オペレーションドラゴンクエスト〜お城に行こう!〜
比較的体調が良い
リラビア魔法国上空
AC-130ガンシップ "ドラゴンブレス1"
《ゲームマスターより作戦参加部隊に通達。地上部隊は帝都正門に到達。市街地なので、発砲は厳禁だ。繰り返す命令あるまで発砲するな》
《ゲームマスターこちらドラゴンブレス1、了解した》
《ドラゴンブレス1には別の任務を与える。今すぐ指定の座標の空域に到達し、地上にて不審な動きをする集団を監視せよ》
《了解した、ドラゴンブレス1、離脱する》
帝都まで行く商隊に便乗させてもらい、ミゼット中尉一行は帝都にたどり着いた
手紙の内容はいわば召喚状であり、簡単に言えば王様がミゼット中尉達を帝都に呼びつけたのだ
王侯貴族が幅を利かせるこの国では活躍したハンターや市民を貴族や王様が呼びつけて武勇伝として語りきかせたり、表彰したりすることはよくあることであり、この対応も珍しくはないのだ
「さて諸君。ドラクエ作戦はようやく第2段階に移行した。大事なのはここからだぞ、気を引き締めろ」
リラビア魔法国の王族が初代の頃から築き上げてきた宮殿内部、控えの間にてミゼット中尉はそう言った
「クロスマンが第二班として外に居るんです。成功したも同然でしょう」
「違いない」
隊員同士のおしゃべりもそこそこにミゼット中尉が袖のスリーブガンのロックに緩みがないかチェックし終えた頃、執事が入室してきた
「我らが皇帝陛下があなたがたをお呼びです。付いてきてください」
その一言でミゼット中尉はお供の四人を引き連れて立ち上がった、いよいよ最重要目標とのコンタクトだ
「王が拝謁と発言を許された。面を上げよ」
長々とした挨拶やミゼット中尉達の功績の改めての説明などの間、ずっと頭を下げたまま片膝をついていた格好だった
しかし作戦行動中の森林での不眠不休での待ち伏せや監視任務よりかは楽。そう思いながらミゼット中尉は硬い大理石の床に敷かれた見栄え重視の薄っぺらい絨毯を睨みつけていた
ゆっくりと、身体を動かしたことにより悲鳴をあげる身体を労わりながらミゼット中尉は顔を上げた
(……はて?)
まず最初に感じたのは違和感だった。この国では教会や各ギルドの支店などのロビーといった公共の場とも呼べる場所には某将軍様のように国王の肖像画がデカデカと飾られている。よって顔を見れば一目瞭然でわかるのだが
(……なんか、違くね?肖像画だと白髪のエルフの爺さんのはずだけど、アレ?青白い肌にチラッと見える牙、吸血種ってやつか?)
しかも頭に乗っているのは王冠では無くどう見てもティアラと呼ばれる部類の装飾品。性別まで違うというのはどういう事なのだろうか
勤めて顔には出さないようにしていたのだが、やがて御付きの執事がため息を吐いた
「国王陛下、残念ながらバレております」
「であるか」
そう呟くと国王陛下と呼ばれた吸血種の女は不気味に笑い、ミゼット中尉を睨んだ
「そち、ミゼットと申したか。余の姿が街の肖像画と違うのに驚いたか」
「はっ、一瞬面を食らいましたが初対面の者と会う以上、影武者を立てるのは王として当然のことかと、納得したところであります」
「フフフ、余の幻覚魔法に引っかからなかったのは見事じゃ褒めてつかわす。褒美として話してやろう、お主の予想は半分当たりで半分ハズレじゃな、余はリラビア魔法国を治める第65代国王、ヘルゴンド・アークハルト・ウィンフォード・リラビア国王陛下の第一王妃、ハッシェルである」
威風堂々。まさに大国の王妃という覇気とも貫禄とも呼べる圧を放ち、ハッシェル王妃はそう名乗った
「ハッシェル王妃殿下、お目にかかれて、光栄の至りであります!」
「ふふふ、であるか」
やはりお世辞には慣れているようだ。歯牙にもかけない悠々とした態度だ
「さて、アークハルトの奴めなら貴殿らを称え、褒美を取らせてから話を始めるだろうが、あいにく余はそういうのを好まん、単刀直入に言うぞ、主ら、これに見覚えはあるか?」
ハッシェル王妃が執事に目配せし、執事が他の使用人と共に何かを持ってきた
「……それは」
銃だ。木と鉄で出来たボルトアクションの小銃、モーゼルkar98k、それの前期型のGew98やGewthr95といった小銃にC96拳銃が数丁、いずれもかなり傷つき、ボロボロで中には破損しているものもあった
「マシュハン、説明せい」
「はい、それでは僭越ながら、私めが」
そういうとミゼット達を案内した執事が名乗り出た
「先に言っておきますが、これは我が国の機密も含まれる話です。もし他言なされでもしたら、我らリラビア魔法国は総力を挙げ、貴君らを子々孫々に至るまで追い詰め、裁きをくだしますので、そのつもりでお聞きください」
「わかった、他言はしない。部下達にも徹底させると誓おう」
「ありがとうございます、では説明します」
そういうとマシュハン咳払いをし、地図を広げて話し始めた
「今から数年前の事です。リラビア魔法国に反旗を掲げる蛮人の国、クルジド国が突如として我が国に戦争をけしかけてきました。クルジド国の蛮行はすでに我が国と同盟関係や協商関係にあった多くの国を戦火という蛮行により呑み込み、燃え盛る山火事、あるいは迫りくるイナゴの津波のような勢いで我が国にも襲いかかってきました」
「そして我が国は最先方として我が国最大の城塞都市、バスディーク城塞都市に戦力を集結させました。猛将モンドリアン侯爵率いる重装鬼人兵団八千、モル・ドリアス伯爵率いるエルフ族中心の魔法兵団四千、グルガラ・レガノス辺境伯による混成獣人兵団二万、勇将ジャック侯爵率いる精鋭帝都近衛騎士団一万、そしてバスディーク辺境伯の常設兵力二万とクルジド国の惨禍から逃れた難民による諸国連合軍四万による軍勢で迎え撃ちました」
「結果は……?」
「戦場となったのはマッポレア平原。特に何もない平原ですが、大軍が展開できるのはそこしか無く、連中もそこからバスディークを目指していたので、我らはそこへ陣を敷き、敵を待ち構えました、ですが」
そこで言葉を切り、マシュハンは小銃を睨む
「いよいよ両軍が衝突するその時、霧が立ち込め晴れたと思ったらそこにはさっきまで無かった瓦礫の山が広がっており、そこに潜んだ者達がこの武器を使い、我が方の軍勢、クルジド国の軍勢を攻撃したのです。そのもの達は遥か彼方からこの武器で不可視の攻撃を行い、我が方の鎧や盾を貫通する攻撃を繰り返し、中には巨大な鉄の塊から火炎魔法や爆発する魔法を発射して、最後には地形ごと爆発し自滅しました」
「…………」
「まさに悪夢。我が方の陸上戦力は甚大な被害を被り、マッポレア平原はクルジド国にとられ、バスディーク城塞都市は現在その半分がクルジド国に占拠されており、陥落も時間の問題と言われております」
そこまで話すとハッシェル王妃がいつのまにか手にしていた蒸留酒のグラスを置いた、唯一の音源でたるマシュハンの声が無くなった謁見の間にその音はとても響いた
「今話した言葉は全て真実じゃ、市政には伏せている箇所もあるがのう、この国とクルジド国の両国の大軍勢に挟まれ、圧倒的劣勢であっても大打撃を与えるほどじゃ、そこでもう一度問う、そなたら、この武器に見覚えは?」
「あります」
ミゼット中尉は躊躇なく答えた
「ほぉ、続けよ」
「その小銃は、我々の祖国、大日本皇国陸軍で正式採用されている武器です、名を九八式歩兵小銃と申します」
「ダイニッポンコウコク……外務卿」
ハッシェル王妃が呼んだのは腰のあたりから茶色い、トンビか鷲のような翼を生やした鳥の獣人だ
「はっ、こちらに」
「そちは聞いたことあるか、ダイニッポンコウコクという国を」
「存じ上げません」
「当然かと」
ミゼット中尉は外務卿の言葉を遮るように発言した
「我々はこことは異なる世界から誰のどういう意図かは不明ですがやってきたのです」
「なんと……」
ミゼット中尉の発言ににわかにざわつく室内。王族の前で恐れ多い、気でも触れたのかなどと小さく囁かれる
「我々の元いた世界には魔法というものは本や劇の中という作り物でしかありませんでした。代わりに我々は銃という科学の結晶を作り出し、それを人殺しに使っているのです」
「ふぅむ、異なる世界か、興味深いのぉ、そなたらに幻惑魔法が通用しないのも妙な武器を使うのもそれが原因か」
「ええ、そしてその九八式歩兵小銃の持ち主達はおそらく我が国が海外に保有するリバティ基地、その基地要員達が基地ごとこの異世界に転移したのだと思われます」
さらにざわめきが大きくなった。そんなバカなと大きな声が漏れる
「我々は元の世界で一晩にして交信が途絶えたリバティ基地を偵察する任務についておりました。しかし気がつくとこの国の沿岸部にたどり着いており、元の国に帰るあてもなく、村々を周り、魔獣を退治してはその日を凌ぎ、今日に至りました、まさか、こんなことになっていたとは……」
「ふむ、となるとリバティ基地とやらの者達は右も左もわからなぬ戦場にいきなり厳戒態勢の中放り込まれ、混乱を起こして全方位攻撃を開始したと」
「女王陛下のご想像の通りかと、消失する前、リバティ基地には中華民大帝国という我が祖国に仇す敵国への警戒として戦力が集中しておりました故、状況誤認の可能性が高いかと、もっとも真相はわかりませぬが……」
「我らの戦争にお主達を巻き込んでしまった、許せ」
「死んでいった同志に言ってください。許されるかは別ですが」
「いいや、お主らに言ったのだ、ミゼット中尉殿」
ハッシェル王妃はグラスを空にし、食道に残って気化したアルコールを吐き出すように長いため息を吐いた
「不可抗力とはいえ事情は察した。しかしクルジド国は覇権主義にして極端な自国民至上主義。余所者のお主らの主張が受け入れられるとは到底思えぬ、そうなると我が国以外の国からお主達は要注意の指名手配犯として扱われるのが関の山よ」
このクソアマ。ミゼット中尉は内心そうボヤいた
この流れで行けばこの女王はミゼット中尉達に無茶を言うのだろう。こちらが頼るべく母体を失った、だが未知で強力な武力をもちえる集団である以上、戦術的な利用価値は十分にある。早い話ミゼット中尉達を抱き込むつもりのようだ
(だが……)
ハッシェル王妃は勘違いしてる。ミゼット中尉達は拠り所を失ってる訳ではない。敢えて失ったようにしているのだ
周辺情報を統合するとドラゴンクエスト計画はいよいよ最終段階に入ったと判断出来るだろう、とするとミゼット中尉のとる行動は
「そうですね、いよいよ持って我々も自分の墓穴の心配をした方が、いいかも、しれないですね……」
唇を噛み締め、うつむき、とても悔しく、実に残念そうな演技をしながらそう言葉を絞り出した
その後は気味が悪いほどに話がトントン拍子に話は進んだ
ミゼット中尉達はリラビア魔法国に召し抱えられる事になり、時期を見計らって来たる反攻作戦に備える正規軍の再建のための足止めの為に投入されることになった
「生贄にされる山羊は前日に飾り付けられるんだっけか?」
「あまりそういう話はしない方がよいのでは……」
歓待と言う名の軟禁により城の一室をあてがわれたミゼット中尉達、城にやってきた六名のうち、唯一の女子だったミゼットとマリー伍長の二人は唯一持ち込めた拳銃の分解整備を終え、天蓋付きの豪華なベットの上でおしゃべりをしていた
「まぁ、何にせよ、その事はすでにインコに伝わってます。後はパラサイトが動くのを待つのみです」
「なぁ、モグラ達を疑うわけではないが、本当にパラサイトはいるのか?」
「付け入る隙はあります。特に包囲されているこの状況では」
暗号を交えながら会話を続け、二人はやがて迫る睡魔に身を委ね、ベットに入り込んだ
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