死体の上の勝利
新年明けましておめでとうございます
今年も支離滅裂な文章と拙い語彙力で頑張っていきますのでどうかよろしくおねがいいたします
第二大隊 第三小隊 第22分隊
「地面だ!地面の下だ!」
「クソッ!助けてくれ!ちくしょう!」
前線は完全に混沌に包まれていた
先頭を行く部隊の足元に突然大穴が空き、絶叫と共に消えていったのだ
後に残ったのは仲間の悲鳴と湿った物を引き裂くような気味の悪い音だけだった
「クソ!クソ!ふざけんな!ちくしょう!」
穴に落ちかかった同じ分隊の二等兵を引き上げ、身体を伝って這い上がって来た蜘蛛にスコップを振り下ろした
「た、助かった!ちくしょうどもめ!」
引き上げられた二等兵は誰かが落としたStg44を拾い上げ穴を這い上がってくる小さな蜘蛛に向けて弾倉に残る弾丸を乱射した
「下に落ちた連中は!?」
「今頃奴らの昼飯になってるよ!」
答えた二等兵は泣きながらStg44の弾倉を新しいものと交換し、手榴弾を穴に投げ込んだ
爆発と共に巨大蜘蛛と人間の破片が飛び散り、穴とそれを乗り越えてくる蜘蛛へ向けてあらんばかりの火力が向けられた
「足元に注意しろ!下に落ちたら命はないぞ!」
「火炎放射!やれ!」
ソフトボール大の大きさをした小蜘蛛は先程戦っていた蜘蛛と比べると小さな部類に入る、そんな小蜘蛛が辺り一面を埋め尽くす程の量で穴の底から這い上がって来ていた
生理的嫌悪を催す群勢に対し、火炎放射器を背負った兵士はマスクの下で雄叫びを上げながらトリガーを引き、発射された炎が小蜘蛛の群れを焼き払った
「前へ出るな!落ちるぞ!」
這い上がってくる蜘蛛を全て焼き払い、改めて現状を見ると、床が3mほど崩落しており、ぽっかりと空いた穴の底にはきっと部隊の総数より多い蜘蛛がひしめいてるに違いない
「……後方へ連絡!ただちに増援を要請しろ!」
「状況の報告を」
ミリア少佐が伝令に来た二等兵に聞いた
「ハッ!戦闘ルーチンはすでに第二大隊に引き継がれました。しかし前線の部隊ごと床が突如崩落。二個分隊の損失です」
「崩落の原因は?」
「わかりません!運悪く空洞を踏み抜いたか、それとも蜘蛛が掘り進んだ穴の可能性もあります」
「地面の下に暮らす蜘蛛どもだ。穴を掘る術があっても不思議じゃない。現状はどうなってる?」
「抜けた分隊の代わりに三十一、三十二分隊が前線で戦闘中、しかし空いた穴が巨大で、前進は困難だそうです!」
「そうか、ご苦労」
「ハッ!」
伝令の二等兵はそのまま戦列に帰させ、ミリア少佐は1分ほど考えを巡らし、最適解を導き出したと同時に大器の元へ向かった
「ミリア少佐、どうなってる。前線の部隊の反応が突然消えたのだが」
「はい、閣下の仰る通りです。どうやら我々の足元には忌々しい蜘蛛どもが掘り抜いた坑道がいくつかあるようです。それを埋め立てて欲しいのです」
「マジか……」
大器は頭を抱えた
WWCのシステム上、何もない場所に施設を建てるのは容易い、しかし一度建てた施設にさらに何かを付け加えるとなるとプレイヤーキャラを一度現地に向かわせて直接内装をいじらないといけないのだ
今回の場合も同じであり、地下通路の穴を埋めるには大器が直接現地に赴かないと穴を埋められないのだ
「俺が行かないと、ダメだもんな……」
物は試しとホログラム上の地図で通路をコンクリートに換装しようにもエラーの表記が現れ、大器はため息をついた
「もちろん、補給の済んだ第1大隊より小隊を抽出し、閣下の護衛にあたらせます、既に編成は完了しており、経験豊富な精鋭です、私も部隊に参加します」
「ありがとう、ミリア少佐。であれば、安心だ!」
大器は半ば諦めたような、ヤケクソ気味に声を上げ、装備品の山からヘルメットと拳銃を持ち出す
「善は急げだ、最前線に向かう」
「了解!特務小隊、続け!」
ミリア少佐の号令の下、大器を取り囲むように展開した小隊は一丸となって前線に進み出した
WWCに置いて、既存施設への増設はいくつかの手順の元行わねばならない
まずはプレイヤーが増設したい現地に向かわねばならない、これは前述の通りである。次にホログラムマップ上で増設する地点を選択しなくてはならない
どの箇所を、どのくらいの範囲でこれらを実際に決めるのはプレイヤーのさじ加減だ。それを決めるとプレイヤーが選んだ地点に増設したい建造物が半透明で表示される、そこでプレイヤーは増設される施設の姿を初めて見ることになり仮にこの半透明の施設が出来てそれが自分のイメージ通りに建てられるかを確認し、そしてホログラムマップ上で建築するを選択するとその施設が増設されることになるのだ
その為、地面の底から無尽蔵に湧いてくる蜘蛛の群れを封じ込めるには大器が最前線に赴き、穴をコンクリートで塞がなくてはならないのだ
大器は運営が定めたシステムに悪態つきながら、ルガーP08を握りしめ、完全武装した大勢の兵士に囲まれながら最前線に近づきつつあった
最前線はまさに地獄だった。常に銃声が轟き、ヘルメット越しでも伝わってくる火炎放射器の熱風、天井を這う蜘蛛を撃ち落とす際の跳弾で怪我した兵士の呻き、前も後ろも常に殺気立ちながら銃を撃つ、長くいたら頭がおかしくなりそうな熱狂を感じた
《閣下、手順を確認しましょう》
ヘルメットに組み込まれたヘッドセットからミリア少佐の声がした。酸素吸入機はフルフェイスヘルメットなので、会話はよほど至近距離で怒鳴り合わない限りは当然無線でのやり取りとなる
《次の前衛交代までおよそ5分、前衛が下がりましたら、まず火炎放射器で敵を牽制、その隙に閣下は前進、機関銃と火炎放射の支援の下、穴をコンクリートで塞ぐ》
《わかってる。穴を塞いだ後、弾切れで援護できないなんて事にならないでくれよ》
《お任せください、バックアップの部隊も用意させております》
ミリア少佐と打ち合わせを行い、大器はため息のような深呼吸を繰り返し、自分のやる事を再確認した
(ようはいつも通りだ、メニューから建造物の設置、設置範囲を微調整して選択。そうすれば穴の底から湧き出る蜘蛛の出入り口は塞がるし、進軍の道が切り開ける。一石二鳥だ、よし!)
ルガーに初弾を装填し、いよいよ覚悟を決めた
《前衛交代!》
《特務小隊前へ!》
ミリア少佐の声がヘッドセットから響き渡り、火炎放射器とMG42を持った兵士が歩み出た
穴の縁に立った彼らは眼前のおぞましい蜘蛛の集団に怯える事なく、火炎放射と機関銃による猛斉射を行い、その弾幕と火炎に巻き込まれた蜘蛛はたちまち火達磨になり、脚や胴体を引きちぎられバラバラになっていった
大器は拳銃を強く握りしめ、今まさに火炎放射器で蜘蛛をまとめてウェルダンに焼き上げた兵士の後ろから蜘蛛が湧き出る穴を眺めた
事前にシュミレーションした内容はどこへか消え去り、脳内には一刻も早くこの戦場から逃げ出したいという情けない考えでいっぱいだった
(だ、大丈夫だろうか……そういえば二個分隊がこの穴の底に落ちたんだっけ……助けなくていいのだろうか……)
大器はそこまで考えて考えるのをやめた。下に落ちた兵員はすでに手遅れだ。部下からの報告では倒した蜘蛛の胴体から人間の手足のような部位がゴロゴロ出てきたと聞く。それも大器が召喚した軍服や銃を握った腕という報告があり、転落した部隊の生還は諦めるという結果に終わった
映画ならこの戦局を切り抜けて彼らを救出するのがセオリーだろう。だが残念なことにこの現実はそれほど甘くはない。なんともおぞましい蜘蛛の群勢を前にしたら部下の救出よりも一刻も早く逃げ出したい自分が勝ったのだ
(俺って、結構臆病なヤツなんだな……)
不意に、スッと、熱が引いたように思考が纏まり始めた。リストバンドのような端末をタッチし、メニューを立ち上げる
順調にメニューから建造物を選択し、コンクリートの床の厚さを決め、蜘蛛が現在進行形で湧き出ている穴の上に半透明のオブジェクトをドラック。デフォルトだと範囲が若干足りてないのでポイントを追加し、穴が満遍なく埋まるように作り変える
そして最後に実行ボタンを軽くタッチ。淡い光と共にコンクリートの床が半透明のホログラムから実体化していく
その間、大器は穴を見なかった。火炎放射や蜘蛛の隙間から自分が見捨てた部下の顔が見えたりしたら嫌だからだった
「道が出来たぞ!前進ッ!」
久しぶりに聞いた前進命令。好転した戦局に敏感に反応した兵士達は歓声と共に炎をまちきらし、より一層弾幕を強めながら前進を再開した
「閣下、ご苦労様でした、後は我々が引き継ぎます」
ミリア少佐が駆け寄り、座り込んでいる大器に話しかけた
ヘルメットが無性に息苦しくなり、フルフェイスヘルメットの目元部分のみを開き、大器は改めて作り出されたコンクリートの通路を眺めた
「あ、ありがとう……」
「閣下、下に落ちた者達は残念でしたが、生き残った我々は彼らの犠牲を無駄にせず、この局面を乗り切る責任があります。あまりご自身を責められないようにしてください」
「わかってる……ここを脱出したら、彼らの慰霊碑を建てようと思うんだ、座標をメモしといてくれ……必ずここに建てる」
「……きっと落ちていった者達も喜びますよ」
ミリア少佐はどこまでも優しかった。今までゲーム画面でしか戦場を感じることのなかった自分を信じてくれたのだから
第三中継点
その後、一時間かけて部隊は前進。その後は大きな損害を出すこともなく第三中継点まで前進し、ぶち抜いた巣穴をコンクリートで塞ぐことに成功したのだった
「このコンクリートに耳を当てるとアイツらの気持ち悪い鳴き声が聞こえてきそうだぜ」
「よしてください。実は私、結構虫がダメなんですよ」
ミリア少佐と大器が缶詰のきのこシチューを食べながらおしゃべりをしていた
この先の道は偵察部隊が現在見に行ってるので、本隊は新たにコンクリートで四方を覆ったここ第三中継点で休息している
負傷者や物資も現在第二中継点への移動を開始しており、食事や昼寝に勤しむ兵に対し、砲兵や輜重兵といった後方支援の兵達は忙しそうにあちこちを走り回っていた
「虫が苦手でよくあんな地獄に行けたもんだな」
「閣下が向かうというのに、私が向かわない訳にはいかないじゃないですか。閣下が向かうところ、私もお伴しますよ!」
「布団の中とトイレだけは勘弁してくれよ」
「それは別料金になります」
そんなくだらないことを話しながらお互いクスクス笑っていると偵察に向かったオートバイ部隊が戻ってきた
「閣下、偵察が終わりました。ここから第六中継点までは異常もなく安全だそうです」
「よかった、じゃあ弾薬の再分配と休息が終わり次第進軍を再開としよう」
「了解です!各部隊に通達してまいります」
敬礼と共に駆け出したミリア少佐の後ろ姿を眺めながら大器は小さくため息を吐き、終ぞ使わなかったルガーを引き抜き眺めた
弾倉を抜き、トグルアクションの可動部を何の意味もなく引いては戻しを繰り返す、催眠術か自己暗示のように何度も何度も繰り返す
「……生き残ったんだよな、俺は」
ポツリと漏れたその一言は誰に聞かれることもなく喧騒に消えていった
お読みいただきありがとうございます。この話は最終的に大器が落ちた部下を助けたとして穴の底に降りて無残に食い散らかされた部下の亡骸を見つけて絶望しなからも前に進むみたいな展開にしようと書いていたのですが、新年一発目からゲキ重だし、展開は燃えるけど臆病な主人公らしくねーなということでボツになりました
ボツになったけど個人的にこの設定気に入ってるのでここに書いて供養とします。いつか他の場所で使いたい




