表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
30/82

フォーリングストーン作戦

戦勝パーティから数ヶ月後


玄武島 統合作戦本部


「ミリア大将。怪我の具合は?」


「仕事に支障はありません。それよりも閣下。心配なのは貴方様の方です」

バラードでの戦闘の怪我を微塵も感じさせない毅然とした態度でそう言った


「であれば双方問題なしだな。ところであの、なんと言ったか、そうウィリアムズだったか。奴が言ってた情報の確度は?」


「南方戦線の部隊が現在確認中ですが、おそらく正確かと、近いうちに南方戦線から部隊を抽出し、殲滅に移ります」


「順調そうで何よりだ。で、これから何を見れるのか?」


「戦線は前進しました、しかし膠着状態に陥り、今回の攻撃は戦線突破のための作戦です」


「どこをやるんだ?」


「その前に現在の戦況の整理と説明をしても構いませんか?」


「ちょうどいい頼むよ」

そういうとミリア大将はリモコンを操作し、自動でカーテンを閉めさせ、壁の大型モニターに映像を映しだした


「現在の最前線はバスディーグを出て5kmほど行ったマッポレア平原です。敵はリバティ基地を起点にして攻撃をおこなってきており、我が軍はリバティ基地から二キロ離れた地点の林を中心に展開、野砲はそこから更に一キロ後方、飛行場はバスディーグの城壁と接する位置に建設済みです」


「抜かりないな」


「火力優勢ドクトリンという奴です。くわえて数の優位を確保するために、クルジド国の流通と経済の拠点のコロモク、そして敵クルジド国で最大の兵器廠そして海上輸送の根拠地であるマスドットリオの二箇所を爆撃、ならびに海軍の艦砲射撃を浴びせます。その後空挺部隊を投下し橋頭堡を確立します。そうすれば敵は一番近いコロモクに下がり、奪還を図るでしょう。その隙をつき地上部隊を追撃させ、敵の戦線を突破。その後空挺部隊と地上部隊により敵の増援を挟み撃ちにし撃退、というプランで動いております」


「ふむ」

攻撃、ではなく粉砕とミリアは言った


「もう核兵器を実装したのか?開発した覚えはないけど?」


「核は使いません。しかしTNT換算したら核を上回る量の爆弾と砲弾を奴らの頭の上に降らす予定です、陸海空の三軍の質が第二次大戦後期、一部は2000年代まであがり、規模も格段に大きくなりました、攻勢に出るにも好機です」


「無差別爆撃かい?俺の時代の戦争でもあったけど、あまり褒められたものではなかったぞ」


「人道に反するというのは重々承知です。爆撃の対象は軍事施設やそれらに付随する施設に限定するのを徹底させております。それにここに住まう人々はクルジドに下った以上、明日は戦場へ駆り出されます。つまり彼ら彼女らはクルジド国の予備兵力という見方もできます」

ミリアは至って真面目だ。それらは嘘偽りなく全てが真実でもある事を裏付けていた


「なるほど、色々突っ込まれそうだが、お題目としてはギリギリ及第点だな」


「こういうのは士気にも関わります十字架を背負うのは現場の兵士ではなく、我々上のものでなくてはなりません。戦後、この責任問題はきっちり追及してもらいます」

そういうとミリアは書類を一枚出してきた


フォーリングストーン作戦。バスディーグから比較的近い重要性の高い都市を爆撃し、バスディーグとの最前線からの戦力誘引、並びに空挺部隊の投入により膠着状態の戦線を突破するための起爆剤とする作戦

山を転がり落ちる石の様に、昨日までの平和が一瞬にして戦争に転がり落ちる。まさに落石


「最終意思決定書です。これにサインしたら最後。作戦は決行されます」


「許可します」

大器の判決は即行だった。むしろ押すのを今か今かと待っていた節すらあった


「ただな、ミリア大将」


「はい」


「十字架は俺も背負う。その理論で言えば俺にも責任があるからな」

























クルジド国

主要都市コロモク 上空8000メートル

国後少佐

B-29 ドレッドノート4


「国後少佐、隊長機より入電。上層部が決断した様です、作戦は決行と」


「了解した、出来ればこのまま遊覧飛行と洒落込みたかったがな」

国後少佐はガムを噛みながらパイロットへの無線を繋ぎ、方位を伝える


《ドレッドノート各機へ、こちらスカイアイ。上級司令部(アイアンフェイス)よりフォーリングストーン作戦の裁可が降りました。これより作戦行動に移れ、ドレッドノート隊はコロモクへ爆撃を敢行、その後空挺部隊が降下してコロモクを制圧する、爆撃は軍事施設に限定、集中爆撃してください》


《ドレッドノートリーダーより各機へ、聞いての通りだ。全機フォーメーションブラボー、奴らを石器時代に返してやるぞ》


「やるぞ野郎ども!爆弾槽開け!」

狙いは上空待機中にとっくに定まっていた。コロモクの大学院、並びに周辺の軍事施設、敵軍の練兵場や兵舎の群れ

可能な限り市街地には落とさない。だが軍事施設と市街地との距離が非常に近く、その点が唯一の不安材料だった


「投下!」

国後少佐の合図と共に爆弾が投下される。数珠つなぎになった100ポンド爆弾がジャックポットを当てたスロットのコインの様に勢いよく機外へと排出されていく

200発近い100ポンド爆弾が機外に排出され、空気抵抗により右は左へと揺れながらも最後には標的へと真っ直ぐ落ちていった


その結果は、まさに道だった。爆撃が連続で当たり、爆炎による一本道が出来ていた


まさに爆発による絨毯が出来ていた。満遍なく、均すように爆弾を落とし、等しく平等に死へと誘って行った


「悲しいけど、これが戦争って奴なのか……」


「誰も彼もが狂気に取り憑かれてしまう、この間の戦闘でみんなタガが外れちまってるんだ」

国後少佐が呟く、おもむろに携帯端末を取り出した


「少佐?」


「軍人である以上胸糞悪い任務でもやらねばならぬ。でも音楽聴くぐらいいいだろう」

端末を接続し、再生ボタンを押す。再生された音楽はヴェネツィアの音楽家、アントニオヴィヴァルディの楽曲だった


「なんの関係もない市民達に、鎮魂歌を捧げるぐらい、よかろう」


「……そうですね」


複数のバイオリンの協奏曲に導かれるように爆弾がレールを滑り、数珠つなぎの爆弾が空中で別れ、それぞれが必殺の殺意を抱き、コロモクに立ち並ぶ民家に降り注ぐ

干し草やレンガの屋根を貫き、木で出来た屋根の梁を砕き、家の中で炸裂。家を構成する壁や基礎を粉砕し、中にいた人々も同じようにバラバラの焦げた破片へと作り替えていった


爆撃は無慈悲だった。男も女も、老いも若いも、身分や立場でさえ関係なく無差別に爆撃が加えられた


爆風や衝撃波はただのガラス片ですら凶器に変える。玩具屋のショーウィンドウを見ていた少女は次の瞬間には身体中にガラス片を突き刺して悲痛な絶叫をあげた

逃げ惑う人々に倒された窯や炉の火があちこちに燃え移り、二次被害の火災がコロモクを襲う。都市計画などはされておらず、無秩序に商店が軒を連ねるコロモクの一大商店街は既に火の海であり、身体の火を消そうと地面をのたうちまわる人、轡と一緒に燃え盛る馬は熱さと衝撃からパニックとなり、逃げ惑う人々を踏み潰し、蹴り飛ばしながら道を疾走する

全身甲冑を着込んだ騎士は瞬く間に蒸し焼きになり、水を操る魔法使いが懸命に建物へ水をかけるが直後、爆弾の至近弾をくらい、手足のない胴体のみが宙を舞った


家という家が、道という道が、炎で溢れ、爆風が薙ぎ払っていった


《スカイアイより各ドレッドノート隊。敵のドラゴンの存在を確認しました》


《ドレッドノートリーダーより各機!密集隊形!名簿にないお客さんにはお帰り願え!》


《ドレッドノートリーダー、後方より護衛機接近中》


《了解、何機だ!?》


《アヴェンジャー隊は四機とスカイフォックス隊四機のみだ》


《二個飛行小隊で俺たち28機を守り切れるのか!?どういうことだよ!?》


《腕は折り紙付きです。敵の数も多くない心配なさらないでください》






















《アヴェンジャーリーダー、こちらスカイアイ。爆撃連隊へ向かうドラゴンの集団を確認、数は8匹、高度5000。すぐに叩き落としてください》


「了解、アヴェンジャー各隊へ通達。高度6000(エンジェル60)へ上昇」

リットリオ曹長が無線機へ向けてそういい、操縦桿を操作し、搭乗機である零式艦上戦闘機の機首を上げる


零式艦上戦闘機四機を要するアヴェンジャー隊に続くようにメッサーシュミットBf109四機も上昇していった


《メッサーシュミットか、向こうの方がいいかもしれんな、速度や上昇距離が段違いだ》


《その点については同意だぜ、オマケにこのジークの中は狭くていけねぇ》


《おしゃべりがすぎるわよ、二人とも》


《ヘヘヘッ、エル軍曹の小さなお尻と違って、日間賀伍長や俺の尻じゃこのコックピットは狭いのは事実ですよ》


「エポル軍曹、そろそろ接敵するぞ。デカいケツをしめていけ、彼氏に飽きられて捨てられるぞ」


《あいあい、了解です》

リットリオ曹長は高度計をチラッと一瞬だけ見たのち自分たちよりはるか高空に陣取ったメッサーシュミットを見た


(ドラゴン共の最大高度はおおよそ4000から5000、それ以上は乗り手にも大きな負担がかかるはず。であればここから逆落としで奴らの頭を叩く!)

HMDに投影された敵のアイコンと自分との距離を慎重に確かめ、機銃の安全装置を解除する


「行くぞッ!続けッ!」

リットリオ曹長が叫ぶと同時に機体が左方向へぐらりと傾き、糸に引かれるように地上へ真っ逆さまに落ちていった


主翼に貼られた装甲がたわみ、空気抵抗で操縦桿が逆らうようにガタガタと揺れ出した


エンジン音と翼とプロペラが空気を切り裂く音が混じり合い、腹の底に響く独特の音を発する。リットリオ曹長は視線を一点に固めていた。狙うのは先頭をいく旗持ちのドラゴン、ただそれのみ


かつてはいいようにやられた、苦い思い出がよぎる。だがあの頃とは違う


()()()()()により手に入れた新鋭の戦闘機とそれを運用する小隊のリーダーという地位。格闘戦に特化した至高のレシプロ戦闘機、この世界ではドラゴンを殺すために生まれた戦闘機


複葉機とは違う。木ではなく、軽く丈夫なアルミ装甲、速度も、武装も、昔とは違う


「アヴェンジャー各員、奴らに教育してやれ。空は我々のものだ。蜥蜴は蜥蜴らしく地を這え、とな」


《《《イエッサッー!!!》》》

一分もしないうちに距離が1000を切り、リットリオ曹長は機銃の引き金を引いた


12.7mm重機関銃が4門、翼の両翼と胴体前方に付けられた機銃が一斉に火を吹き、先頭を悠々と飛んでいるドラゴンに弾丸の雨を降らせた


ドラゴンの搭乗員は太陽を背に突っ込んでくるこちらに気づくも、既に遅く、重機関銃の掃射をまともにくらい、身体に血飛沫と共に身体中に穴を穿たれ、ドラゴンの背中に括り付けられた轡や部分鎧を砕き、その下に守られるべき肉体に銃弾を叩き込まれた

急降下した四機のゼロ戦とメッサーシュミットは両翼にそれぞれ搭載された12.7mm重機関銃をそれぞれのドラゴンに指向し、豪雨のような銃撃を浴びせる。生き残ったのはたったの一騎。たまたま襲撃に気付き、一番最後に死ぬべきだったそのドラゴンが生き残ったのだ


世界最強の称号を欲しいままにしたドラゴンの部隊。それが瞬く間に7騎も撃墜されたのだ。生き残った一人の決断は早く、手綱を操り、素早くドラゴンの首を反対に向け脱兎の如く逃げ出したのだ


「追うぞ!アヴェンジャー小隊続け!」

リットリオ曹長は素早く決断を下し、スロットルを踏み、機首を上げて上昇する


《リットリオ曹長、こちらスカイフォックス1、あのドラゴンは我々に任せたまえ》


「お手を煩わせるまでもありません、中尉。あの蜥蜴野郎は私が地獄に見送ってきます」


《……いいだろう、まかせる。スカイフォックス隊はドレッドノート隊の護衛につく》


「了解」

無線で会話しながらリットリオ曹長は照準のスコープに一目散に逃げ出すドラゴンの背中を映す


「さよならだ、蜥蜴野郎」

引き金を引いた。曳光弾からなる光の線がドラゴンの全身に突き刺さり、血飛沫や鎧、人間の破片を撒き散らし、断末魔と共に地上へと落ちていった


「こちらアヴェンジャーリーダー。敵機撃墜。スカイアイ、他にお客さんはいるか?」


《現状レーダーはクリア。敵の増援なし、ナイスファイトです》


「そりゃどうも」

褒められてもリットリオ曹長は嬉しくなさそうだ。燃料計と機銃の残弾を記したメーターを眺め、空の上に獲物がいないか目を配る


最後のドラゴンは敵陣の近くで撃ち落としたのでその動揺は敵陣に大きく広がっていた


《スカイアイよりアヴェンジャー隊へ、突出しすぎです。スカイフォックス隊へ合流してください》


「アヴェンジャーリーダー了解。小隊、我に続け」

リットリオは最後に撃ち落としたドラゴンが掲げた旗を思い出していた。剣を持った少女の絵だった。指原軍曹をやったドラゴンの旗ではなかった


「必ず俺が殺す。必ず俺が殺す」

復讐に燃えるリットリオ曹長は操縦桿を握りしめ、爆撃機の護衛に戻った





















クルジド国 マスドットリオ

大日本皇国海軍 旗艦ドレッドノート


ここはクルジド国最大の兵器廠と港湾都市マスドットリオである


元はフランドルド公国という国であり、領土としてはこの港町を中心とした小さな国だが、何よりも船による貿易と優れた冶金技術に力を入れており、武器や日用品、造船や異国との交易で栄えた国だった


クルジド国に制圧されてからはクルジド国の軍が支配し、各地に徴用された人々や兵器、食料などを海路から輸送する拠点として機能していた


そのマスドットリオの沿岸1キロ地点、大日本皇国が保有する戦艦、空母、駆逐艦が合わせて四十隻、遊弋していた


「綺麗な街じゃないか」

白磁のような白い外壁の街並みが海岸沿いにズラッと並ぶ美しい街であり、沖合からでも大勢の人々の営みがみてとれた

三日月型に並んだ街並みから伸びる多くの桟橋には何百隻もの軍船が止まっており、松明の灯りが忙しく動いている


「神崎大将殿、全艦攻撃準備完了との事です」

ドレッドノート艦橋で艦長のルーク中将が報告したのは大日本皇国海軍を統べる大日本皇国海軍大将の神崎大将である

制帽の位置を直し、神崎大将はギラリと前を睨んだ


「よろしい、全艦砲撃開始、ならびに全航空機発艦開始」


「全艦、攻撃開始!」

港町であるマスドットリオに対し、ミリアは海上からの艦砲射撃と空母艦載機による空爆という攻撃に打って出たのだ


この攻撃の最大の目的は敵の兵器廠の破壊、ならびに港湾設備の破壊による敵の海上輸送能力の完全撲滅。これに尽きた


作戦に参加した艦艇は戦艦はドレッドノート級戦艦ドレッドノート、ならびにアイオワ級戦艦のアイオワ、ニュージャージー、ミズーリの四隻による全力出撃である


空母はエセックス級空母のエセックス、ヨークタウンの二隻からなる艦載機による戦爆連合二百機


駆逐艦はWWCにおいて一番安く手に入れられる睦月型や海風型の駆逐艦を合わせて二十五隻、それぞれVLSや速射砲などに換装されて投入している


そして五隻は油槽船で、残る四隻は揚陸艦を主体とした上陸部隊である


ドレッドノートの上空を零式艦上戦闘機に護衛されたSBDドーントレスやA-1スカイレーダーが次々と空へ上がっていく


《甲板要員へ通達、主砲を発射する、安全な箇所へ退避せよ!》

その放送と共にサイレンが鳴り響き甲板で主砲の側にいた兵士達が艦内や遮蔽物に駆け込む


近代化改装を受けたこのドレッドノートは40.5cm二連装主砲を前後に二基ずつ計八門の主砲を搭載している

各砲は自動装填機構が備わっており、斉射から2分で同じ目標へ砲弾を叩き込むことが可能である


エンジンはガスタービン式に改装されており、最高30ノットは可能であり、艦の中央には四連装対空ロケットランチャーも備えられており、まさに海の要塞にふさわしい戦闘力を保持している


「撃ち方、始めぇ!」


「てぇッ!」

砲術長の号令と共にドレッドノートの主砲が発射された

火山の爆発を想起させるような巨大な発砲炎と共に艦橋の窓が揺れた

ビリビリと、振動が身体中に響き、保護された筈の艦橋内に衝撃が走った


「やはり、演習とは違うな」

神崎大将は敏感にその感覚を感じ取っていた


実戦の重み、というのだろうか。今まで海上の的にしか攻撃していなかった海軍だが、今、この瞬間から、彼らは国家の暴力装置としての存在意義を見出したのだ

戦艦からは巨大な砲弾が、駆逐艦からはミサイルが、空母からは焼夷弾や爆弾を抱えた艦載機がマスドットリオの街へと殺到する


「着弾まで、5、4、3、2、1、今ッ!」

その直後、黎明の街並みにいくつもの炎の柱が立ち上った


「着弾観測機より映像確認、目標1から目標25まで沈黙」


「敵の軍船が多数炎上!」


「次弾装填急げ!アルファビーチの確保を急げ!」


「航空隊市街地上空へ到達、目標地点アンダーグラウンド(兵器廠)を確認しました」

次々と報告が入る中、ルーク中将は神崎大将に向き直る


「それでは私はCICにて指揮を取ります」


「任せたぞ」

神崎大将は蓄えた白髭を撫でながら燃え盛るマスドットリオの街を見つめる


あの炎の下には大勢の無辜の市民がいるのだ。圧政者に侵略され、自分たちの全てを抑圧されて生かされてきたのと一瞬にして全てを灰塵に化して圧政者を撃退する自分たち、どっちが悪者なのだろうか


「それを評価するのは、我々ではない。後世の歴史家と人々の役目です」

そこへ声をかけてきたのは神崎大将の従兵であるシルディア大尉である


「……口に出してたかね?」


「いいえ」

シルディア大尉は栗毛色のショートボブの髪の毛を揺らしながら否定した


「相変わらず、君は心が読めるのかね?」


「それもいいえです。よく見ればどんな人でも考えはわかるのです」

若干得意げな顔をしながらシルディア大尉はソーサーに乗ったコーヒーを差し出した


「ありがとう」


「差し出がましいようですが、我々に出来ることは敵味方含めて出る死人の数を出来る限り減らして作戦を完遂する、そうすれば少しは歴史家の人も見直してくれるかと」


「そうだな、違いない」

そう呟くと神崎大将はコーヒーをすすった。街は赤く燃えていた


黎明の空を映したタールのように黒い海に反射する炎は吹き出る血のように紅く映り、そこへ白い航跡を引きながら複数隻の揚陸艇や水陸両用戦車などが切り込んでいく


さながら海中に撒き散らされた血に集まるホオジロザメの群れのようであった




















揚陸艇はビーチに乗り上げるギリギリ手前で止まり、正面のバウランプと呼ばれる扉が砂浜に叩きつけられるようにおろされた


「総員突撃ぃ!」

レイヴン少尉の号令と共に詰め込まれていた30名の兵士達は一斉に駆け出した


兵士が全員降りたのを確認した上陸用舟艇はバウランプを戻し、バックで元来た方向へ戻る。次の兵員を乗せるためだ


「レイヴン少尉!索敵魔法だと周囲に敵はいません!」


「よし、パロ二等兵、ヒギンズ伍長、あの丘の反対側を偵察してこい!」


「了解、いくぞ!」

ヒギンズ伍長と犬獣人の特徴を持ったパロ二等兵が駆け出す、味方識別の為の青のサイリウムの光はあっという間に小さくなった


「ラナ軍曹、欠員は?」


「いません!スペード2-5、小隊45名全員居ます!」


「よぉし!ヒギンズが戻り次第前進だ!各自武器をチェックしろ!」

そう言われて何名かが思い出したように自分の武器を覆うビニールを引き裂く、レイヴン少尉も自分のG36Kに弾丸が装填されているのを確認した


「少尉、ヒギンズ伍長より無線です、敵の哨戒と思われる騎兵8名と交戦、撃退したと、それ以外の敵影はなしと」


「よぉし前進だ!LVTと共に進めぇ!」

ちょうど上陸した水陸両用戦車の後ろに隠れるような位置について走る


「ラナ軍曹、索敵魔法に反応があり次第報告せよ」


「了解です!」

エルフの女性兵士であるラナ軍曹はMP40を手にしながら手元の魔法陣に意識を集中する


今回の作戦にはリラビア魔法国からの近代化部隊も大勢が参加しており、日リ混成部隊の全てが投入されていた


これにはマスドットリオの住人に対しての配慮もあった。世界各地から徴兵された人々がおり、そのような中に異世界の軍勢が入っても分かり合えるとは思えないが、リラビアの協力があればまだ違うだろうという上層部の判断だった


やがて上陸第一派の全員が砂浜と市街地の境目になっている丘にたどり着いた


「ヒギンズ伍長、報告を」


「はい、八騎の騎兵が向こうからやってきて我々を見るなり抜刀、襲いかかってきたので撃退しました。紋章はクルジド国軍の警ら隊の物です」


「よし、よくやったラナ軍曹、司令部へ報告せよ」


「了解です!」

その直後、少し離れた街の向こう側で大きな爆発が起きた


「司令部より報告、兵器廠が大爆発を起こしました」


「よし、目標地点はここより2km先だ!走れ!」

レイヴン少尉が命令を出し、LVTと歩兵が一丸となって進み始めた


「市街地に入る!総員近接戦闘に備え!民間人が大勢いる、誤射に注意!」

レイヴン少尉は司令部に指定された目標、兵器廠に向けて走り出した


この辺りは敵軍の拠点が無かったので砲撃はされてないが、尋常じゃない爆音に目を覚ました街の住人達がさらに現れた異世界の軍勢を目の当たりにして悲鳴と共に家の中に引っ込んでいった


「歓迎は無しかな」


「みんな眠たいんだろ」

細く空いている窓へ銃口を向ける。すると脅かした貝のように両開きの窓が閉まる


「敵がいないのは良いことだ、戦車を援護しろ前へ!」

LVTの前に四名程の兵士が飛び出る。索敵魔法を使うラナ軍曹と鬼人のジャロン一等兵、普通の人間で日本皇国軍のベティ軍曹とヘルマン二等兵が各々の武器を構えて先頭に立つ


「うりゃああああああ!!!」

路地裏から急に現れたクルジド兵が剣を振り上げた


「ぜぇえええい!」

ジャロン一等兵は手にしたモーゼルで振り下ろされた剣を防ぎ、鬼人の優れた腕力で剣を弾き飛ばし、すかさず銃剣でクルジド兵の背中を貫いた


「ふんっ!他愛もないわい!」


「よくやった、ジャロン一等兵」


「ありがとうございました!ラナ十人隊長殿!」


「おい、私はもう十人隊長ではない、軍曹と呼べ!」


「申し訳ありません!軍曹殿!」

ジャロン一等兵は一言謝罪すると再びモーゼルを拾い、駆け出す


(意識改革も順調、か……)

リラビア軍の何人隊長という呼称は戦場では呼びにくい。ということで日リ混成部隊の間だけでも呼称を日本皇国軍に合わせてみたのだ

試験的だが意識改革は順調であった


ドーントレスの四機編隊が頭上を舐めるように低空飛行で飛びさり、上昇したタイミングで後部銃座から照明弾を投下していく


「前方より敵兵!二十名ほど!」

ラナ軍曹がそう叫び、全員が戦闘準備を整える


開幕を告げたのはLVTの主砲、75mm砲である。前方で整列し、隊長と思しき男が馬に跨り、先頭で激励の言葉をかけていたところだった

75mm砲弾が直撃し、馬や胴体は木っ端微塵。厳しい表情の首だけが宙を舞った


それを号砲に後続の兵士達が通りの左右に展開、道に積まれた木箱や壁に身を隠し、未だに整列しているクルジド兵に銃弾を叩き込んでいく

金属鎧と弾丸が衝突した火花が無数に散り、その直後、敵兵は血を吹き出しながらバタバタと倒れていく


「昔の装甲車でも案外なんとかなるな」

レイヴン少尉は盛んに12.7mm重機関銃でクルジド兵の生き残りに容赦ない射撃を繰り返すLVTを眺めた

LAV25やBTRなどの調達が間に合わなかったので旧式の車両が投入されて若干不安だったが、今のところなんの問題も無く、人を殺すのに新しい古いは関係ないのだなと感じられた


『クルジドのクソ野郎!こっちみて笑顔!』と車体正面に落書きされており、ブラックジョークを通り越して漆黒になっていた


それと同じ光景が街中のあちこちで展開され、騎兵や方陣を組んでも近づく前に遠距離から打ち倒される、まさに騎士の時代の終焉を彷彿とさせた


「兵器廠まであと200m!」

朝日と燃え盛る兵器廠の炎で辺りは昼間のように明るい、焼け出されたクルジド兵と思しき死体があちこちに転がる中、既に先に到達した兵士や装甲車が激しい銃撃を兵器廠へ向けて浴びせていた


レイヴン少尉は左腕につけた端末を操作し、上空に飛ばした携帯型の小型ドローンの映像を眺める


「敵は、たいしたことないな。ほとんどの敵は死に体だ。敵をマークした、HMDに共有したぞ」


「魔法兵、詠唱!」

ラナ軍曹の指示と共に何人かのリラビア兵がライフルの銃剣を取り外し、腰から取り出した杖を先端に取り付けた

いざという時は刺突に使える先端が鋭く尖ったスパイク状の杖、ライフルを構え、呪文を詠唱していく


「頭を出させるな!撃て撃てぇ!」

MG42が猛烈な弾幕を浴びせ続け、敵が隠れる煉瓦の壁がどんどん削れていく

やがて呪文の詠唱が終わり、発射された火の玉や高圧水流が壁を破壊し、裏に隠れた敵兵を殺傷した


「ロケットランチャーの代わりぐらいにはなりそうだな、便利だ」


「水筒も入らなくなるから楽ですよ」

ラナ軍曹がMP40の先端に取り付けた杖を持ち上げながら言う


「ふん、それが安定して出せれば良いんだけどな」

そういうとレイヴン少尉は手榴弾を投げ、遮蔽物から飛び出る


「前進!兵器廠を落とせッ!」


その声に呼応するように遮蔽物に伏せていた全員が立ち上がり、LAVやLVTが一斉に前に進み始めた

編隊を組んだA-1スカイレーダーがダメ押しのロケット弾を叩き込んで飛び去る


瓦礫と化した壁を飛び越え、背中を見せて逃げ出すクルジド兵に弾丸を叩き込む


「走れ走れ!降伏するもの以外は容赦するな!」

レイヴン少尉は声を張り上げながらマガジンを撃ち尽くしたG36Kを脇に吊るし、サイドアームのグロックを引き抜く

脇目も振らず敵は兵器廠裏の森に逃げていく


「よぉし予定通りだ。こちらスペース2-5、砲撃支援要請座標3-7-4一帯!敵が逃げ込んでる!」


《要請は既に受けてる、もう照準はついてるぞ、物陰に伏せとけ!》


「艦砲射撃が来るぞ!総員退避!」

レイヴン少尉の怒鳴り声と共に魔法兵が呪文を詠唱し終え、即席の退避壕を作り終える


「もっと詰めろ!」


「この状態で一発でも誰かこいたらキツイな!」


「耳を塞げ、口開けろ!障壁展開!」

その直後、戦艦の全力斉射が森に着弾。森の木々が薙ぎ払われ、天高く炎が立ち上った


各々の物陰に隠れたものの、その爆風は凄まじく、障壁や壁の残骸はあっという間に吹き飛んだ

それだけにとどまらず、艦載機が結集し、さらにナパームによる大規模な爆撃を開始した


「ちくしょうが!この世の終わりかよ!」


「あの炎だ、骨も残るまい」

艦載機の爆撃は何回にも渡り、四機編隊が落としたと思ったらまた別の編隊が落とし、さらに別の編隊が取っ替え引っ替えに爆撃して行った


「ポイントの無駄遣いだろうに」


「海軍の知り合いが言ってたけど、出撃の無さすぎでナパームとか爆弾の期限が切れそうになってるとかなんとか」


「腐らせるよりマシ、か……」

レイヴン少尉が辺りで燃える炎でタバコに火をつける


「魔法兵は塹壕を拡張!急げ急げ!誤爆に殺されたくなければ陣地化を急げ!」

その一言で部隊はタコツボを飛び出し、スコップを取り出し、魔法の詠唱を始め、瓦解した兵器廠の跡地に塹壕陣地を作り始めた






マスドットリオに駐留していたクルジド国の軍団は壊滅。総死者数は2万人ほどと言われ、逆に徴兵されていた二十万近くの人々は解放された



ご意見ご感想お待ちしてます

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ