オペレーションドラゴンクエスト〜最終段階〜
全ての人が寝静まった夜
彼らは足音を立てる事なくいつものように無音で走り、ミゼット達の部屋の前にたどり着く
彼ら暗殺者にとって魔法を使わなくとも自分たちが仕えていた国の王城など目をつむっても正確に動くことができる
合鍵でドアを開け、緊張感をさらに一段階あげて室内に入る
標的は女王に抱き込まれたハンター。ジュウというよくわからない武器を使う者達だ
いつもの毒を塗った黒塗りのナイフを音もなく引き抜き、ベットの掛け布団を勢いよく引っ張り、ナイフを振りかぶった
ナイフを突き立てた瞬間、彼らは理解した
「レディの部屋に入ってそれはないんじゃない?」
後ろからかけられた声に反射的に予備のナイフを投擲。石壁にぶつかる硬質的な音が響き襲撃者は右の拳を握りしめ、左手に予備のナイフを握る
次の瞬間、ミゼットが手にしたシェアファイヤのフラッシュライトを点灯。強烈なLEDの明かりが闇に慣れきった襲撃者の目を焼いた
「ぐぉっ!?」
なんの予備動作や魔法を使う形跡もなく、いきなり閃光で目が焼かれたのだ。歴戦の暗殺者でもひるむのは当然だ
さらにその直後、なにかが爆ぜたような、そう報告にあったジュウの発砲音が響き、腹部に激痛が走った
「お、おのれ……」
「動くんじゃない」
悠然と、ジュウを構え、こちらに歩み寄るミゼット。謎の光をこちらに当て、油断なくジュウを構えている、相棒の方も同じような体勢で目があった。襲撃は失敗である
「こ、これからは、王族ではなく、優れた市民が国を導くのだ!それの邪魔をするのか!」
口の中が血の味しかしなくなり、穴の空いた腹部から焼けた鉄のように熱い何かがこみ上げつつも、自分が今夜殺すはずだった女を睨みつける
「あっそ、どうでもいい」
「こちらドラクエリーダー、全ての紋章が集まった、繰り返す全ての紋章が集まった。これより最終段階に移行する」
額を撃ち抜いた暗殺者を脇にどけ、超長距離無線機とビーコンを用意し、本隊と連絡を取り出す
《ドラクエリーダー、こちらゲームマスター、了解した、反攻勢力の進軍は予定通り、情報統制も万全だ、シャングリラ基地からの航空支援は一時間でAC-130がそちらに到達する》
「ドラクエリーダー了解、マリー、点呼は?」
「状況はグリーン、全員かすり傷一つありません」
「ハッシェル王妃の様子は?」
「盗聴器によると近衛兵の反乱はごく一部、現在戦闘中、女王側が劣勢」
「そうか城外のインコにつなげ」
「調整します、お待ちを」
その瞬間、ミゼットはドアに向けて数発発砲。聞き耳を立ててタイミングを伺ってた暗殺者が胴体に風穴を開け、部屋に倒れこんできた
「繋がりました」
「インコ、こちらドラクエリーダー、馬車はどうなってる?」
《誘導ビーコンは確認してます。後2分で発送可能です。それと城下が騒がしくなってきました、農具や松明を持った市民が大勢、城に向かってます。渋谷のハロウィン並みの人数と騒ぎです》
「時間がないな、発送完了後、速やかに合流できるように準備を急げ」
その時、また扉の外に気配を感じたミゼットは拳銃をそちらに向ける
「メラ!」
「ホイミ!入れ!」
合言葉が聞こえてきたことにホッとしたミゼットはしかし油断なく銃は降ろさない
同じように銃を手に入ってきたグレン達は外の警戒に二人残し、残るグレン少尉と柴田上等兵がミゼットのそばにやってくる
「報告しろ、損害と状況は?」
「パラサイトによるパッケージキロの確保は成功。近衛兵から離反者は一個中隊規模と思われ、城の各所で離反者と近衛騎士が戦闘中。それとここへ来る途中に北の城門が開いているのが見えました。そこから暴徒を中に入れる計画のようです、我が隊の損害は無し。残弾は全員合わせて拳銃が24発のみです」
「好都合だな、手間が省けた。後は馬車が来しだいパッケージキロを確保に向かう」
《中尉殿ぉ!お待たせしました!おしゃべりインコ宅配サービスでぇす!》
無線機からやかましく鳴り響くクロスマンの声と共に、窓の外に六枚軸羽の小型無人機が四機現れた
《寂しいひとりの夜を埋めてくれる素敵なオモチャをお持ちしましたよ!》
遠回しな下ネタとは裏腹に、ぶつからないように繊細な操作で窓から室内にドローンを着陸させた
「よくやったインコ、これよりフェーズ2に移行しろ」
《了解、集結地点に向かいます》
そこで無線を切ると、ドローンが機体下部に吊るしていたバックから取り出したP90取り出し、弾倉を装填する
「弾倉はマガジンが1人三本、これが4人分、後はイサカM37ソードオフモデル、弾丸が約40発ほど、拳銃はグロック19と弾倉が1人二個ずつに手榴弾とフラッシュバンが一人二つずつです」
「では行動を開始する。パッケージキロの安全を確保し次第、第2分隊と合流、その後航空支援の到着まで待ち、敵を撃滅する、行くぞ!」
部屋から飛び出し、ショットガンを持ったワッズ二等兵を先頭に女王がいる中央区画へ向かう
喧騒と怒号、火事の焦げ臭い匂いが漂う中を進んでいるとワッズ二等兵が階段の手前で止まった
「行けー!圧政を敷く女王を捕らえろぉ!」
反乱軍の指揮官の命令がこだまするなか、反乱軍の証である右肩に赤い布を巻いた騎士達が階段を駆け上がる
「貴族や王族による選民思考に染まりきった政治ではない!財を分け合い、飢えた家族や故郷にも等しく富のいく、平等な国!平等な社会を!」
どうやら城内の反乱軍の本隊のようだ。かちあわせたところ見ると、どうやら目的地は同じようだ
「パターン2だ」
ミゼットがそういうとワッズ二等兵とグレン少尉が手榴弾の安全ピンを引き抜いた
「グレネード!」
二人が警告を発しながら手榴弾を階下の反乱軍に投げつける
一拍おいて、爆発が二つ。その後に兵士の絶叫がこだました
「ぶちかませ!」
ミゼットの号令と共にワッズ二等兵が壁から階段を覗き込み、ショットガンを連射。発射された無数の散弾が階段で固まっている反乱軍の兵士をまとめて吹き飛ばす
それに続くように他の隊員もP90を単発で小刻みに連射。5.7mm弾が反乱軍兵士の胸部鎧を易々と貫通し、飛び出た弾丸はその後ろにいた兵士にめり込み、致命傷をおわせた
「怯むなぁー!突撃ぃー!」
「自由を手に!」
対する反乱軍は仲間の死体に足を取られながらも階段を駆け上がり、果敢にも反撃しようとするが、ミゼット中尉はその隙を与えない
P90のマガジンには50発の弾丸が装填されている。一人三発使ったとしても、最低10人は倒せる計算だ。しかもフルオートで弾をばら撒くのではなく、単発で正確に狙い撃つのであり、戦闘経験の差と階段の上下という地理的要因もあり、反乱軍兵士はあっという間に全滅してしまった
「急ぐぞ!」
同時刻 女王の寝室
「なんじゃ!何が起きておる!?」
突然の爆発と喧騒、さらには城のあちこちから響く悲鳴と戦いの声に叩き起こされ、寝癖も直す事なくハッシェルは近衛兵に問い詰める
「夜分遅くに失礼します!暴動のようです!現在確認中です!」
「暴動だと!?どこの誰がそんなことを……」
「女王陛下」
「おお、マシュハン、状況は?」
「城内の近衛兵の一部と帝都防衛兵と諜報部隊の一部が離反したと思われます」
「なんということだ、王があのようなことになられたのに……慮外者どもめ……」
怒りに震える女王を尻目にマシュハンは
「女王陛下、ここにいては危険です。まずは御身を安全なところに」
「うむ、であるな」
「では、アークハルト殿下に、どうぞよろしくと」
「お主ッ!?」
王族とはいえ吸血種、その優れた身体能力を駆使し、後ろから振るわれたナイフをハッシェルは避けた
「裏切ったか、マシュハン!」
「そうでございます、女王陛下、私はこれ以上戦災で燃やされていく故郷を見たくないのです」
「ほざけ!ここで余らが剣を置いたところで、リラビアは滅ぶ!クルジドの狂人どもは我らを根絶やしにするつもりなのだ!」
「ええ、亜人種は根絶やしになるでしょう。しかし我ら人間種は国は違えど同じ同胞、紛れ込み、生き延びる術は幾らでもあります」
「クズが……!」
ハッシェルがそう吐き捨てた瞬間、ドアが蹴破られ、赤い布を巻いた近衛兵がなだれ込んできた
「マシュハン、しくじったな」
「ヴェルヒム!貴様、近衛騎士団の団長が裏切るとは!アークハルト殿下に拾われた恩を忘れたか!」
ハッシェルがそう叫ぶとヴェルヒムは下品な笑みを浮かべ
「マッポレア平原の戦いで王はお隠れになられた、俺は死んだ人間には義理立ない主義でね、安心しな、お前らの大事な娘達もちゃんとあの世に送ってやるからよ」
その瞬間、ヴェルヒムは剣を引き抜きハッシェルに斬りかかった
ハッシェルは幻惑魔法を使い、回避していくが、元はハンターギルドの優秀な戦士、そして精鋭が揃う近衛騎士団で団長を務めた男だ。ヴェルヒムは幻を軽々と交わし、ハッシェルのみを追い詰めていく
(くそッ包囲を抜け出せない!)
いつのまにかヴェルヒムが連れてきた反乱軍がハッシェルとヴェルヒムを円形に包囲しており、物理的に抜け出すのは不可能だった
(この大人数に幻惑を見せるとなると、ヴェルヒムを相手にしながらでは無理……どうすれば)
「ハッハッハッ!吸血種の女はまだ抱いたことなかったなぁ!娘を抱く前に、練習させてくれやぁ!」
「野蛮人め!」
ヴェルヒムの挑発の隙をつき、手に隠し持った香水の瓶を投げつける
「くそッ!」
剣でそれを反射的に打ち払ったヴェルヒム、その隙をハッシェルは見逃さなかった
「このぉ!」
王族が隠し持つ、自害用の短剣をヴェルヒムに突き立てる
「無駄だ」
だがそれも、忍び寄ったマシュハンがハッシェルの腕を掴んだことにより無に帰した
「くそッ!離せ!マシュハン!」
「ヴェルヒム、汚らわしい亜人の女を抱くなどと言うからこうなるのだ、情けない」
「うるせぇ、俺がハンターギルドやめて、つまらん近衛騎士になったのも、全部ハッシェル女王を抱きたかったからなんだよ、それに、短剣に刺されたぐらいじゃ俺は死なない」
服の下の鎖帷子を叩きながらヴェルヒムがハッシェルを蹴りつける
「ごふっ!?」
「さてぇ、お楽しみだ!俺は女王を犯した最初の平民になるんだ!ヒャッハー!どんな心地なんだろうなぁ!女王様の中はよぉ!」
「触れるでない、汚らわしい!」
「ハッハッハッ!こういうのがいいんだ。おい誰か!アークハルトの肖像画もってこい!旦那の顔を見ながらその妻を強引に犯してやるぜ!」
ヴェルヒムの提案に一気にボルテージが上がっていく反乱軍の兵士たち、やがてマシュハンがハッシェル女王が一番のお気に入りの肖像画を持ってきた
「貴様らぁ……王を侮辱し、余を陵辱しようなど……」
「ヒュー熱いねぇ、死んだ夫に献身する未亡人が!燃えるぜぇ!」
ハッシェルの頭を床に押し付け、ハッシェルの寝間着を引き裂く
「病気とか持ってないよな?夫が使ってなくてもちゃんと掃除はしてるよな?」
ヴェルヒムの確認で下品に爆笑する反乱軍達、マシュハンはため息を吐いた
「…………」
「どうした、なんとかいえや」
ハッシェルの髪を掴み、顔を向けさせる
「ぬぉ!?」
ハッシェルはヴェルヒムの顔に唾を吐いた。一国を治める女王の覇気は未だに衰えず、ヴェルヒムを壮絶に睨みつけていた
「……いいねぇ、ゾクゾクするぜ!そうでなきゃなぁ!」
顔の唾液を拭うこともせず、ハッシェルに平手打ち、さらに数発追い打ちで殴りつける
「残念だがこりゃ口は使えなさそうだな!」
辛抱たまらん。そう呟き、いよいよヴェルヒムはベルトを緩め、ズボンと下半身の鎧を脱いだ
その時
「イデェ!誰だ!?」
ヴェルヒムの頭に何かがぶつかり、最高のタイミングを邪魔されたヴェルヒムは振り向きざまに剣を引き抜いた
だが周囲を囲っていた兵士は一様に首を横に降る
「あぁ?なんだこりゃ?」
ヴェルヒムが持ち上げたのは円筒形の何か、円筒形に穴がいくつも空いており、頭の方には金属のフックのようなものがプラプラしていた
目を瞑っていても耳を塞いでいてもわかるほどの強烈な閃光と轟音。次に大勢の悲鳴が上がった
「突入!誤射に注意!」
ミゼットの号令と共に拳銃やP90を持った兵士が寝室に踏み込んだ
目を覆ってうずくまる大勢の反乱軍兵士の眉間や胴体を的確に、次々と撃ち抜き、やがて離反した執事や下半身丸出しの騎士団長ももれなく脳みそを床にぶちまける事になった
「クリア!」
「クリア!」
「オールクリア、パッケージキロの容体は!?」
衛生兵のマリー上等兵が駆け寄る
「な、何が、触るな!」
「落ち着いてください、私の声が聞こえますか?」
「だ、誰じゃ……目が、見えぬ……」
「フラッシュバンの後遺症です。外傷なし。誰か、毛布か何かを!」
マリー上等兵の頼みにグレン少尉がベットから毛布を持ってくる
「よ、余は……助かった、のか……」
「ギリギリでしたね、あと少し遅ければ、エロ同人みたいなことになってましたよ」
「その声、お主、ミゼットか」
「えぇ、ミゼットです。救助に来ましたよ」
「そうか……よかった……」
「さて、色々聞きたいこともありますけど、今はそれどころではないな。インコ状況は?」
《暴徒の軍勢は城まであと二キロほどの地点に迫り、そこで警備部隊とやりあってます!我々は北門に到着しました!》
「よし、突入して門を制圧しろ、マリー上等兵はここでハッシェル女王陛下を守れ、合図を聞き逃すなよ、北門で我々も合流する、行くぞ、ゴーゴーゴー!」
北門
「派手に燃えてるじゃないか……」
北門の守備隊長は火災が起こる城を眺めながら酒を喉に流し込んだ
「本当にこれでよかったのかな……」
「おいおい、それは今更だぜ。城下の暴徒どもを中に招き入れたらその流れで俺たちも中に行く、で金目のものを色々持ち出す、そういう約束だろ?」
「そりゃそうだけどさ……」
「ぐちぐちうるせぇなぁ、お前も酒を飲め!ほれほれ!」
守備隊長は悩み続けている同僚に自分の酒瓶を押し付け、無理やりラッパ飲みさせる
「気に入らない副隊長も始末したし、お前は故郷に土産ができる、ほらそれで問題ないだろ?」
「うーん、まっそうだよな!」
考えることを放棄した守備兵二人は仲良く高笑い
そして二人が知覚する前に蜂の巣になった
「マヌケオブマヌケだな、あいつら」
遠隔操作機銃を搭載した攻撃型ドローンを操作していた神無月二等兵がそう呟いた
「よぉし!敵制圧!内部の状況は!?」
「待ってください……」
神無月二等兵は先ほど警備兵の射殺に使った攻撃型ドローンのカメラを城門の内側に向ける
「敵影なし、クリアです」
「よぉし!突入!」
サウザー曹長の号令の元、第2分隊は開け放たれた城門から内部に入り込んだ
「メラ!」
「ホイミ!」
事前に決めた合言葉を叫び、サウザー曹長は待っていたミゼット中尉に敬礼した
「第2分隊総勢14名、欠員、欠損なしで到着しました!」
「よろしい曹長、早速だが状況を説明する」
そういうとミゼットはあらかじめ地面に書いてあった城の略図を指差す
「数千人の群衆が通れそうな門は三箇所、北門、南門、東門だ。東門は反乱軍に加担してない近衛騎士団が確保しているのを確認した。南門も既に封鎖されている。そして女王は我々にこの北門の防衛を命じてきた」
「なるほど、幸か不幸か暴徒の殆どはこちらに向かってきています」
「うむ、そこでだ、暴徒を待ち伏せる。城門から出た正面のメインストリート、ここにクレイモアとブービートラップを仕掛け爆破。その後暴徒目掛けて撃ちまくる。限界だと感じたら橋を渡って後退。真っ直ぐ橋を渡ってくる敵を袋叩きにしたら後退し、門をくぐってくる敵に十字砲火を浴びせておかえりいただく。これで航空支援到着の時間を稼ぐ」
「理解しました、航空支援の到着はどれほどで着きますか?」
「AC-130がこちらに向かってきている、およそ一時間後だ」
「わかりました」
「中尉殿!集め終わりました!」
そこへ割り込んできたのはグレン少尉だ。彼の後ろには食器や石が詰め込まれた寸胴鍋がたくさんあった
「よぉし、第2分隊でメインストリートにバリケードとブービートラップを設置しろ、機関銃とトラップの配置は貴様に任せる。材料はそこいらの商店や民家から調達しろ、女王の許しは得てる、残っている住人は赤い布を巻いてなければ城の内部に入れろ、巻いてたら殺せ」
「了解しました」
サウザー曹長はM249を肩に担ぎ、分隊へ指示を出しに戻った
「さて、第1分隊諸君は城門の下と内部にバリケードを作るんだ。城の中から家財を運び出すんだ、矢が貫通しなければなんでもいい、急げ!」
「了解しました!」
「柴田上等兵!お前は城門で見張りだ!」
「わかりました!」
「さて、お仕事の時間だな」
ミゼットはそういうと地面の地図を揉み消し、臨時の武器集積所と化した箇所に行き、自分の武器を手に取った
数分後……
暴徒の声が大きくなるにつれ、松明の明かりがどんどん近づいてくるのがはっきりと確認できた
群衆は様々な人がいた。老若男女問わず。唯一の共通点は人間のみということだ
クルジド国は極度の人間至上主義、何故か
それはクルジド国で最初に共産主義を唱えた宗教家、彼の宗教の神はエルフや魔人と言ったいわゆる人間以外の種族を人として認めていなかったからであり、その名残で今でも亜人を排斥しているのである
それ以外にも強力な魔法や強靭な肉体、特殊能力、はるかに長命な寿命の数々を持つ彼らを制御しきれず反乱されるのをクルジド国上層部が恐れたという裏の理由もあったのである
そのような事情もつゆ知らず。クルジド国の工作員に焚き付けられた民衆は農具や武器を掲げ、松明を煌々と焚き、王城へ向けて潰走する市中警備隊を追い立てていた
「我らは一つの強い軍勢だ!我らの流れは誰にも止められないぞ!」
「圧政を排除しろ!」
「アークハルト王を引き摺り下ろせ!」
鼓舞するように声を張り上げながら着実に王城に向けて歩みを進める暴徒達
「ん?なんだアレ?」
王城まで後百メートルほどを切った、帝都通りと呼ばれる高級商店が並ぶ大きな通りに差し掛かったところだ。ここは馬車が片側二台ずつ走れるほど広い通りであり、下は石灰とレンガによる舗装がなされている、高級商店街でもあり、王族や貴族の御用達の店が数多くあるのだ
その通りの真ん中に家具や荷車などが一列に並べられていたのだ
その手前には寸胴鍋や四角い小さな物体が等間隔に並べられている
元騎士の男にはわかった。おそらく警備隊の生き残りがあのバリケードの後ろに隠れて最後の抵抗をするつもりなのだろう
「アレが最後の抵抗だ!あそこを突破すれば王城だ!我らの勝利は近いぞぉ!」
ウォオオオオオ!!!!!
群衆の勢いも最高潮。全員が一個の塊となって通り一杯に広がって歩んでいく
もう少しだ。任務中の怪我により頬が裂けたのだ。騎士らしくない、市民を威圧しかねないという理由で騎士の仕事を失った男、以来どの仕事もうまくいかなかった
(顔の傷ごときで仕事を失うなんて間違ってる!国が俺を貶めるなら、俺も争ってやる!俺を捨てた国にも、あの女にも!)
ストレスから酒に溺れ、ある日息子を連れていなくなった元妻。革命が成功し、騎士としての地位が戻って来ればまた会えるはずだ
その為にも
「いくぞぉーー!!!」
男の号令と共に群衆の先頭が駆け出す。ハンター崩れのゴロツキ、火事場泥棒、よくわからんけどスゲー強い自称元騎士のオッさん、こちらに目を合わせずずっと独り言を言ってる為に定職を見つけられない中年、寝返った警備隊員、イかれたメンバーだが、前衛だけで総勢数百人、今はその数が非常に頼もしかった
気分は二十代の絶頂期。騎士を辞めさせられたきっかけになった盗賊の討伐の時を思い出していた
華々しく戦い、国に尽くしていたあの頃を思い出していた
(そうだ、俺は、まだーーーー)
やれる。そう感じた瞬間
「起爆」
「起爆!」
サウザー曹長の実に淡白なトーンの指示と同時にホチキスみたいな形の起爆スイッチが三回押された
起爆信号が寸胴鍋の内側に入れられたC4に到達、着火し設計通りの大爆発を起こした
爆発により寸胴鍋は粉砕。中に詰め込まれたナイフやフォークといった食器と一緒に小さな金属片として高熱を纏い、目にも留まらぬ速さで暴徒に降り注いだ
寸胴鍋は暴徒の先頭集団が通り過ぎ、中間の軍勢が通りかかった瞬間に起爆させられ、道の両側に設置された爆弾の破片が両側にいた不運な暴徒を前衛芸術のように穴だらけに変え、貫通していった金属片は人体の柔らかい部分はパンを切るように切り裂き、残りは分厚い肉や骨の部分に刺さった
通りにはいくつもの絶叫が上がり、老いも若いも、男も女も関係なしに血を流して身体の部位が切り裂かれて落とし、同じような死体の上でのたうちまわることになった
「各員、単発自由射撃!無駄撃ちするな!」
間髪入れず、サウザー曹長が号令をかける。するとバリケードに身を隠していた隊員が各々M4カービンを取り出し、構えた
「テェ!」
合図と同時に射撃を開始。モードは単発。わずか数秒の間に総数の三分の1を失った群衆の先頭集団に向けて慈悲のない精密射撃を見舞った
約八十メートルほどの距離まで近づいている暴徒達だが、彼らのほとんどは戦闘経験のない市民。オマケに自分たちの後ろにいた人が爆発と共にいきなり粉微塵になり、酒に酔った芸術家の作品のようなハリネズミになったのだ、混乱して立ち止まっている
そして対する第2分隊は総数十九名とはいえ、十分な実践経験があり、暗視装置の組み込まれた中距離サイトやACOGサイトを搭載したM4カービン。ご丁寧に精密射撃や長距離射撃に向いているロングバレルモデルだ、片手でも当てられるだろう
そして何が起こったのかというと、全員が弾倉を一つ使い切る頃には暴徒の先頭集団は全滅していた
「シエラ1、2残敵は?」
サウザー曹長の質問に答えたのは通りの建物の屋根によじ登っている狙撃兵達だ
《爆煙でよく見えないが、熱源感知に感あり。こちらで処理する》
そう返すが否や、サーモグラフィー搭載のスコープを乗せたkar98kから弾丸が発射され、這いつくばって逃げようとしていた暴徒の後頭部を粉砕。顔面の鼻のあたりに大きな風穴を開けた
「打ち合わせ通りだ、何人かは逃がせよ」
《コピー》
「神無月、敵の様子は?」
「敵の最後方を確認、前線の惨状を未だに把握してない様子。前進してます」
ドローンによる空撮映像から得た情報を無線で全員に共有、敵の動きは筒抜けだった
「動きがあれば逐一報告しろ、マイク1、2、状況は?」
《即席ですが陣地の展開完了。いつ来ても大丈夫ですよ》
「了解した、諸君。我々の任務は遅滞戦闘だ。クレイモアの起爆と同時に事前のバディと共に交互射撃しつつ第2防御陣まで後退だ、それを徹底しろ」
サウザー曹長の冷静な指示、これほどの判断力があれば地下通路で総統閣下に苦労をかけなかっただろうに、と思い返すサウザー曹長
「敵先頭集団、再び百メートル圏内に接近!」
「よぉく狙え!大丈夫だ!敵の防御は脆い!どこでもいいから命中させることに意識しろ!」
双眼鏡を覗くサウザー曹長の目には農具や棍棒といったお粗末な装備ではなく、警備隊やハンターの自前の武器と思しき、しっかりした剣や槍、中には丸盾を装備した人々が映った
「各個射撃!撃てぇ!」
再び単発で射撃を開始。爆発で巻き上げられた土煙や血煙で視界は悪いが敵は道路いっぱいに広がって突撃してくる。ある程度適当な狙いでも当たるものだ
「死んだ暴徒はいい暴徒!弾食らっても生きてる暴徒はよく訓練された暴徒だぁ!」
「戦場は地獄だぜぇー! ヒャッー!ハァーッハッハッハァ!」
「そんなに…俺たちの力が……見たいのか!」
「俺たちに手を出した時点で、五体満足で帰ろうってのが虫が良すぎんだよぉ!」
「俺の息子と同じくらいタフだぜ!、もっと強くしゃぶってくれよ!」
各々、脳内麻薬に従い、圧倒的物量の暴徒相手に容赦のない射撃を繰り返す
足元に空薬莢と空のマガジンが次々と量産されていき、無煙火薬でも抑えきれないほどの煙が立ち込め、あまりの火薬臭さにむせた
対する暴徒も死体を量産していき、通り一面に身体に穴を開けた死体が転がる
やがて、暴徒側も盾を持ち出してきた。扉や盾、中には死体を盾を持ってこちらへ向かってくる
しかしそこらの板や警備隊の盾では5.56mm弾を防ぐことは出来ない、やすやすと貫通し、木製の物は簡単に粉砕された
《シエラ1よりアルファリーダー、残弾残りわずか、後退の許可を》
「許可する、シエラ隊は第2防御陣に後退、機関銃と合流せよ」
《ラジャー、ご武運を》
屋根の上を狙撃兵二人が走っていくのを確認し、サウザー曹長は起爆スイッチを取り出した
「各員、離脱急げ!規定通りだ!」
疲れを押し込め、あらん限りの力で叫んだ
部隊の半分が走ると同時にもう半分が敵を押しとどめるための援護射撃をし、ある程度走ると先に行った半分が援護射撃を開始し、また半分が走り出す
「神無月、敵の状況は!?」
援護射撃を繰り返す部下を横目に、ドローンを操作する神無月二等兵に詰め寄る
「敵は、槍衾を形成しつつあり、突撃してきます!」
「どこからそんな士気が……まるで軍隊だな」
「敵が突撃を開始!第1防衛線まで、五十メートル!」
サウザー曹長にも聞こえてきた、彼らの雄叫びが
「四十メートル!」
地鳴りのような足音も感じ取れた
「三十!」
煙の向こうにかすかな人影が見えた
「二十!」
何かが光った、槍衾の穂先だ
「じゅ、十メートル!」
「俺たちの奢りだ、腹一杯受け取れクソども!」
起爆スイッチを三回、握り込んだ
バリケードの前に一列に並べられたクレイモア対人地雷。重量制限がある中で野外行動中の防衛策として持ち込んだ装備だ
本来なら二十メートルほどで起爆させる物だが、引きつけに引きつけ、起爆した
一つにおよそ700個の鉄球が入れられており、一発の威力は絶大。地面のレンガを穿ち、鎧に穴を開け、骨を砕いた
鉄球の洗礼をモロに受けた暴徒は身体中に無数の穴が瞬時に開いた。突撃の際の顔のまま、痛みを知覚することなく倒れていった
そして二列目、三列目の暴徒はクルジド国の工作員や軍人が中心だったが、それらにも容赦なく鉄の雨が降り注いだ
身体に鉄球が食い込み、あちこちへ飛び散る鉄球が粉々にへし折った
三列目は比較的損害は軽微だが、それでも直撃した鉄球により手足の末端や目、鼻、といった部位に直撃して悲惨な結末になる者や、鎧や服にあたるも、金属の棒で殴られたような激痛に苛まれることになった
これだけで、精鋭の突撃隊が一瞬で無力化されたのだ
「効果大!敵の突撃は失敗です!」
「よぉし!後方に下がり補給だ!走るぞ!」
モニタリングに必死だった為、若干取り残され気味の二人は荷物を持って走り出した
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