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遠すぎた橋

ロメオビーチ

バスディーグ奪還部隊総司令部

ミリア少将


クルジド国の軍が司令部として使っていた村長の家を接収し改装した総司令部、その村長の居室ではミリア少将が書類を片付けていた


「バスディーグ奪還まで後一押しか……」

一度は突破された戦線もすぐに立て直し、その後前線を奪還。その後逃げる敵を更に追いかける形で戦線を押し上げ、バスディーグの国境線付近まで前線を押し上げたのだ

転移魔法という手段さえ無ければ相手の移動手段は馬車や騎馬、徒歩がメインになる。魔法という技術がありながら、空を飛んだりとかそういう独自の移動手段が無いというのが意外だが、足が鈍い以上、爆撃機や機甲戦力から逃れるのは不可能ということだろう


だが敵も学んでいるようだ


「敵が塹壕を掘るとはな……」

前線からの報告書を見ると敵が砲撃跡の穴を起点に人がすっぽり入れるほどの塹壕を魔法で作り出したとの報告が上がっていた

敵もこちらの砲撃や飛び散る破片を回避する為に塹壕を掘ったと考えるとこちらの攻撃を理解し、それを回避する術を高い授業料と引き換えに習得しつつあるという証左に他ならない

一部の戦線では敵が鎧を脱いだり、周囲の風景に溶け込めるような色を塗ったり創意工夫がなされていると報告が上がっている


「敵も馬鹿じゃない。こちらも用心せねばな」

報告書を共有と書かれた箱に入れ、次の書類を取り出す。タイトルは


『サンドキャッスルプロジェクト進捗報告書』


「ふむ……」

資料をめくる


中に入ってたのはカルテと報告書。報告書を読み進めていく


『総統閣下を間近で観察した結果。総統閣下は非常に自己評価が低く、ストレスに弱いという事が鞠戸軍医との共通した見解という事です』


極秘計画サンドキャッスルプロジェクト。大日本皇国存続に欠かせない存在である大器、彼を支え、主にアルコール中毒などで倒れたりしないように本人にバレて余計な気苦労を増やさないように周囲が極秘に支える計画である


『元々先頭切って物事を成し遂げる事を苦手とした控えめな性格をしており、アルコールの摂取で総統としての責任ある立場から現実逃避している模様。だがこの依存先のアルコールを禁止しても別の依存先を探す事になり、危険薬物などに手を出される前に対策が必要である、女性関連にも奥手でありハニートラップなどの警戒も要注意。なおそこがいじらしくて可愛いです』

ローズ少佐の個人的見解を黙殺し、ミリアはページをめくる


『書類仕事などの国家元首としての一応の仕事をこなしてもらう最中もアルコールを度々摂取しており、デスクワークは現状を忘れるどころか、総統閣下の立場を思い出させる物と判断。鞠戸軍医並びに 柩少佐監修の下、プランBにシフトチェンジ、途中経過は別紙参照』

ミリアは分かられている書類を取り出す


『総統閣下には公務の合間に新兵教育の一部訓練を応用した軍事教育を開始。射撃訓練、体力訓練、格闘訓練といった軽めの訓練をしてもらい、結果は良好。アルコール摂取の暇を与えても自ら摂取する事が減り、メンタルも回復してる模様。鞠戸軍医曰く、自分も軍隊の一部として活躍できるという精神的安定が総統閣下のメンタルに良い影響を与えていると思われる』

そこまで読んでミリアは納得した

リバティ基地から退却した後もミリアは大器と共に走り回り、部隊の調整に勤めた。元々身体を動かすのが好きなのかもしれないし、デスクワークで座って仕事しながら酒を飲むより身体を動かしている方が大器的には性に合っているのかもしれない

一国の指導者としてはどうかと思うが、それはそれ、周りの部下がサポートすればよい、幸いにそういう人材なら豊富である


人には向き不向きが生まれつきある。大器の不向きを押し付けて潰れられるよりかは向いてる方向を伸ばして健やかに過ごしてもらいたい。それが大器に呼ばれた者達の願いでもある

ファイルには大器の射撃訓練の結果も送られている。50mの距離から拳銃を30発撃ち、有効扱いの命中は17発。中々の腕前ではないだろうか


『サンドキャッスル計画は現状プランBのまま遂行。戦闘技能やメンタルが回復し次第、ゆくゆくは総統閣下には現地視察や勲章授与、外交などにも参加してもらう予定』

要点のみの流し読みだが、現在の総統閣下の様子がわかったミリアは小さく溜息を吐き、従兵が入れたコーヒーを飲む


「閣下も立派になられましたね、最初はやぶれかぶれな感じでしたが、我々の死を受け入れ、次に繋げようと努力なされている……」

コップを元に戻し、書類を焼却の箱に入れる


「閣下、いえ、大器さんが戦ってるなら、私も頑張らないと」



















イベール川


イベール川はバスディーク城塞都市の中を流れる二本の主流河川のうちの一つであり、対岸までの距離は最低でも500m、最大1km以上あるところも少なくなく、過去行われた多くの戦乱で大勢の兵士を飲み込んできた大河である


そのような天然の要害だが、当然偉業をなす人はおり、何人かの王、事業家、名もなき人々のたゆまない努力によっていくつかの橋が架けられていた


その中でもモンティーク橋は近代のリラビア魔法国創設より前に作られた橋であり、当時最先端だったレンガやセメント、建築用の強化魔法を使った巨大な橋である

幅は約20m、最大10tの重さを乗せてもビクともせず、度重なる洪水や戦火にも耐えてきた頑丈な橋だ


この1kmにも渡る橋、当然大日本皇国陸軍が欲しがらないわけがなかった、一から橋をかけるより元からある橋を使えば早いし安上がりだ


だが敗走するクルジド国の軍隊も馬鹿ではない。バラバラに逃げた敵はイベール川に架かる橋をことごとく落としていき、車両が渡れる橋は残すところこのモンティーク橋のみとなったのだ

そんな貴重な橋を落とされるわけにはいかない大日本皇国とリラビア魔法国、対するクルジド国は敵が嫌がることは必ずやる。つまりあらゆる手段を持って橋を破壊しようとしていた


「……冗談、ですよね?」


「装備更新による余波です。しかたありません」

第十三戦車中隊所属のグーリッヒ大尉が砲兵を指揮するアウリサー大佐の返答に頭を抱えていた


「陣地化が完了してる改良型122mm野砲は全部で187門、砲弾は現状八千発ほどあります。その砲弾の内訳は一千が榴弾、五千がフェレシェット弾、残りはガス弾になります。司令部の懸念は榴弾の多用により橋や周辺施設を破壊と新型野砲への更新時期と重なり、補給が滞ってる為です。よって砲兵隊の支援は限定的で限られたものになることをご了承ください」

作戦会議の参加者はこめかみを抑える。構成がいびつすぎるためだ。これでは通常の砲火力は発揮できないだろう


「これでどうやって戦えばいいのだ……正面火力で押しつぶすしかないのか、だがそれだと……」


「大尉殿、本当にほかの戦車は動かせないのですか?」


「ああ、燃料車の側でタバコをふかしたマヌケ野郎を今すぐしばきたいが、墓を掘り起こすわけにもいかないし、こうなっては後の祭りだ。補給が完了してるのはうちの中隊のみです、ですので我が中隊が先陣を切るのはまぁ納得ですが……」

グーリッヒ大尉が作戦計画の書かれた書類を持ち上げる


補給が済んでない戦車隊は河川敷や堤防上に展開し、砲兵隊と共に対岸の敵を砲撃、その間に橋と川両方から部隊を対岸へ向けて進める

橋は戦車が、川からは工兵隊が用意した手漕ぎボートで二個中隊が上陸する手筈だ


「砲撃はA中隊によるフェレシェット弾を二斉射の後、B、C中隊のガス弾斉射です。装填の合間を戦車隊の皆様に埋めてもらいたく思います、それとガスマスクの着用を徹底してください」


「了解した。川から上陸する歩兵隊は大丈夫ですか?」

グーリッヒ大尉がいうと歩兵隊の指揮官のソアラ大尉が顔を上げた


「こちらはボート以外の準備は完了してますゆえ、心配はご無用です」

ソアラ大尉がサイドテールの金髪を肩に投げるように流し、隣にいる工兵隊の代表者を見る


百舌(もず)中尉、ボートはどうなのですか?」


「鋭意製作中です、完全装備の二個中隊分の兵士が乗るに耐えるボートを作るのは、骨が折れます」

口を開いた工兵隊の中尉はそう呟いた。達観したようなどこか人離れした不気味な笑みを浮かべ、疲労からか目の下にドス黒いクマを作っていた


「鉄道敷設の際に伐採した森林の木材を転用してボートや搬送用のイカダを現在製作中です。ヒヒヒッ進捗は八割ほど。後四日もあれば完成するかと」


「そうか、作業を急げ」

中尉の不気味な笑みと喋りに若干圧倒されながらもアウリサー大佐は机に散らばった資料を纏める


「急がせます、フヒヒヒ」

何が楽しいのか、獲物を前にした死神のような笑みを浮かべ、飴を口の中で転がす百舌中尉


「それでは作戦開始は四日後の朝四時。それまで皆さん、準備のほどをお願いいたします」




















四日後……


堤防の側では完全装備の兵隊が大勢たむろしていた


「軍曹、タバコないか?」


「……曹長殿、恐れながら言いますが、吸いすぎではないですか……?」


「構うもんか、それにそのマスクじゃ吸わないだろ、いいからよこせ」


「フェブランド曹長、どうかご自愛ください」


「助かる、ヴァヌハ軍曹、これで寿命が延びたってもんよ」

フェブランド曹長はヴァヌハ軍曹から受け取ったタバコを口に含み、マッチで火をつける

ガス攻撃があるので全部隊ガスマスク着用の命令が出てるのに、このタバコ狂いの曹長は命令をガン無視していた

指揮官や憲兵に見つからないようにわざわざ外套を頭から羽織り、火をつける


「ふぅー、やっぱいいなぁ、こういうの。出撃なんて無くなればいいのに」


「給料分の仕事くらいしようとは思わないので?」


「思わんな、いくら無気力だろうが、自分の意思が無いとか言われても、私は寝転んでタバコが吸えたらそれで満足だ。それ以外のことは極力したく無い」

灰を落とし、幸せそうにそう答える中隊長を眺め、ヴァヌハ軍曹は諦めたような達観した目をした


「願わくば、このまま何事もなく終わるといいですがね……」


「そうだな、だがそんなこと言ってるから、ただではすまされないのだ」

フェブランド曹長がフィルターのギリギリまでタバコを吸い、煙を吐き出した


その時、堤防を何台かのトラックが走ってきた


「おっと、口が滑った」

タバコをもみ消し、ガスマスクを装着する


「喜べ諸君!出撃だ!」

トラックの荷台から飛び降りた工兵隊少尉がそう叫んだ


「ボートを持ってきた!まもなく戦車隊と砲兵隊が動き出す!砲撃の後すぐに諸君は出撃せよ!」


「良い子にしてた子には降り注ぐ矢と魔法の鉄火場をプレゼントだ!ボートは早い者勝ちだぞ!」


「総員出撃!いけいけいけ!」


「ボートを用意しろ!オールが無くてもその手でこげ!」

一斉に立ち上がった兵士達がトラックに群がり、数人がかりで積み込まれたボートを川へ運んでいく


その直後、砲兵隊の砲撃が遠雷のような音と共に発射され、敵陣の頭上で炸裂した砲弾は内蔵したフェレシェット弾を辺りに撒き散らし、鉄矢を豪雨のように降らせ始めた

あらゆる防具や屋根を貫通し、砲撃音に気づいて塹壕に逃げ込んだ敵兵も容赦なくハリネズミのようになり、命を散らした


降り注いだ鉄矢の雨が止み、生き延びた敵兵が顔を見せ始め直後、間髪入れずにガス砲弾が飛んできた

煙が尾のように放物線を描きながら降り注ぎ、地面にめり込み、あるいは跳ねて敵の塹壕に飛び込む


フェレシェット弾の雨を生き延びた兵士達が吹き出る白煙を目にした瞬間、血相を変えて走り出す


「逃げろぉ!毒霧だあ!」


「風魔法を!吹き飛ばせ!」


阿鼻叫喚。左右を毒ガスの霧に挟まれ、本能的に後ろへ後ろへ下がる兵士達が一箇所に固まり、おしくらまんじゅうのような人の塊があちこちで形成される。そのうちのいくつかは風魔法で危機を脱し、そのうちのいくつかは吹き飛ばされた毒ガスの波に飲まれ、やがて声の一つも上げることなく倒れていった

堤防の上に等間隔で展開した複数の戦車、ティーガーⅠやMkⅤバレンタイン戦車からも断続的に砲撃が開始され、辺りに立ち込める毒ガスが不自然に吹き飛んだエリアを中心に砲撃を叩き込んだ


「いけ!」

二十人程が乗ったボートがバラバラに出発する。皇国陸軍の兵士達は付属のオールや自身のライフルをオールがわりに川を漕いでいく


「楽しい川下りだ!歌えッ!お前達のママが死んじまっても歌い続け、敵を殺せぇ!」


『Kill,Kill,Kill Theme Mother F○○ker!!!』

屈強な兵士が軍服に身を包み、狭いボートの中で物々しいガスマスクの下で恐ろしい替え歌を歌う。どこもかしこも地獄しかなかった


はるか後方から降り注ぐガス砲弾や戦車砲弾が時折、巨大な水柱や爆発を打ち立て、軍服を濡らし岸に近づくたびに凄惨さが増していく


「フェブランド曹長!しゃがんでください!破片に当たりますよ!」


「ビビったら負けだぞ軍曹!もうじき対岸だ!」

フェブランド曹長は懐から信号銃を取り出し空へ一発撃つ、砲撃中止の合図だ

夜明け前の薄暗い山の中、照明弾が光り輝き、毒ガスから逃れられた敵が辺りを駆け回っている姿が照らし出された


ボートが対岸に乗り上げる。毒ガスで視界が悪いが、そんなことは一切構うことなく、上陸した兵士達はずぶ濡れの身体と武器を携え、前へ走り出した


「止まるな!」

毒ガス攻撃を生き延びた敵兵が粗末な塹壕から這い出て剣や槍を持ち、雄叫びと共に駆け寄ってくる


怪力自慢の兵士が腰だめに構えたルイス軽機関銃が乱射され、それに続くようにライフルが弾幕を張り、それに絡め取られた敵は糸が切れたマリオネットのように地面に崩れ落ちる

毒ガスの影響により咳やくしゃみをしながら全力で走る。それだけで精一杯なのにさらに武器を持って弾幕をかいくぐり、それを眼前の敵に振りかざすなどなんの対策も用意してないクルジド兵には到底無理だった。あえなく弾幕に絡め取られ、血飛沫と共に堤防を転げ落ちた


突撃第一陣を全滅させたフェブランド曹長達は敵の塹壕を覗き込み、塹壕の底で折り重なって泡を吹いているクルジド兵を一瞥、すぐさま塹壕を飛び越える


クルジド兵は塹壕を砲撃から身を守る為の防衛機構として使っていた。なのでフル装備のフェブランド曹長達でも飛び越せるほどに幅が狭い物しか無く、障害物として機能していない、歪な塹壕陣地が出来上がっていたのだ


「進め進めぇ!戦車隊が来る前に最低限の陣地化を済ませるぞ!クルジドの連中には速やかにおかえり願え!」

引き抜いた手榴弾を塹壕に投げ込み、爆発する。悲鳴と共に剣を握りしめた腕が吹っ飛んでくる


「おらぁ!お返しだぁ!」

フェブランド曹長は飛んできた腕を掴み取り元あった持ち主に投げ返し、手にしたMP40を塹壕内に乱射する


「敵は毒ガスで弱まってる!押せ押せぇ!」

ガスマスク越しでもフェブランド曹長の怒鳴り声は戦場によく響いた


「戦場の女神は砲兵!騎兵隊は戦車!ならあたしたち歩兵は何だ!?」


『『『救世主ッ!戦場の救世主ですッ!!!』』』


「そうだ!女神の目となり耳となり、騎兵隊のケツを守る!敵の命を9mm弾で刈り取り、奴らを戦場の地獄から解放してやるんだ!前ぇ!進めぇ!私たちが、奴らにとっての地獄の使いとなるのだ!」


『『『ウーーラァーーー!!!!』』』





















《ゴリアテ1-1、こちらゲームマスター、対岸の敵は毒ガスで全滅した。ガスで視界が悪い、歩兵と連携し、敵を殲滅しろ》


「了解した、ゴリアテ1-1よりゴリアテ1-3、対岸は視界が悪い、歩兵隊と連携しろ!」


《了解!》


「各車、間隔を20mは開けるんだ!前進!」

グーリッヒ大尉が指揮するのはバレンタイン戦車四両からなるゴリアテ中隊である。乗員はリバティ基地の頃から見知った腐れ縁ども、士気は上々だった


《こちら1-3!伏兵が死体のフリしてるぞ!橋の上だ!》


「くそったれ、上に上がる」


「了解」

グーリッヒ大尉が上部機銃座に顔を出し、M2重機関銃のコッキングを引く


ガスマスク越しに見えるのは橋の上でうつ伏せに倒れる敵兵。だが銃撃でやられたにしてはやけに綺麗な死体だ


弾丸が命中し、大穴が胴体に開くと途端に悲鳴を上げ始める


「今更遅い!くたばれ!」

死んだフリをするなど、敵もいよいよなりふり構わなくなってきたようだ


「ソアラ大尉!敵兵は死んだフリをしている。確認できるか!?」


《こちらでも確認した。対処は任せろ、前だけ見るんだ!》


「了解した、1-3前進!歩兵たちの盾になれ!」


『ラジャー!』

グーリッヒ大尉は上半身を車内に隠し、顔だけ突き出して辺りを見渡す

機銃掃射で脚をもぎ取られた敵兵が運悪く倒れ、意識ある状態で前進するキャタピラに巻き込まれた

轢き潰される敵兵の絶叫とバレンタイン戦車のエンジン音に紛れて歩兵の射撃音が聞こえる。それに対して砲撃音が無い、ということは川からの上陸部隊は対岸にたどり着いたのだろう


『前方より狼型の魔獣多数接近!』


「榴弾をぶちこめ!橋を渡り切ったら小隊横列!自分で橋を壊したらテメェらだけで橋を直させるからな!」


『了解しました!榴弾装填!ぶち込んでやれ!』

その無線と同時に先頭の戦車が主砲を発射。砲弾に詰められていた炸薬が爆発、全速力で駆けてきた狼や虎型の魔獣と呼ばれる敵の召喚獣を粉々に粉砕し、突撃の第一陣を粉砕した


そこへ随伴歩兵が合流し、さらなる猛射撃を加える


『脅威を排除、前進する!』

止まっていた進撃が再び再開される。その後は大した抵抗もなく無事に四両の戦車が橋を渡りきった


『こちら1-3!カーンズがやられた!敵の狙撃だ!銃による敵の狙撃だ!』


「なんだとちくしょう!」

その瞬間、グーリッヒ大尉の側の装甲に火花が走った。明らかな銃の狙撃だった


「十時方向だ、ぶちかませ!」

グーリッヒ大尉の号令と同時にバレンタイン戦車の砲塔が旋回。装填された散弾が発射され、弾丸が飛んできた方向の茂みを引き裂いた

それと同時にバレンタイン戦車二両の同軸機銃がさらに同じ茂みに射撃を繰り返す


「撃ちながら前進!上陸部隊と合流しろ!」



















「曹長、みてくださいコイツを」

敵陣を掃討し、橋頭堡を築いた後、ヴァヌハ軍曹があるものを持ってきた


「こいつぁ、マスケット銃か。こんな骨董品、どこで拾った?」


「蜂の巣になった敵兵の一人が後生大事そうに持ってました。他の小隊も何名か拾ってます、ウチの分隊でも三梃確保しました」


「ふぅん……コイツを持ってたやつのところへ案内しな」


「は、こちらです」

フェブランド曹長は短くなったタバコをもみ消し、ヴァヌハ軍曹についていく

やがて辿り着いたのは点在する木の下。身体中に木の葉っぱや泥をつけたクルジド兵が木に背中を預けて倒れていた


「こいつぁ……ふぅむ」


「何かわかったので?」


「ああ、色々わかってきた。敵も馬鹿じゃ無いし、ただ剣を振り回して魔法を使うファンタジーな存在じゃ無いって証明されてきたね」

そういうとフェブランド曹長はマスケット銃を持ち上げる


「銃のデザインや細かい様式にバラツキがある。ネジの位置や火蓋の形、照準器の有る無しにストックの形、ざっとみただけでもこれだけだ。まるで大勢の職人に見本を見せて一斉に作らせた様な感じだね」


「なるほど、つまりこれは敵が戦場で鹵獲した我々のライフルを解析して模倣した結果、作り出されたマスケット銃であると?」


「その可能性が高い。工場での大量生産ならこれほどバラツキが出ないし、ネジとか細かい部品は統一規格が施されていて当然だろう。それが無いということは敵の銃開発の進捗はごく最近だと伺える、それに」

フェブランド曹長は新しいタバコを加えるとマッチで火をつけた


「コイツの装備も異様だ。火薬が詰まった袋をぶら下げてるだけ。弾丸はポケットの中、早合とか弾薬盒、そういった物が見当たらない辺り、敵さんもこの銃の効率的な運用方法が未だに見出せて無いんだろうね、ま、全て想像だけど」

煙を吐き出したフェブランド曹長はマスケット銃を肩に担ぎ直した


「取り敢えず報告だ。存在しないはずの武器をいよいよ敵が運用し始めたんだ。この先、すんなりとは行かなくなるよ」


「この先の戦場には銃がある。これだけでも命を左右する情報に違いはありませんね」


「まったくだ、楽な仕事だと思ったんだけどなぁ」


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