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18/82

火と泥の戦争

玄武島 最南市

大日本皇国リラビア派遣軍本土司令部


「閣下、本日の戦況報告書です」


「ありがとう、ローズ少佐」

派遣軍の指揮に忙しいミリア少将に変わり、大器の補佐をするローズ少佐から書類を受け取る

稲穂のような金色の髪をサイドテールに纏めた美人秘書といった風体の美女である。軍服も似合っているが、ビジネススーツと赤縁のメガネもかなり似合うと思う


「ようやく倒した敵の総数がわかったか、どれどれ……上陸地点三つで総計八千人、未だ増加中か……」

ブランデーを一口飲み、書類をめくっていく


「死体の処理方法は結局溶かすのか……グロイ」


「こちらの世界では生焼けの死体は不死人(リビングデッド)骨人(スケルトン)として動き出すそうですので、肉をドロドロに溶かし、骨は正当な手続きと儀式を踏み、集団墓地に弔われる予定です」


「後ろの墓地からゾンビがワラワラ出てこられても困るしね」

大器は水酸化ナトリウムの生成工場の建造許可書に許可のハンコを押す


「ポイントも増えてるな……戦力増強か、設備拡充か……どっちがいいかな」


「それは次の軍議で決めるのがよろしいかと、それまでは貯めておきましょう」


「そうだな」

ブランデーをひと舐めし、次の書類に目を通していく


「……少なくない死傷者が出たか」


「上陸作戦に投入された総数から見ると0.6割と行ったところでしょう。車両や航空機の損害はゼロ、まさに完勝と言ったところでしょう」


「……そうだな」

胸がモヤモヤする。この死んだ兵士達は何を思って死んだのだろうか、彼らは


「閣下」

次のブランデーを注ごうとした時、ローズ少佐が大器の顎を掴んだ


「ぅえ?」

唇に柔らかい感触。ほろ酔いの大器の視界には目を閉じたローズ少佐の女神のような顔


「……お酒臭いですわ」

少し眉をひそめ、薄く笑いながらローズ少佐は顔を離した


「いったい、何を……」


「閣下、お酒を飲まれても閣下の気持ちは晴れてないですよね?」


「……それは」

いくら酒を飲んでも、大器は死んでいった部下の事ばかり考えてしまう。辛い事を忘れるための酒だが、辛いことが忘れられてないのだ。根本的に意味がない


「だったら、他の事を試されては、いかがかしら?」


「今度は女体に溺れろと?」


「いいアイディアでは?お酒より健康的ですよ?」

にじり寄ったローズ少佐が大器にしなだれかかる


「……また今度試そう」

グラスとブランデーの瓶を手に持ち、逃げるように席から離れる大器、女性経験の少なさからか羞恥心と酔いで顔が赤い


「興味が湧いたら、是非、お声がけください。いつでも、馳せ参じます」

妖しく微笑んだローズ少佐はとても煽情的だった




















バスディーグ城塞都市 北農耕地区

ゾルゲ農場


《こちらスケアクロウ2、麦畑に敵の伏兵を確認、匍匐前進に近い体制でそちらの陣地へ接近中、おおよそ70m先だ》


「了解した、警告感謝する、今に突っ込んで来るぞ!機銃用意!」

リョホフスキー軍曹が指示を出すと、塹壕に座り込んでいた兵士達が立ち上がり、機銃に取り付き、ライフルに初弾を込めた


昨日から降り始めている雨が軍服を濡らし、足元は最悪、即席の塹壕なので排水にまで気を使うことが出来ず、足元は水びだし、お陰で靴やズボンの中はぐちゃぐちゃになっていた


こちらの準備が整うと同時に麦畑から矢が射掛けられた

何人かの兵士が絶叫と共に倒れ、塹壕の泥に赤い血が混ざった

それと同時に敵が盾や槍を持って飛び出してきた


「撃てぇ!」

リョホフスキー軍曹の合図と同時にマドセン軽機関銃が射撃を開始。軽快な連射音と共に麦畑から飛び出してきたクルジド国の兵士達をなぎ倒した


「しつこいな!ウィッキー!砲撃支援と増援を要請しろ!急ぐんだ!」


「さっきから要請してますが、どこも手一杯だそうです!」


「くそったれ!」

特に足の速い奴が有刺鉄線を魔法で飛び越し、塹壕に踊り込んできた。即、胴体と頭に弾丸を叩き込み、黙らせた


「今回の連中、本気みたいですよ!あちこちが攻撃されてるみたいです!」


「いつまでこんなことしてればいいんだ!」

リョホフスキー軍曹は負傷兵から分捕ったゲヴェアー98に新しいクリップを差し込み、その銃を手榴弾を投げている二等兵に渡す


「お前!弾薬庫に行って機関銃とライフルの弾を持てるだけ持ってこい!急げ!」


「はい!」

リョホフスキーは代わりに手榴弾を敵に投げつけ、自分もルガーP08を取り出し、突撃してくる敵に発砲を始めた


(こちらは不眠不休で三日間ぶっ通しの戦闘、連中、どこから湧いてきやがる……)

口の中の血の味が気持ち悪い、吐き捨てた唾は血なのか煤なのか黒かった


「弾幕絶やすな!よく狙って撃て!相手は向かってくる射撃の的だ!」


「アイサー!」


「ヨブ記38章11節だ!奴らをこの先に一歩たりとも進ませるな!撃ちまくれ!」




















大日本皇国

バスディーグ奪還部隊 総司令部

ミリア少将


「第八から第十五までの陣地が攻撃されてます!」


「敵総数は凡そ二千!各陣地から増援要請!」


「敵増援の存在を確認!数はおよそ六千!」


「すぐに飛び立てる飛行機はあるか!?UAVは!?」


「ダストカッター隊が補給中、キラー1は現在整備中です」


「整備完了を急がせろ、補給が完了次第、ダストカッター隊を第十四塹壕陣地に向かわせろ!他の陣地には予備大隊を投入!小隊に再編成して各陣地に向かわせろ!」

ミリア少将の怒鳴り声のような命令を受け取った伝令兵が外へ駆け出していく。対するミリア少将はため息を吐くとチョコレートを一口食べ、戦況図を眺める、休みながらも仕事をせねば回らないほど最前線は忙しい

第十四陣地は未だに防御機構が完成してない。しかし航空機だけで持ちこたえられるだろうか


「敵の戦力は底なしだな……どうなってやがる」


中世の世界なら軍隊の移動は基本徒歩、よくて馬車だ。その状態で何百キロも行軍するには時間がかかる


その間にこちらは体制を整え、進軍する。そのはずだった


だが敵は予想に反し、物凄い速度で増援を送ってきたのだ

航空偵察によると上陸作戦で撃破した敵の三個師団程の残存兵は突如として現れた四個師団と共に反転、進軍を開始したのだ


「少将!リラビア国の武官の方がお見えです!敵の増加に対し、原因が判明したと!」


「通せ」

従兵にそう伝え、やがて入ってきたのは陽の光に光り輝く雪原のような髪をした一人の少女だった


騎兵が着るような胸部鎧とイギリス軍のレッドコートのような赤い派手な軍服、それに相反するような銀髪が絶妙な対比を描いていた

目には力があり、彫りの深い彫刻のような美貌とどこか別次元のオーラか美しさを兼ね備えた美少女だ


「リビー殿、敵の増加の原因がわかったとか」


「はい、敵は精鋭の師団を投入したと思われます」


「精鋭?」


「少将殿、この世界には転移魔法という禁忌の魔法があります」


「どんな魔法かな、実に興味深い」


「人は死ぬとその身に宿した膨大な魔力が放出されます。その放出された魔力を用いて遠く離れた場所と場所をつないでしまう、大まかに言えばそういう魔法です」


「……解説ありがとう。ようはそれを専門に行う敵の部隊が近くにいると」


「首切り師団、彼らはそう呼ばれ、分類としては重要物資や要人を転移で運ぶ部隊ですが、軍の師団を運ぶのは前例が無く、判別に時間がかかりました」


「なるほど……場所はわかるか?」


「転移魔法には送り手と受取手の二つが必要です、どちらかが欠けていれば転移魔法は使えません、そして受取手は近くにいます、この辺りです」

リビーが指差したのは最前線から数キロ離れた森


「我が軍の索敵隊が観測しました、間違い無く、受取手はここにいます」


「……よろしい、ミゼット中尉を呼べ」


















聖帝クルジド国

リラビア魔法国討伐軍 第二魔法移送隊

ヴァンガ上級魔法士


首切り師団、彼らの仕事は分業制だ


捕虜や反逆者の首を切り、魔力を放出する役


そして放出された莫大な魔力を使い転移魔法を行使。物を移動させる役の二つだ


本来はネズミなどの小動物を使って遠くに郵便物などを運ぶために開発された魔法だが、人一人使うとその効率は何倍にも膨れ上がり、それは大軍を瞬時に遠くに送る事も可能となった


そしてヴァンガ上級魔法士は放出された魔力を魔法として行使する役、よって軍でいうなら大佐クラスの扱いを受けていた


「次の便まで後1分、構えッ!」

ヴァンガ上級魔法士が号令すると、ギロチン台に捕虜のリラビア兵や捕らえられた民間人が押し込まれる

手にした懐中時計の秒針を注意深く見つめる、この魔法はタイミングが大事なのだ


秒針が時計を一周と五秒進んだ瞬間


「やれ!」

跳ねた血が目立たないように黒いお面と軍服を着たギロチン手が刃を支えるロープを離す。重力に引かれた刃は固定された首と手首を切り落とす

百はくだらない数の首とその倍ある手が地面を転がり、満杯に入ったバケツを倒したかのように赤黒い血が森の草木を濡らした


「詠唱!」

ヴァンガ上級魔法士が叫ぶよりも前に忠実な部下たちは呪文を詠唱しており、青白い炎が跳ねられた首や肉体を燃やす

燃えた死体はやがて塵となり、部下の詠唱により生み出された魔法陣に吸い込まれていく


吸い込まれ、魔法陣は青白く発光。眩い光と共に現れたのは八匹の竜とそれに付き従う大勢の兵士だった

掲げられた旗には剣と盾を持った竜、クルジド国に三つしかない火竜を戦力化した部隊だ


「第1軍団、火竜突撃隊隊長、ヴィルヘルム上級竜騎兵です」


「特別輸送師団第2小隊のヴァンガ上級魔法士です」

お互いに左の握りこぶしを頭と垂直の位置に持ち上げる、クルジド国が崇める神、アラヒュト神を崇める祈りのポーズ、宗教が中枢に強く根付いているクルジド国、その影響は当然軍にもあり、上官への挨拶は自然とこうなっていった


「見事な腕前だった、ヴァンガ殿、お陰で我らも竜も疲弊する事なく最前線までこれた」


「わたしにはこれしかありませんから、それに焦土のヴィルヘルム殿が来てくれれば小癪なリラビアも一捻り、我らも安心できるというものです」


「うむ、マッポレアではよくわからん連中に邪魔されたが、今度は負けん、それで指揮所はどこかな?」


「こちらです」

竜は一緒に連れてきた従者に任せ、二人は指揮官の居る天幕に向かった


「君が噂の焦土のヴィルヘルムかね、私はリラビア討伐混成軍を指揮している総司令官のアストン最上級将だ」


「お会いできて光栄です、アストン最上級将殿」

ヴィルヘルムは敬礼をし、心の中でため息を吐いた

転移魔法で軍団を移送するという前代未聞の奇策を用いた大将がどのような人なのかと思ったが、第一印象は見栄っ張りの権力の犬という印象だ


アストン最上級将、彼はクルジド国建国の際、共産主義を唱えた側に真っ先に寝返り、革命に参加した人物で、その時培ったコネで今の最上級将(現代軍隊でいえば元帥クラス)に上り詰めた男だ


用兵は基本的に徴募兵を突撃させて敵が疲弊したところを正規軍で蹂躙する。そういう戦術が得意で、ヴィルヘルムは死体の山の上で勲章を貰うようなタイプのこの男を苦手としていた


(あんがいこの作戦も、部下の意見をそのまま自分のてがらに、とかかもな……)


「さっそくだが、戦況図を見てくれ」

机の上に広げられた戦況図には味方を意味する赤の駒がたくさんと、反対側に敵を意味する青の駒が点々とあるだけだった


「ヴァンガ上級魔法士達のたゆまない努力のおかげで我が軍は実に4個軍団規模にまで膨れ上がった。更に敵に断続的な奇襲を仕掛け、連中は不眠不休で我ら決死隊の猛攻を防いでいる。疲れ切った奴らの頬をひっぱたき、ヴィルヘルム殿の火竜による空からの攻撃で敵を圧倒してほしいのだ」


「……理解しました、いくつか質問してよろしいですか?」


「なんだね、遠慮なく聞いてくれたまえ」


「ありがとうございます。まず軍団の構成を教えてください」


「うむ、よかろう」

アストンが従者から資料を受け取り読み始めた


「まず、前任としてバスディーグ攻略を担当していたチーロ中級将率いる28、44、65軍団は欠員が多かったので三つ統合して新たに混成第326軍団と改名、現在敵に休みなく攻撃を加えているのはこの軍団だ、そして残る三つは第8、第13、第15軍団、ヴァンガ上級魔法士達がこちらに呼び寄せてくれた軍団だ」


「正規軍が3個軍団も……」


「本国もこの戦線を重要視している証拠だよ、ついでにこのまま作戦も話していいかね?」


「二つ目の質問はそれでしたので、どうぞ」

そういうとアストンは上機嫌に話し始めた


「混成軍団は現在敵の防衛線に対し、全面攻勢を仕掛けている、だが部隊の配置にはあえてムラを作った。敵は増援として攻勢の緩い地点から他の地点に兵を移すだろう、その隙をついて本隊が侵入。ヴィルヘルム殿も本隊と共に突入し、敵後方陣地を焼き尽くしてもらいたい」

考えなしの突撃でないことが知れて少しだけ安心したヴィルヘルムは次の質問に移った


「敵の状態は?」


「敵は自分達で掘った穴にこもりきりで姿が見えんのだ。使い魔経由での観察によると生意気なことに食事は毎日三食、しかし連日連夜の攻撃に敵も疲弊しているに違いない」


「ひょっとして、このジグザグの線に沿って敵は穴を掘ってるのですか?こんなに膨大な距離を?上陸してからまだ一月も経ってないのでは?」


「うむ、敵は馬が引かない鉄の箱や巨大な昆虫の脚のような物を操り、いともたやすく地面を掘り返していた。おそらく噂のリラビア以外の海の向こうからやってきた謎の国と思われる」


「なるほど……」

マッポレア平原での戦いを思い出したヴィルヘルムはジグザグの線をジッと見つめた


「三時間後には総攻撃を開始する。到着してすぐだが、準備をしてもらえないだろうか?」


「お任せください」



















第10塹壕陣地

レイヴン曹長


「撃ち続けろ!弾幕が一瞬でも緩めばそれが死につながると思え!予備の弾が無くなりそうなら早めにいえ!」

レイヴン曹長が怒鳴る。先日ポーカーで航空機のパイロットから勝ち取ったルイス機関銃の調子は良好。押し寄せる敵の軍勢を押しとどめていた


「曹長ぉ!弾持ってきました!」


「マジャル上等兵!各員に分配いそげ!」


「それと曹長にお客様です!」


「はあ!?げっ!」

明らかに疲れ果ててるマジャル上等兵が駆け出し、彼に隠れて見えなかった客人の姿が映った


桃色の髪、空軍所属を意味する青いベレー帽、自信のなさげな弱々しい目、肩で不釣り合いなほど光ってる少尉の肩章、レイヴン曹長の胸ぐらいの身長に不釣り合いなほど大きな機材を背負っていた


「お久しぶりです、バーガー少尉殿!」

若干、先日の事がフラッシュバックし声が震えたレイヴン曹長だが、持ち前の根性で恐怖を抑え、バーガー少尉に敬礼した


「れ、レイヴン曹長殿!突然ですが、ここは第10塹壕陣地でお間違いないですよね!?」


「そうでありますが……」

レイヴン曹長がそう答えると安堵のため息を吐いたバーガー少尉ははにかむような笑顔でこういった


「師団本部より参りました!砲兵の着弾観測にこの陣地を使わせてください!」


帰ってくれ。喉まで出かかった言葉だった


「あ、あの……大丈夫、ですかね?その、先日のようなことは……」


「大丈夫です!先日は慣れないアナログ方式でご迷惑をかけましたが、今度は得意な観測方法が使えますから!では隅をお借りします」

そういうとバーガー少尉は待避壕の一角に座り込み、膝の上でタブレット端末を乗せ、電源をつけると、背中の機材の側面が自動で取り外れ、形が次々と組み上がり、プロペラが自動でせり出て回転、あっという間に四枚羽のドローンが出来上がった


バーガー少尉は慣れた手つきでタブレット端末を操作し、ドローン二機を空に飛ばした


「こちらハニービー、観測点に到達」


《こちらクインビー、準備は出来てるわ、早くしなさいよね》


「了解、まってて」

タブレットをスワイプし、距離、風速、敵情、弾種、砲撃に必要なデータを次々と砲兵隊へ送信する


《……あんた、この情報確かなのよね?数が六千って、ありえないわよ!ちゃんと陸軍式の計測よね?》


「嘘だって私も思いたいけど、そうも行かないみたい!」


《……わかったわ、用意させるわ》


「砲撃がきます!2分後に観測射撃!その後に斉射です!」


「砲撃に備えろ!敵を寄せ付けるな!」

レイヴン曹長は装弾不良を起こしたC96を投げ捨て、バーガー少尉の腰のベルトを外した


「はぇやっ!?な、ななななな何を!!?」

テンパるバーガー少尉を放置して、レイヴン曹長は奪い取ったベルトのM9を抜き取り、突っ込んでくる敵兵に銃弾を叩き込む


「あ、そっち……」


「弾幕絶やすな!有利なのは俺たちだ!」

新しい弾倉を差し込んだ時、レイヴン曹長は空から降ってくる敵の矢に気づいた


「少尉!」


「あ、あいっ!?」

とっさにレイヴン曹長はバーガー少尉に抱きつき、降り注ぐ矢からバーガー少尉を守った


「そ、曹長!」


「くぅ……少尉、手榴弾は、ありますか……」


「え、えぇ……はい」

ポーチから取り出したM67アップルを奪い取り、ピンを抜いて敵目掛けて投げた


「曹長!手当てします!」


「矢だけ切り落とせ!動くのに邪魔だ!」


「了解!」

衛生兵が取り出したハサミで矢を切り落とす


「砲撃!来ます!」


「伏せろ!」

レイヴン曹長の号令と共に全員が伏せる


それを好機と捉えた敵は一斉に突っ込んできた


放たれた砲弾は五発。地表に着弾する5m頭上で炸裂。音速で撒き散らされた破片は敵の兜や鎖帷子を易々と貫き、先頭集団を殺傷した


「クインビー、誤差修正!0.6度下げ!弾種近接信管!三斉射のち角度1上げ!」

衛生兵から借りたゲヴェアー98を撃ちながら着弾修正を無線機に怒鳴る。射撃の腕は下から数えた方が速いぐらいの腕前なので当たったかわからないが物の足しにはなるだろう


《ちょっと!それじゃあ塹壕のすぐ目の前に》


「いいから撃って!」

砂利が噛んだのか、ボルトががっちり動かなくなり、悪戦苦闘してしまう


《……了解、死なないで、バーガー》


「任せなさい」

ボルトを動かすことを諦め、ライフルを置き、塹壕の穴に放置されていたダガーを拾い上げる


「少尉、これを使ってください」

そこへレイヴン曹長がM9を渡してきた。ベルトに付いていたマガジンポーチの中身は全て空っぽだった


「……今更ですか」

最後の弾倉が入ったM9を握りしめ、代わりにダガーをレイヴン曹長に渡す


「借りた物は返さないと、気が済まないタチでありますので」


「なにそれ、貸したなんて言ってませんよ」

場違いにもクスクスと笑ってしまうバーガー少尉、感情の高ぶりから出てきた涙と一緒に血飛沫や泥も袖で拭っていく


「砲撃が来ます、伏せてください」


「斉射が来るぞぉ!」

バーガー少尉を押し倒し、叫んだ

レイヴン曹長の声が塹壕に響き渡る。勢いが削がれていた敵だが、再び頭を下げた敵を前に懲りずに勢いを強めた


だが、次の砲撃は斉射、基準砲一門に着きその下に約二十門の砲が付き従う。およそ百門の砲弾が一度に降り注ぐのだ


塹壕の約2メートル、その気になれば手が届く程の距離が一瞬にして黒煙に覆われた

降り注いだ鉄片はがむしゃらに突っ込んできた敵兵の身体をズタズタに引き裂き、その命を無差別に奪い取っていった


すぐ近くに降り注ぐ砲弾の炸裂音。すぐ隣の叫び声も聞こえないような強烈な爆音、降り注ぐ肉片や土塊、飛び込んできた破片から身を守りながら砲撃が終わるのをまだかまだかとまつ


「ーーーッ!ーーーーッ!」


「なんですか、聞こえません」


「ーーーー、ーーーーーーッ!」


「もっと大きな声で……」


気がついたら意識は闇の中だった






















「ゲームマスター、こちらハンター2-1。まもなく会敵ポイントに到達!」


《了解ハンター2-1、キラー1敵に動きは?》


《こちらキラー1、敵に動きなし。まだなのか?こっちも新しいオモチャを使いたいんだ》


「使い慣れた右手に黙って浮気か?」


《オレのテクニックで連中骨抜きにしてやる、自分の獲物の心配をしろよ》


《ハンター全隊に通達。道は未整備の凸凹道、おしゃべりな口を閉じないと、舌を噛むぞ、パンツァーカイルで突入する、スリンガー中隊合図したら突入せよ》


《スリンガー1了解、私たちの分も残しといてくれよ》


《ハハッそいつは保証できないな。突っ込むぞ、馬鹿野郎ども、私のプリケツをしっかり拝みな!》


「イエス、マムッ!」

ハンケイル少尉が操縦手に合図を出す。アクセル全開、ならびにハンター2-2の前方に出る


反対側の右翼にはハンター1-1とハンター1-2が斜めにならび、矢じりのような形になり、M3ブラッドレーは全速力で森を突っ走る


《作戦の再確認だ。敵特殊輸送部隊、首切り師団の撃滅、目標はそれだけだ。暴れてこい、諸君》


《ハンター1-1コピー》


「ハンター2-1コピー」


《ハンター各隊、敵の検問所だ》


《各員スモーク!》

煙幕投射機から発射されたスモークが敵が検問所を構えてる辺りに着弾。敵ごと煙幕で隠した


《突っ込め!》

M3ブラッドレーは木製のバリケードを体当たりで強行突破。煙幕に怯えていた敵兵を弾き飛ばした


《ゲームマスターよりキラー1、攻撃を開始せよ!》


《アイコピー!特大のやつ食らわせてやるぜ!》

その直後、空から降り注ぐ四本の光。マーベリック対戦車ミサイルだ


着弾。光学照準器に映る爆煙、今頃敵陣は蜂の巣を突いたような事になっているだろう


《1-2続け!2-1と2-2は左回りだ!》


「了解!」

答えた瞬間、森を抜けた


切り開かれ、あちこちに切り株が残る平地に大勢の敵兵と思しきローブの軍勢がせわしなくうごめいていた


《少尉、これは食い放題ですよ!》


「食い過ぎて胃もたれするなよ!切り株に注意!戦場に着く前にスタックなんて笑えんからな!照準、正面敵集団、撃て(フォイヤ!)

ハンケイル少尉が合図する。換装した105mm滑腔砲がマズルフラッシュと共に砲弾を発射、飛来したフェレシェット弾が敵集団の目前で破裂、飛び散った鉄矢が黒覆面の集団を貫き、手にした大斧を粉々に砕いた


「榴弾装填!右20度、撃て!」

物資集積所と思しき木箱の山を粉砕し、ブラッドレーは進む

後方のハンター2-2も25mm機関砲を手当たり次第に敵集団に掃射する


「行進間射撃当たるとか、ついてるぜ!」


《スリンガー中隊前進!敵は混乱してるぞ!》


《了解!》


「カスパー!ライバルが来るぞ!ゴールデンタイムは終了だ!全速前進!絶え間なく動き、絶え間なく撃ちまくれ!」


「任せてください!」

車外の光学カメラがその瞬間、突入してくる味方を映した


《スリンガー隊到着!野郎ども!銃身が焼きつくまで撃ちまくれ!》


《ヒャッハァー!!!》

新しく突入してきたのは三台のSd.Kfz.250。後ろの兵員登場部分の前後に取り付けたMG42を手当たり次第に乱射し、荷台から身を乗り出しライフルを撃つ猛者もいた


《こちらハンター1-1!敵の退路を塞いだ!ここは任せてテメーらは暴れ回れ!》

兵員室の銃眼から突き出たHK416が火を吹くたびに、斧や剣を持って駆け寄ってくる敵兵が血を吹いて次々と倒れていく


《中心に到達!野郎ども!降車しろ!》

Sd.Kfz.250は敵兵の中心、マーベリック対戦車ミサイルが着弾した爆心地に到達。後方ハッチが開き、ミゼット中尉の部隊が続々と爆心地に展開する

改良され、威力が通常より向上したマーベリックミサイルは地面に大きなクレーターを作り上げており、即席の待避壕としては上出来だった


「手筈通りに展開しろ!装甲車は三方向を警戒!それ以外の隙間を埋めて持ちこたえろ!」

穴の縁の地面に張り付くように伏せ、まっすぐ突っ込んでくる敵兵に射撃を浴びせる

さらに横付けされたSd.Kfz.250に据え付けられた二丁のMG42の弾幕は敵の突撃、方陣問わず粉砕していき、敵を近寄らせない


その外周をかき回すようにブラッドレーが甲冑姿の敵を跳ね飛ばしながら機銃掃射で敵の方陣を真っ向から潰していく


「殺せぇ!向かってくるやつは皆殺しだ!」

重機関銃とアサルトライフル、手榴弾の爆発と滑腔砲の砲撃、甲冑によってくぐもった絶叫と悲鳴が戦場にひびく


特殊輸送部隊、首切り師団の壊滅は約束されたようなものだった




















「対空射撃ー!」

第10塹壕陣地に警告の声が響き渡った


敵の波状攻撃をどうにか押し切り、レイヴン曹長を野戦病院に連れて行って増援の小隊と共に陣地の修理をしていたところだった


「対空?敵に航空兵器なんて……」


「少尉!伏せて!」

その直後、バーガー少尉がいる塹壕に火竜の炎が吐きかけられた


直撃こそ無かったものの、尋常ではない熱波が頬を撫で、一拍おいて火竜が低空を飛び去った

飛び去った火竜の背中を狙って塹壕から顔を覗かせた兵士達がライフルや機銃を空に向けて撃つ


「退却だ!退却しろ!」


「くっそー!」

バーガー少尉が倒れた兵士からMP18をもぎ取り、駆け出した


「来るぞ伏せろ!」

バーガー少尉が振り向く。塹壕は一直線、待避壕や遮蔽物はない


まっすぐ、火竜と目が合うほどの距離だった


「あぁ、くそったれ……」


吐き出された炎が塹壕や地表を逃げる兵士を包み込み、やがてバーガー少尉に直撃した



主人公が代替わりしたような感じがしますが、気のせいです

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