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八咫烏珍道中

作者: cadet

他の作品執筆中に、思いついたストーリーを、即興で短編形式で書いてみました。


 吾輩は八咫烏である。名前はヤタゴロウ。

 父はヤタシロウ、母はヤタメ。

 モテモテの八咫烏生の為に、日々努力するしがない八咫烏だ。

 吾輩は今、出立を前に、これから旅立つ港の一角で羽を休めながら、胸に抱く崇高なる決意を、今一度自分に刻みこんでいる。

 この地に、古から生き続けている霊鳥の一翼ある吾輩だが、我らの種族は斜陽に落ちている。

 かつては太陽の使者として、数多の神と人と獣から、信仰と尊敬を受けてきた我らだが、人間達の“カガク”とかいう存在の台頭により、その力も崇敬も失った。

 今では、ただの三本足の鴉と変わらず、仕方なく、己の翼と嘴で、なんとか日々の糧を得ている状態だ。

 八咫烏の数も減り、少子化一直線。仕方なく、八咫烏ではない唯の雌鴉とつがいを持つ雄も増えてきた。

 だが、これではいけない。

 力を失えど、我らは誇り高き太陽の使者。このまま種族が消えていくことを、吾輩は黙って見ていることは出来ない!

 故に、吾輩は決意した。

 かつての我らが持っていた太陽の力を取り戻し、再び種族の栄光を取り戻すと。

 そして、綺麗な八咫烏の嫁さんを囲い、交尾三昧、夢満載の日々を手に入れるのだ!

 最近の軟弱な雄どもは、雌鴉には一途さとか草食系が受けるとか言っているが、そんなものは古すぎる! 一か月放置していた貯餌ぐらい古い!

 人間達も言っていた。ハーレムは正義であると! 雌を誘う時は、その位強引に行くくらいでちょうどいいのだ!

ところで、ハーレムとは、どういう意味なのであろうか? 吾輩、八咫烏なので、最近の人間の言葉はよく分からん。

 ただ、人間の雄が、人間の雌が複数描かれた冊子を持っていた時に言っていたから、好みの雌と交尾しまくりたいという事で間違いないのだろう。うん。

 吾輩たち八咫烏を追い落とした人間どもだが、学ぶべきところは学ぶべきである。吾輩は、知的で勇ましい八咫烏なのだから……。

 とにかく、目的達成の為に、吾輩は綿密な計画を立てた。

 曽婆さんの話では、今の八咫烏が失った力を取り戻すには、一日半の間、太陽の光を浴び続けなければならないらしい。

 この国では、太陽が昇っているのはせいぜい半日くらいで、力を取り戻すには光を浴びる時間が到底足りない。

 そこで吾輩は、まかりなりにも、この世界で大繁殖した人間共を利用してやることにした!

 なんでも、人間どもの知識では、北に太陽が一日中沈まない土地があるそうではないか!

 確か……カナダ、とか言う地だったか?

 そこに行けば、吾輩も力を取り戻すことが出来る。

 そうすれば、美麗な八咫烏達は我に夢中になること間違いなし!

 そして、吾輩は人間どもの言うハーレムを作り上げ、復活した力と、雌達にばら撒いた吾輩の種で、八咫烏は再び栄光を取り戻すことができるだろう!

 ムフ、ムフフフ……。いかん、自然と体がピョンピョン跳ねてしまう。

 もちろん、吾輩の計画は完璧なので、全ては想定内である。

 吾輩が今いるのは、人間どもの港町だ。ここでは、吾輩の体の何十倍という大きさの船が、吾輩が食べきれないほどの魚を積み、一日に何隻も行き交っている。

 この船に乗り込み、北へと向かうのだ!

 食料は船の上の魚を失敬すればいいし、最初に乗った船が他の目的地に向かうようなら、飛んで北を目指す別の船に乗り込めばいい。

 この港から出る船は数多ある。船の数は問題ないだろう。

 うむ、完璧だな!

 今日の天気は快晴。雲一つない空と、光の輪を抱いた太陽が、吾輩の道を照らしている。

 旅立ちには、絶好の日和である。

 では、いざ行かん。北の大地へ!







 その日、ヤタゴロウは港から旅立った。

 彼が乗った船は、全長十五メートルの立派な養殖漁船。

 港の近くの海に入れた生け簀で小魚を大きく育て、出荷することを目的とした船だ。

 港町の名は、大分県蒲江市蒲江漁港。

 養殖業に力を入れている、大分県を代表する立派な漁港である。

 ちなみに、国外の海を渡る外航船はおろか、国内の海を航行する内航船も一切入港しない、ド田舎の地方漁港。当然、カナダに行けるはずもないし、港を出た船は、稚魚の世話が終われば、全て元の港に帰る。

 その日の夕暮れ時、港に戻った養殖漁船の上で、黄昏と共に嘴を垂らしている一羽の八咫烏がいた。

 



いかがだったでしょうか?

短編形式で書くのは初めてですが、楽しんで頂けたら幸いです

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