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パーティ・ロックンロール

お久しぶりでございます


仕事がようやく閑散期に入ったので投稿です。しんどい

その日、大器はすっかり着慣れた上質な黒の防弾繊維で出来たタキシードを見に纏い、ブラックホークの中にいた


隣には祝典などで着るような装飾の付いた軍服を着たミリア大将とローズ少佐が乗り込んでいた


三人はバスディーグ奪還に伴い、国土の完全奪還を成し得たリラビア魔法国主催の国土復権記念パーティに参加するために現場に向かっているところであった


「閣下、コンタクトの調子はどうですか?違和感や痛みは無いですか?」


「いいや、良好だ」


「念のために最終テストをしましょう、こちらを見てください」

ミリア大将がそう言い、大器とミリアが見つめあった

大器が目に入れているのは特注のコンタクトレンズ、大器が目に入れた人物を顔認証で認識し、瞬時にデータベースからその人物の名前や家族構成、役職、面識があるか無いか、バスディーグ奪還作戦への貢献と言った様々な情報を投影することができるハイテク機器であり、政治家として活動する大器に必須の武器であった


「良好だ、ミリア大将のデータベース確認」


「であれば大丈夫ですね、念のために予備のレンズを渡しておきます、それと護身用の銃に、無線機です」

渡されたグロック19を内ポケットにしまい、銃声などの大きな音のみをシャットアウトする特注の極小無線機を耳の穴に詰める


「護衛の人数は?」


「私を含め20名です。全員がPP-2000を装備しており、そのレンズ越しのみしか見えない特殊な発光塗料を首元に塗っております。私たちとはぐれたらその者達と共に動いてください」

ローズ少佐がそう答え、大器の襟元に国章の形をした無線のマイクを取り付けた


「側にはミリア大将と私が控えております。流れで離れるかもしれませんが、護衛の者は近くに居ます故、ご安心してパーティを楽しんでください」


「そうか、わかった」


「やはり緊張なさいますか?」


「まぁ、こういうのは初めてだからな」


「誰にも初めてはありますわ。私と閣下の初めても、激しく、ちょっぴり痛かったけど、とても、気持ちの良い物でしたよね?」


「そうだな、この間行ったリラビアのマッサージは痛くて気持ちがよかったな、だからミリア大将、そのアイアンクローを辞めなさい、護衛が一人減るだろうが」


「ハッ失礼しました」

既にいつもの流れのようになりつつあり、誰も突っ込まないがミリア大将のアイアンクローから解放されるローズ少佐


「それはさておき、閣下、気をつけてくださいね」

ミリア大将がヒールの位置を調整しながら言った


「具体的に何を?」


「酒、金、女、スキャンダル。世界をひっくり返しかねない軍事力を持つ大国唯一の国家元首の弱みを握られたりしたらそれこそ勝てる戦も勝てません、なので言い寄ってくる輩はそれこそ束ねて捨てるほどいるはずです、注意なさってください」


「それに閣下は意外と顔の造りもスッキリしててハンサムですから、それとは別に面食いなご婦人にも夜を誘われるはずですよ」


「いや、それは無いんじゃ無いかな」


「自分を卑下するのは社交の場ではNGですよ、あと女性から夢を見させてとか言われてホイホイついて行ったらダメですからね、ベットの中であんなことやこんなことされちゃいますから」

なんだかんだ楽しそうなローズ少佐の社交界うんちくを聞きながら大器は再びミリア大将をこっそりと盗み見る


「…………ふむ」


「なにか?」


「いや、別に……」


「?」

軽く首を傾げるミリア大将。銀細工の如き艶のある銀髪と翡翠の瞳が映えるような無骨さと煌びやかな装飾の軍服があいまり、非常に様になる容姿だった


このコンタクトレンズに投影されるのは大日本皇国の情報部が収集しえるありとあらゆる個人情報である、身長や体重、スリーサイズもそれに当然のように含まれる


この機能の事は墓まで持っていくと心に誓った大器であった
























パーティの会場はバスディーグ城塞都市の中のほぼ中心にある主要都市バラードにそびえるバラード城で行われる


バラード城は迎賓に特化した城であり、迎賓に特化してる故に戦闘向きの作りはしておらず、そのため数々の戦火を逃れた歴史がある


バラード自体観光業が盛んな都市であり、大勢のハンターが在籍した城下に魔獣の少ない気候と雄大な自然の風景、それに付近にはいくつもの湖があり、そこでのボートや釣りと言ったレジャーもやんごとなき身分の方々には人気でもあり、保養地としてもとても有名なのだ


そのような土地で行われるパーティ。時刻は午後六時、街の手前の平原で降りた大器達はあらかじめ待機してた装甲車に乗り込み、城へ向かった


他の都市は容赦のない爆撃や殺傷力の高い魔法の連発で瓦礫の山と化しているのに対し、この都市は先も言った通り、観光に特化しすぎており、逆に大軍を展開することが難しい土地なのだ


個人レベルでの連絡のやり取りができる無線技術があれば違っただろうが、基本的に人が走って口頭で意思の疎通を取るのがデフォルトのこの世界の軍隊では街中に潜伏してのゲリラ戦は未来過ぎて不可能であり、辺りは湖と湿原故に野戦も望めず、食料が大量にあるわけでもない、クルジド軍は早々にバラードから撤退したのだ


その恩恵により、戦火にさらされなかった街並みをハンヴィーの車窓から眺め、やがて本日の会場となるバラード城についた


ハンヴィーから降り、招待状をボーイに見せ、ミリア大将の手を取り城内に入る。この世界でもレディーファーストの作法はあるのだ

城の内部には剣で武装した騎士やMP5を胸元に吊るした皇国軍の兵士が通路や窓際に直立不動で立番していた、警備体制は万全そうだった


パーティが催されている大広間の前に来ると扉番の兵士が招待状を拝見し、ドアマンに伝えた


「大日本皇国、皇太子殿下、陸軍大将様御入場でございます!」

ドアマンが宣言すると扉が開き、大器とミリアが中に入った


中には既に大勢の人が入っており、談笑や立食を楽しんでいた


大器が中に入るとさっそく一人の女性が大器達に近寄った


「これはハッシェル女王、わざわざ来られなくとも、こちらから参りましたのに」


「よい、貴国とは同盟国、同盟の王子が来たのならばそれをもてなすのがリラビアの流儀、今日は楽しんでいってくれ」


「お気遣いありがとうございます。なにぶん社交界は久しぶりですが、久方ぶりに羽を伸ばさせてもらいます」


「うむ、もうしばらくしたら娘と共に伺う、存分に楽しまれよ」

そういうとハッシェル女王は他の参加者の元へ去っていった。大器は小さく深呼吸した


異世界に行っても上流階級は縦社会。親分の挨拶が済んだら次に来るのは


「お久しぶりでございます、皇太子殿下。わたくしはリラビア国宰相のデオンと申します」


「デオン殿、お会いできて光栄でございます。こうして顔を合わせるのは初めてですな」

大器と握手したのはリラビア国宰相のデオン侯爵。テレビ会議でよく話をしたりしたがこうして直接会うのは初めてだった


そういった人がこの会場には大勢いる。中には初対面の人もいる

そういった人達全員が大器やミリア大将に挨拶に来た。眼前に表示されるデータを素早く眺め、挨拶していく大器とミリア大将


握手しかしてないのにクタクタになった頃、参加者が全員集まったとかでハッシェル女王が会場を見渡せるエントランスに出てきて挨拶を述べた


エンドレス社交辞令から解放された一時、ミリア大将は若干虚な目になりながらもなんとか軍人らしく直立不動を維持し、大器は疲労困憊、そんな大器に途中途中、合いの手を入れて援護射撃していたローズ少佐はピンピンしていた、コミュ力の差だろうか


挨拶が終わると楽団の音楽が変わった。今日の催しは舞踏会、お祝い事は踊って祝うのがリラビア式だとか


男女のペアがダンススペースに移動し、楽団の奏でる音楽に合わせて踊り始めた


上から下まで、軒並みの貴族様からの挨拶と誘惑、権謀術数の波状攻撃を乗り切った小心者の大器だが、そこへ近づく一人の女性


「ご機嫌麗しゅう皇太子殿」

そこへ現れたのはいつも顔を合わせるリビー武官だった

今日は武官としての服ではなく、艶やかで上品な純白のドレスだ。ウェディングドレスのようで華やかで職人の技が光る細かな装飾のそのドレスを見事に着こなしている、元々の美貌と白銀の髪も相まって雪の王女と言った印象を受ける美貌だ


「お、おや、リビー殿、ご機嫌麗しゅう」


「皇太子殿に置かれては、ご気分でもすぐれないのですか?」


「いえ、なにぶんこういう場に慣れておらず、面目ありません、もう大丈夫です」

リビーの美貌に見惚れて若干声がどもったが大器は問題なく顔を上げて笑顔になった

そのついでにローズ少佐を視界で探したが見当たらない、そして何故か側の机には男性が飲む青色のボーイズカクテルと女性が飲むレディカクテルがワンペア置いてある、用意良すぎだろ


「誰かとお話の最中でしたか?」


「いえいえ、勝手がよくわからず受け取ってしまったのです、良かったら貰って下さい」


「でしたら、お言葉に甘えて」

ピンク色のレディカクテルに口をつけ、小さく一口。その存在が薄く、しかし元々の顔の良さを引き立たせるように施された薄化粧と逆に対比的に主張の強く、男女問わず吸い寄せられるような魔力を持つ唇、グラスの縁に着いた唇の跡すらもどかしさのような物を感じさせた


《あまり女性の唇に見惚れるのは社交界じゃなくても失礼ですよ、閣下》


(あの出歯亀めぇ……)

無線機から聞こえたローズ少佐の声に正気に戻った大器は自分が持つ青いカクテルを口元に運ぶ

ミントのような爽やかな味の中に酸味の強いフルーティな感触のアルコール、オリーブの実だろうか中に入った実がコロコロとグラスの中を回る


「皇太子殿、カクテルはお口に合いましたか?」


「ええ、こう言う場で飲むのは初めてなのですが、とても良い物ですね」


「それは良かったです。このカクテルは実は同じお酒が入ってるんですよ」


「そうなのですか?」


「はい、このカクテルはシェイカーで振ってから作るカクテルなのですが、割り剤のジュースが違うと味も風味も変わってくるのですって」


「へぇなるほど」


「飲んでみますか?」


《いけません閣下。男性が女性の口をつけた飲み物を飲むのは夜のお誘いです。断って下さい》


「……せっかくですが、またの機会にします」


「そうですか……」

ローズ少佐の警告がなければ多分色々終わってた


「リビー殿は踊らないのですか?」


「私は、そのような相手はいないので……」


「そうですか、レディ、よろしければわたしと踊っていただけませんか?」


「えっ?」

驚きを隠せないリビーに対し、大器は頭一つぐらいの身長差を感じさせないように腰をかがめ、手を差し出した

舞踏会に招かれたのに踊らないのは失礼だというのは素人の大器にもわかった、ならば顔見知りで年も近い美少女にお願いするのが無難だろう


「実は私は人見知りするたちでして、顔見知りで交流のある貴女さえよければ、是非お願いしたいのですが……」


「……わかりました、踊りましょう」

リビーが大器の手を取った






















端的に言うとダンスはしんどかった


この日のために公務の合間を縫って特訓したのだがそれでもキツかった、ただでさえ普段使わない筋肉が緊張でガチガチになり更なる疲労を招いたのだ


だが踊ってる最中のリビーの顔は実に柔らかく、楽しそうな印象だった


「リビー殿、素敵な時間をありがとうございます」


「……リビーで構いません、閣下」


「そうですか、わかりましたリビー。では私のことは大器と呼んでください」


「そんな、恐れ多い」


「いいえ、そんなことはありません、今日の記念として」


「……もぅ、お上手ですね、大器さんは」

頬を赤らめ、それを誤魔化すようにボーイから受け取ったカクテルを再び傾ける


日本と違い、キザったらしいセリフでも女性は素直に受け止めてくれる、欧米や東南アジアのようなおおらかさがあり、その点では非常に接しやすかった


(すごくかわいいなぁ……)

眼球に投影されるリビーのプロフィールに目を通しながら照れているリビーを眺める

そのプロフィールの一画を見て、リビーが踊りに誘われていない理由がわかった


「閣下、楽しんでおいでですか?」

そこへ現れたのはミリア大将だ


一部の緩みもない軍服に上気した頬、うっすらと汗をかいている辺り、大勢の人と踊ったのだろうか


「ああ、君もハメを外しすぎるなよ」


「自制します、それよりも閣下、会場の音楽をよく聞いてください」


「……わかった」

これは事前に決めた符丁、会場に侵入者が出たという報告だ


「リビーさん、よければあちらの机で一休みいたしましょう」


「ええ、喜んで」

さりげない誘導で窓から離れ、ボーイに扮した護衛が給仕する机に移動する

立食形式の会場で数少ない料理人が直に食事を提供するスペース。全て大日本皇国の職人が提供する食事スペースである


「サンドイッチを頼むよ」


「具は何にいたしましょう?」


「真っ赤なトマトで」


「かしこまりました、そちらのご婦人は?」


「わたくしはチーズとレタスで」

符丁を織り交ぜつつ、大器は無線に神経を尖らせる


「どうかなされたのですか?」


「……リビーさん、どうか落ち着いて聞いてください」

はたから見れば内緒話をする1組の男女という微笑ましい光景だが、話している内容は城に侵入者が現れ、警備兵の死体が見つかったという報告だ


「そんな、早く女王陛下に伝えなくては!」


「落ち着いてください、既に部下に頼んでおります。市街の部隊も集結するように先程連絡させました」


「……まさか、先程の」


「はい、我々は一足先に避難しましょう」


「で、ですが私だけなんて……」

手を引こうとするとリビーが思いとどまった、仕方ないと言えば仕方ないが、リビーに何かあってからではこれまでの同盟関係にキズがつくかもしれない


「リビーさん我々はあなたの」


その瞬間は偶然だった


リビーの後ろ、大器から見たら正面に一人の男が歩み寄ってきたのだ


きっちり七三に分けられた金髪、少ない装飾ながらも端々に職人の技が光る豪華なタキシード、その目は見るからに険しい目線でリビーと大器を睨みつけ、手元はハンカチで隠されているが銃口がハンカチから飛び出ていた


その男はミリア大将を突き飛ばしハンカチを取り払った


「危ない!」

とっさに大器はリビーの手を握ったまま引き寄せた。即席のダンスの訓練で身につけたターンを決め、リビーを抱きしめて背中で庇ったのだ


直後、銃声が二発響きわたった


一発は突き飛ばされたミリア大将が男の眉間を撃ち抜いた銃声、もう一発はリビーを庇い、無防備に背中を晒す大器に撃った銃声だった


その直後、絹を裂くような悲鳴があがり、死体を直視した貴族夫人が気絶して崩れ落ちる


「大器さん!」


「うぉー、いったぁ!?」

自分の状態を再認識したリビーは反射的に大器に声をかけ、大器はそんなリビーを無視して痛みのあまり膝をついた


「どいてください!閣下!傷は!?」


「防弾服で防がれた、と思う……」

PP2000を持った護衛達がぐるりと壁を作る中、大器の背中を弄ったミリアは服の内側から転がり出た弾頭を見て安心したようなため息を吐いた


「弾丸は防弾層で止まってます。貫通してません、装備開発班の仕事のおかげですね」


「帰ったら勲章だな」

複合型アラミド繊維とケブラー繊維の四重構造で出来た要人護衛用の防弾繊維、一見するとただのタキシード、しかし実際は45口径の弾丸の貫通を阻止する強力な防弾仕様の服である


「だ、大丈夫、なんですか……」


「凄くいったいけど、許容範囲です……」

身体に風穴が開くよりは痛くないけど、それなりに痛い。弾は防げても衝撃は来るので金属の棒で殴られたような鈍痛が大器の背中に残っていた


痛む背中をさすりつつ、大器はミリア大将が射殺した男を見る


「リビーさん、彼に見覚えは?」


「あの人は、確かアシュモンド男爵です。まさか生きていたなんて……」

リビーは呆然としている


「ローズ少佐、誰だアシュモンドって?」


《ドラゴンクエスト計画の終盤に出てきた反乱貴族の一人だった筈です、AC130の砲撃で木っ端微塵になって生死不明で処理されてましたが、どうやら生き残っていたようですね》


「なんてこった、ミリア大将、聞こえるか」


《聞こえます》


「情報が必要だ。今どうなってる」


《警備隊が城内の各所で武装した敵兵と混戦状態にあります。また市内でも複数の不審火と憲兵隊と市民の小規模な衝突が起きてます。こちらはおそらく陽動と思われ、戦力を城へ集めている最中です》


「閣下、こちらです。リビー様も」


「わかった、ここは他の兵に任せていきましょうリビーさん」


「あ、は、はい!」

目の前で人が死ぬのは流石にこたえたらしく、すこしぼぉっとしていたリビーだが、すぐに復活して大器の後について行った


「ハッシェル女王は既に安全圏に避難されました、非常事態につき、我々のヘリで避難してもらった為、次のヘリ到着まですこし待つことになります。申し訳ありません」


「いや、いい判断だ。ハッシェル女王が無事なら後はこちらの心配のみだ。全員、全兵装自由だ。俺とリビーさんを確実に集結地点まで護衛しろ」


「「「「ラジャー!!!!」」」」





















「止まるな!」


「リロードする、援護を!」

部隊の半分を会場に残し、大器達はヘリポートまでの道を走っていた


この日のために手入れされた城内の各所で戦闘が起こり、剣やライフルを担いだ反乱兵がリラビア兵や皇国兵と至近距離で殴り合い、銃撃戦を繰り広げていた


「連中の銃ってひょっとして!」


「おそらく鹵獲品でしょう!」


「くそったれ!引き金が引ければ誰でもいいってか!?」

敵が使うライフルのほとんどはモーゼルKar98といったボルトアクションのライフルであり、おそらく撤退や陣地転換のどさくさで紛失したライフルを敵が鹵獲したものだろう

そうなってくるとそれらを手に入れたルートが問題になってくるがそれは今考えることではないだろう


「展開ッ!」

先頭を走る護衛の兵二人がPP2000を十字路の左右に同時に向ける


下を向けていた銃口を跳ね上がるように素早く正面に向け、剣を振り上げて駆け寄ってくる敵兵に9mm弾をありったけぶち込んでいく


二人が敵の勢いを抑えている間に部隊は正面の通路を駆けていく


「あの先の通路を曲がって真っ直ぐ行けば正門です!」


「ミリア、ヘリポートの守備隊は!?」


「現在戦闘中!どこからこんな数の敵兵が!?」


「詮索はヘリにのってからだ!」


大器がそう叫び、護衛の兵が角に飛び出し、銃を構えた


「ぎゃああああああ!!?」

瞬間、通路が炎で満たされ、護衛の兵士があっという間に火ダルマになった


「止まれ!」

護衛の兵士の背中にぶつかり、大器の後ろを走っていたリビーも大器の背中に顔を埋めた


「くそったれ!魔法だ!」


「下がれ下がれ!」


「見つけたぞ!()()()!」

曲がり角から現れた魔法使いと思しき男は銃撃されないように杖を曲がり角から伸ばし、火炎放射を浴びせてきた


「うぉ!くそったれ!下がれ!そこの部屋だ!」

あっという間に護衛の半数が丸焼けになり、たまらず近くの部屋に避難する


「腹一杯くらえ、ダニ野郎!」

護衛の一人が手榴弾を投げ、扉を素早く閉める


直後、手榴弾が炸裂して誰かの絶叫が響いた


扉を細く開け、外へ向けてPP2000を数発。それだけで悲鳴は収まった


「……ちくしょう!」


「どうした、ローズ少佐?」


「悪い知らせです閣下。ヘリポートが破壊されました」


「なんだと!?」


「さっきの魔法使いとは別のやつが火を放ち、ヘリポートは使えなくなりました」


「救援は?」


「搭乗員やヘリの準備に手間どうでしょうから。最悪でもあと三十分は必要です」


「そんなに!?まってられんぞ!」


「予定を変更します。今回のような事態の際は他のパーティー参加者はトラックで脱出させる予定でした。そこに便乗させてもらいましょう」


「他に方法はないか。よしそれで行こう」

大器の決断は早く、左脇からグロックを取り出し初弾を装填。そして腰からもう一丁グロック26を取り出す


「リビーさん、これを持っていてください」


「こ、これは、銃、ですか」


「はい。持ち方はこうです。両手で持って。ここの凹みと先端の出っ張りが重なるようにしたらこの引き金を引いてください。撃つ時以外は引き金に指をかけないで、そう真っ直ぐ伸ばしてください。もう撃てる状態にしてます。わかりましたか?」


「は、はい!」


「いいですか、無理に前に出て撃たなくていいんです。貴女が撃つ時は皆と同じ方向に目を開けて銃を撃ってください、いいですね」


「はい!」

大器に最低限の使い方を教わり、やや緊張気味のリビーはグロックを握る自分の手と大器を交互に眺め、顔を赤くしたり青くしたりしていた


(大丈夫かな……まぁ増援と追加の武器を召喚すれば問題ないか)

大器はフォーメーションの打ち合わせをする護衛の兵達の背中でリビーから隠れるようにして追加の武器と兵員を新しく召喚する。同盟国の関係者といえど、WWCの技術は門外秘である


「た、大器さん。そちらの方々は!?突然現れましたけど!?」

閃光と共に現れた完全武装の一個小隊の兵士に腰を抜かすリビーに対し大器は


「我々流の転移魔法の応用ですよ。まぁ解析がまだ完璧ではなくて向こうからこちらへ送る一方通行しか出来無いんですが」


「なるほど……」


雑にごまかした


そして新たに召喚したのはベネリM4やM4カービンなど、狭く入り組んだ城内での取り回しを考えた武器を持った軍人NPC。新たに合流した20名が均等になるように通路に展開し、残った護衛達と共に団子状になって通路を進む


「いたぞー!あそこだー!」

やがて返り血で真っ赤になった敵の兵士が大勢現れた。城を荒らし廻ってる間にどうやら合流した敵の本隊のようだ


「蹴散らせ!」

大器とリビーは護衛達に守られながら通路の端により、自身で壁を作るように通路に一列に展開した兵士達が射撃を開始。率いる部隊長のストーン大尉が冷静なのもあり、部隊全体が冷静な射撃を敵に浴びせる、それこそ連携して動く自動砲台のようだ


「ぅるぁああああああ!!!」

曲がり角から突如大器目掛けて剣を振り上げて現れた反乱兵。しかし間にいる兵士は素早くベネリのストックで剣の軌道をそらし、ベネリの銃口のブリーチャーで鎧も何もつけてない胸を一突き。窓ガラスのような障害物を破壊するための突起物を生身の体に食らうと当然のように痛い。呼吸が出来なくなるほどの激痛が走った反乱兵はそのまま倒れ、追い討ちの12ゲージ散弾が顔面の半分を吹き飛ばした


曲がり角や死角から敵兵が飛び出てきても前を進む兵士は掛け声と共に銃をスリングに任せて手放し、振り下ろされる敵の手首を巧みに掴んで相手のバランスを足捌きで崩して背負い投げ、そのまま流れるような素早い動作で引き抜いたグロックで敵の頭にダブルタップ。M4を胸の前にぶら下げ、拳銃を左斜めに傾け、壁から最小限の面積だけを出して角から向こうの安全を確保し、油断なく辺りを警戒しながら小走りで動く

大器は今回の兵士を召喚するにあたり、近接戦闘のパラメータをランダムではなく、自分でいじって上げた者を召喚したのだ


「ミリア、トラックはあるのか?」


「城にいる全員が乗っても余るほどのトラックを用意してあります、抜かりはありません」


「集結地点の部隊より報告、ハッシェル女王陛下の安全を確認。はじめてのヘリコプターでとても楽しかったと」


「そうか」

後半はどうでもよかったか、これで同盟関係は継続されそうだ


「ついたぞトラックだ!」


「閣下!ご無事ですか!」

そこへパーティ会場に残って避難誘導を務めていた護衛部隊の指揮官がやってきて敬礼した


「なんとかな、状況は!?」


「重要人物は全て脱出しました、後は使用人などを乗せるだけです。VIPは閣下で最後です!」


「待たせてすまないな!君の部下を返そう、ここは任せたぞ!」


「お任せください!誰一人置き去りにしませんよ!」


「ローズ少佐、ここに残って部隊の指揮と連絡係をやってくれ、頼むよ」


「お任せください、閣下もご武運を」


「俺が戦うわけじゃないさ、護衛の兵士の分を祈ってやってくれ」


「そうですね、わかりました気をつけてください」

微笑むローズ少佐を尻目に大器はトラックに乗り込み、ミリアとリビーに手をさしのべた


「出発するぞ!」

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[一言] グロックの安全装置はマルイ、ガスブロのオリジナルで、実銃にはトリガーセイフティ以外ありません。
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