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ブロークンアロー

ようやく主人公が戦うって遅すぎんぞ、なんだこの小説

「うぐっ……えふっ、ごふっ……」

激痛により目を覚ました大器はゆっくりと目を覚ました

視界は掠れており、口や眼の中が粉塵でゴロゴロジャリジャリする。お腹の上に落ちている瓦礫を払い除け、なんとか立ち上がる


「閣下、お目覚めですか」

そこへ現れたのは全身ボロボロで頭から血を流した兵士だ


「君は?」


「レイトン伍長であります。ミリア大将の命令でストーン大尉以下他三名であなたとリビー殿を安全なヘリの着陸地点まで護衛してましたが、敵の魔法使いと接触、抵抗虚しく、部隊は壊滅、私以外は行方不明です」


「なんということだ、早く探さなくては……」


「いけません!奴が側まで来てます!リビー殿が抑えてくれていますが、いつまた攻撃してくるかはわかりません!」


「だったらなおさら助けないと!」


「リビー殿の思いを無駄にしないでください!」

レイトン伍長に引き倒されるように引き止められ、大器は地面を転がった


「彼女も逃げたかった!でもあなたを庇って、祖国を救うために自ら犠牲になった!その想いを、無駄にしないでください!」


「くっそ!それでいいのかよ!」


「いいわけない!でも貴方がここで死ぬのはもっと良くない!リビー殿の覚悟も、ミリア大将や大尉の決断も、全部無駄になる!アンタが国を率いているのを自覚しやがれ!」

レイトン伍長も必死だった。ここで引くわけにはいかなかった


「誰か!助けて!大器さん!」

絹を裂くような悲鳴と共にリビーの決死の声が聞こえた。声色は明らかに震えていた


その直後、湿った何かを殴るような音と共に男性の自分勝手な叫びとリビーの悲鳴が聞こえてきた


「…………切り抜ければいいんだな」


「は?」

大器はWWCのシステムを起動した


「この局面を切り抜ければ、いいんだな!」

大器はWWCで設置できる兵器の一覧を探る。敵との至近距離の戦いでは戦車や装甲車は無意味だ、ならば必要なのは機動力、攻撃を交わし、人質のリビーに当てない抑えられた破壊力と精密な一撃


「リビーさんを救って!ミリアの元へ援軍と共に戻る!ようはそれができればいいんだろ!」

叩きつけるように大器は決定ボタンを押した


淡い光と共に保留状態で半透明だったその兵器に形が与えられていく

本体を守る装甲板はチタン合金をふんだんに使った特別製、戦車の車体を流用しており、防御力はさらに向上している

その本体の上に乗っかるのは40mm機関砲と12.7mm機関銃が二丁、と四連装ロケットランチャーが両側一丁ずつ全て機内から操作が可能なである


本来戦車の履帯がある場所には左右三つずつの球体がはめ込まれており、その球体からは各一本ずつ成人男性の胴回りほどのサイズで長さ3m程の鉄柱が伸びている

車体上部に伸びた鉄柱はてっぺんで一度折り返し、倍の長さはある鉄柱が六本、地面に伸び、脚先に取り付けられた装甲板に隠れるように固定用のパイルバンカーが地面に食い込んでおり、安定した姿勢で車体を宙に浮かせている

それらの足も動作に問題がないように計算され尽くした角度で装甲板が張られ、全身甲冑を纏った蜘蛛のようだ

車体前面、蜘蛛に例えるなら鋏角の部分には二対のマニュピレーターが伸びている


そのマニュピレーターの上部、赤外線モードに指定された光学レンズが不気味に光り輝く


これは大器の世界で某国が開発した全地形走破を目的として開発された多脚戦車である

六本の脚部と二本のマニュピレーターでビルや山道といった従来の車両が苦手とした箇所を登り、飛び越え、垂直に貼りついたりして乗り越える事を目的としている


移動速度は時速30kmと遅めだが、その分従来のキャタピラー式の戦車には出来ないビルや建造物の側面に張り付いたり、先進的なジェットパックと強靭な六本の脚部によって対戦車障害を飛び越したりすることができる、まさに新時代の武器にふさわしい存在だった


しかもこの兵器には操縦者が兵器に神経を同調させ、操縦者が操作せずとも思考するだけで機械がその動作を読み取り、実際に動くことができる。ニュートラル接続方式という操作方法が実装されていた。ハンドルやペダルといった人間の手によるマニュアル操作では色々間に合わなくなり、結果人間の思考を読み取り、機械が自動で動く方式が採用されたのだ


本来なら専門の訓練が必要だが、このニュートラル接続方式、実はVRゲームが神経とゲーム機が直接やり取りする方式を逆向きにしただけで操作感覚はほぼ変わらない。つまりVRゲームをやり込んでいる大器に操作はさほど難しくはないのだ


「レイトン伍長は隙を見てリビーさんを救助しろ!あのクズ野郎はおれがやる!」


「閣下!ちょっと、おい!」

声を荒げるレイトン伍長を放って、大器は多脚戦車に乗り込み、ヘッドギアを装着。問題なく神経と機体の操作系統に接続、動作テスト。異常なし、作動ラグなし、制御時の違和感なし


「当たりの機体じゃないか」

VRゲームをやるとたまに汎用性のVRヘッドギアでも人によっては正常に動作しない時があるのだ。それもそのはず脳波や神経を読み取って動くVRゲーム、人の神経や脳構造はだいぶ解明が進んだとはいえ、まだまだ未知の領域が多く、ゲーム機にも人にも個人差があるのだ

よって違和感なく操作できるVRゲーム機の事を当たりと呼んだのだ


眼前に投影されたのは外部の光学機器が読み取った映像。リビーさんが強姦魔に押し倒されている瞬間だ


瞬間的に助けなくてはという本能に突き動かされ、大器は飛んだ

ジェットパックと油圧サスペンション、さらに機体制動をフル活用し多脚戦車は獲物に飛びかかるハエトリグモのように宙を舞った


総重量90tの巨体が空を飛び、完璧に計算され尽くした落着地点に飛び降りた


地面に六つのクレーターが出来、轟音と土煙が舞った


驚きで身体を起こしたクソ野郎に対し、大器は前部マニュピレーターでフルスイング、リビーに当てるようなヘマはしない。払い除けられた羽虫の如く、ウィリアムズは吹き飛んでいった



























リディアビーズ皇女が目を閉じて諦めた時だった


耳元に硬質な何かが地面を砕く轟音が響き渡ったのだ


「なぁ!?」

ウィリアムズが音に驚いて身体を上げると同時に鋼鉄製の巨大な鋏のような物がフルスイングされ、ウィリアムズが風に吹かれる落ち葉の如く宙に吹き飛んだ


「な、なにが……」

リディアビーズ皇女は目の前の光景がなんなのかわからなかった。眼前には長方形の巨大な鉄板、そこから左右に三本ずつ、バッタのようなくの字に折れ曲がった脚が伸びて地面にヒビとクレーターを作っていた


《リビーさん、遅くなりました!》


「ふぇ、た、大器さん!?」

眼前の異形な物体からは大器の声がした。機械的な若干のハウリングを伴った拡声器の声だ


「あ、貴方なのですか!?それは、一体!?」


《これは我が軍が開発した試作型の全地形対応型脚足歩行軽戦車、呼称名はタランチュラです》


「た、タランチュラ……」

呆然とするリディアビーズ皇女の元へ駆け寄るレイトン伍長、この巨体が飛んだ光景を見て味方のレイトン伍長も何がなんだかわからないという状況だ


《二人とも下がって!》

いうがいなや、大器は機体を操作し横へ大きく飛んだ。するとその機体を追いかけるように虚空に暴風の弾丸が放たれた


「こぉんのくそがぁ!死ね!死にやがれ!」

折れた前歯を血と一緒に吐き出したウィリアムズが怒鳴りながら暴風の球を発射する


大器は前後左右、自在に飛び跳ね暴風の塊を避ける。道路や壁が次々と積木のように崩れていく


ジャンプの合間に上部の機銃を掃射する。FCSがウィリアムズとの相対距離と銃口のブレを自動で計算し、正確無比な弾丸を叩き込んだ

ウィリアムズも弾道を歪めるほどの高密度の暴風でことごとく銃撃をよけ、時には自分が空を飛び、砲撃のような暴風を大器目掛けて撃つ


「こぉの、なんなんだ!なにもんだテメェ!邪魔しやがって!」

ウィリアムズは暴言を吐きながら手当たり次第に魔法を放つ


「いゃあ!キャアッ!」


「頭を上げないで!」

自身の身体でリビーへ降り注ぐ瓦礫や魔法の余波を防ぎながらレイトン伍長は這うようにして壁に逃げ込む


「ぜぇぇあ!」

ウィリアムズが放った不可視の風の刃が空中で身動きの取れない多脚戦車に命中。しかし腐っても戦車、正面装甲は機動戦の為に軽量化されているとはいえ厚さは10cmのチタン合金製の特殊装甲、僅かな切り傷をつけたが、左の光学レンズが破壊された


「ちくしょう!」

慣れない多脚戦車の操縦に悪戦苦闘しながら大器は機銃を放つ。リビーが避難した以上、遠慮はなかった


「なんだっけな、確か一発の弾丸が当たらないなら、千発の弾丸を撃てばいいだけだろ!くらいやがれ!」

大器は宣言通り、搭載された機銃をフルオートで撃ちながらウィリアムズへ向けて突っ込む


「ぬぅおおおおおおおおおお!!!!」

ウィリアムズも死力を尽くして魔法を行使する。人が立っているのも困難な程の暴風が吹き荒れ、舞い散った砂塵が多脚戦車のレーダーを狂わせ、正確無比な弾丸が逸らされていく


岩をも砕くような猛烈な機銃掃射だが、大器の狙いは違った


「くたばれッ!」

最高速度を出した多脚戦車のタックル。総重量90tオーバーの金属塊の直撃を受けて無事な人間はいない


「ゴバァッ!」

血反吐を吐き、生々しい悲鳴を上げながら吹き飛ぶウィリアムズ、だがウィリアムズもタダではやられない。直撃の瞬間、密着した状態で風球を多脚戦車の脚にぶつけていたのだ

多脚戦車の強みであると同時に弱点であるこの脚は構造上、どうしても関節周りが弱い、しかも急な連続稼働がたたり、あっけなく壊れてしまった


バランスを崩し、地面にめり込むようにして倒れた多脚戦車。大器は電源が落ちたコックピットでヘッドセットを投げ捨て、痛む頭を抱えながら、外へ這いずり出た


「うぉい、クソが!やってくれたな!」

向いてはいけない方向を向いてる左足を引きずり、右腕も明後日の方向へ向いており、身体中から血を流したウィリアムズがそう怒鳴った


「貴様は殺す!楽には殺さん!身体の下から細切れにしてやるぜ!」


「やれる物ならやってみやがれ!」

どうやらウィリアムズは魔法が使えないようになってるみたいだ。魔力が切れたのか、はたまた怪我により魔法を行使する集中力が無くなったのか、それの両方か


大器はすぐさま多脚戦車の中に戻り、護身用拳銃が固定されたベルトを掴んでホルスターからM1911ガバメントを引き抜く


「どぅらッ!」

大器が視線をウィリアムズに向けたときにはすでに奴は左手に嵌めた指輪による魔法を発動しており、発生させた暴風を起爆剤として大器に飛びかかっていた

なりふり構わない頭突きが大器に命中し、目の奥で火花が散るような感覚と共に頭を地面に強く叩きつけられた


予想外の反撃に対し、大器は本能的に顔を守るように腕を組み、ウィリアムズは動く左手だけで殴りかかった


「クソが!クソクソクソ!」

しかしそうとうダメージが溜まっていたのだろう、ウィリアムズの振り下ろす拳には対したダメージは無い


「うっとおしい!」

拳を振り上げた瞬間、大器はウィリアムズの顎へ拳を叩き込む、のけぞったところを見逃さず、跳ね飛ばし、落とした拳銃を拾う


「なんでだ!俺はウィリアムズだそ!ルドグシャ三騎士の最強の男!なんで、こんな奴に!」


「お前は強くない。しかし楽には殺さん」

血混じりの唾を吐き、大器はウィリアムズの左手に銃弾を叩き込んだ


「アァァァァァ!!!!」

血飛沫と指が弾け飛び、ウィリアムズの絶叫が響いた


「ま、待て、殺すな!情報をやる!クルジドの残党の本拠地があるんだ!何万もの兵士がそこにいるのを見た!本当だ!生かしてくれたら、その場所を教える!頼む!」

当代最強と呼ばれた魔法使いも魔力を失い、魔法を行使するための触媒もなければこの有様だ


「……いいだろう、言ってみろ、そしたら生かしてやる」


「女王の息吹を抜けてルドグシャ王国の東に鉱山があったんだ!そこだ!クルジドの本拠地はそこにある!」


「本当か?」


「本当だ!信じてくれ!」


「そうか、わかった」

そう言うと大器はガバメントをしまった


「それとな、ウィリアムズ」


「な、なんだ!?もう何も知らねぇよ!」


「生かしてやる、と言ったよな?」


「そ、そうだ、た、助けたくれ……」


「あれは嘘だ」

その瞬間、振り向き様にガバメントを引き抜き、残った残弾を全てウィリアムズに叩き込んだ


「…………ふぅ」

ウィリアムズの死体に一瞥し、その場に座り込む


「……初めて、人を撃った………」

罪悪感は無い。相手は見下げ果てた、絵に描いたようなクズだったからか、しかし訓練の時とは違う、銃の反動や手応えだった


「なんか、あまり、いい物じゃ、ないな……」

深呼吸と共に身体の中のしこりのような物を吐き出す。ひたすら冷静になろうとしていた、その直後


「死ぃぃにぃぃやぁぁがぁぁれぇぇぇ!!!」


スローモーションに見えた


どういう手品か知らないが蘇ったウィリアムズがこちらに小型のフリントロックピストルを向けていた、いや既に発射していた

白煙から飛び出した丸い弾丸は真っ直ぐに飛び、大器の左胸に命中した





















「閣下ぁ!」

大器が撃たれた瞬間を目撃し、駆けつけたレイトン伍長はすぐさまウィリアムズの身体に銃弾を叩き込み、倒れた大器の側に駆け寄った


「そんな、そんな!大器さん!しっかりして!」


「リビーさん離れて!」

防弾の燕尾服は貫通してる。今までの乱暴な使い方が良くなかったのだろう


服を脱がし、傷を確認しようとすると


「…………なんだこりゃ?」

銃弾は大器に命中してなかった。銃弾は黒い眼鏡ケースのような物に命中しており、弾丸は身体に達して無かった

途中参加のレイトン伍長は知る由もないが、これはミリアが大器に渡していた顔認証機能付きコンタクトレンズの予備が入ったケースである


「た、大器さんは……」


「衝撃で気絶してるだけだ」

レイトン伍長とリビーは二人同時に安堵のため息を吐いた


「よ、よかった……」


「そっちは片付いたか?」

突然話しかけられ、レイトン伍長は反射的に銃を向けたが手を掴まれた


「俺だ、ストーンだよ」


「大尉!生きてたんですか!?」


「勝手に殺すな、目が覚めたのはさっきだがな。バヌハと菰野、キースも無事とは言い難いが生きてる」

そういうとストーン大尉はスモークグレネードのピンを抜き、そこらへ放った


「お迎えも来たようだし、反撃開始といこうか」


《こちらゾディアック4-1、お迎えに参上しました!》

MV-22オスプレイのサーチライトを背にストーン大尉はそう言った

何機もの戦闘ヘリや戦闘機がオスプレイを追い越していき、中には輸送ヘリなどもあった
























同時刻 ミリア大将


「弾!誰か弾薬ないか!?」


「ちくしょうきやがれ!くそどもが!」


「無駄撃ちするな!よくひきつけろ!」

戦況は絶望的だった


「ミリア大将、これ以上は限界です」


「そうか、今までよく戦ってくれた」

ミリア自身も左肩にガーゼを当てながらそう言った。さっきから血が止まる気配は無い


ミリアの目の前には大きなホチキスのような起爆装置。これを押せば建物に仕掛けた爆薬が起爆し、敵もろともという寸法だ


ミリアが起爆装置を手にした時、机の上の無線が喋った


《地上で戦闘中の部隊へ、こちらはオーバーロード、これよりブロークンアローを開始する、味方はビーコンでもスモークでもなんでもいい、自分の位置を知らせてくれ、それ以外は全て破壊する》


「こちらミリア大将だ、声が聞けて嬉しいよ。味方がいる建物の屋上にビーコンをつける、それ以外は敵だ、ぶちかませ!」


《任せてくれ、遅れた分サービスさせてもらう、全部隊へ通達、味方の位置を聞き漏らすなよ、ロックンロール!》


「ビーコン点灯!急げ!」

建物の屋上に投げられた赤外線ビーコンは決められた一定のリズムで機械にしか見えない不可視の光を放ち、その光は上空のハンター達に筒抜けだった


《こちらカッター1-1、ビーコンの点灯を確認。周囲に多数の熱源反応》


《ヴァイオレット隊、方位2-7-0から接近せよ!》


《こちらハニービー、敵の増援を確認、対処する、ファイヤ!ファイヤ!》


《地上部隊へこちらドラゴンブレス1、目標をレーザーポインターでマークしてくれ!》


《アンウィル2、FOX3!》

突如、無線が急に騒がしくなった。どの無線も聞き逃さないように全周波の無線を拾うように設定したのが仇となったようだ

それに呼応するように辺りの建物も騒がしくなった。何かの祝い事の紙吹雪のように爆弾や砲弾が降り注ぎ、建物から出ようものなら瞬く間に機銃掃射が襲い掛かり、土煙が晴れる頃には足首しか残らないのだ

まるで落ち葉のように人がバラバラになりながら空に跳ね上げられ、クルジド兵が隠れる建物もそうで無いものにも正確無比な爆撃がかけられる


《我らの総統閣下に土をつけた礼だ!死ぬほど後悔させてやれ!》


《いくぞぉ!音楽ならせ!》

新たにやってきたのはAH-6を先頭にしたUH-60とCH-47チヌークの大軍である


綺麗な横一列に並んだUH-60の編隊の中にスピーカーを搭載した機体があり、その機に乗った兵士はボタンを操作した


するとスピーカーから流れ出したのはエレキギターと電子オルガンとドラムの三つで仕立て上げられたハードなロック、1970年代の音楽界を席巻した有名なロックバンドの名曲だ


《なんだよワルキューレの騎行じゃ無いのかよ!》


《そいつぁもう古いですよ!今の時代ヘリで攻勢かけるならディープパープルとかレッドツェッペリンでしょ!》


《どっちにしろ古い!だが気に入った!》


《戦場のど真ん中に突っ込むぞ!ターキーども!ロックンロール!》

AH-6の編隊による地面を均すような機銃掃射の後、UH-60からラペリング用のロープが蹴り落とされ、大勢の兵士がロープで降下し始め、ミリア達が立て篭もる建物に降り立った


《こちらホーク0-1!無事降下した!周囲はクリア、コウノトリを寄越してくれ!》


《了解友軍を救助しろ!航空機は誤射に注意!》


《こちらコウノトリ、着陸する》

大勢の兵士と空を埋め尽くさんばかりのヘリや航空機に混じり、チヌークが建物の屋上に着陸した


「救助が来たぞ!」


「総員離脱だ!誰一人置いていくな!」

ミリアが声を張り上げる。この爆撃の中でも敵の攻撃は止まなかった

むしろ勢いが増していた。敵もミリア達が立て篭もる建物が爆撃されないのを知り、死中に活路を見出していたのだ


「走れ走れ!振り向くな!」

ミリアの声に誘導されるように負傷兵を背負った兵士達がチヌークに乗り込む


第一陣のチヌークが飛び立ち、すぐさま次のチヌークが降り立つ

上空をA-10の2機編隊が飛び去り、投下されたJDAMが建造中の教会の塔を粉砕した


逃げ出すクルジド兵にも容赦なく機銃掃射が浴びせられ、逃げ惑うクルジド兵が土煙の中に消えていった


「下は地獄だ」


《同感》

バーガー中尉の呟きにベーラ少尉が賛同した


賛同しながらもベーラ少尉はガンナーとしての職務を全うした。休みなく機銃掃射を行い、補充したハイドラを敵の馬車に叩き込んだ


《いいね、今ので十人は吹き飛んだ、もっとやるよ》


「はいはい、まったく一時間も休憩取らずに出撃とか、中尉の身体は何で出来てるんだか……」

ベーラ少尉はぼやくがその声はバーガー中尉には聞こえない、操縦するハヴォックを狙う魔法の攻撃を交わすのに全神経を集中させているからだ


《全航空隊、こちらアイアンフェイス。VIPは全て救助、繰り返すVIPは全て救助した。よくやった降下した地上部隊へ、お迎えのカボチャの馬車は既に向かってる。カッター小隊とインディゴ小隊は上空より援護、ファイヤーアローは障害を排除、サラマンダー隊が援護につけ》


《カッター1-1了解、1-2続け》


《インディゴ2-1了解した》


《インディゴ2-2同じく》

その無線を合図に4機のAH-64アパッチが機首を別方向へ切り替えた


《こちらサラマンダー1、これよりファイヤアローを援護する》


《了解、頼りにしてるぜ》

両翼に大口径機関砲と爆弾を大量に搭載したA-10、並びにF-16が鏃のような三角形のフォーメーションで飛び去る


《こちらパンプキン2!前方に敵のファランクスだ!魔法のせいでこちら火力では突破できない!そちらでなんとかならないか!?》


《パンプキン2、まかせろ》

いうがいなや、A-10が高度を下げ、30mm機関砲をファランクスの中心に斉射した


装甲車両を破壊するために作られたこの武装は一発の弾丸が大根ほどの大きさであり、まさに砲の名にふさわしい銃弾であるこの機関砲は直撃したら勿論のこと、かすっただけでも衝撃波などで致命傷を与えることのできる人間相手に撃つのはオーバーキルである


数秒の射撃で数百発の弾雨を浴びせたA-10はその特徴的な機関砲の斉射音を残し、飛び去っていく

しかし、宙返りするトンビのように、再びファランクスの上をとったA-10はまた砲弾の雨を降らせる、今度はウェポンベイに吊るしたマーベリック対戦車ミサイルと共に


魔法による障壁を展開し、自らの身体を盾にしていたクルジド兵達のファランクスだが、マーベリックの直撃には耐えきれず、爆発と共に粉々の肉片に成り果てた


《道が空いたと思ったらどデカい大穴空いたんじゃねえか!何考えてやがる!クソが!》


《礼なら結構!》


《くそっ!てめぇにはもう頼まねぇ!》

敵の残党は圧倒的航空戦力を前に散り散りになり逃走するも、各所に展開した地上部隊やヘリや近代的な航空機からの爆撃を前に呆気なく全滅していった






















大器はヘリの中にいた


あの後オスプレイに乗せられ、何機もの戦闘機やヘリに囲まれ近くの空軍基地へと輸送されていた


衛生兵によれば肋骨や腕の骨にヒビが入った程度で済んだ、今はヒビの入った右腕を吊っている


「ごめんなさい大器さん、私の身分の事を隠していて……」


「気になさらないでください。事情があったのですから、それにあのパーティーで明かしてくださる予定だったのでは?」


「はい、そうです」


「せっかくの戦勝パーティーが台無しですな……」

大器は自分の姿を見ながら言った。服はズタズタ全身傷だらけの泥だらけ、リビーも純白のドレスは煤と泥で黒くなり、今は毛布を羽織っている


「パーティーはまた出来ます、出来ますが……」

リビーの中には不安しかなかった。大日本皇国とのいわば同盟関係の継続についてだ


結果的にリラビア国は膿みを出し尽くしたことになった。しかし招いた国賓がこうなってしまい、しかも撃退や自国の要人救助に関してもおんぶにだっこである


「うーん、流石に今まで通り、という訳にはいかないかもしれませんな」

大器のその一言はリビーの心に深く刺さった


「もし、次に戦勝パーティーがあるとしたら今度は、リラビアではなくて、我が国であげるとしましょう」


「…………えっ?そ、それは」


「ん?なにかおかしな事でも?」

時が止まったように見つめ合う二人。ロマンチックというよりかは疑問と不思議に満ちていた

対する大器は「なんで不思議そうな顔してるんだ、この人は?」みたいな目で見返すが、やがて悪戯っ子のような笑みを浮かべてリビーに手を差し出した


「また私と、踊ってもらえますか?リビーさん」


「…………はい、是非!」


ちなみに終盤でヘリから流れた曲はディープパープルのBurnをイメージしながら書いてました。70年代から90年代のロックはいいぞ(趣味全開)

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