埋まるホウダンやバクダンなる物を命がけで探し出すのだ。それがどんなものかも知らずに


「おい、そっちもてよ」


「ったくしょうがねーな、パン半分な」


「ふざけんな、死に晒、せ!」

持ち上げた、その瞬間ベリスは空を見た


(あれ、俺……なんで……)

薄れゆく意識の中、ベリスが見たのは巻き上げられた黒い爆煙と血飛沫だけだった






















「…………はぁ」

クルジド国軍、第44軍を率いるディンギィル上級三等士は44軍の本部のテントでため息を吐いた


彼は元々クルジド正規軍の出身だ。生まれも育ちもクルジド国首都で、順風満帆な人生だったのだが、父親が借金をして失踪。母親と二人で生きてく為に軍に入ったのが運の尽き。死亡率が桁違いに高い囚人兵軍団の軍団長に任命されてしまったのだ

だが彼は幸か不幸か、優秀な軍人であり、指揮官だった。度重なる日リ連合軍の猛攻撃を前に部下に的確に指示を出し、戦闘を避けながら後退し、上手く立ち回って今日まで生き延びてきたのだ

合理と理性、そして瞬時に判断を下す決断力。軍人に必要な全てを備えているのだ


ディンギィル上級三等士の前には一人の男がいる。身長は180cm、筋骨隆々の大柄な身体にもみあげと一体化した、頭髪と同じくすんだ小麦色の濃い髭、ワイルドな外見とは異なり、理性的な光を称えた緑の瞳


彼はエンディル。昔はコロモクやバスディーグ近郊で名を馳せた大盗賊だった男だ

100人以上の部下を率い、最後はリラビア正規軍に捕捉されあえなく財産没収のうえ投獄。絞首刑の順番を待っているところをクルジド国に徴兵されたのだ

その経歴からエンディルはディンギィル上級三等士の副官的ポジションになっており、荒くれ者が多い囚人兵を纏めているのは実質彼だ


「今日は四人、粉微塵になっちまった。二人ほど死にかけたから処理しといたぜ」


「ご苦労さん、悪い知らせとより悪い知らせの二つがある」


「良い知らせはねぇのかよ」


「無い。敵が来る、大軍だ」


「あぁ、くそったれ」


「さらに悪い知らせは明日から後方の安全な穴掘り作業から解放されて最前線に転属だ」


「……本当にさっきの知らせが霞んじまう、くそっ最悪だ」

エンディルは頭を掻き毟る。フケがパラパラと机に溢れる


「で、大将。作戦は?」

エンディルはクレーターの地図に乗ったフケを払い落とした。まるで戦場で無作為に殺されていく自分たちの暗示のように


「今までの感じからすると敵は空から爆発する鉄塊を落としてさらに後方からも同じ鉄塊を投射しながら大勢の兵士と空飛ぶよくわからんクソ共でこちらをクソで押し潰す気だろう」

ディンギィルは普段の冷静沈着をかなぐり捨て、口汚く罵りながら地図に拳を叩きつけた


「今までのやり方はダメだ。遮蔽物も、囮になる味方もあてにならん。なによりここは平原だ。逃げるには目立ちすぎる」

ディンギィルは机の上のワイン瓶を一口、グラスに注がずにそのまま飲んだ。エンディルにもそれを差し出す


「つまり、戦うんで?」


「そうだ」

エンディルがワインを4口飲んだあたりで瓶をひったくった。中身はほとんどなかった


「クレーターの外縁には敵が掘った横穴がある。それを補修して、利用する」

ワインを飲み干し、瓶を床の下に転がした。空になった瓶同士がぶつかり小気味良い音がした


「経験則で敵の爆発する鉄塊は地面に伏せているだけで致命傷は避けられる。敵の銃も外で突っ立って無ければ脅威では無い」


「アンタの認識が全軍に伝われば、良いんだがね」


「銃の発達で同じ考えに至った者も大勢いる。だがこの場では俺たちだけだ」

ほろ酔いで若干下がった目蓋で地図の塹壕線をなぞる。爆発の余波で多くは崩れているが身を隠すならそれでも十分だ


「そして敵が来るのを待つ。一度蹴散らして不意をつき、適度に戦い、他の軍団に見せつけるんだ」


「見せつける?なるほど手柄か」

エンディルがニヤリと悪党らしい笑いを浮かべる


「そうだ。他の軍団が今まで通りの堂々と潔いとかいう戦列を組んで戦い、死んでいく中、こっちは着実に守りを固めていく。第30軍が守る右翼の丘の方は探索が進んで無いから爆発するホウダンが多いし、障害物の針金が多いから奴らもうかつには進めんだろう、第147軍は左翼の森林地帯を守っている、森林の中での戦いならしばらく持ち堪えるはずだ」

そこまで話すとディンギィルは懐からパイプを取り出した


「そして奴らは戦果を満足に上げられず、やがて俺たちの陣地と戦法が羨望の眼差しに変わると」


「そこで陣地交換を提案、後は闇夜に紛れて消える。その穴を突いた敵が証人を全て消す。つまりそういうことさ」

パイプタバコを満足そうに吸うディンギィル。エンディルは吐き出された煙をめいいっぱい吸おうとする


「方針は理解した。どれくらい持ち堪えればいい?幹部クラスにはそれくらいの日程を伝えておかんと抑えが効かないのはわかるだろ?」


「あぁ、第30軍のピカトニー中級二等将は野心家だが博打は打たない方だ、第147軍のホランドル中級二等将は楽観主義者の夢想家。つまりアホだ」


「あー、こりゃ長丁場になりそうだな……」


「しんどくなるが、色々手筈は整えている」

そういうとディンギィルは立ち上がり、外に出た


「そういや来るとき気になってたんですが、あの馬車の群れはなんなんだ?酒か?」

エンディルが指差したのはつい先程到着した輜重隊の馬車達である。数は50以上の大軍である

ディンギィルはエンディルの問いを無視して、輜重隊の指揮官の元へ行った


「やぁサバル中級三等兵殿!」


「お久しぶりですな、上級三等士殿、相変わらず将軍にはなられないので?」


「なにせ率いてる軍団がコレだからな、その辺は仕方ないさ」


「おっとそうでしたな」


「ところで、集まりましたかな?」


「ええ、貴方の読み通り、どこもかしこも持て余してました。王立技術院に王立兵器廠、鍛治師ギルド、道すがらの街の鍛冶屋からもかき集めてきましたよ」

そういうとディンギィルは馬車に積まれた木箱の中を見る


そこにはマスケット銃が大量に納められていた


「本当に助かります」


「なんの、これしき。貴方には大きな貸しがありますから、これくらいお安い御用で」

そういうと二人は固く握手し、抱き合った


「どうか生き延びてください、ディンギィル殿」


「サバル殿もお元気で」

そういうとサバル中級三等兵は敬礼し、荷下ろしの指揮に戻った


「どんな魔法を使ったんだよ。最新兵器の銃がこんなにたくさん、しかも最底辺の俺らに回ってくることなんてまず無いのに」


「これはな、試作品だ」

そういうとディンギィルは箱からマスケット銃を取り出した


「少し前に聖帝陛下はマスケット銃生産の効率化を図る為、部品や製法の統一化をなされた。そうすると今まで職人が思い思い作っていた兵器達は急にお役御免になる。そういった可哀想な兵器をここに集めた訳だ」


「なるほど、試作品はその時点でほぼ使われなくなる、職人は無駄を嫌うからいらない試作品を処分してくれるなら尚のことって訳か」


「手痛い出費だったが、命は一つ。私はそういうのは惜しまない」


「へっへっへっ流石は軍団長様。懐が潤ってらっしゃる」

エンディルは皮肉っぽく言うと木箱から銃を一つ取り上げる

子供の頭ぐらいなすっぽり入りそうな巨大な銃口。持ち手は短く、銃というよりは棍棒のような印象を受けた


「なんだそりゃ、デカいな」


「でけぇな」

それは江戸時代の日本では大筒と呼ばれた兵器に酷似していた


「まぁいい、食料と火薬は運ばれてきたこれが最後だ。細かい事は私が詰めておく、部下に銃の訓練をさせろ。こっから先はお前の仕事だ」


「わかったよ」

エンディルは大筒を肩に担ぎ、口笛と共に歩いて行った


新しい戦いが始まろうとしていた

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