アローン・イン・ザ・ダーク
ゴーストリコンやってて投稿遅れたので初見です
玄武島 最南市
大日本皇国統合作戦司令部(旧リラビア上陸軍総司令部)
「してやられたな」
珍しく、大器は不機嫌さを隠さずにそういった
「申し訳ありません、閣下。此度の被害、現場はよくやってくれました、原因は我らの指導不足にあります」
そう頭を下げるのは陸軍総司令官の役職につくベルモンド元帥である
「いや、俺の見通しも甘かった。ということだ、やはり物資の揚陸や部隊の展開は俺が現地に行って直接召喚した方が速く済む。今後の経験のためとはいえ、やはり現地の負担を減らすべきだった」
「そ、そのようなことは!部隊に損害こそ出ましたが、閣下に現場へ出てもらうほど補給は逼迫してはおりません!」
「……ベルモンド元帥、俺も促成課程の訓練を受けた、それに何も最前線に行って補給しようだなんて言ってないさ、安全の確保された後方で物資を召喚する。それをするだけで海路で運んで陸に揚陸する手間が省けるだろ?そうすれば前線に届く日にちが縮まり、救える命、助かる兵士が増えるわけだろ」
「し、しかし……」
「まぁ、君の一存で決められないことはわかってる。他の元帥と、ミリアは俺が説得するよ。君ならこの案に反対しないんじゃないかと思ってね」
「……閣下もお人が悪い」
「すまないな、いつも迷惑をかける。今度一緒に飲もうか。最近アンロックされたいい酒があるんだ」
「かしこまりました、その時が来たら受け入れられるようにしておきましょう、閣下には負傷退役兵の受け入れや更生施設を優先してもらった恩もございます。ミリア大将に何か言われても、私は反対しません、約束します」
大器の身を案じながらも理想的な案に逆らえないベルモンド元帥だった
「頼むよ」
ベルモンド元帥が出て行き、大器はは改めて書類を眺める
「1200名以上が戦死、負傷兵は3000人規模か……」
「敵も決死の覚悟を見せてきましたね、総統閣下」
「ローズ少佐、進捗は?」
「バステト要塞陥落と同時にリラビア魔法国と派遣軍本隊は四つの軍団に分かれて出撃しました。シャングリラ基地から発進した爆撃隊はバスディーグ内に残る敵拠点の都市への爆撃に成功。概ねスケジャール通り、軍団は進軍し都市の占領を続けております、市民感情は概ね良好、なによりリラビア軍と共にいるのが大きいかと」
「やはり自国の軍隊が来てくれるのは住民にとっては希望の光になるのだな、これで後方を気にしなくて済む」
「ええ、兵站や鉄道敷設もよりやりやすくなるかと思われます」
「よろしい、では今後も波風立てず、そのまま穏便に事を運ぶように。市民感情の悪化はレジスタンスやゲリラを生み、高く帰ってくるからな」
そこまでいうと、大器は机の引き出しからウイスキーを取り出す
「閣下、祝杯にはまだ早いのでは?」
「これはライフワークだよ、それよりバステト要塞の地下はどうなってる?」
「大勢の敵勢が逃げ込んだのは確認されてます。現在損害の大きかった第一旅団は一時解体、編成を新しくしている最中です」
「たしかバステト要塞から進撃することは無かったよな」
「はい、女王の息吹側に陣取る敵軍団とバステト要塞の位置関係は概ね谷一つ分しか離れておらず、バステト要塞の戦力はそちら側への牽制として現地から動かす事をせず待機させる事になっています」
「であれば、再編成して地下の敵部隊撃滅に集中させよう。終わる頃にはバスディーグは解放されている、装備の更新も併せて行え」
「かしこまりました、そして閣下。先程リラビア側の代表の方が到着されました」
「よしお通ししろ、誰が来るかはわかりきってるがな」
大器が頭を抱えながらそういうと、扉が開き、一人の女性が入ってきた
「ご機嫌麗しゅう総統閣下殿、リラビア魔法国より派遣されてきました、リビー特務武官です」
以前ミリアの元へ転移魔法の事を伝えて以来、すっかり大日本皇国担当へと就任してしまったリビー特務武官が挨拶と共に入ってきた
「また会いましたね、リビー殿。お礼が遅くなりましたが、転移魔法の件、ありがとうございます。お陰で我が国の兵が大勢命を救われました」
「いいえ、お礼など。本来我らの国が奴らを滅ぼさねばならないのに、あなた方の手を煩わせてしまったのは、今でも女王陛下は憂いております。礼を言うのはこちらでございます」
「何はともあれ。貴国の参戦、快く歓迎いたします。あなた方は約束を違えず、半年で軍を立て直した。国を指導する者として尊敬に値します」
「フフッ閣下のお言葉を伝えたら、将軍もお喜びになるでしょう。この復興も、大日本皇国がもたらした技術のおかげでございます」
「気に入っていただけて何よりだ。今回の掃討戦、ならびにパスディーグ奪還作戦、大いに期待しております」
「はい、我が国の兵は精鋭です。ご期待にそえる戦いを見せてくれるでしょう」
バステト要塞
現在このバステト要塞は厳戒態勢が敷かれていた
要塞の八割は砲撃と爆撃により倒壊し、しかも足元にはいまだ未探索の地下要塞と敵の伏兵がおり、その伏兵も何処から現れるのかわからない、それが現状である
だが、全くわからないわけではない。要塞の中心、Wの真ん中の頂点が交わるここには要塞の要になる高い尖塔があった
今ではAC-130の砲撃により倒壊したのだが、その砲撃が直撃した箇所、地面がクレーターのように大きく抉れ、地中に埋もれていた通路が剥き出しになっていたのだ
バステト要塞駐留部隊の指揮を務めるオルトス少将はこの偶々剥き出しになった通路から敵地へ侵攻する事を決断、突入部隊として最新装備を纏った三個大隊を抽出した
バステト要塞を攻撃した部隊の多くは傷ついていたので、投入されるのは新しい部隊であり、目新しい点としてはここにリラビア魔法国の部隊も参加することである
なぜならここは元はリラビア魔法国の軍事施設、当然地下の要塞も把握しており、リラビア魔法国は詳細な地図や元要塞の出身者などを投入したのだった
そしてそれらの部隊が鉄道とトラック輸送でバステト要塞に集結され、其々の上級者たちが集まった全体会議が始まった
「参加者が全員集まったので皆様方、お忙しい中お集まりいただき、ありがとうございます、バステト要塞の防衛を任されてます、オルトス少将です」
「リラビア魔法国より参った、特別混成軍団を指揮するヘルガンド将軍である、皆様方よろしくお願いします」
ヘルガンド将軍はとにかく毛量の多い人だった。人間の耳より後ろは焦げ茶色の体毛で覆われ、顔にもオレンジ色に近い色の体毛がびっしりと生えている
彼はいわゆる猫の獣人であり、このオスライオンのような立髪は将軍らしい威厳を出すためのファッションでもある
しかしイカつい顔面や気迫とは裏腹に背筋はまっすぐ伸び、物腰も低く、敬語が非常に似合わない、そんなちぐはぐとも呼べる人だった
「よろしくお願いします、ヘルガンド将軍」
「こちらこそ、オルトス少将殿、貴国にご助力していただいたおかげで、我が国はここまで持ち直すことができたのです、この御恩、私は生涯忘れません」
感極まって涙目になり、オルトス少将の手を強く握りしめるヘルガンド将軍
「わ、我が国も心強い同盟国ができて、嬉しく思っております、共に力を合わせていきましょう!」
ヘルガンド将軍に握られた手を若干庇いながら言葉を返すオルトス少将
「ええ!お任せください!そうだ我が軍を今回指揮する隊長を紹介しましょう」
ヘルガンド将軍がそういうと一人の大男が前に出た
髪は黒髪短髪、太い眉に意志の強そうな鋭い目付き、岩を削り出したような硬い印象を持たせる大岩のような顔つきに体格。他の生物の特徴が無いところを見ると人間だろうか
「初めまして、オルトス少将閣下。私はリラビア魔法国混成軍団の騎士総隊長を努めます、ベルレピュモスと申します。貴軍と共に戦える事、我が人生の一番の誇りでございます」
「それはこちらもです、今後ともよろしくお願いいたします。さっそくで不勉強で申し訳ないのですがベルレピュモス殿、貴国の総隊長というのはどのような役職なのでしょうか?」
「そうですな、そこをはっきりさせねば伝達に齟齬が出てしまいますからな。我が軍は基本実力主義、強き者、知恵ある者が軍を指導する、これが根底のスタンスであり、貴国のように階級という概念があまり浸透しておりませんでして、どれほど若くて入隊歴が短くとも用兵に長け、強力な武力を持ち、周りが認めるような実力さえあれば男女種族問わず隊長になれる。ちなみに貴国の階級でいうなら総隊長はおそらく大佐や中佐のような上級者クラス、現場を指揮するものはそれぞれ指揮する部隊の人数や規模で呼ばれる名前が変わります」
「どのようにかわるのですか?」
「我が軍の最低構成人数は十名、これを束ねるのが十人騎士隊長、その部隊が五つ集まったらその上に五十人騎士隊長、さらに百人騎士隊長、五百人騎士隊長、千人騎士隊長という風に続きます、数が増えれば増えるほど責任や階級は上だとお考えいただければよろしいかと」
リラビア魔法国の階級制度は特殊だった。クルジド国や大日本皇国のように細かく階級をつけるのではなく、指揮する人数や実力によって役職の名前が変わるようだ
下っ端の兵士が縛られるのは兵役の年数。つまり頭の先からつま先まで極端な実力至上主義と年功序列の軍事体系である
上位者の数が少ないということは意思疎通のやりやすさやフットワークの軽さが利点だが、指揮系統が一度全滅でもしようものなら悲惨なことになる
「なるほど、三国志の世界みたいな感じだな……」
「サンゴクシ、とは?」
「まぁこちらの物語ですよ。時間がありましたら話しますよ、それで、戦力の程は?」
「はい千人騎士隊を二つ五百人騎士隊を一つ連れて参陣しました。各方面に兵力を割いており、申し訳ないですが、不足分の戦力を、そちらで御融通していただきたく思います」
「具体的に我が軍はどのような立場で?」
「はい、連れてきた千人隊は全て軽装歩兵、五百人隊は魔術兵になります。敵の魔法攻撃や近接戦には対処できますが、銃や弓矢の攻撃には対処しきれない可能性があり、我々が前衛を務めます故、後方で遠距離からの攻撃をお願いしてもよろしいでしょうか?」
「わかりました、むしろ理想的な戦力だ。流石ベルレピュモス殿、是非その布陣でお願いしたい。もちろん後方からの援護射撃も任せてください」
「ありがとうございます!少将殿!」
「初めての共同作戦です。抜かりのないようにしましょう」
話し合いは深夜まで続いた。参謀や軍師が意見を出し合い、クルジド国軍の残党撃滅作戦が決行された
レイヴン曹長は苦虫を噛み潰したような顔でオルトス少将を睨んだ
「私に新人のお守りをしろと?」
「そうだ、我が軍の下士官の不足は知っての通りだろう」
オルトス少将はタバコに火をつけ、煙を吐き出す
「かねてより打診があったが、今度は逃げられんぞ。少尉」
オルトス少将はレイヴンに少尉の階級章を渡し、椅子にふんぞりかえった
「……私よりもっと有能な奴はいるでしょう」
「作戦の方針を聞いてないのか?我々は今クルジド国と接してる全ての戦線で全面攻勢にあたってるのだ。現場の曹長クラスは軒並み昇進。新兵共を優しく導くベビーシッターに早変わりだ、お前の同期も全員尉官になってるだろうさ」
レイヴン少尉は観念したように目を閉じると階級章を新しく付け替える
「謹んで、拝命いたします!」
「頼むぞ。お前が指揮する中隊はリラビア国との混成中隊だ」
「混成……?」
喉に刺さった魚の骨のような、嫌な予感がレイヴン少尉を襲った
「ようは獣耳が生えてたり、角が生えてたり、エルフだったりドワーフだったりする奴らが小隊クラスでお前のとこの小隊に組み込んだわけだ」
「何故そのようなことになったのですか?」
「上の方針だ。上層部は魔法の可能性をいたく評価しててな、重量やスペースを取らない重火器や支援火器になりうるとかなんとかいって、急ぎで実戦でのデータが欲しいんだとよ」
レイヴン少尉の顔がどんどん青ざめていく、自分が預かり知らぬところで話が進むのは軍隊あるあるだがいくらなんでもこれは話が進みすぎである
自分の指揮下の部隊に勝手に異世界人の追加要員が補充されてたとか、冗談にしては質が悪い
「リラビア側もこちらの動きとか武器の扱いは教育済みの試験小隊のようだ、まぁこき使ってやってくれ。そういやエルフや鬼人の女性はみんな美人だそうだ。目の保養としても期待できると思うぞ」
「いやそういう問題では、そんなことより今回の作戦内容で小隊規模の人数連携も把握しきれてない、何人生きて帰れるかわかりませんよ?」
「なぁに、リラビア側からも小隊が戦闘により全滅しても貴様に責任は一切問わないと太っ腹なことに書面まで頂いてる。小隊の全員からも命捧げるとあう覚悟の血判状付きでな、まぁ弾除けに使うとかそんなやり方じゃなければ批判されることはないだろ、それに連携不足な点は上も重々承知、そこでリラビア軍を組み込んだ部隊には中型無人戦闘車両、索敵ドローン、複合型戦闘補助ゴーグル、携帯型展開防弾盾、デバイス型擲弾投射機、そのほか盛り沢山のおもちゃを用意してくれると来た」
レイヴン少尉は頭を抱えたくなった。新兵器がポンポン出てくるということは従来の戦法がガラッと変わることを指す
行儀良く更新して銃の引き金を引く。それ以外にもやることが増えるとなると現場の兵士の負担は増える一方である
「……どんな結果になっても、責任は取れませんよ」
「レイヴン少尉、責任ってのは現場にある場合はごく稀だ。お前のような指揮官なら尚更最善を尽くすだろう。ならばお前が取るべき責任は何もない。上層部のお偉さんがその辺は片付ける。お前は何も気にせず、地下のもぐら共を締め上げてこい」
「……了解であります」
レイヴン少尉は諦めた。軍隊とは時に決断と諦めの早さも大事なのだ
数日後
更新された装備の訓練を終えた作戦参加部隊はポッカリ空いた地下通路の前に集合していた
ズラッと一列に並んだ皇国陸軍兵士の装備はかなり近代的になっており、服装は緑色主体の迷彩服、頭にはカーボンファイバーで作られた軽量ながら瓦礫や銃弾を弾き返すヘルメット、そしてそのヘルメットには特殊なゴーグルが搭載されていた
見た目はサングラスの様だが、暗視ゴーグルのように額の上に跳ね上げることができ、動作に支障が出ないように後頭部のイオンバッテリーにコードが伸びている
このゴーグルの正体は複合型戦闘補助ゴーグル。大器が召喚した未来兵器の一つだ
このゴーグルを装着するとゴーグルの端に様々な情報を出してくれるのだ。部隊内外の無線の相手、更新された指示、味方の位置などである
このゴーグルの真価は左腕につけた携帯端末を操作することにより表示される情報が変わるのも大きな点である。暗視、熱源探知、赤外線を始めとしたあらゆる光を認識することもでき、インストールされていれば自分がいる戦場の全体図を投影することもでき、本人次第だが、眼球の動きと骨伝導マイクによる音声操作で端末を使わなくても操作できる事も可能である
そのような最新鋭の複合型ゴーグルと毒ガス対策の口元を覆うタイプのガスマスクをつけていると完全に未来の特殊部隊、といった出で立ちになった
その出で立ちの兵士たちが手に持つ武器はG36CとAA12、そしてMG42を先祖に持つ機関銃のMG3、それと携帯型ロケットランチャーのLAWを担いでいた
その兵士が240名、三つの小隊に分かれていた
そんな皇国陸軍兵の少し前に整列するのはリラビア魔法国軍の兵士たちである
頭には皇国軍のお古のシュタールメットを種族によっては角や耳のスペース用に穴を開けた奴を被り、軍服はイギリス軍のレッドコートのような派手な赤を基調とした中世と近代が入り混じったような軍服、そして手にはこれまたお古のモーゼルkar98k、MG42、MP40を手にしており、腰には取り回しの効きやすい短めのエストックが全員に吊るされており、左手には胴体を守れるほどの小さな丸盾が取り付けられていた
彼らは再編成の際、技術交流の一環で派遣された皇国陸軍の士官の教育により促成された新たなリラビア魔法国軍兵士であり、今回突入する数は五百名、全員が一糸乱れぬ整列をしていた
佐々木少佐はその光景を眺めて若干安心した。リラビア側は最低限の練度はあるようで、思想や戦闘スタイルは細かいところがまだかもしれないが足を引っ張るようなことは無さそうだ
「壮観でありますな、少佐殿」
そこへベルレピュモスが話しかけてきた
「ええ、正直自分は異世界の軍勢と聞いて不安でしたが、練度は非常に高そうで安心しました」
「はい、この練度の部隊が各戦線で反攻に徹してると思うと、益々貴国との同盟は正しいものだったのだと実感いたします」
「でありますな。この戦い貰いましたな」
佐々木少佐とベルレピュモスの現場指揮官組が言葉を交わしていると伝令の兵士がやってきた
「失礼します!ベルレピュモス騎士総隊長殿!佐々木少佐殿!作戦開始の時刻となりました!将軍閣下からは予定通りとのことです!」
「了解した」
佐々木少佐は机に置いてあった複合型ゴーグルの付いたヘルメットを被り、ベルレピュモスは腰に吊るした剣を抜いた
「リラビアの勇者達よ!侵略者共をこの暗い穴倉から生かして出すな!一人残らず殺せ!」
『『『『『オオォォォォォォーーーッ!!!!!』』』』』
「ぜんたぁーい!前へ、進めッ!」
ベルレピュモスの号令と共にリラビア軍の兵士が一糸乱れぬ行進を開始した
リラビア兵は胴体と脛や二の腕を守るように鉄の鎧を身につけており、足を踏み出すたびにそれらが擦れ、大きな足音をたてた
「クーバァ起動!」
佐々木少佐が声を掛けると同時に戦列の最前列に配置されたコンテナが弾け飛んだ
四足歩行無人戦闘車両は以前大器が召喚した無人戦闘車両の一種であり、遠隔操作無人砲塔化されたM134ミニガン一丁を背負い、増設された耐熱装甲であらゆる攻撃を跳ね飛ばし敵に弾丸の雨を降らす存在
さらに今回は追加兵装として火炎放射器を装備しており、洞穴に籠る敵兵を焼き払うのに都合のいい兵装になっていた
「小隊前進!遅れをとるな!」
皇国陸軍も行進を開始した。全員が一斉にポッカリ開いた穴を目指した
地下通路は暗い、明かりも無ければ松明すら無かった。元要塞兵の話によると光の魔法を使う事で明かりをつけるのが主流だったとか
光魔法を使うエルフの兵士が杖をかざすと地下通路の内部が鮮明に照らされた
「うっ!」
「こりゃひでぇ……」
照らし出されたのは折り重なるようにして倒れた死体の山。格好から見るに全員クルジド国の兵士だった
何ヶ月も籠城していたわけでもないのに痩せ細った兵士たちが大勢、解体現場の瓦礫のように無造作に積み上げられていた
「足元に注意しろ!バゼフ隊、先遣しろ!」
「了解、バゼフ隊進め!」
その号令と共に二十人程の兵士達が死体の床を先行して歩き出した
「死んだフリをしてる奴がいるかもしれない!銃剣をつけておけ!」
銃剣をつけたライフルや腰に下げた剣で死体を突いて少しづつ前進していく
「くそっ歩きづらい……」
腐敗が始まってブヨブヨしている死体の床を慎重に歩いていくリラビア軍の兵士達
「おいヒンケル、何してるんだ?」
「へっコイツいい指輪してると思ってよ」
そういうとナイフで死体の薬指を切り落とし指輪だけを取り除いた
「やめとけ、隊長に見つかったらなんて言われるか」
「うるせえ、この指輪だって来る途中の街で略奪したに決まってらぁ。俺の妹を十人がかりで強姦して廃人にしたクルジドのクソどもだ。まだまだこんなんじゃ足りねぇよ、こいつは礼だよ、とっとけ」
宝石の嵌め込まれた指輪を軍服のポケットにしまい、死体に唾を吐き掛ける
「ほんと知らねぇぞ」
「構うもんか、ほっといてもどうせ後続の誰かが取るに決まってる。なら俺が貰っても同じ事だよ」
そういうとヒンケルは次の死体に近寄る
「こいつの指輪も貰っとくか」
その死体の手を握った瞬間、手を握り返された
「えっ?」
「聖帝陛下、バンザァイ!」
いうがいなや、死体だと思っていたクルジド兵が服の下に抱えた火薬袋に火をつけ、自爆した
「敵襲!」
その爆発を皮切りに死体のフリをやめた大勢のクルジド兵が立ち上がり、一斉に襲い掛かった
「くそったれ!撃ちまくれ!」
「来るな!来るな!」
ゾンビのように迫りくるクルジド兵に銃弾を叩き込み、半狂乱になりながら叫び、新しい弾倉やクリップを押し込む
リロードを諦め剣を抜いたり、ライフルを棍棒にして殴りかかる判断が出来た者は良かったが、震える手でうまくリロード出来ず、やがて敵に取り憑かれ、悲鳴と共に爆散していく兵士も大勢いた
「バゼフ!生きてるか!」
「バゼフ隊長は戦死されました!」
「くそったれ!やるぞ!バゼフ隊を助けろ!」
後続の応援が到着し、勢いのました銃撃が敵をあっという間に撃退した
「何名やられた?」
「バゼフ隊長以下、9名が戦死、7名重症です」
「よし残りは負傷者と共に後ろに下がれ。よしいくぞ!」
残りの敵を駆逐し、先遣隊が入れ替わり前進を再開した
「敵の死体には何発か弾をぶちこめ!死んだフリかもしれないぞ!」
「横穴には手榴弾を投げ入れろ!声がしたら当たりだ!」
床を埋め尽くしていた死体の山が無くなり、横穴や分かれ道が増えてきた頃合いだった
「ん?」
「どうした、ヨナス?」
「今、何か動いたよ」
その瞬間、暗闇から飛んできた矢がヨナスの喉に突き刺さった
「敵だぁ!」
その叫び声が合図のように弓矢が殺到し、次々と兵士が倒れていった
「連中、なんでこの暗闇で俺たちがわかる!?」
「魔法だ!光魔法を消せ!狙われるぞ!」
倒されていく兵士の法則を見破ったライハン騎士十人隊長は叫んだ
やがて光魔法を解除し、あたりは暗闇に包まれた
「ライハン隊集結!円陣防御!」
お互い声や手探りで暗闇の中集まり、左腕の丸盾を前面に、銃剣をつけたライフルを構え、ファランクスのような陣形を構築した
「ライハン隊長、何も見えません」
「わかってる、伝令!」
「はい!」
「後方に戻り、明かりをつけると狙われる事を伝え、孤立してるため援軍求むと伝えろ、いいな」
「了解です。でもどっちに行けば!?」
この世の終わりのような暗黒のせいで前後はおろか、上下左右もままならないほどだった
「俺は一回も振り返ってない、つまり俺の背中が元来た道だ、いけ!」
「わかりました!」
誤射防止のためのサイリウムを握りしめ、伝令のホッチは走り出した
「うっ!クソ!ここにも敵が、う、ぐぁぁああああ!!!」
「ホッチ!ホッチ!くそったれ!」
駆け出したホッチの悲鳴と共に暗闇がざわめき出したような感覚を覚えたライハン
鼻をつくような腐臭とアンモニア臭、漏らしたのは自分だけだろうか
「来るぞぉ!撃てぇ!」
ライフルやMG42が暗闇の中で断続的な光を生み出し、粗末な槍や短刀で切り掛かってきたクルジド兵の姿を映し出した
顔は真っ黒、しかし目元だけは皮膚が削げたようにグロテスクなほど真っ赤だった
それはまさに吟遊詩人が歌う悪魔の化身、そのものだった
「クーバァを先頭に進め!ここも酷いな」
クルジド兵に滅多刺しにされたリラビア軍の兵士を見てイリア軍曹は込み上げた吐き気を我慢した
「気を抜くな!敵はそこら中にいるぞ!」
クーバァの規則的な四足歩行の駆動音を頼しげに聞きながら分隊は前進する
暗視モードにしたゴーグルの隅に先行させた索敵ドローンから敵の反応があるとわかり、左腕の端末を操作する
「クーバァが撃つぞ!」
イリア軍曹がそういうとクーバァがミニガンを旋回、即銃撃を開始した
銃弾の雨、というより一箇所に雪崩れ込む滝のような銃撃がクルジド兵に襲いかかり、隠れ潜んでいたクルジド兵を熱感知センサーで瞬時に見抜き、正確無比な銃撃を浴びせた
「脅威を排除、前進!」
イリア軍曹の号令と共に部隊は再び歩み始めた
「よーし良い子だ、ジュノー」
「なあなあ、ジュノーって誰だ?」
「お前知らないのかよ、ジュノーってあのクーバァの名前だよ、書いてあるだろ、ほら」
指差した先にはクーバァの側面装甲、そこには確かにJunoと書かれていた
「なんでジュノーなんだ?」
「噂だと軍曹の元カノだとか」
「元カノ?確か第四小隊にジュノー曹長って人がいたような、あの突撃バカの……」
「おいゴルァ!無駄口叩く余裕があるなら先頭に走れ!とっととしろ!」
「「はい!」」
「たくっ……あいつみたいに減らず口ばっかじゃねぇか……」
「曹長殿!お下がりください!」
「うるさい!ここまできたら下がる方が危険だ!分隊、擲弾投擲!距離5m!テェッ!」
有坂上等兵の進言を無視し、左腕に取り付けた小型擲弾投射装置を突き出して発射。打ち出されたグレネードランチャーはバリケードに隠れる敵兵の目の前に落下。炸裂した
「ジュノー曹長!これ以上前へ出ると危険です!」
「有坂上等兵!敵はこの先にバリケードを組んでる
!突破するぞ!」
ジュノー曹長が盾にしてる横穴に飛び込んだ有坂上等兵は嫌々上官の命令に従い、手にしたG36cの弾倉を替える
「連中マスケットを交互に撃ってます!中々の弾幕ですよ!」
「構わんよ、それよか頭を出すなよ」
ジュノー曹長が言ったその瞬間、獣人族の兵士が雄叫びと共に宙へ踊り出し、手に持った手榴弾をぶん投げた
ただの人間よりも勢いよく、なおかつ強烈な勢いで投射された手榴弾は敵バリケードのさらに奥、備蓄された火薬樽の付近で起爆した
誘爆した火薬樽は鋭利な破片を撃ち出し、バリケードに書かれていたクルジド兵を次々と殺傷していく
「突っ込めぇ!」
「クルジドのクズどもを蹴散らせ!」
その瞬間、リラビア軍の兵士が魔法で強化された肉体を駆使して敵に切り込んでいった
連射性の低いマスケット銃や弓矢では捉えることが叶わず、あえなく接近を許した
「うおらぁ!」
リラビア兵の多くは剣を持っている。いまだに使い慣れない銃を捨て、剣を敵の頭に振り下ろした
丸盾をふるい、敵の顔面を粉砕し、その隙に剣を叩き込み、MP40で薙ぎ払うように銃撃を見舞う
元々彼らは銃より剣技や格闘と言った近接戦闘に長けている。故にこうした切り込み役が向いてるのだ
「ハァーハッハッハッ!隊長さん無事ですか?」
「オルフ隊長殿、助かりました」
ジュノー曹長が声をかけたのは茶色い毛並みの犬の獣人、はちきれんばかりの筋肉隆々の身体にワイルドな左目の傷、MG42を肩に担ぎ、弾帯をゲリラのように胸でクロスするように肩がけにしてる、パッとみだと鬼軍曹、しかしその実情は五十人を率いる隊長、少尉か中尉ぐらいの階級である
「良いってことよ!お互い様さ!ウラァァァアアアア!!!俺に続けぇ!」
MG42を抱え、それこそランボーのように乱射しながら敵陣へ真っ直ぐ駆け寄っていく
「すげぇ、伝説の傭兵かよ」
「負けてられませんね、前線の指揮をとってきます!」
いうがいなや、ジュノー曹長は横穴から飛び出し、銃矢が飛び交う戦場に突っ込んでいく
「いや、曹長、あなたも前に出ないでください!ちょっと!話聞いてました!?」
「オルフ隊長!待ってください!被弾しちゃいますよ!」
前線に突っ込んでいく二人の上官の後ろを追いかける二人の副官、凄く気苦労が多そうで、なんだか幸が薄そうな顔をしている
きっと彼ら二人はとても気が合うのだろう
「聖帝陛下、バンザァーイ!」
狭い通路を何十人ものクルジド兵が槍や剣を構えて我武者羅に突っ込んできた
「薙ぎ払え!」
それを迎え撃つのはAA12フルオートショットガン、MG42といった制圧力の高い強力な銃火器の数々であり、MG42の弾幕で手足をちぎられ、ショットガンの散弾が直撃した者は頭を粉微塵に砕け散らせた
「クーバァが行くぞ!」
レイヴン少尉が操作する無人機が敵の死体を踏みつけながら前進し、ミニガンを斉射、やがてクーバァのAIがミニガンでは対処しきれないと判断し、火炎放射器を指向させた
発射された火炎放射は地下通路いっぱいに広がって敵兵の隠れたバリケードごとを焼き払った
火薬樽やマスケットが爆発し、敵の兵士がさらに飛び散り、パーツが降ってくる
「進めぇ!誘爆に気を付けろ!」
入念にクルジド兵の頭に銃弾を叩き込み、ゆっくりと前進していく
「バリケード視認!」
「この先が司令部の筈、RPG!吹き飛ばせ!」
「LAWはこれで最後の一本です、虎の子ですよ?」
「構わん、ぶっ放せ!」
分隊長の号令の元、命令を受けた伍長がLAWの安全装置を解除し、敵のバリケードへ向けた
照準をつけた瞬間、発射されたロケット弾がバリケードに直撃、派手な爆風が地下通路を駆け抜けた
「突撃ぃ!」
「ぶっつぶせ!」
擲弾投擲装置の全弾を叩き込み、MP40やG36cを乱射しながら司令部と思しき場所へ肉薄する
「一人も逃すな!」
バリケードの残骸から逃げ惑う敵兵に銃弾を叩き込みながら叫ぶ
「魔法が来るぞ!」
その警告と共に敵が火球を生み出し、こちらへ打ち込んできた
しかしその攻撃はリラビア軍の兵士が水の球をぶつけられ、相殺された
「我らを忘れるな!」
オルフ隊長がそこへ躍り込み、機関銃掃射を敵に浴びせる
司令部に詰めていた敵兵は40名ほど、突入した分隊は30名程だが、圧倒的な火力の差で全滅した
「ふむ地図通りだな」
「レイヴン少尉、敵の配置図です!」
「よこせ」
壁から剥がした地下要塞の全体図が描かれた羊皮紙を机の上に広げる
「敵の配置は概ね予想通りです」
「であればクルジド兵は全滅ですな」
「うむ我らの勝利である!」
『『『うぉおおおおおお!!!!!』』』
両軍の勝利の勝鬨が上がった
「ぬ……ぐぅうう……」
マントンは急増の秘密通路から這い出し、肩の傷を抑えた
「ゲフッ……やはり、接近戦に持ち込めばあるいはと思ったが……分の悪い勝負だったか……」
口からこぼれた血を拭い、よろめきながら立ち上がる
「私は終わらん、まだだ、まだ戦える……」
ゆっくりと、一歩ずつ歩みを進めるマントン、頭の中を占めるのは死んでいった部下の事でもそれを圧倒的戦力で蹂躙していったリラビアの事でもない
「リンダ、フィオナ……お父さんは、帰るぞ……」
故郷に残した家族の事だった。二人の待つ家に、妻の野菜スープを飲み、娘を抱っこして遊んであげたい
家族の事を考えて歩いているうちに気がついたらマントンは地面に倒れていた。足はおろか手もピクリとも動かなかった
「すまな、い、な……お父、さん…は……」
蚊の鳴くような小さな声、その声は決して誰にも聞かれることなく消えていった
バステト要塞は完全に制圧され、クルジド軍は一掃された
またしばらく投稿に間が開くと思います、ご容赦ください




