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スーサイドフォートレス

「ウハハハハハ!!!全軍、突撃ぃーッ!我に続けッ!聖帝クルジド国、第87軍団、総軍団長、バルギルト・ダズモンドに、ついてこぉーい!!ウハハハハハ行くぞぉ!ついて」

その瞬間、ダズモンド中級将は死んだ。爆弾の破片がボロボロに引き裂いた下半身の傷口から流れ出た血が致死量に達したのだろう。電池が切れたおもちゃのように突然言葉を発するのをやめ、一番槍の栄誉に預かる夢を見たまま、そこらのありふれた死体の仲間入りを果たした


その瞬間、空から落とされた250kg爆弾が炸裂。組織的方陣を組んで届かぬ弓矢を放つクルジド国兵士達を粉々に粉砕した


「オーロラリーダーよりゲームマスターへ、敵野戦軍団の壊滅を確認、バラバラに逃走を開始してる、追撃の許可を求む」


《ダメだ、オーロラリーダー。雑魚に構うな。地上部隊の進軍の援護につけ、これは命令だ》


「オーロラリーダー了解した。全中隊、パターン1だ。所定通り行動せよ」


《《《了解!》》》

無線から返事が返るやいなや、イリヤムローメツの編隊はそれぞれ中隊ごとに固まり要塞へと向かっていった


「よし、第4中隊。警戒を怠るなよ、ドラゴンなんぞに不意を突かれたとあっては、空軍の名折れだ。空からの奇襲を警戒しろ!」

ウィンストン大佐はそういいつつ、配下の中隊が爆撃に向かった要塞を眺める。丘の上にそびえる城塞はWを二つ、上下にくっつけた様な形をしており直線は城壁、線の交わるところに尖塔が立っており、真ん中にはひときわ巨大な本丸がある

無策に真ん中の本丸を攻めればせり出した両側から敵主力の攻撃をくらい、それぞれのせり出した側には集中した敵の主力がいる。その要塞へ向かう手前には曲がりくねった蛇の様な形の坂道があり、進軍の邪魔をしている

しかし難攻不落の要塞とはいえ空からの空爆が限られるこの世界に現れた爆撃機によって各所に爆弾が投下され、はやくも形が崩れつつあった


「オーロラリーダーよりゲームマスター、地上の脅威を排除。予定地点は空っぽだ」


《了解した、これより地上部隊の前進を開始する。オーロラ隊はこれを任意に援護せよ》


「了解した、第4中隊続け!地上の部隊を援護する!機銃を用意しろ!」


















パンツァーカイルを形成したM1エイブラムスは腰程まである長さの草原に綺麗な一直線の轍を残し、バステト要塞に吶喊していった


やがて主砲の射程圏内に入ると二十両のエイブラムスが一斉に砲火を光らせ、発射された長射程HEAT弾は生き残って逃げ惑う敵野戦軍団をバラバラの肉片に変え、空を舞わせた


まばらに同軸機銃で立ち上がる敵兵を薙ぎ払い、時にはキャタピラーで轢き潰し、エイブラムスは全速力で前進した


「敵軍、目標点まで到達」

バステト要塞から離れた木の上、敵兵から鹵獲した双眼鏡を覗いていた兵士が呟いた


その兵士は周囲に伏兵や迂回する部隊がないのを確認したその兵士は自身の使い魔に手紙を持たせた


「行けッ!」

飛び立った使い魔は真っ直ぐ、バステト要塞に飛んでいく




















「来たぞ……」

中級二等兵のヴェニバンが一人つぶやいた


夜の間に地面の形を動かす魔法で掘り上げられた穴、そこに潜み一晩過ごした

水も食べ物も一食分しか持ち込めず、強引な撤退により身体は疲れきっていた


しかしヴェニバンの目は怪しく光っていた。土に塗れて真っ黒になった顔、赤い粘土を水で溶いて目の周りに塗りたくった、戦士の顔

穴の闇と黒く塗った顔が溶け込み、穴の上に乗せた偽造用の蓋をずらした箇所から差し込む日差しが目に痛かった

敵の巨大な鉄の塊、幾人もの戦友を踏み潰し、ジュウという武器で遥か遠くの味方を屠ってきた悪魔、そして


「ジュリー……もうじきだぞ、もうすぐで、お前の、元に……」

自分が唯一愛し、愛してくれた女性、ジュリエッタ下級一等兵の形見の服の切れ端を握りしめた。土や戦火に塗れ、真っ黒いボロ布になってしまったが、彼の目には付き合いたての頃、自分で彼女にプレゼントした藍色のスカーフのままだった


穴の中が揺れる。悪魔の足音で地面が揺れる


ヴェニバンの息が荒くなる。視界が暗くなる様な感覚が急に襲いかかる

悪魔から伸びた鼻が突然轟音と共に火を噴いた。数瞬ののち、遠くで爆音がした


引き付けるのだ。あの悪魔はあらゆる魔法を弾き返すが、至近距離で攻撃を食らわせれば、あるいは……


偽造蓋から目立たない様に突き出した杖に魔力を集める。魔法使いの力の源たる魔力は睡眠と栄養のある食事、つまりストレスと疲労をとることで魔力は回復するのだ

それらからは無縁の撤退をしていたヴェニバンに残された魔力は既にないも等しい。しかし自分の生きる源、身体の奥底にある人として大事な何かを無理矢理杖に注ぎ込む


「ぅぅぅううううっ!!!!!」

視界が黒に塗り潰され狭まる。耳や目から血が流れ落ち、意識が遠のいていく


しかし視線は悪魔の鼻から外さない。世界から色が抜け落ち、灰色になった

羽音の様な耳障りな音が響き、まるで世界から投げ出されるような感覚






魂が、投げ出されるような





「……ジュリ、エッタ」


海の中で力を抜いて浮くような感覚と共に意識を失った




















いきなりエイブラムスが吹き飛んだ


同時に複数のエイブラムスが吹き飛び、跳ねあげられた砲塔が投げられたブーメランのように回転しながら吹っ飛んだ


《戦車隊止まれ!止まれ!》


《メタル4-2撃破されました!》


《気をつけろ!敵の地雷だ!》


《戦車の半分が食われた!どうなってる!?》


「ハンター2-2、お前のとこの内部要員を下ろせ!」


「ハンケイル少尉!予定地点はまだ先ですよ!?」


「バカヤロウ!歩兵を積んだまま吹っ飛んだらそれこそ意味ないだろ!」


《ハンター2-1、ナイスアイデアだ。だがハンケイル!私が上官なの忘れたかテメェ!》


「すいません、姉御!」

ハンケイル少尉は無線で怒鳴ってきたマドリーヌ少佐にすぐさま謝罪し、機銃手に前方のタコツボ陣地に潜む敵兵の存在を車外カメラの映像で伝える


《前進中の全部隊へ、敵の地雷兵器の存在が確認された。歩兵を先頭に前進、爆撃機は直ちに地上部隊を援護せよ》


《オーロラリーダー了解。大隊集結!》


「前進だ!足元に注意しろ!」


「怪しいところはとにかく撃て!目の前の敵を排除することに集中だ!」

StG44やMP40を足元のタコツボに向けて乱射し、皇国軍兵士は前へ駆け出す


「足を止めるな!車両部隊の道を切り開くんだ!」

劉曹長は新しい弾倉をStG44に差し込み、声を張り上げた


「劉曹長!戦車隊の生存者は救助された!後ろは気にするな!」


「フェブランド曹長、連中はタコツボを掘ってその中に爆弾と一緒に人を埋めやがってる!排除しないことには進めないぞ!」


「全部を掃除する時間がない!部隊の進軍路のみを掃討しよう!左翼は私が掃討する、お前は右翼だ!」


「わかった、正面は!?」


「レイヴン曹長がハンター2-1と一緒に先行してる!」


「あいつもくじ運がないな!フェブランド曹長、切りぬけろよ!」


「お前もな、劉曹長!小隊続け!左100mを掃討するぞ!二列横隊!」

フェブランド曹長は耳に挟んでいた新しいタバコを咥え、劉曹長も自らの配置に走っていった


横隊になった歩兵達が捨て身のクルジド兵が潜むタコツボを一つ一つ潰して歩いていく

その後ろを生き延びたエイブラムスや八九式中戦車が要塞や地面から這い出でくるクルジド兵に砲撃しながらゆっくりと前進していく。遮蔽物の少ない野戦ならまだ戦車を有するこちらに分があった




















そこは草原の一角に設けられたクルジド軍陣地

大日本皇国の陣地を真似して作られたそれは胸元程の深さまで地面を掘り、刈り取った草を貼り付けたテントを広げ、空から見てもわからないように偽造された急増陣地であった


「いよいよだ」

ノグルド下級魔法士がそういった

戦闘の余波で左目を失った彼は炭で真っ黒に塗った顔と右目の辺りだけを濃く赤く塗った独特のメイクをしている

そしてこの天幕に詰める兵士の殆どが多かれ少なかれ重症といってもいい傷を負っている


「諸君、我々は傷ついている。しかしその心までは折れていない、そうだろう!」

その問いかけに答えられる余裕があるものはそう多くない。半分棺桶の中に入っているような、そんな兵士ばかりである


彼らの正体は爆撃により壊滅した転移魔法を専門とする魔法使いの集団、首切り師団、その生き残り達である


「これより我らを駆逐した敵に、復讐する!すでに同士が一撃加え、敵の進軍は遅くなっている。そこを叩く!我らの転移魔法の真髄を奴らのはらわたに刻みつけてやれ!」

その掛け声に対し、次は全員が全員が勝鬨をあげた。人によっては血を吐きながら、それこそ命を削りながら叫んだ


「詠唱!」

ノグルド下級魔法士が叫ぶと他の魔法士や上級魔法兵の者が詠唱を始める

しかしその詠唱を唱える中心には捕虜はいない、代わりに五人ほどの魔法兵が横たわっていた


「我らの血肉、捧げてくれる!」


「死を!奴らに死を!」


「聖帝陛下、万歳!」


「万歳!」


「クルジド国万歳!」

各々が声を張り上げ、手にしたナイフで自らの喉を切り裂いた


飛び散る血飛沫、狂気の笑みを浮かべながら青い炎に巻かれ、魔法陣に動力源として吸い込まれていくクルジド国の兵士達。彼ら一人一人が優秀な転移魔法の使い手である。だが転移魔法を知り尽くした彼らであるからこそ知っていた。訓練を積んだ魔法使いの魔力量は一般人や捕虜の兵士と比べると何十人分にもなるのだ、つまりたった五人でも移動できる物体の量は計り知れないし、その有り余る魔力で座標を遠くに召喚することも出来るのだ


彼らが飛ばしたのは、爆撃により粉砕されたバステト要塞の瓦礫。瞬きする程の一瞬の間に大日本皇国の兵士の頭上に大量の瓦礫が現れ、降り注いだのだ

無論、受け取り手がいない本来のやり方ではないこのような無茶をすれば当然弊害が出る。その代償として何名かの兵士が倒れた


「間髪入れるな、次」

ノグルド下級魔法士は残る右目をさっきまで隣にいた兵士に向けた、その兵士は顔中の穴から血を吹き出して事切れており、肺に残った空気が反射で絞り出され、歪なイビキのような音を出している


同じような兵士が魔法陣の中心に集められ、山積みにされる、無論生きていようが死んでいようが等しく集められた


「尊敬する者を失い、守りたい者を失い、愛する者を失った。我らが失ったのだ!奴らからも全てを奪え!復讐は、我らにありぞ!」

ノグルドが叫び、陣地に青白い光が満ちる。積み上げられた死体の山が目に見えない魔力として魔法陣にチリ一つ残さず吸収され、再び進軍する部隊の真上に瓦礫の雨が降り注いだ


そして魔法陣の中に今度はノグルドが置かれた。しかしそれは既にノグルドとしての役目は終えたただの触媒であり、やがて指揮を引き継ぎ復讐心に取り憑かれた人々の業により、痕跡一つ残さずこの世から消えていった



















「敵の隠蔽陣地だ!潰せ!」

ウィンストン大佐が指示を出すと、前部機銃手が横に吊るしていた手投げ爆弾を掴み、狙いを定めて落とした


風切り音と共に落ちていった爆弾は航空機爆弾よりかは控えめな爆発を起こした、それが後に続く航空機全てから落とされ、執拗な機銃掃射を浴びせ、やがて隠蔽陣地はズタズタに破壊された


「これで何個目だ、くそったれ!」


「あの青い光、転移魔法だ!気をつけろ!」

ウィンストンがそう叫んだ直後、頭上が光り輝いた


「おい冗談だろ!」

降り注いだ瓦礫がオーロラ隊のイリヤムローメツを直撃。翼に穴を開け、支えていたワイヤーを引きちぎり、時には乗組員の命をうばっていった

爆弾をほとんど使い切り、機銃掃射と地上観測のため高度を落としたのが仇となった


《大佐!第1、第2小隊全滅!第3小隊も損害大!撤退の許可を!》


「爆弾は投棄!撤退しろ!第4小隊!やばそうな奴は!?」


《こちら4-1、無傷です!》


《こちら!4-2!エンジン被弾!持ちこたえてますが墜落寸前です!撤退します!》


《4-3は大丈夫です!穴が開いて風通し最高ですよ!チクショウめ!》


「4-4、応答しろ!4-4!」


《大佐、オーロラ4-4墜落。直撃でした》


「……くそっ!」

部隊は壊滅。護衛の戦闘機隊は無傷だが、動きが遅く、面積の広い爆撃機は壊滅状態だ


「ゲームマスター、こちらオーロラリーダー!我が大隊は敵の転移魔法攻撃により被害甚大!離脱の許可を求む!」


《許可する。代わりのドンフェン大隊が向かってる。これ以上の落伍者は許さん、離脱せよ》


「了解!全機全速離脱!4-2はうまく味方のところで着陸しろ!飛行場で会おう!」



















「爆撃機が離脱しました!支援不能!」


「クソッタレ!どんだけついてないんだ!」

レイヴン曹長は敵が掘ったタコツボの中から報告してくるバーガー少尉の報告を聞いて地面を怒りに任せて殴った


爆撃機が空から敵の転移魔法部隊を潰してくれないとなるとかなり厄介なことになる


しかし敵の城門まで残りは50m程、ここまできたら行くしかない


「総員突撃!突っ込めぇ!」

レイヴン曹長の指示を待っていたと言わんばかりに兵士は駆け出した


そして先頭を行くのはパンツァーカイルを組んだ八九式中戦車七両。走りながら主砲が発射され、次々と要塞に突き刺さる


要塞の手前に二列に並べられた鹿砦を粉砕し、八九式中戦車は要塞の手前の登坂路に辿り着いた

ここは要塞正門まで続く最期の障害。某走り屋の聖地のごとく、道中の道がヘアピンカーブを描いておりおまけに道と道の間も急な勾配や柵で塞がれているので戦車でも登るのは難しいだろう

しかも登っている最中は両側の突出した要塞から攻撃し放題、遮蔽物も無し、上からは撃ち放題、落石で登っている全ての敵にダメージがいく、まさに攻撃側からしたら悪夢である


シンプルであるが故に、現代でも通用する地形なのである


戦車の支援のもと、登坂路の入り口まで走り切ったレイヴン曹長達は、地面に張り付くようにして敵の弓の射線から逃れようとする


「曹長!砲兵隊が一部展開を完了しました!野砲7基がスタンバイ中です!」

バーガー少尉がそこへ護身用のベレッタM9を手に持ちながら現れた、顔の右半分は疲労で歪んであり、部下がトゥーフェイスと呼んでいるのが納得の顔だった


「それだけ!?くそっ!東の突出部に集中砲火!片方なくなるだけで大きく違う、やれ!」


「了解、ハニービーよりクインビー、座標通達……」


「ハンター2-1!戦車が進軍するための道を確保する!付き合え!」


《了解した!まずはメル友から始めようぜ!》


「今はそのジョークに付き合いたくない!スペード2-5!前進だ!」

レイヴンの号令と共に部隊が立ち上がり、砲兵隊がなけなしの砲弾を敵要塞に叩き込む


登坂路を登り、カーブの位置で一旦停止、105mm砲を東側にせり出している尖塔に叩き込んだ


「レオナルド、五十嵐、進軍路に地雷がないか調べてこい!」


「了解、いくぞ!」

レオナルド伍長がMP40を手に持ち、ギリギリの幅で旋回しているブラッドレーを追い越す


壁際を慎重に進む二人、だが次の瞬間、正面の要塞で白煙と閃光が一斉に瞬き、何十発もの銃弾が二人をズタズタに撃ち抜いた


「どちくしょう!ゴリアテ隊聞こえるか!」


《こちらゴリアテ1-1、どうした!?》


「正面の要塞から撃たれ放題撃たれてる!今すぐ吹っ飛ばしてくれ!」


《了解位置を変える、少し待て》


「とっととしやがれ!マスケット銃に殺されるなんてゴメンだぞ!」


《位置についた、落石に注意!》

すると三台のエイブラムスが一斉に砲撃。炸裂した榴弾が要塞の城壁を倒壊させた


そして崩れてきた要塞の瓦礫が坂道を転がり落ち、レイヴン達に降り注いだ


「ちくしょうが!」


「フェブランド曹長!味方に殺されそうになるなんて聞いてませんよ!」


「私も初めて知った!ここにいたら死ぬぞ!全隊へ前へ!全員私のケツについてきな!」


「生きてられるならケツでもなんでもついて行きますよ!チクショー!」

レイヴン曹長が上を確保するのを待っているわけにいかなくなったフェブランド曹長達は前進を指示。ストレートに道を行くのではなく、山登りの様に四つん這いになって斜面をよじ登り出した


「少尉!今の落石で砲塔が歪みました!砲の旋回が出来ません!」


「くそったれ!」

ハンケイル少尉は操縦ハンドルを殴りつけた。デカイ落石が直撃したのが運の尽き、歩兵の盾となる存在がまさか序盤で倒れるとは


「エンジンは生きてます、後ろも空いてます、後方へ下がりましょう!」


「致し方ないな、誘導しろ!」

ハンケイル少尉が号令を出し、砲手の張伍長が誘導員として外へ飛び出す


ハンケイル少尉が坂を下りるのと入れ替わりに八九式中戦車が登坂路を登りだす


「ハンター1-1、こちらハンター2-1、砲塔故障につき、後退する」


《了解した、貴様もダメならうちの隊は全滅だな》


「どういうことですか!?」


《歩兵隊の見逃した地雷にやられた。乗組員は全滅。スリンガー中隊はかろうじで無事だが、ブラッドレーは全滅だ》


「くそったれ!」



















「よし、行くぞぉ!」

その掛け声と共にクルジド国騎兵軍団の指揮官、ベスコッピオ上級騎兵士が門から飛び出た

さらにベスコッピオに続き、大勢の騎兵が要塞から打って出た


全員が甲冑を脱ぎ、顔は戦場の泥と灰で真っ黒になり、極め付けは矢除けの呪いであるこの目元のみを赤く塗られている

クルジド国軍の制服に槍、そして馬の鞍や自分の背中に巻きつけた火薬袋のみを持った彼らは飛び交う砲火を物ともせず、まっすぐに吶喊していく


騎乗という足の速さで皇国軍の追撃を振り切った彼ら騎兵は逃げ道ではなく、戦いの場を欲していた。例えそれが生涯最後、生きて帰る保証がなくとも


対空射撃の様な角度で乱射されるMG42の弾幕に絡め取られ、仲間の気配が一つ、また一つと消えていく


曳光弾が胴体を貫通し、背中の火薬袋に引火。結果、味方を巻き込みながら大爆発していく者もいた。しかし下り坂を駆け下り、柵を飛び越えていく。死を恐れない騎兵というのはまさに弾丸のごとく、止まることを知らなかった


やがて騎兵は弾幕をかいくぐり、登坂路を下り切ると、城壁を狙っている後方の戦車隊に向けてまっすぐ走っていった


「ホォーロロロロロロ!!!!」


「振り向くな!止まるな!間隔を開けろ!密集したらいい的だぞ!」

そう怒鳴る騎兵隊隊長、しかし次の瞬間にはM2重機関銃の弾丸が頭に命中し、首無し遺体となって崩れ落ちた


「旗手前へ!止まるんじゃねーぞ!」


「聖帝陛下万歳!クルジド国万歳!」

掲げられた旗は二つ。クルジド国の国旗と騎兵隊の隊旗、どちらも血や泥でドス黒く汚れているが、彼らは気にしない。身体強化の魔法によって普段の何倍もの力を引き出されている騎馬によってはためく旗、サーベルや槍の煌めき


戦車兵もその命を束にして投げ捨てる様な特攻を前に恐怖し、戦車隊の次席指揮官のマントイム中佐は撤退を指示した


車長や無線手が身を乗り出し、上部重機関銃二丁を辺りへ乱射、同軸機銃、主砲も全て撃った


しかし残存戦車数十両に対し、騎兵三千は数が多い。あっという間に肉薄された


「ッラァ!」

突き出された槍が機銃手の喉を貫き、そのまま騎手は戦車へ飛び乗った


「聖帝陛下万歳!」

死んだ機銃手を投げ飛ばし、戦車内に潜り込む。その直後、火の魔法で背中の火薬袋に着火

勢いよく燃焼を始めた黒色火薬は圧倒的爆発力を発揮。爆風が狭い車内を駆け巡り、乗り込んだ兵士達はぐちゃぐちゃの一つのペーストに成り果てた


《連中を近寄らせるな!撃ち続けろ!》


《銃身が焼け付くまで撃ちまくれ!》


《助けてくれ!取り憑かれた、ちくしょう!くそッ》


《スリンガー3-1が食われたッ!うぉ!?》


騎兵は瞬く間に戦車を追い越し、馬ごと体当たり。馬と人間につけられた火薬が起爆しキャタピラーを粉砕、行動不能に陥れた


「ぐぅ、無事か!?」


「な、なんとか……」

グーリッヒの問いかけに答えた奏曹長は頭から流れた血を拭った


《全車両ユニットへ、こちらドンフェンリーダー。上級司令部からの命令で、諸君ら一帯への絨毯爆撃を行う。これ以上の敵の逆侵攻を許してはならないのだ、車両を密封し、神に祈ってくれ!もし当たっても許せとは言わん。俺たちがあの世に行くまでにぶつける悪口を考えていてくれ》


「ば、爆撃される!に、逃げましょう!」


「バカ落ち着け!車内にいた方が安全だ!」

しかし奏曹長はグーリッヒの言葉に耳を傾けず、ハッチを開けて外に出た


戦車から飛び降りた直後、突き出された槍に背中から貫かれ、絶叫を上げた


「くそぉ!」

悲痛な叫びをあげながら地面を引きずられ、ボロ雑巾の様になると飽きたおもちゃを投げる様に放り捨てられた


「この人でなしどもめ!」

グーリッヒ大尉はルガーP08を引き抜くと逃げ出した戦車兵を追い立てる騎兵に向けて射撃する

火薬袋に引火し、大爆発。しかし中に石を混ぜていたらしく、飛び散った石が逃げる戦車兵の全身を貫いた


空を見渡すと上空にはハンドレページ爆撃機の編隊が見えた


「死ねぇ!異教徒め!」

その直後、敵の騎兵が飛びかかってきた


「お前が死ね!」

グーリッヒ大尉は振り向きざまに肘打ちを相手に食らわせ、背中の火薬袋に着火する前にルガーで敵の頭を至近距離から撃ち抜く


死体をルガーごと下に落とし、ハッチを閉める


車長席に座り、シートベルトをしっかり締め、絶対に離すまいと近くの取っ手を強く握りしめる


「くそったれなんて日だ」

その直後、身体を揺さぶられる間隔と臓器がフワッとする間隔に襲われた





















戦車隊を突破した一部の騎兵隊は後方の砲兵陣地にまで差し迫っていた


「迎撃よぉーい!急げぇ!」

有刺鉄線も塹壕も何もない荒地に砲兵隊の兵士達は護身用のライフルや拳銃を手に、爆撃跡の穴に滑り込んだ


「アウリサー大佐、頭を低くしてください」


「人手が足りないでしょ、ここまできたら将校も何も関係ないわ」

アウリサー自身も護身用のグロック17を引き抜き初弾を装填した


《全ユニットへ、こちらドラゴンブレス2。予定を繰り上げてそちらへ急行中。射撃位置到着まで後3分!》


「3分だ!それだけ持ちこたえろ!」


「3分ありゃ、ベットインしてシメのタバコまで吸えるぜ!耐えるぞ野朗ども!」


「火力を前方に集めろ!機関銃前へ!」


「ミゼット中尉、すまないがここの兵は殆どが砲兵と陣地構成の工兵。あなた達が頼りだ」


「お任せください。奴らに文明の力を教育してやりましょう、正面は我々が受け持ちます、側面はお任せします」

アウリサー大佐とミゼット中尉が打ち合わせを素早く終わらせ、お互いに銃を取り出す


「正面、敵300!距離およそ250!」


「撃ちまくれ!」

ミゼットの合図と同時にM249軽機関銃二丁が一斉に火を噴いた

火線に絡め取られた騎兵は次々と倒れ、または火薬が引火して爆発していった


「野砲の元へ向かわせるな!弾幕張り続けろ!」


「くそっ!当たれ!当たれ!この野朗!」

距離はあっという間に50mを切った。敵騎兵が血を吐きながら槍を投擲した


飛んで行った槍は狙いこそバラバラだが、ミゼット達の籠る穴とは違う穴に届いた

その槍の後ろには小型の火薬袋がくくりつけられており、発砲炎で引火した

爆発と同時に穴に籠る兵達の肉片が撒き散らされ、黒色火薬独特の濃密な煙に巻かれ敵の騎兵を見失う


「警戒しろ!」

ミゼットが叫んだ直後奇声と共に騎兵が突っ込んできた


「オラァ!」

敵が着火する前にHK416のストックで馬の脚を殴りつけ、落馬した騎兵の頭に銃弾を叩き込む

敵は素早く戦術を自爆攻撃から槍を使った一撃離脱攻撃に切り替えたらしく、外周を警戒していた兵が煙の中から突き出てきた槍で貫かれていった


「全周警戒!動く物は全部撃て!」


「中尉!AC-130が位置に着きました!」


「まったくあいつはいつも遅刻してやがる!絶対モテないな!要塞の方を狙う様に言え!この煙じゃ敵ごとあたし達もお陀仏だ!」


「このままでは全滅ですよ!」


「人数はこっちが有利だ!全員馬を狙え!奴らの機動力が無くなればこっちが有利だぞ!」

ミゼット中尉とアウリサー大佐は自然と背中合わせになり、お互いの銃に新しい弾倉を差し込む


「このくそやろう!」

アウリサー大佐は的の大きい騎兵の馬に三連射。突然の激痛にたまらなくなった騎馬は横転、投げ出された騎手はアウリサー大佐の前に転がり落ち、大佐自身に頭を撃ち抜かれた


「砲兵だからって、舐めんな!」

アウリサー大佐は敵騎兵の火薬袋を掴み、上に投げ、銃で撃った

爆発した火薬袋の爆風は地表に届き、騎兵を根こそぎ薙ぎ払った


「大佐、覚悟は出来てますか?」


「自決用の一発は取っとくわ、そっちの分は?」


「既に確保してあります、ですが予備の部隊ももう着くはずです、それまで持ちこたえて!」

煙も晴れてきた、AC-130が要塞への砲撃を開始し、その十分後、後方から予備の兵力も駆けつけてきた


結果的に野砲の防衛は成功したものの、砲兵隊の犠牲は過去最高となった






















「突っ込めぇ!」

レイヴン曹長の掛け声と共に城門に八九式中戦車の主砲の集中射撃が叩き込まれる

破壊された城門から雪崩れ込んだ歩兵隊は槍や剣を持って一斉に襲いかかってきた敵に銃撃を浴びせる

要塞の内部、訓練や閲兵式をやると思われる広い中庭のようなこの場所は瓦礫や家財道具が不規則に並べられ、ちょっとした迷路と化していた


「ドラゴンブレス2より報告。城壁の敵は全て壊滅、他の要塞にも後続部隊が突入を開始した模様!次はここを砲撃範囲に収めたと!」


「バーガー少尉!あの尖塔がある部分を集中砲火させろ!その下から敵が出てきてるから、あそこが敵の本丸だ!」


「このぉ!了解です!ハニービーよりドラゴンブレス!」

死んだふりをして襲いかかってきたクルジド兵を射殺し、バーガー少尉は今日何度目かわからない無線を立ち上げた


「少尉を援護!後続部隊が到着するまでここを守り抜け!」

レイヴン曹長がベレッタM9を引き抜き、撃ちながらスリングでぶら下げたStG44に弾倉を差し込む


その直後、AC-130の砲撃が始まった


空から降り注ぐ105mm榴弾砲が尖塔を木っ端微塵に吹き飛ばし、続いて周辺の施設に砲撃の雨を降らせていく


「戦車の後ろに隠れろ!」


《スペード2-5、戦車からは敵がよく見えない!砲手にレーザーで撃つ場所を指示してくれ!》


「了解!全員聞こえるか!戦車に見えるようにレーザーで目標をマークしろ!」


「誰かポインターを貸してくれ!」


「使って!」

バーガー少尉がポケットから取り出したレーザーポインターを遠くの隊員に投げ渡す。度重なる戦闘で装備の欠落も激しかった


「ゲームマスター!これ以上は持ちこたえられんぞ!後続部隊はまだか!?」


《今麓の登坂路に差し掛かった所だ、もうじきだ》


《こちらドラゴンブレス2、燃料弾薬共に限界だ!後退の許可を》


《許可する、代わりのドラゴンブレス1が現地に入った、さらに増援として爆撃機大隊を増派した、持ちこたえるんだ》


「司令部は俺たちを殺す気かよ!」


「ぼやくな!口よりも手を動かせ!一人でも多く敵を殺せッ!」

レイヴン曹長は最後の弾倉をStG44に差し込み、銃剣を取り付けた


「誰か弾をくれッ!StGだ!」


「最後の弾倉だ、大事に使え!」


「数が多すぎる!」


「くそったれ、これはマズイな……」

敵は無尽蔵に出てくる。これほどの数の敵がこの要塞のどこに隠されていたのだろうか

全員が迷彩なのか、顔を真っ黒に塗りたくり目の部分だけ赤く塗られてる、一目見ただけで不気味だ

そんなメイクの連中が何百と押し寄せてくるその様はまさに地獄の悪魔の軍勢を相手にしているような感覚だった

敵兵に取り憑かれた八九式中戦車は敵の自爆で軽々と吹き飛び、飛び散った破片や炎で随伴兵は倒れた

八九式中戦車はその機動力を生かし、動き回るが、敵を轢き殺した時の骨片や血肉でキャタピラーが挟まり、動けなくなった所を魔法や自爆攻撃で破壊される場面も多かった


「くそったれ!随伴兵は恐れるな!」


「みなさん!爆撃がきます!赤の煙から離れて!」

その時、バーガー少尉がスモークグレネードを投げた。遠くで赤い煙がもくもくと立ち上りだした


《こちらドンフェン2-1、スモークを確認、これより投下する》


「ありったけぶち込んで!」

バーガー少尉が叫ぶ。投下された大小様々な爆弾が敵が湧き出てくる建物の入り口に命中。建物は粉々になり倒壊させた


《機銃掃射に移行する頭を下げてろ!》

ハンドレページ爆撃機は要塞の上空を旋回し、搭載した二丁のMG34機関銃を敵に向けて撃ち始めた


こうなってくるともはや敵はレイヴン達に近づくことすらままならなくなり、無駄に命を散らしていった


「レイヴン曹長!予備大隊から来ました、シモンズ曹長です。突入は我らで引き受けます!」


「了解しました、我らは下がり、補給を受けます」


「敵の自爆攻撃は打ち止め、後は内部を掃除するまでです!お任せください!」

そういうとシモンズ曹長は上官の元へ駆け出していった


「命拾いした……」

城内に突入していった皇国軍兵士達を眺めながらレイヴンは呟いた


「レイヴンさん」


「バーガー少尉、助かりました。お陰で部隊が全滅することなく生き残れました」


「いやぁ、仕事を、したまでです」

泥や血飛沫で汚れた顔をそのままに、バーガー少尉はレイヴンの隣に座り込んだ


要塞は陥落した。 ()()()()()





















「報告します。首切り師団は私含め、最後の一兵に至るまでがことごとく戦死、敵のドラゴン20機以上を撃退しました、騎兵隊、ならびに歩兵隊も敵の悪魔の馬車を40以上破壊。敵の出血は予定より多いです」


「ご苦労、下がってよし」

首切り師団の生き残りの女性将校は敬礼をして後ろへ振り向き、そのまま前のめりに倒れて死んだ


「マントン中級将殿、地上部分の部隊は全滅。しかし兵力の半分は地下に逃れました」


「ご苦労、まだだ。まだ戦える」

マントン中級将は笑った。万単位の兵士に片道切符の無謀な突撃を指示しながらも彼は笑っていた


「全将兵に通達。我らに道は無し、しかし戦い抜いた時こそ我らは勝利し、凱旋するのだ」

悪魔(マントン)は笑う。その笑い声は地下の要塞中に響き渡った

死ぬ気でやればなんでも出来る(マヂキチの顔)

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