コロモク包囲戦
新年あけましておめでとうございます。今年もどうぞよろしくお願いいたします
フォーリングストーン作戦開始数時間前
聖帝学問院 中庭
「整列ッ!」
クルジド軍のスタンラー中級三等兵が叫ぶと並んだ学生たちは訓練通り、かかとを一斉に打ち鳴らし、気をつけをした
「諸君、リラビアの蛮族共からこの街を守らんと自ら志願してくれた、勇敢なる学徒兵の諸君!私はスタンラー上級三等兵、諸君らの隊長だ」
スタンラー上級三等兵はそういうと左拳を頭の横に上げた、すると並んだ学生たちも左拳を掲げた
「よろしい、だがせっかく志願してもらってなんだが、諸君らが戦うことはまずない。コロモクの外には私が所属するクルジド国軍第108軍団、並びに第75軍団の総勢4万が陣をすでに展開しており、リラビアの蛮族共を迎え撃つ準備は整っている。つまり敵はこのコロモクに来ることはないというわけだ。わかるかね?」
スタンラー上級三等兵の話を学徒兵たちはじっと聞いている。バスディーグが既にリラビアの手に戻り、そこにいた八十万の軍勢が敗れたのも知っていた
それらの前提条件がありながらも彼らが戦うのはクルジド国の軍隊が既にコロモクで裏切り者を処断する動きがあるからだ
協力を拒否したり街から逃げ出そうとする人々を切り捨て、街中に『裏切り者』と看板を胸に打ち付け、吊るすのだ
故に参加するしかないのだ
「諸君らの主な仕事は後方支援だ、軍人として訓練を受けたわけではない諸君が戦場に立つことはまず無い。故に前線で戦う兵士たちに武器を届け、負傷者を後方へ移す。一見地味だがこういう仕事こそもっとも誇られるべき役割であり、直接戦う戦士の次に貢献している仕事であると、私は考えている、諸君らの働きが我ら、ひいては偉大なる聖帝陛下に勝利をもたらすのだ!」
スタンラー上級三等兵の言葉は何処か空虚に聞こえた。彼もバスディーグの結果を知ってか知らずか、現実を直視してないのか、それとも職務に忠実なのか
「ロスウェル、どう思う?」
「知らんよ、それよかカイル。お前はリラビア相手に勝てると思うか?」
冶金学科のロスウェルと戦術史学科のカイルはスタンラー上級三等兵の目を盗んで話していた
「奴らの武器は噂話でしか聞いたことないけど、何十キロ先から爆弾を投射する兵器とかドラゴンよりも早く、強力な武器で空を飛ぶ兵器がある以上、普通に野戦で戦ったら勝ち目はまず無いね」
カイルは言い切った。自分が手に持つ槍がいかにリラビア軍が持つ銃相手に無力であるかを悟り切っていた
「君の持つ銃でも勝つのは無理だ。こっちが一発撃つ間に相手は何十発も撃ってくるんだ、正確無比で強力な銃で」
「数は力なり、か……」
ロスウェルがそういった。会話はそこで途切れた
「でもやりようはある」
カイルがポツリと言った
「リラビア軍も人だ。ならば戦線が膠着すれば兵の士気は下がる、それこそ奴らの末代まで語られるような持久戦が出来ればな」
「出来るのか?」
「ああ、常々考えていた。このコロモクなら、やれるけど」
「問題はあの部隊長様か」
ロスウェルは高揚した顔で演説を続けているスタンラー上級三等兵を眺める。話が長すぎる
「リラビア軍があのおしゃべりを吹き飛ばしてくれたら、いいんだがな」
その直後、彼らの後ろで爆発が巻き起こった
彼らは知る由はないが、フォーリングストーン作戦が開始されたのだ
爆撃は学園全土に渡り、突然ロスウェルの近くにも落ちてきた
「うぁ……くっそ、カイル、無事か?」
「なん、とか……コイツがいて、よかった」
カイルの身代わりになって死んだ学生をどけ、カイルは服の埃を叩いた
「おい、カイル」
「ああ、第一関門突破だな」
二人は下半身が吹き飛んだスタンラー上級三等兵を見てそう言った
数時間後……
《キラー1よりゲームマスター、コロモクの街は大騒ぎだ》
《キラー1了解。ゲームマスターより全部隊へ通達。フォーリングストーン作戦は第二段階に移行。予定通りだ》
「諸君!聞いたな、予定通りだ!」
ミゼット中尉はHK416に初弾を装填し、ブラックホークのドアを開けた
すぐ隣には別の分隊を満載したブラックホークが、その奥には陸軍の一個小隊が詰め込まれたチヌークが並走していた
それらの間にはAH-6リトルバードが高度を上げて上昇してきた、両脇には四人の武装した兵士が座っており、ミゼットと目があった隊員は手を振ってきた
それだけじゃ無い。今回はリラビア軍の擲弾翼兵も参加している
一部の竜人や鳥の獣人は自身に生えた羽と魔法を駆使して空を飛ぶこともできる。彼ら彼女らは空挺兵や擲弾翼兵と呼ばれ、ヘリの合間合間に空を羽ばたいている
内側が羽毛で覆われた皮のジャケットに首筋を守るためのマフラー、膝や膝を守る為のプロテクター、そして背中の翼に干渉しないように各々がアレンジして予備弾薬や手榴弾を身体にくくり付けている
前は槍やクロスボウを武器に戦っていた彼らだが、第一次大戦のパイロットの装備を参考にして作られた彼ら彼女らの専用装備の数々を見に纏った新たなリラビア空挺兵である
「マジでファンタジーだな」
「ですね」
平野に展開するクルジド軍の陣地を飛び越え、混乱が渦巻くコロモクの上空に到達した
降下地点はコロモクにある警備隊の本拠地だ。四階建ての神殿のような巨大な建物で、昔はコロモクにいた貴族の邸宅であったがクルジド軍が接収し、警察機構の、建物として作り替えたのだ
四方に大きな幹線道路が伸び、正面玄関の前には馬車用のロータリーがある、コロモクの主要な道路に面しているこの建物は街の中心にして重要な建物だ
その建物の屋上にブラックホークが三機、各幹線道路に一機ずつ、そしてリトルバードはロータリーや幹線道路のあちこちに着陸した
「よし行くぞ、続けぇ!」
ミゼットがラペリング用のロープを蹴り落とし、屋根に飛び降りた
ミゼットに続き、次々と兵士がロープを掴み、屋根に降下していく
「突入用意!急げ!」
ブラックホークから降りた隊員が屋根に杭を打ち込み、肩に担いだロープをくくり付けた
「用意よし、行けます!」
「閃光弾!」
ミゼットが指示すると閃光手榴弾の安全ピンを引き抜いた隊員が屋根から身を乗り出し、すぐ下の窓に投げ込んだ
閃光手榴弾が炸裂する音と共に窓ガラスが弾け飛び、固定されたラペリングロープが投げられ、隊員がそれを掴み、振り子のように勢いをつけて窓枠をぶちやぶって中に飛び込んだ
中にいた不運なクルジド兵は助走のついた飛び蹴りをくらい、後続の兵士が馬乗りになり、あっという間に後ろ手に拘束されてしまった
「行け行け行け!」
突入したミゼット中尉はそのまま手近な部屋へ閃光手榴弾を投げ込み、炸裂と同時に突入。中でうめいている人々を結束バンドで拘束していった
反対側から突入した部隊とも合流し、階段を駆け下りる
「敵だぁ!討ち取って名を挙げろ!」
抜刀したクルジド兵が駆け寄ってくるが、先頭をいく者の射撃を前に肉薄する暇も無く、射殺されていく
「この先に魔力反応、魔法使いが伏せてます」
先頭に立ち、魔法の発動を敏感に感じ取ったリラビア軍のリムト伍長がそう言った、壁に張り付き、慎重に顔を出す
直後、高圧水流がレーザーのように壁に直撃し、壁を砕き、リムト伍長の顔面を吹き飛ばした
「ちくしょう、クソ!」
「こちらスペード2-1、航空支援を要請、機銃掃射で敵をなぎ払え!南側の三階の通路だ!」
《こちらヴァルキリー4-1、待ってたぜ、10秒後に食らわせるぞ》
「来るぞぉ!」
その直後、窓枠と並走するようにAH-6リトルバードが高度を下げ、機体の両脇にぶら下げたミニガンが回転を始めた
相手の魔法使いもそれに気づき、杖を向けるが、ミニガンの予備動作は数秒で完了する、どれだけ早く詠唱しても間に合わなかった
一直線になぞるように、ミニガンの一斉掃射が吹き荒れ、壁や調度品、窓ガラス、敵兵に毎秒100発のペースで7.62mm弾を叩き込み、すべてを粉々に粉砕していった
当然、ただの煉瓦造りの建物がそんな出鱈目な機銃掃射に耐えられるはずがなく、掃射が終わる頃には壁に大きな穴が開き、魔法使いは跡形も無くなっていた
「いい仕事だヴァルキリー、感謝する」
《お安い御用さ》
そういうとリトルバードは軽快な動きで飛び去っていった
「前進しろ!」
ミゼット中尉は叫び、残骸しか残ってない扉を蹴破る。中には巻き添えを食らった人々がいた
「中尉、彼らは……」
「敵警備隊の関係者、だと信じたいね」
身体中から血を流した無残な死体になった人々を眺め、ミゼットは次の部屋に向かう
三階にいたクルジド兵はリトルバードの機銃掃射で全滅していた。二階に降りると早くも一階から攻撃を開始していた部隊とやりあうクルジド兵の背中があり、矢の束を武器箱から取り出そうとした少年兵と目があった
「やっちまえ!」
リラビア兵のMP40が勢いよく火を吹き、放たれた9mm弾が階段のバリゲード越しに攻撃を繰り返すクルジド兵に突き刺さる
次々とクルジド兵が血を吹き出しながら倒れていく
「よぉ、ミゼット中尉か!?」
「そちらは、新顔か?」
「ストーン大尉だ!最近来た。よろしくな!」
「それはどうも。下の状況は?」
「下は制圧した。上も終わりならここは晴れて我々の支配下ということだ」
「となると後は手筈通り、ここを橋頭堡として、市街地を制圧となるな」
「そうなるな、では報告は私が済ませておく、ミゼット中尉は正面玄関の守りを固めてくれ」
「了解しました」
「急げ!ここを封鎖だ!」
フェブランド少尉の怒鳴り声に急かされるように有刺鉄線の束を持った工兵が通りを塞ぐように有刺鉄線を敷設していく
「少尉どの、エッカートマンより報告です。敵の警ら隊が接近中、数は八十名」
「ヴァヌハ曹長、エッカートマンは応援を要請してたか?」
「いいえ、奴の分隊はクレイモアを持っていました。通信の声も余裕がありました。警察機構の下っ端なぞ、形無しでしょう」
「であれば、我々はこの南通を死守するぞ、鉄線の敷設急げ!その角に機銃陣地を組むんだ!」
フェブランド少尉の指示の元、兵士達がせわしなく動き、ヘリで空輸された重機関銃を土嚢や木箱で組み上げられた即席陣地に据え付けていく
「フェブランド少尉、敵は来ますかね?」
「クルジド兵もバカばかりでは無いさ。今突っかかってきてるのはたまたま目の前に来た運の無い奴らか、頭のない奴らのどちらかだ。本格的な襲撃は夜か明け方のどちらかだ、今はせいぜい、一般人を保護しこの通りを封鎖し続ける。それだけだ」
フェブランド少尉は愛用のタバコを取り出し、火をつける。吐き出した紫煙は低空飛行していくヘリに吹き散らされた
コロモクの主要幹線道路の四本は各一個中隊により封鎖された。中隊はそれぞれ周辺の一般市民を外へ追いやり、物資を運んできて空になったヘリに詰め込んでいった。そして有刺鉄線や機銃陣地により防衛線を固め、橋頭堡である警備隊本部への道を封鎖していった
幹線道路を外れた裏道にはスナイパーやセントリーガン、地雷や動体センサーを設置し、下水道の出入り口も発見次第溶接などで封鎖していった
橋頭堡である警備隊本部の建物の横に併設された隊員の修練場には追加の資材や兵員を積んだチヌークやオスプレイがひっきりなしに着陸し、中から兵士達がひっきりなしに降りてくる
そして兵士が降りると、次は民間人の行列が動き出す
「落ち着いて順番に!」
「慌てないで!」
リラビア兵や皇国軍の兵士が避難民の列を制御する
《こちらスカイアイ2-3、離陸する》
「スカイアイ幸運を、まて!まて!スカイアイ!」
列を整理していた兵士がヘリの離陸を停止させ、ヘリのドアを開けた
すると泣きじゃくる一人の少女を抱き抱え、必死の表情で手を伸ばす母親の元へ連れて行く
「スカイアイいいぞ!上がれ!奥さん!子供の手を離さないでください!」
「あぁ!ありがとうございます!」
リラビア兵は灰色の狼耳を揺らしながら、シュタールメットを脱ぎ、ため息を吐く
「迫撃砲中隊、展開完了です!」
「西幹線道路に敵の歩兵小隊、劉少尉の中隊が現在接敵、交戦中です!」
「弾薬を積んだオスプレイが間も無く来ます!スカイアイ、ヘリポートを開けろ!」
ひっきりなしにくる報告に対し、警備隊本部の二階、本部長室に広げられた地図に様々な付箋やピンが刺されていく
「そろそろ敵も動き出す頃、地下の下水道はどうなってるか?」
空挺部隊の指揮を務めるヒルド中佐が聞いた
「周辺の用水路の出入り口になる水門や井戸には動体感知式の地雷を設置してあります、しかし数が多く、また家の中などにもあることが確認されてます、そちらまでは手が回っておりません」
ヒルド中佐が腕時計を見る。時刻は午後6時、辺りはすっかり暗くなっている、奇襲にはもってこいかも知れない
「急がせろ、工兵単独ではなく、護衛に一人、いや二人つけて設置させろ。住居に設置したら住居の扉にガムテープでもなんでもいい、目印をつけるのを徹底させろ」
「了解です!」
コロモク地下 下水道
コロモクは遥か昔は水の都として栄えていた都市である
イベール川の支流の上に建てられたこの街は比較的浅く、流れも穏やかであるため、軍事的要所として度重なる戦乱に襲われ、やがてその戦争からの復興を兼ね、当時の王は川を完全に埋め立て、下水道として再利用することを思いつき、それを実行。そうしてコロモクは上下水道を完備した近代都市になったのだ
そのコロモクの下水道、ロスウェル達は悪臭を防ぐために口元を布で覆い、カンテラの明かりを頼りに下水道を進んでいた
「おいロスウェル、ほんとにこうしなきゃいけないのかよ!」
「黙ってろビーキ、この臭いだ、喋るだけで悪い病気を吸うかも知れん。俺たちの軍師様を信じよう」
「そうだぜ、ビーキ。地上から攻めていったあのクルジドの連中の様みたろ?こうして進めば俺たちはああはならないのさ」
「とは言ってもよ、ブレス。こんなキツイ臭いじゃ攻撃の前に色々萎えちまうぜ」
「お前のなら立っててもバレないから平気さ」
「なんだと!」
「静かに!」
ロスウェルがおしゃべりを黙らせ、光が差し込む箇所を見上げた
「ここか?」
「ちょっと待て、見せろ」
ロスウェルとビーキが頭を寄せ合って地図を見る
「上ってみた方が早くないか?」
「……いや、ここで間違いないはずだ」
そういうとロスウェルはマスケット銃をスリングで背中に回す
梯子を登りきり、上の鉄格子を慎重に動かす
「……いない、いくぞ!」
鉄格子をずらし、下水道から這い出た
下水道から這い出た五人は辺りを見渡す、人気はまるでないが、生き物の息遣いは聞こえた
「本当に魔獣園にきちまった」
ここは学園の側にある魔獣園、魔獣の調教や家畜化といった分野の研究の為世界各地から魔獣が集められ、収容されている
ちなみに一般市民にも一部開放されており、まんま動物園としての側面もある
「さて、予定時間まで一時間切ってる、鍵はどこだ?」
「向こうの事務所だ。教授はいつもあそこに入れていた」
マスケット銃に紙製薬莢を装填し、園内を歩き始めた
「敵襲!敵襲!」
「魔獣だぁ!魔獣が来たぞぉ!」
警備隊本部から二ブロックほど離れたジュリエットポイントと呼ばれる建物
十字路の角に立つ二階建ての雑貨屋、レンガとセメントで組まれ、通りに面して窓が二つ空いているこの建物からは陸海空軍の共通武装としてすっかり定着したM2重機関銃が銃口をのぞかせ、盛んに目の前に迫り来る狼のような魔獣に弾丸を放っていた
「パルク伍長、これまずくないか!」
「ブラックウルフがこんなに群れで来るなんて、まずいどころの話ではありません!」
リラビア軍のパルク伍長と皇国陸軍のセミス少尉がMP40とG36kで弾幕を張りながら怒鳴り合った
「ブラックウルフは基本、後ろに一回り大きなリーダー格のやつが居ます!そいつを倒せば少しは統率が無くなるはずです!」
「ちくしょう!ゾラ!迫撃砲はまだか!?」
「現在砲身を冷却中とのことです!うおわっ!」
物陰からとびかかって、噛み付いてきた狼をG36を盾にして防ぎ、返す刃で銃剣を狼の頭に突き込む
「くそったれ!このままじゃ全滅だ!本部に応援を要請しろ!火力が足りない!せめて航空支援を!」
「了解!こちらジュリエット2-6!大隊本部聞こえるか!」
《こちらブルズアイ、増援なら今リラビアの空挺兵一個小隊を向かわせた、なんとか持ち堪えてくれ》
「もっと高い火力が必要だ!」
《勘弁してくれ!出撃可能な航空機をフル活用しているんだ!ガンシップや対戦車ヘリはデカブツの排除に忙しい!手が空いたら向かわせる、それまで粘れ!》
「ちくしょうッ!少尉!増援はリラビアの空挺兵一個小隊が来ます!」
「無い物ねだりしても仕方ない!全員踏ん張れ!魔法も爆薬もジャンジャン使え!」
セミス少尉の号令と共に弾幕の密度がより上がった。空挺兵の到着までになんとか敵とこちらの距離を稼がねばならなかった
《こちらランジャル軍曹、お待たせしました!空爆のお時間です!》
「待ってたぞ!このくそ狼どもの親玉を吹き飛ばしてやれ!」
《了解であります!クソ野郎を燃やしてやるぜ!》
やがて戦場に飛来したのは腰のあたりから様々な鳥類の翼を伸ばしたリラビア軍空挺兵八人、戦火に燃えるコロモクの空を自在に飛び、暗視装置越しにブラックウルフの親玉の姿を確認すると手にしたM79グレネードランチャーを構える
「小隊連続射撃、目標、ブラックウルフの親玉、テェッ!」
号令と共に六発の40mm炸裂弾がブラックウルフの親玉に直撃する
「次弾焼夷弾!急げ!」
斜め掛けに吊るした弾帯から次弾を取り出し、中折れ式のM79に次の弾を押し込む
「隊長!目標が動きました!」
そう報告してきたのは墨汁を垂らしたような上品な烏の翼をはためかせたシャメロ伍長である
「標的建物内に逃げました、あの飯屋の看板が上がっている所です!」
「上出来だ、シャメロ伍長。ご褒美にウチの弟をファックしていいぞ!」
「ありがとうございます!隊長殿の弟様は自分の好みであります!」
「なんのカミングアウトだよ……」
「日本軍が言ってたぜ、大人の女が小さい男を襲うのってたしかオネショタっていうらしいぞ、あれ」
「えぇ、なにそれ怖い」
「狙えぇ!」
隊員たちのおしゃべりもそこそこに部隊はブラックウルフの逃げ込んだ建物に狙いを定める
「テェッ!」
今度も六発の焼夷弾が撃ち込まれ、着弾と同時に炸裂と同時に粘性の高いナパームが撒き散らされ、辺りに貼りつき、皮膚を溶かし、肉や内臓を直接熱してくナパーム、そして大量に発生された一酸化炭素で建物に籠ったブラックウルフたちどころに命を落とした
「よぉし!上出来だ!擲弾投下!その後銃撃を浴びせろ!」
ランジャル軍曹がM28手榴弾の安全ピンを引き抜き、下へ投げる統率を失い、オロオロしているブラックウルフの塊が炸裂と共に吹き飛んだ
「撃てぇ!空から一方的に痛めつけてやれぇ!」
「ヒューっ!サイコーだぜぇ!」
「地上の連中も持ち直したようだな、出張ってきた甲斐があったぜ」
ランジャル軍曹はMP40に新しい弾倉を差し込み辺りを見渡す
「軍曹、なぜコロモクにこれほどの魔獣がいるのでしょうか?」
「シャメロ伍長、この街にはクルジドのクズが来る前からあったろ、魔獣園」
「そういえば、そこからきたのですか」
「あそこは家畜化以外にも魔獣の軍事転用も研究してるとかいう噂があるからな。確かにこの数のブラックウルフが襲ってくりゃ並みの軍隊なら全滅だろうさ」
「確かに、恐ろしいですね」
「問題なのは、何故今更魔獣が襲ってきたのかだ」
「というと?」
「誰かが魔獣の檻を開けたんじゃねーのかって話よ。タイミングが良すぎる」
「とすると、この攻撃は今後も続く可能性があると?」
「さぁてな」
大隊本部
「被害の程は?」
ヒルド中佐が無線機のマイクを下ろし、伝令兵に聞いた
「死者23名、負傷者14名。重傷者や死者は既にヘリにて搬出が始まってます。原因は魔獣園から脱走した魔獣、並びに敵のゲリラ部隊です」
「ゲリラ部隊?」
「はい、魔獣の襲撃があったのはここジュリエットポイント、そして敵のゲリラ部隊が奇襲を仕掛けたのはヘリポートが近いエコーポイントです。運搬中の物資などが敵の魔法により破壊されました」
「なんということだ、敵が魔獣の動きをコントロールして連携するなど、例外が無さすぎる」
ヒルド中佐が頭を抱える
「リラビア軍によると今回襲撃してきたブラックウルフの群れはおそらくウルフの赤子を取り戻すために我々に襲撃を仕掛けたのだと思われます」
「なんだそれは?誰かが捨て犬を拾ったら、それが狼だったということか?」
「いえ、エコーポイントを襲撃した敵ゲリラの周辺にはブラックウルフの幼体の死骸が多数転がっていました。リラビアの研究者によるとブラックウルフの仲間意識を利用してブラックウルフの群れを制御する実験が行われていたらしく、今回はこれでやられたのでしょう」
「ジュリエットポイントはエコーポイントのちょうど真反対。くそったれ、敵は下水道を使えばこの攻撃をどこからでも行えるってわけか!」
ヒルド中佐はいらただしげに頭を掻き毟った
「こうなったら爆撃で吹き飛ばしてやる」
「魔獣が逃げ出したらまずいのでは?」
「……それもそうだな、だがこのままほっといてもジリ貧だ。あらんかぎりの火力で魔獣園とやらを火の海に変えてやれ、生き残る術が無くなるほどに強力なやつをだ」
「了解しました」




