橋を渡るとそこは地獄
お待たせしております、最近執筆に時間がかけられなくて遅れました
コロモク 学院前
レジスタンスの本拠地である学園の目の前の通りまでコマを進めた日リ連合軍。レジスタンスは学院に立てこもり、頑強に抵抗していた
学園を囲う壁に足場を組んで壁の上から魔法や銃撃を放ち、こちらを寄せ付けない隙のない防御をしていた
「戦車が通るぞ、道を開けろ!」
車長用のキューポラーから顔のみを出してハンケイル中尉は戦場の喧騒に負けないほどの大声を張り上げた
ティーガーⅠが道路の真ん中に陣取り、砲塔が旋回し、コロモクのレジスタンスが立て篭もる学院の守衛室に照準を指向した
「ファイヤッ!」
8.8cm砲が発射され、榴弾が炸裂し、守衛室を粉微塵に破壊した
「前進ッ!」
敵の攻撃が弱まったのを感じたミゼット中尉は遮蔽物にしてた荷車から飛び出し、学院の前に積み上げられたバリケードに身を預けた
「くそったれ!ここに来てやつら張り切りやがって!雑魚どもが!」
ミゼット中尉はHK416の空になったマガジンをはじき飛ばすように抜き取ると新しいマガジンを差し込み、バリケードの隙間から対岸の様子を観察する
昔偵察に来たときに渡った橋はレジスタンスが魔法で破壊しており、堀を越すにしても対岸に陣取った敵の弓兵や塹壕からマスケット銃を撃ってくるクルジド兵を黙らせないことにはどうにもならなそうだ
「マリー!要請した架橋戦車はまだか!?」
「ブルズアイ!架橋戦車はいつ到着するんですか!?」
《こちらブルズアイ、学院正門攻略中の部隊へ通達。架橋戦車はおよそ5分後に現地へ到着見込みだ、航空支援ももう間も無く到着する》
「リラビアの空挺兵だ!」
誰かの掛け声と共に菱形のフォーメーションを組んだリラビア空挺兵が現れ、M79グレネードランチャーをクルジド兵に向けて斉射した
続けて投下された火炎瓶はクルジド軍の火薬庫に直撃。天高くそびえる火柱と爆風と共にクルジド兵が落ち葉のように空へ舞い上げられた
「架橋戦車到着までこの位置を死守しろ!」
ミゼット中尉の怒鳴り声に呼応されるように他の隊も次々とバリケードに張り付き、敵の塹壕へ向けて銃撃を繰り返す
戦車や事前砲撃によって学院を囲う壁の大部分は既に粉砕されており、敵はその壁の瓦礫や手前に掘った塹壕から散発的に攻撃を繰り返すが、リラビア空挺兵により奇襲をかけられ、被害はさらに増すばかりだった
その直後、ティーガーⅠの左の履帯が爆発した
「なんだ!?魔法か!?」
「魔法の射程にしちゃ遠すぎます!」
リラビア軍のアリ中尉がStg44を手繰り寄せながらそう言った
「味方の魔法が届かないように、相手も魔法がこちらへ届かないはずです!」
「ひょっとしてあれか!敵の新型銃弾!」
「魔法を撃ち出す魔弾!くそったれ!」
《ミゼット中尉!履帯を修理する!しばらく機銃のみで我慢してくれ!》
「わかった!戦車を援護しろ!援護射撃!」
ミゼット中尉の掛け声と共に自身の銃に再装填をした兵士達がバリゲードから最低限身を乗り出し、敵の塹壕目掛けて銃を撃つ
敵が身動き出来なくなった所をすかさずリラビア空挺兵がグレネードを叩き込み、空からの銃撃を浴びせ、手榴弾を投下していき、敵陣をかき乱していく
たまらず塹壕から抜け出し、後方の壁の向こうへ走ろうとしたクルジド兵は次の瞬間にはミゼット中尉達の弾幕や車長用の機銃に取り付いたハンケイル中尉によって打ち倒されていった
「架橋戦車が来たぞッ!」
やがて待望の架橋戦車、M104ウルヴァリンがLAV25の護衛と共に現れ、崩落した橋の前に止まった
「正念場だ!撃ちまくれ!」
《履帯の応急処置が完了した!ミゼット中尉、道を開けろ!》
ハンケイル中尉の無線と共にティーガーⅠは架橋戦車を援護できる位置に移動していく
「勢いが弱まってるぞ!押し込めぇ!」
背中を見せて走り出すクルジド兵の姿を見たミゼット中尉はさらに銃撃の勢いを強め、二つに折り畳まれたシザーズ式と呼ばれる架橋が開いたハサミのように壊れた橋の基礎にかかった
架橋を終えた架橋戦車は対岸に渡り、安全性が確認され、道ができた
《すまない!弾丸が切れた!後退する!》
無線からリラビア空挺兵の報告が聞こえ、最後のグレネードランチャーを発射した空挺兵達は元来た方向へと飛び去っていった
「戦車を盾に前進!」
橋を渡り始めたティーガーⅠの後ろに隠れながら架橋された橋を渡っていく
すると地面に掘った穴に伏せていた敵兵が魔法をティーガー向けて発射する、持ち前の装甲やシュルツェンで防ぎきるが、速度がだいぶ落ちていた
《スペード2-4!こちらはそう何発も敵の魔法に耐えられ無い!敵の魔法使いを排除してくれ!》
「ハンター2-1任せろ!敵の魔法使いを撃滅しろ!戦車を守るんだ!」
ミゼットの号令と共にスペード2-4の隊員が遮蔽物も何もない架橋の上で敵に向けて射撃を敵に向けて浴びせる
何人かは弾丸が命中し、運の悪い奴は橋の下に落ちてしまうが、それでもティーガーは無事に橋を渡り切った
ティーガーはそのままアクセルを全開。キャタピラーがしっかりと瓦礫を踏みしめ、乗り超え、水面から飛び出す鯨のように垂直になり、そのまま轟音と共に水平に戻った
銃声の絶えない戦場において一際響き渡る爆音。まさに虎の雄叫びの如き着地音と共にティーガーは前進し、敵に砲撃を浴びせた
「掃討しろッ!側面から回り込めッ!」
本校舎に続くまでの200mほどの直線の道。道の両脇に等間隔で植えられた植木は軒並み燃え落ち、炭化して真ん中からへし折れた樹木の名残が散逸していた
その合間合間を幾何学模様のように複雑に交差するように塹壕が掘られており、そこを大勢のクルジド兵やレジスタンスが蠢いていた
「校舎はあの先だ!」
ミゼット中尉が塹壕に滑り込むと同時にティーガーが主砲を発射。鹵獲された機関銃が据え付けられたバンカーを粉砕した
「鹵獲された兵器があちこちにある、注意しろ!」
「ミゼット中尉!我々が先陣を切ります!航空支援が到着したら教えてください!」
「わかった!アリ中尉も気を付けろ!」
「ありがとうございます!総員着剣!恐るな!冷酷になれっ!」
アリ中尉の号令と共にリラビア兵はMP18やKar98に銃剣を取り付け、弾倉を新しく取り替える
「突撃ぃーッ!」
一丸となったリラビア兵達は雄叫びをあげ、魔法障壁が使える者を先頭に塹壕から飛び出して一斉に駆け出した
銃弾が魔法障壁に命中するたびに火花が散り、側面に炎の魔法が着弾し、五体をバラバラの方向に吹き飛ばしながら明後日の方向へ飛んでいった
障壁を張るものがいなくなった隊列は悲惨だった。鹵獲機銃の猛攻を真正面からくらい、二十歩走る頃には全員が血を流しながら地面に倒れていた
「パンツァーファウスト、用意ッ!」
砲撃穴に伏せたリラビア兵が弾幕が逸れた瞬間、パンツァーファウストを取り出し、発射。直撃した機銃座は誘爆した予備弾薬が花火のように辺りに飛び散った
「やったぜッ!」
発射機を片手にガッツポーズをする鬼人の兵士だが、油断して頭をあげたのが運の尽き。次の瞬間には左眼に矢が突き刺さり、笑顔を貼り付けて倒れていった
「くそったれ!」
一方、塹壕内を進むミゼット中尉達も苦戦していた。相手も塹壕内を逃げ惑っているため、出会い頭に殴り合いになることが多く、剣や棍棒を持ってる向こうのほうが有利な時が多いのだ
振り下ろされた棍棒をHK416で受け流し、返す刃で相手の顔面を殴りつける
栄養失調なのか、やけに落ち窪んだ目と痩せこけた頬をした青年は前歯と血飛沫を散らしながら倒れ、ミゼットは油断することなく引き抜いたC96で頭に弾丸をたたき込んだ
AA-12のフルオートが炸裂し、バリケードごと敵を薙ぎ払う。塹壕の窪みや曲がり角には徹底して手榴弾や炎魔法が、露出した機銃陣地はティーガーやさらに合流したバレンタイン戦車が的確に破壊していく
《こちらファイヤーアロー1、対地兵装満載でそちらへ急行中、助けが必要なんだって?》
「ファイヤーアロー1、目標は敵の学園そのものだ、赤のスモークの所を重点的に破壊しろ!」
するとドローンにスモークグレネードを持たせ、そのまま学園の正面玄関にグレネードを投下した
赤い煙が立ち上がり、近くの味方が物陰に隠れ出した
「やつらを石器時代に返してやれ!」
《東からアプローチする、ファイヤファイヤファイヤ!》
いうがいなや、目で追うのがやっとの速度で突っ込んだA-10は両脇に吊したJDAMを投下。魔法で作られた一際強固なトーチカ陣地が炎に包まれ、破壊された
それに終わらず旋回したA-10は30mm機関砲を斉射。もう一度旋回し、斉射。それを後3往復繰り返した
逃げ惑うクルジド兵やレジスタンスが足首を残して消失し、空気が赤くなりそうな程、炎と血飛沫が吹き荒れた
「突入ッ!」
絶賛炎上中の正面玄関を避け、辺りの窓や壁を爆薬で吹き飛ばし、ミゼット達は学園校舎に突入した
「ゲフッ……クソっ」
ロスウェルは腹部に刺さった木片を引き抜いた
とめどなく血が溢れ、脚から力が抜けていく
敵の戦車に最後の魔弾を当てたはいいものの、敵の勢いは一瞬しか収まらず、むしろ激しさを増していた
辺りには死んだ人間と死にかけてる人間と死にぞこなった人間しかおらず、奇跡的に無傷の少女もいるが頭を抱えて泣きながら短剣を喉に突き立て、そこらの死体の仲間入りを果たした
「ロスウェル!」
そこへ現れたのは悪友のカイルだ。上下水道を利用したゲリラ戦や魔獣による人海戦術などを仕掛けた張本人である彼も今は似合わない槍を担ぎ、顔を煤で真っ黒にしていた
「正門前で陣頭指揮してたって聞いたけど、よく無事だったな」
「最初の時と一緒だよ。俺の代わりに目の前のやつが爆発を防いでくれたのさ、ラッキーなんだかアンラッキーなんだかわからないよ」
「そりゃ、ついてたな。それよりその槍、カッコいいじゃん」
「君こそ、男前になったな」
カイルが治癒魔法をかけ、ロスウェルの傷を癒しながら言った
「シャリーはどこにいるかわかるか?」
「地下の書庫に向かったよ、ここはもうダメだ。やっぱ戦いは数だよな、今回はそれを学んだよ」
苦笑しながらカイルはため息をつく。ロスウェルはマスケット銃を杖に立ち上がる
「何言ってやがるんだ、いいから行こう!」
「いや、いい」
カイルはロスウェルの手を振り払い、そう言った
「……なんでだ?」
「……軍師って、大変なんだなってことだよ」
いつも余裕のある笑みを浮かべているカイルだが、その時ばかりは泣きそうな顔をしていた
その視線の先には先ほど喉を貫いた少女の死体がある。その時ロスウェルは思い出した、確かカイルの補佐としていつも二人仲良く駆け回っていた筈だ
戦争の前にも新型の魔法の杖を共同開発するとかでよく一緒にいたと聞いている
彼は今までに会った人の顔と名前を全て覚えている。特殊技能の一つとも言えるその技能、しかしこの戦場においてはそれは仇となった
自分が立案した作戦によって知己が次々と死んでいくのだ。まだ十代の彼にその重責はとても耐えられないのだ
そして彼は最後のよりどころにして心のタガとも呼べる少女を失ったのだ。それも最悪の形で
「行ってくれ、せめて、親友のお前が死ぬ所なんて見たくないからさ」
ロスウェルはその時気づいた。カイルが苦手なはずの蒸留酒の匂いが彼自身からする事を。お互いに忙しく、久しく合わないうちに彼は傷つき、強いアルコールを摂取して現実から目を背けていたのだろうか
「カイル、お前」
直後、爆発が二人を襲った。爆風に吹き飛ばされたロスウェルはズキズキと痛む頭を抱えながら立ち上がった
「……こんなのって、無いだろ」
ロスウェルは身体中に木材を突き刺して絶命したカイルを見て、脱力してしまった
流石に三回目の爆発からは逃れられなかったようだ
「俺だって、お前が死ぬ所を見たくなかったよ……あばよ親友」
いたたまれなくなったロスウェルはカイルの両眼を閉じさせ、駆け出した。最後の砦、想いを寄せる少女がいる地下書庫へ向けて
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