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オペレーションドラゴンクエスト 〜ミゼット中尉の異世界転生〜

酒のシーンが書いてて一番楽しかったです

数年後……


玄武島南部 土城市(つちしろし) 総合庁舎


「我らは異世界転移という国難に苛まれた。しかし!我らには力がある!乱世のこの世界を戦う力と、明日の糧を得て、今日を生きていく力だ!本国を失い、損失は計り知れないだろう!だが、全国民よ、安心してほしい!この大日本皇国正当皇太子の私がいる限り、この国は安全であると、約束しよう!」

大器の演説を聞いた国民(NPC)は歓声を上げ、大器がでっち上げた大日本皇国の国旗を振った


スカイフォール作戦により、最大の障害である巨大ドラゴンを撃退した大器は玄武島と名付けたこの島の制空権を完全に確保し、そこからは巨大ドラゴンを倒した際のボーナスポイントを活用し、連日、昼夜を問わずに爆撃を開始。その結果、新しい爆弾や燃料よりも得られるポイントの方が上がり、安全が確保され次第市街地を造成、国としての体裁を整え始めたのだ


民間人NPCは六万人を配置、老若男女はランダム設定で召喚し、島の四割を土城市、鳥舞市(とりまいし)古木市(こぼくし)の三つの市として作りあげた

都市の位置関係は二等辺三角形で表せられる。一番尖った辺の部分が土城市、土城市から見て右側の辺に鳥舞市、左の辺に古木市である


土城市は一番内陸にある都市で、コンクリートビルディングが並ぶ摩天楼や民間の空港がある都市であり、この大日本国の政治、経済を一括に担ういわば東京のような市である

政治の要所ということもあり、市内からすこし外れたところには空軍と陸軍の基地が配備されている


鳥舞市は漁業の中心市であり、海軍の根拠地でもある。貝や海藻の養殖に適した海岸線だけでなく、機雷封鎖しやすい入り組んだ地形とそれに見合わない深い水深、侵入者を拒むような断崖絶壁が防御力を高め、今では無数の沿岸砲台とレーダーサイト、海軍所属の艦艇群により難航不落の要塞都市として機能していた


古木市は動巨木(トレント)の群生地を焼き払い作られた市だ。学問の都市というイメージで作られた都市だ。徴兵制を採用しているこの国にとって未来を担う高等士官学校、専門士官大学といった軍属の学校を始め、小中高大学一体の巨大な国営学校があり、一応学生の数は七千名の設定で今は動かしている

また非常時には軍の拠点として活動できるようにこの街は整備されており、この街は島を覆う高速道路のジャンクションや地下鉄といった交通、鉄道網の終着駅でもある


そして島の反対、北側にも大器は街を作った。鬼泣市(おになきし)最南市(さいなんし)の二つである

最南市はオスカービーチを起点に作られた海軍第二の拠点であり、ここには大陸と面する場所でもありオスカー基地を改築したオスカー海軍基地が存在する

将来的に原子力空母や宇宙戦艦を寄港させるのも視野に入れてあるため、かなり広く、そして深めの水深がとられている。といっても現状使うのは警備艇や戦艦一隻のみなのでその巨大な設備に対し、なんとも寂しい印象を受ける

そのほかにも内陸部には大陸間巡行爆撃機用の大型滑走路三本、戦闘機用の滑走路が四本、島の地下二百メートルに作られた格納庫には航空機が三百機入るように設計されている

もっとも、現状は複葉機の爆撃機が四十、無人偵察機や無人攻撃機が二十、ヘリが二十ほどしか無く土城市にも爆撃機以外は同程度の戦力が整えられているが、現状でも稼働率はあまり良いとは言えないのだ


そして鬼泣市はゴブリンの巨大な巣窟(ダンジョン)を制圧し作られた街だ。その目玉は巣窟核(ダンジョンコア)と名付けられた未知の物質によるものが大きい

この巣窟核、見た目は巨大な円筒形の水晶のようなものだが、一定時間ごとにゴブリンを召喚する性質があるのだ

巣窟核の周囲が光ると多種多様なゴブリンが五から十匹ほど現れるのだ、大器はその性質に注目し、その湧き出るゴブリンを倒し、半永久的にポイントを稼いでいるのであり、未だに役割が未熟な他の都市と比べると、一番優先度が高いのはこの都市と言えるだろう


島の他の場所は未だ開発中であり、今後も演習場や様々な施設を作っていく予定だ

そして、架空の国の皇太子として演説を上げた大器は最近お守りのようになってきたウイスキーの瓶を机の引き出しから出し、中身を一口飲み、そのまま慣れた手つきでグラスに氷を入れ、氷に直接かけないよう気をつけながらウイスキーを並々と注いでいく

そこへ資料を片手にまた最近昇進したミリア少将が入ってきた


「閣下!今日こそ言わせてもらいます、お酒はダメです!」


「ミリア少将……俺はいずれ来る外交の場で、勧められた酒に酔いつぶれて醜態を晒さないためにも日頃から鍛錬を欠かさずにいるんだよ」


「それは言い訳です。閣下のご公務が忙しいのはわかります。慣れない権力者としての振る舞いが重石になっているのもわかります。ですがお酒だけはお控えください。はっきり言って閣下の二日酔いの頻度は高すぎます!」


「説教は勘弁してくれ。人工の心臓か金属の骨格でも手に入れないと酒で緊張とストレスを癒す癖は治らないよ……」

心地よいほろ酔い状態で幸福を噛みしめる大器は演説の疲れからか瞼が重くなってくる

先ほどの演説も酒の勢いでぶち上げたようなものなのだ。いっそのこと機械の身代わりアンドロイドでも作ろうかと最近は思案しているところだ


「それよりミリア少将、ドラクエ計画はどうなってるんだい?」

ミリア少将が持ってる書類のタイトルを目敏く見抜いた大器は話題を晒すように現在進行中の計画のの事を聞いた


「……聖帝クルジド国の侵攻速度は想定通り、リラビア魔法国の国土の六割を占領下に置いてあります」

入念な航空偵察や偵察衛星、更には市民として両国に潜り込ませたスパイの活躍により、この世界の事がわかってきたのだ


聖帝クルジド国は元々北の豪雪地帯にある王国を起源に持つ、その国の聖職者が「人として生きとし生けるものはすべからく平等である。権力、財産、地位や性別で区別される事なく、全てを平等に分けるべきである」という主張がなされた

平たく言えば共産主義もどきのような主張であり、その耳障りのいい言葉は、たちまち広まった

元々聖帝クルジド国の前身にあたる国は王侯貴族の搾取や腐敗が酷く、この考えはあっという間に国民の間に伝染。やがてその思想に染まった王子がクーデターを決行。時の皇帝は倒れ、死刑台の露と消えたのだった


それだけに止まらず、思想はやがて人々を動かし、他国に暴力的にこの思想を押し付け始め、やがて戦争に発展した、この辺りから本来の平等や差別のないと言った思想は体の良い文言として使われるようになり、占領国の市民を差別することなく等しく戦場に送り込み、クルジド国の市民や軍関係者はその利益を等しく分け合う。そのような搾取体制が自然と組み上がっていた

周辺の小国を次々と飲み込み、聖帝クルジド国は肥大化、やがて吸収した国の軍隊や市民を徴用し他国を侵攻、国をまるごとぶつける、なかば口減らしのような強引な戦法を前に他の国は耐えきれず、濁流に飲み込まれるように次々と消えていったのだ


そしてクルジド国はいよいよ大陸に残る最期の大国、リラビア魔法国に牙を向いたのだ


リラビア魔法国はいわば連合国だ。クルジド国との戦争に負けた国の拠り所の多民族国家だ

この世界には獣のような身体的特徴をもつ獣人、高い知性と魔法を操るエルフ、数千年単位の寿命を持ち、エルフ以上に高度な魔法を操る魔人、高度な冶金技術を持つドワーフ、屈強な肉体を持ち、額から生えた角が特徴的な鬼人、それらの特徴は無いが彼らをあらゆる面でサポートし、実力がないからこそ積み重ねと努力を怠らなかった人間の六種族が中心となり様々な人々が集まって構成される国がリラビア魔法国である


「未だにリラビア魔法国の帝都であるガローツクンは陥落しておりませんが、諜報部隊からの報告によると陥落まであまり時間はないとの報告が来ています」


「そうか……じゃあ概ね予定通りだな」


「はい、後は閣下のポイントで海軍の戦力強化を図るのみです」

国として最低限の体裁を整えた大器はいよいよ外界との接触に移ろうとしていた

その為、海軍の戦力を向上する為に現在大器はポイントの貯蓄に移っていた


「ふむ、ならば安心しても良さそうだなぁ」


「ええ、閣下はご自身の身体の事のみ考えてください」

大器からウイスキーのグラス取り上げ、代わりにミリアは書類の束を渡した


「上陸部隊の編成案が纏まりました。陸軍四個師団、空軍は四個ヘリ中隊、海軍は第二艦隊全てと、第一艦隊より抽出した水上打撃部隊が参加予定です」


「アレ?空軍の爆撃機部隊は?」


「ウィンストン大佐指揮の第48複葉爆撃機大隊と護衛の戦闘機隊が参加予定です。飛行場の用地が確保されるまでは本土で待機になります、ヘリ中隊もしばらくは神州丸の艦内で待機になります」


「やはり今回のようにスピードが重視される作戦においては俺の能力で一気に飛行場を作ってそこに進出、というわけにはやはり行かないだろうか?」


「閣下、以前も議論を重ねましたが、我々には経験が足りておりません。今後国家として動いていく以上、閣下の能力抜きの上陸作戦の一つや二つこなせなくては今後の事も考えると良くありません、ここで閣下のご厚意に甘えてしまっては、それは我々の子孫の代で大きな負債となります」


「しかし、部隊の半分は第一次大戦の装備のままだし、かろうじで車両やヘリ、揚陸艇は第三次大戦以前の装備で揃えられたけどやはり不安だよ……」


「大丈夫です、今回の上陸作戦をサポートする為のドラクエ計画です。いまはミゼット中尉を信じましょう」





















一方その頃……


リラビア魔法国 帝都より数十キロ地点 ポサ村

ハンターギルド遠征部隊

ミゼット中尉


ドラクエ計画、要は分隊規模の部隊に超長距離無線機を渡して送り出し、内情や情報を集めて持ち帰る諜報作戦の総称を指していた

聖帝クルジド国やリラビア魔法国の各所に大器の命で多くの隊員が派遣され、ミゼット中尉もその一環としてここリラビア魔法国の中心地帝都ガローツクンから数十キロ離れたポサ村の近くの森に住み着いたゴブリンの群れを駆逐しにやってきていた

最前線を行くだけあり、彼女が率いる部隊は現状大器が出せるだけの最新装備が配給されている


「偵察より報告、この先のひらけた場所にゴブリンの群れ、数は20程、固まってます。周辺警戒に三体、全員が棍棒のようなものを装備してます」


「よし、いつも通り行くぞ。見張りを片付けた後、榴弾で奴らを片付ける」


「わかりました、伝えます」

無線機で部隊に指示を出す副官から視線を自分が持つHK416に戻し、チャンバーに初弾を装填する。StG44から更新されてだいぶ使い込んできた愛銃は今日もしっかりと手に馴染んでいた


「狩りの時間だ」

ミゼット中尉の一言と共に部隊が散会し、音を立てずにゴブリンを包囲する


ゴブリンが集まっているのは土質の関係か、そこだけ草木が生えず、十円ハゲのようにポッカリと何も生えない空間だ

その空間にゴブリンは車座になり、動物かワーウルフの肉をお互い奪い合うように貪っていた


ゴブリンと呼ばれる存在は個体差はあるが基本は小学生程の身長に緑の肌、徒党を組んで動き、洞窟や日のささない森の中などを住処に活動する


言語での意思疎通はワーウルフ同様不可能であり、単純な動きと貧弱な武装で今では貴重な得点源となっている


《アーチャー1、配置に付いた》


《アーチャー2準備よし》


「アーチャー3、状況は?」

HK416を持ち、ウズウズしているミゼット中尉はイライラしながらスコープの照準を動物の肉を貪るゴブリンに合わせる


「これ以上醜悪なシーンを見せられたら、私の嘔吐で作戦が失敗だ」


《……こちらアーチャー3、敵の見張りに気づかれ、排除した。それ以外に気づかれた様子はない》


そういうことか


ミゼット中尉は口の中でその言葉を飲み込み、無線のスイッチを入れた


「よし、お嬢ちゃん方、あの気味悪い緑虫どもに、誰の庭を荒らしたか、思い知らせてやれ」

ミゼット中尉が引き金を引いた。5.56mm弾が空を裂き、ゴブリンの頭に突き刺さり、頭蓋を粉砕、大穴を穿ち気味の悪い青い血飛沫を飛び散らせた


その銃声を合図に、部隊は行動を開始。アーチャー1、2の隊員は手にしたスカウトナイフを見張りとして突っ立ってるゴブリンの後頭部に突き立てた


ゴブリンの群れが見張りが倒されたと知覚する頃にはM79グレネードランチャーの擲弾が固まっているゴブリンの群れのど真ん中に叩き込まれた

ゴブリン達は撒き散らされた爆風と破片に切り刻まれ、運良く生き残った個体も茂みに潜んだミゼット中尉率いる部隊の容赦のない射撃により全滅した


「よーしお嬢ちゃん方、生き残りは漏れなく殺せ。弾は使うなよ、ザレドルフィ、グスタフ、2人連れて周辺警戒、残りは残敵掃討だ、奴らの死んだフリはちびったお前らより得意だからな、油断するなよ」

獰猛な笑みを浮かべるミゼット中尉。無駄なく、効率よく、外敵を殺す歴戦の殺し屋である


「討伐の証も剥ぎ取れ、残らずだ」

ゴブリンの討伐した証としてゴブリンの耳を削ぎ落とす。形が独特であり、これをハンターギルドに持ち込むと報奨金が出るのだ


「ようミゼット、相変わらず派手にやってるな」


「……グラインか、何しに来た」

そこへ現れたのは使い込まれた皮鎧や鎖帷子を着込んだ男達、彼らもハンターギルドから依頼を受けてやってきたハンターである


「何の用だ?」


「相変わらずそのジュウってのはすげぇなって話よ。威力も音も、な?」

ただの騒音の苦情だった


「おかげで獲物に気づかれて、怪我人が出ちまったんだよ、どうしてくれるんだ、あぁ!?」

グラインが凄みを強め、ミゼット中尉に摑みかかる


「今貴様に向けられている銃口は八つ。おっと今九つに増えた」

ミゼット中尉がレッグホルスターから引き抜いたC96をグラインの顎に突きつける


「ハッ、上官様ごと俺を蜂の巣にするってか?やってみろや。お前らが来てから、こちとら商売上がったりなんだよ!」


「自分の実力の無さを我々のせいにされてもなぁ。要件はそれだけか?我々も暇じゃないんだよ」

挑発的な笑みを隠す事なく向け、対照的に顔を茹でタコのように真っ赤にするグライン


「こうしてる間にも、飯のタネが他の奴にとられちまうぞ?」


「グライン、もう行こう」

見かねたグラインの仲間が引き止める、突き放すようにミゼットから離れ、イラつきを晴らすように唾を吐き捨てる


「音に関してはこちらも善処できるときは善処しよう、それでは、よい狩りを」

ミゼット中尉もグラインに中指立てながらその場を去った




















ハンターの街 ラッシャルテ城塞都市


「はい、ミゼットさん。クエスト達成です。こちらが報酬になります!」

ハンター組合、通称組合(ギルド)と呼ばれる建物、そのカウンターでミゼット中尉は報酬を受け取っていた


「ありがとうフェイ」

このギルドの報酬受け取りのカウンターで一番人気のハーフエルフのフェイから報酬の入った袋を受け取り、ニコニコで部下が陣取ってる机に向かう

ギルドは基本素材の引き渡しや報酬の受け取りの受付意外にも食事をするビアガーデンのような場所があり、ハンター達はここで食事をして冒険の仲間を募ったりして交流を深め、報酬や情報をやりとりするのだ


「相変わらずモテますね」

副官のグレン少尉が頬を赤らめ、夢うつつなうっとりとした顔のフェイを見て呆れたようにそう言った

ミゼット中尉はどういうわけだか同性にモテるのだ。本人もまんざらでもなく手当たり次第に手を出してるから余計にタチが悪く、戦闘のプロフェッショナルの彼女の少ない欠点とも言えた


「羨ましいか?」

報酬の銀貨を机に出し、10人全員で均等に分けていくミゼット


「中尉ほどモテたら、金玉二つじゃ到底足りませんよ!」


「クロスマン、お前に神が与えた、すげぇイケメンの顔とセンスのない下ネタのおかげで私のところに泣きついてくる娘が大勢居るんだ。いつもありがとう、これは奢りだ」

自分の取り分から銀貨を一枚、クロスマン伍長に渡すミゼットは実にご機嫌だ


「酷いマッチポンプを見た……」


「あいつ、顔だけはいいからな」


「天は人に二物を与えず、だ」

他の隊員も酒や食べ物を飲み食いしながらそう呟く


仕事終わりの一杯が最高なのは異世界でも一緒であり、冷えた麦酒を飲み、ミゼットは至福のため息を吐く

そこへ、二人の人が近づいてきた


「食事中失礼、君がミゼットさんかな?」


「……誰?」

そこへ現れたのはリラビア魔法国の正規軍の鎧を身につけた二人組だった


「私はリラビア魔法国近衛騎士団、中級三等騎士のマレアンです」


「私はハリス、二等騎士です」

2人が剣の柄に左手を置き、真っ直ぐに伸ばした右手を左胸に当てた。リラビア魔法国における騎士の敬礼だ、エルフの美形と相まってすごく絵になる光景だ

対するハリスはパッとしない顔つきであるが、ほっぺについた切り傷や達観したようなしかし鋭い眼光はまさに歴戦というほどの佇まいの男である


「どうも、ミゼットです、こっちは私の部下の、その他大勢です」


「その他大勢でーす!」


「クロスマン、お前って本当に、大物だよな……」

グレン少尉がクロスマンの頭をはたき、ため息をつく、なんだか非常に疲れていた


「依頼ならギルドを通してくれ、今日はもう店仕舞いだかね」


「いいえ、レディ。今回は依頼ではなく王よりの勅命を授かってあなた方に会いに来たのです」

そういうとマレアンは腰の雑嚢からいかにも高級そうな蝋がされた便箋をうやうやしく取り出した

蝋の紋章はリラビア魔法国王室の正式な紋章。どうやら王からの勅命とやらは本物のようだ


「我々の任はこれをあなた方に届ける事。私たちはその便箋の中身を知りません、その王家の証がなによりの証拠でしょう」


「ふむ、お仕事ご苦労様、どうもありがとう」


「いえ、仕事ですので。それよりも、どうです?この出会いを記念して、一杯奢らせて貰えないでしょうか?」


「へぇー……みんなー!今日はこの男前騎士様がおごってくれるってー!」


『『『いぇえええええ!!!』』』

ミゼットの大声の一言で一気に沸き立つギルドの面々


「えっいえ、私はあなたに」


「そんなつまんないこと言うなって」

ニヤニヤと、悪人ヅラで微笑むミゼットはいつのまに手に入れたのか、一番度数の高い蒸留酒のグラスをマレアンに渡す

そして自分も同じ酒をグラスに注ぐとマレアンのそばに行き


「えっ?あの?」


「乾杯」

ミゼットがマレアンのグラスに自分のグラスを軽く当て、中身を飲み干した


「ご馳走さま、色男」

子供のようなイタズラ心満載の笑みと色っぽい吐息をマレアンの耳に吹きかけ、ギルドを後にした


「嵌められましたね」

ハリスが諦めたように机に座り、お祭り騒ぎの喧騒を眺めながらグラスを受け取る、もはや収集収拾はつきそうになかった


「頃合いを見て出ましょう。誰かが貧乏くじ引くことになるでしょうがね、マレアン殿?」


「……素敵な人だ」


「冗談だろ……」

熱に浮かされたような顔をしたマレアンから目をそらし現実を忘れるように目の前のグラスを飲み干すハリス


「おかわりだ!」

そこら中でグラスや瓶が注文され、麦酒の中に蒸留酒が注がれたり、酔っ払い同士の飲み比べ対決が始まり、そこから腕相撲、投げナイフ、ちょっとした殴り合いからの瓶一本ラッパ飲み、と宴は明け方まで続き結局


「旦那、ついてないな。ほら店仕舞いだ、会計は金貨8枚分だ、細かいのはサービスだ、チャラにしてやるよ」


「ぁあ……うっ……もう一杯だけ……」

酔い潰れたクロスマンが一人取り残されたのだった


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