Rejoice O Young man, in thy youth
最近短く話を纏めるのがちょうどいいのでは?と思い始めた。長く描くと疲れちゃうので
コロモク
未だに頑強に抵抗するクルジド軍の本拠地である学園、その学園の隣に隣接する魔獣園
初期の段階で軍事転用に研究されていた魔獣の群れは全て出し切っており、残る家畜用の魔獣もコロモクで暗躍するレジスタンス達が食べ尽くした
だが魔獣が逃げ出した時のことも考えられているこの魔獣園は造りが複雑で、堅牢な建物だ
故に学園と並んで多くのレジスタンスが籠り、堅固な要塞と化していた
魔獣園側の建物は繰り返された攻防により完全に焼失し、瓦礫のみとなった市街地を見下ろすように魔獣園の門扉がそびえ立っている
フェブランド少尉はそんな瓦礫の一角に身を伏せながらタバコを吸っていた
「少尉殿、タバコを吸うと煙で敵に位置がバレます」
「今なら大丈夫だよ」
補充としてやってきたリラビア軍のラヌ軍曹の抗議を気にもせず、紫煙を空へ向けて吐いた
「なんでわかるんですか?」
「最前線に長いこといるとな、わかるんだよ。毎日毎日ドンパチやり合ってる戦場でも、フッと銃声が一発も響かなくなることが」
「そうなのですか?」
エルフ族特有の笹のようなすらっとした耳を動かす。無意識に音を頼りに戦場に満ちる空気を感じようとしているのだろうか
「あぁ。示し合わせた訳でも無い。激しく殴り合った後、お互い塹壕に隠れて姿の見えない敵目掛けて撃ちまくる、そんな膠着状態になるとやがてどこかのタイミングで攻撃が止む時がある。嵐を抜けた時みたいに風が凪いでいる、そんな感覚があるんだ」
フェブランド少尉は短くなったタバコを地面でもみ消し、自分のG36を手繰り寄せる
「それが今ですか?」
「私の勘だと後30分は続くと思うね、寝るなら今のうちだな」
ライフルを抱き枕の様に抱え、フェブランド少尉はブーニーハットで目元を塞ぎ、あっという間に寝息を立て始めた
「風が凪ぐ、ね……」
ラヌ軍曹はKar98kを瓦礫に立てかけ、敵が籠るバリゲードの方を見る
「ん?」
すると目があった。ちょうど同じタイミングでこちらを見ていたのだろうか、顔を煤で汚した人間の少女と。バリゲードから身を乗り出し、伸びをしていた様だ
お互いにポカンとした表情を浮かべ、数秒後にその少女が微笑み、手を振ってきた
ラヌ軍曹も手を振った。家を失った避難民から睨まれてばかりで人に微笑みかけられたのは久しぶりだった
ただ手を振り、微笑む。時間にして1分ほどのやりとりだが彼の人生において何よりも輝いていたような1分に感じた
やがて気分を良くしたのか、少女はバリゲードの上に立ち上がり、踊り出した
足をピンッと伸ばし、神がかりなバランスでちょこちょこと歩くとその場で両足を大きく広げてジャンプ。くるりくるりと回転し、最後は萎れる花のように、儚くしかし優雅に倒れる
見る人が見ればバレエだとわかる繊細な舞踊。この世界では一部地域で神々に祈りを捧げるリラビア式舞踊と呼ばれる伝統舞踊である
「おぉ!凄げぇ!」
「いいぞ!姉ちゃん!」
突然の踊りにもかかわらず、リラビア兵や皇国軍兵士は大絶賛。口笛や拍手がまばらにされた
一通り踊り終え、最後は淑女のように恭しく礼をする。顔を上げた彼女はラヌ軍曹の目を見据えてウィンクを一つ、かわいい
(なんで戦争してるんだろうな、俺たちは)
ラヌ軍曹はふと、そう思った。彼はエルフで故郷の村をクルジド軍に焼かれ、その復讐心から軍に入隊した
しかし彼女の踊りや楽しそうな彼女の顔を見ているうちに戦う必然性が必ずしも無いのでは?と思ってしまった
向こうの彼女も元はあの踊りを研究していたのかは知らないがただの学生で、一般人、それがこうして戦場の戦火に身を委ねるなんておかしな話だ
今すぐ武器を捨てて、あの可憐な踊りをする彼女の元に行ってお茶に誘いたい。そう思わせるほどに踊る彼女は魅力的だった
やがてバリゲードの向こう側に彼女は引っ込み、周りの兵士は俺に向けてウィンクしたんだともめだした
その数時間後、『内通者』と書かれた看板と共に彼女の遺体がフェンスに吊され、それから数分後、展開が完了した皇国軍の砲兵隊が砲撃を開始した
アウリサー大佐が指揮する野戦砲兵大隊96門の一斉砲撃が魔獣園のあちこちに直撃し、木骨造りの堅固な建物が粉砕されていった
《ブルズアイよりスペード小隊へ!砲撃第一派撃ち終わり!前進せよ!》
「いくぞ野郎ども!突っ込めぇ!」
『『『オオオォォォォォォォォォ!!!!』』』
フェブランド少尉の号令と共に瓦礫に伏せていた兵士が立ち上がり、駆け出した
敵もバリゲードから身を乗り出しマスケット銃や槍で応戦しようとすると後方に据え付けた機関銃が瞬く間に火を吹き、血のあぶくを吐きながらバリゲードの向こう側へと消えていく
工兵が担いだRPG-29を発射しバリゲードを破壊。すかさず手榴弾が投げ込まれ、起爆と同時に歩兵達が突入した
「ぜぇえええッ!」
ラヌ軍曹も突入し、這いずって逃げようとするクルジド兵の背中へKar98の先端に取り付けたスパイク状の尖った魔法の杖を突き立てた
引き抜くついでに引き金を引き、敵に致死量のダメージを与え、呪文を詠唱し敵が逃げ込もうとした井戸へライフルを向ける
「死ねッ!」
杖から放たれた炎は井戸の中を満遍なく燃やし、閉所で反射した悲鳴が轟いた
とどめと言わんばかりにラヌ軍曹はベルトに刺した柄付き手榴弾を引き抜き、井戸の底へ投げ込んだ
爆発と共に井戸の露出部が倒壊、穴は完全に塞がれた
「掃討しろ!周囲の安全を確保するんだ!」
フェブランド少尉がいつもどおりタバコをくわえ、後方から機関銃を担いだ兵士がやってきて瓦礫の上にスペースを確保して据え付けた
「追撃だ!小隊は集結!奥に逃げ出した敵を追撃する!」
フェブランド少尉は吸い終わったタバコを投げ捨て、駆け出した
物陰からまばらに飛び出してくるクルジド兵を撃ち倒し、魔獣園の奥へと駆ける
「檻はほとんど空だな」
「こちらにぶつけてきたか、自分達で食べたのどちらかだな」
死んだクルジド兵に銃剣を突き刺し、空の檻を眺めるリラビア兵達
「この先のバリゲードに敵が立て篭もってる!焼き払え!」
フェブランド少尉の命令と共にラヌ軍曹率いる魔法兵が呪文を詠唱し、曲がり角へ火炎をばら撒いていく
マスケット銃の火薬が暴発し、吹き飛んだ肉片が飛んでくる
「ええい、気色悪い!次だ次!」
フェブランド少尉がG36のマガジンを交換し、新しくタバコを咥える
ラヌ軍曹は機械的にKar98kに弾丸のクリップを差し込み、ドアを蹴破る
中には首から血を流し、短剣を握りしめる女性が二人。なんてことはない、いつも通りの戦場だ
「終わらせないと、こんなクソったれな戦争なんて……」
ラヌ軍曹の呟きは戦場の音に消えていった
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