威力偵察
番外編です、短めにしてみました
リラビア国の友好国だったルドグシャ王国
主な産業は鉱山から算出される鉄や銅と言った鉱物資源の輸出、並びに傭兵の派遣といった軍事力の提供であった
領土は広くなく、四方を険しい山々と深い森に囲まれ、何人たりとも近づくことができない王国、人々は常に魔獣との戦いの中におり、それに伴い人々は経験豊富な戦士として、屈強な鉱夫として成長していくのだ
そんな軍事国でもクルジド国のドラゴンという航空戦力と魔獣が潜む森林をなぎ倒す津波のような人の波を前にして歴史から姿を消したのだ
そして天然の要塞であるルドグシャ王国の王都は灰燼に帰し、交易路である女王の息吹から進軍を開始したものの、日リ連合軍の頑強な守りにより被害を累積し、やがてバスディーグのクルジド軍本隊が壊滅、結果的に突出した形となったクルジド軍は挟撃を恐れ、女王の息吹より撤退し、ルドグシャ王国の王都に籠った
撤退した先はルドグシャ王国最大の鉱山、アビド鉱山。女王の息吹より進軍する日リ連合軍の部隊がルドグシャ王国に居座るクルジド軍本隊を叩くためには必ず通る場所がここである
二つの山が横並びに並ぶこの山、見る者によっては女性の乳房を思わせるこの山の内部は蟻の巣のように張り巡らされた複数の坑道や洞窟があり、山と山の間には鉱山で働く人々の村があり、クルジド軍はここで持久戦を展開、戦い抜くつもりだった
アビド鉱山から約1km
大日本皇国陸軍 第六強襲偵察飛行隊
MH-6 ハミングバード1
キーゼル少尉
《こちらバードリーダー各員いいか、今日は顔合わせのみ、挿入前の前戯みたいなもんだ、本格的に攻撃はしない、それを頭に叩き込め、ハミングバード1、2は左翼、3、4は右翼から中央はイビルアイ小隊だ、予定通りだ》
「ハミングバード1了解」
キーゼル少尉は無線に応答すると隣に座る偵察機材を操作する新米の副操縦士チラリと見る
「新人、名前は?」
「はい、コルト伍長です」
「そうか、よろしくな」
「はい!」
《おーおー、かわいそうに》
《イキのいい新人ちゃんは何分持つかな?》
無線でそう呼びかけたのは僚機のハミングバード2である
「あの、どういう意味で?」
《ひょっとして、前そこに座ってた小野寺軍曹の事は知らないのか?》
「存じません」
《あーあ、そりゃお気の毒に》
《小野寺軍曹はワンダーランド作戦の頃からいた猛者だったが、戦闘中に負傷してそのまま退役されたんだ》
「ふ、負傷とは?」
《最後はなんつってたっけなー、確か『誰かコイツを止めてくれ!死にたくない!』だったか?》
《『こんな変態機動のヘリに乗ってられるか!俺は家に帰らせてもらう!』って言って30m上空のヘリから飛び降りたんだ、笑えるだろ?》
「…………えっ?」
コルト伍長の顔が引きつった。唇が微かに震えながら隣をチラリと見るとキーゼル少尉の新しいおもちゃを与えられた子供のようなニヤニヤした笑みがうつった
《キーゼル少尉は『相棒殺し』の異名が付くほどの名パイロットだ、少尉にかかれば、建物と建物の間の敵の塹壕だって見ることが出来る、慣れれりゃ敵の数だってわかるぜ?》
「………………えっ?」
なにそれ、聞いてない。コルト伍長はそう思った
偵察飛行は危険な仕事だ。ようは最前線に威力偵察として突っ込むのだ、安全な訳は無いが自分は地上より空が好きだった、戦闘機乗りよりはヘリが好きだった、なのでヘリコプター乗りに志願してここに配属された
「あの、少尉殿、偵察といっても無茶な機動とかはしないんですよね?」
「ああ、勿論だ」
キーゼル少尉の呟きにほっと一安心。よくある新人をビビらせるいわゆる軍隊の洗礼という奴だろう
「かるーく宙返りしたり細い隙間を通ったり至近距離で敵に挨拶するだけだよ」
「………………………えっ?」
コルト伍長は入隊して三ヶ月、訓練や座学で学んだが、小型で身軽な偵察ヘリでも宙返りしたりしない、それは創作の中でのみだ
ましてやこのMH-6は両脇にM134ミニガンと後部座席には二千発の弾丸、更に機首には様々なカメラやセンサーと言った偵察仕様のヘリとなっている、宙返りなんて太陽が西から月と同時に登るのと同じぐらい無理がある
「なぁに、このフライトを耐えればお前も功績が認められて晴れて軍曹だ、そぉら行くぞ、テープは回ってるか?」
「ま、ままままま待ってください!速度が!速度が上がってます!このままではぶつかります!」
目測で敵の鉱山とハミングバード1の機体て距離は目算で500m、だが速度はまだぐんぐん上がっており、200kmを超えた
《ボンボヤージュ、コルト伍長、帰ったら一杯奢ってやるよ、飛び降りるなら味方の陣地でな》
僚機の姿がぐんぐん小さくなる、速度はまだ落ちない。敵が積み上げたと思われる土嚢陣地が見えてきた
「そらよ」
キーゼル少尉が操縦桿を傾ける。身体と内臓が右へ持ってかれ、山肌を掠めるほどの距離での回避だった
「あああああああああああああああああああッ!!?!!??!?!!」
なにがなんだかわからない。新幹線の座席に座っているときのように一瞬で景色が後ろに流れていく
「ほいっ」
からの急制動。テイルローターを巧みに操り、機体を2回転させ、メインローターが山肌にかすらんばかりの距離で止まった
「ふん、敵陣地視認」
「…………ハフッ!ハァッ!ハァ!」
止まっていたというより肺から押し出された空気を補給するコルト伍長
視線の先では用足しのバケツだろうか、汚れたバケツを持ったクルジド兵がポカンとホバリングするヘリを眺めていた
「撮ってるか?」
「は、はい……」
「オーライ、では威力偵察といこうか」
そういうとキーゼル少尉はヘリの方向を急転換。照準を正面に向ける、身構えてなかったコルト伍長はシートベルトに胴体を食い込ませることになった
「プレゼントだ、受け取りなッ!」
機銃のトリガーを引くと、両脇に吊るしたミニガンが起動。クルジド兵がバケツを投げ捨て、洞窟に引き返したが、それは悪手だ
曳光弾の赤い光が洞窟の奥の奥まで届く。一条の光のようになった弾丸の雨が薄暗い洞窟内に降り注ぐ
「よし次」
そういうとキーゼル少尉は滑るように横へ移動する
「キーゼル少尉、近すぎますよ!」
「なんだよ、近い方がいい絵が撮れるだろ?」
「ブリーフィングでは安全高度から機銃を浴びせるだけの筈では!?」
「それじゃあ本当の敵の動作は見れんだろう。至近距離からの撮影が一番だ、洞窟の中まで撮れれば味方の歩兵の被害が減るんだ」
そんな良いことを言いながらキーゼル少尉はコルト伍長の方を向く
「少尉!前!前見て撃って!操縦して!」
敵が手を伸ばせば届きそうな程の距離をホバリングしながら洞窟という洞窟に機銃掃射をかけていく、進行方向を見ずに操縦してるのだ
跳弾が当たろうものなら一発アウトのこの状況、脇見運転と速度違反、そして危険運転でスリーアウトだろう
「ヘヘヘッいいぜ、前見て運転するよ、しっかり掴まれよ」
そういうとヘリは右へ90度旋回、そのまま速度を上げていく
リトルバードの最高速度280kmに達しそうな程のスピード、機体のあちこちからガタガタと寿命が縮むような音が聞こえる
そのスピードの中、キーゼル少尉は楽しそうに笑いながらペダルと操縦桿を操る
物資の搬入中と思われる馬車へ地面を這うような低空飛行からの機銃掃射。馬車に着弾したかどうかも確認する間も無く飛び去り、目についた敵は片端から機銃掃射でなぎ払い、山を一周するように飛んだ
「うーん、イマイチわからんな」
「あれだけ至近距離で飛んだんですよ。十分では?」
「やはり中に入らんとわからんな」
キーゼル少尉の小さな呟きがオープンにした無線機から聞こえてきた
「…………………………………は?」
上官とか関係なかった。何言ってんのコイツ?
「一際大きな洞窟があいてた、あの中が気になる」
「待ってください、やめてください。そんなところにヘリが入っていける訳ないじゃ無いですか」
「出来ない理由よりやれる理由を考えるんだぜ、ルーキー」
「ブラック企業のスローガンか、無理です!無茶です!墜落しますよ!辺りに敵だっていました、低空飛行でホバリングしたらあっという間に魔法で滅多打ちですよ!?」
「は?誰がホバリングなんてするんだ、危ないじゃないか」
「ん?」
じゃあこの人はどうやって洞窟の中を偵察するのだ?
考えがまとまらない。まるで出そうな答えを無理矢理押しとどめているような感じだ
そんな中でもキーゼル少尉は機体を上昇させている
「まさか少尉は透視でもできるんですか?」
「いや、透視よりもっと確実な方法がある」
そういうとキーゼル少尉は機体を傾けた
いや、正確にいうと機体を垂直に倒したのだ。頂点に到達したジェットコースターが落ちていくように
「ほわぁぁぁぁぁあああああああああああ!!?」
本日3度目の絶叫。ゴツゴツした岩肌がぐんぐん迫ってくる
「歯ぁ食いしばれ!」
少尉は瞬時に機体を元のバランスに戻す。地面をテイルローターが擦る音がコルト伍長の耳に届いた
上から押し潰されるようなGに押されてコルト伍長は身長と一緒に寿命がマッハで無くなるのを実感した
そしてつけた助走の勢いを殺さぬまま、キーゼル少尉は機体を洞窟内に突入させた。ダウンウォッシュで巻き上げられた砂埃に紛れてメインローターの端が洞窟の壁に接触して火花を散らせる
天井の高さは意外と広かった。リトルバードが後3機ぐらい縦に縦列出来そうなぐらいの高さである
「おやおや、大当たりだ」
そのまま飛び降りても捻挫しないような高さまで降下したリトルバードを巧みに操りながらキーゼル少尉は笑った
「な、なにが……」
コルト伍長が顔を上げると、目の前には金色に輝く二つの目。爬虫類のように縦に割れ、ダウンウォッシュで巻き上げられる砂埃を物ともせず、大きな口を開け、その奥に秘められた火焔を今にも吐こうとしている
端的に言えば、ドラゴンだった。しかもそれが四匹
「そりゃ」
しかしキーゼル少尉は操縦桿を巧みに操り、ヘリを水平に移動ドラゴンの火焔はランディングギアを焼いた
「さて、ご挨拶」
そういうとキーゼル少尉は機銃のトリガーを引いた
しかもそれだけじゃ無い。ローターの回転数を意図的に落としその場で回転し始めたのだ
操縦を失ったヘリのようにグルグルと回りだすが、キーゼル少尉は笑いながらペダルを踏み、操縦桿を操り、機銃を撃ちまくる。やがて空薬莢の山が足元に形成され、脚を伸ばせば届きそうな高さまで来ていた
洞窟内に形成されたサイクロンはドラゴンも、その乗り手も、ただの兵士も関係なく弾丸の雨により物理的に引き裂き、砕き、積み上げられた木箱はバラバラになり、ダウンウォッシュによって巻き上げられた砂埃は人の目を潰し、彷徨っているところをレーザー光線のような光の帯となったミニガンの掃射が無慈悲に刈り取っていく
常軌を逸した低空飛行により、リトルバードのミニガンはちょうど人間の胸元から腰のあたりを指向してる。そしてグルグルと回転するリトルバードの機銃掃射は洞窟内に籠る敵に全周攻撃を仕掛けていた
この猛烈な掃射でドラゴンもたちどころに蜂の巣になる。だが一番近くにいたドラゴンはミニガンの掃射を受けても耐えた。文字通り命を振り絞り、ドラゴンは口を開いた
「はい残念」
しかしキーゼル少尉はそれを目ざとく見抜き、ドアを蹴り開け、M203グレネードランチャーを片手で構えた
発射された40mm榴弾はドラゴンの口に吸い込まれる様に入り、起爆した
頭の部分が内側から砕けちり、降り注ぐ血肉を避けるようにキーゼル少尉は操縦桿を切るがグロテスクな血や肉片がフロントガラスにこびりついた
「チッそろそろお暇するか」
ミニガンの残弾表示が0になっているのを確認したキーゼル少尉は回転を止め、入ってきた入り口の方に機首を向ける
それに対し、コルト伍長は手をかざし、操縦を止めさせた
「なんだ?」
コルト伍長は人差し指をかざし、ドアを開け、胃の中身を全てぶちまけた
「おーおー偉い偉い、機体の外に吐くことできて偉い!そのまま!」
キーゼル少尉はコルト伍長のグロックを引き抜き、剣を片手に駆け寄ってきたクルジド兵に冷静に弾丸を叩き込んだ
「まだか?全部出た?」
反対側から駆け寄ってきた敵にも同じように弾丸を叩き込み、M203に新しい榴弾を込めた
「ぜ、全部、出ました……」
「よろしい、エチケット袋は前任者が使い切ったからな、手間が省けたぜ」
「…………補充しないんですか?」
「三枚入れといたけど足りなかったんだよ、胃の中身じゃなくて腸の中身も口から出しかねない勢いだったからな」
今日食らった恐怖体験を思い出すだけで胃の中身どころか心臓すら口から吐き出せそうな心境だった
「今日のお仕事は終わりだ、いい絵が撮れただろう」
「こんな無茶な軌道では映像が撮れる訳ないですよ、俺はもう首だな、あーあ、残念だなぁ!」
リトルバードは低空飛行で洞窟から飛び出した。上空では威力偵察を終えたヘリが集まっていた
「コルト伍長、よい働きをしてくれた」
「ハッ」
人生とは上手くいかないものだ
乗り手をシェイクするような無茶苦茶な変態機動のヘリが持って帰った映像は司令部に大いに評価されたのだった
内部の映像、敵の初動、敵の反応、さらにはドラゴンという隠された切り札
「アレは新種のドラゴン、リラビア側の呼称だとアースドラゴンというらしい、我々が知るドラゴンと違って空は飛ばないが亀の甲羅のように硬い装甲を背中に纏い、火焔攻撃を行ってくる、コイツの存在を知れたことは大きい」
「ハァ」
「功績を称え、キーゼル少尉は中尉に昇進、コルト伍長は軍曹に昇進とする。なお諸君は今後、同じ部隊として行動を共にするように」
「あの」
「なんだね?」
「私の、転属願いは……」
「受理されなかった、すまんが」
「…………………」
コルト軍曹はそのまま卒倒した。配属は変わらなかったとかなんとか




