巫女加奈18
『当機はANA535便ニューヨーク行き。
皆さん、こんにちは。本日はANAをご利用頂き、誠にありがとうございます……』
機内アナウンスの流れる中、自分の席に着く加奈。
女の子ではあり得ない位少ない荷物を棚に上げ、目の前にはクマの入ったハンドバッグのみ。
『ニャ……荷物それだけでいいニャか?』
「機内食ってどんなのあるのかな……」
……仕事で行くんだから、リクルートと普段着、あと下着を数組でいいでしょ?
『……頭で普通に会話して、口では心の声が駄々漏れって……』
「ウェルカムドリンク美味しかったな……」
……大きなお世話よ!
それより、ルシファーさん?の話の続きね……
加奈は呆れる右近を他所にカードで語られた内容を説明する。
要約すると……
天界と天界侵攻軍の戦いに地球も巻き込まれた。
敵の攻撃も、神の加護も、一般の人間には理解し難い。
敵の作戦名が“Ice ages”と、解っているから、詳しくはそこの猫に聞け。
みたいな内容らしい。
要所、要所でドナルドの茶々が入って、これ以上は頭に入って来なかったそうだ。
『まぁ……作戦名が解れば後はどうとでもなるがニャ……
今回のニューヨーク滞在、少し長くなるだろうニャ……』
「は?」
なんで異世界の戦争で、あたしのニューヨーク滞在が伸びるのよ!
『仕方ニャいだろ?
敵も味方もニューヨークに陣取ってんニャから……』
『これより離陸態勢に入ります。
座席のリクライニング、テーブルは元の位置にお戻しになり、携帯電話・電子機器等のご使用はお控えください……』
『加奈、足元にバックを置くニャ』
「え?なんで?」
『まず無いだろうがニャ、顔面にバックが飛んで来たら危ないニャ』
「………」
……飛行機ってそんなに危ないの?
『……離陸・着陸時が一番危ないし、落ちたらほぼ100%死ねるニャ』
「……」
……あたし降りる。
『諦めるニャ。
人間、死ぬときゃ死ぬニャ』
ノオォォォォォ―ーーー!
機内に流れるシートベルトの着用方法と、緊急時の説明が余計に加奈の不安を煽る。
『冗談はおいといてニャ、12時間もフライトするから軽く説明しておくニャ』
「!」
冗談かい!
ガタガタ震えながら安定飛行になるのを待っていた加奈がキレる。
『そんなに怒るニャ……ハゲるぞ?』
「コーヒーください。あ、ブラックで」
ハゲんわ!
飲み物とスナックを受け取り、バリバリしながら右近を睨み付ける。
『飲み食いしながら聞き流すニャ。
詳しくは現地説明になると思うからニャ』
「………」
で……何を説明すんの?……
『……どこからするかニャ……
まずは歴史……、世界史辺りから説明するニャ』
「あ、洋食でお願いします」
世界史ね……
うん!
全っ然、不得意!
『知ってるニャ……
てか、日本も世界の一部ニャんだから、少しは知る努力をするニャ……』
つい、心の声が口に出てしまうウァサゴ……
『ビッグバンの後、長い年月をかけて宇宙……銀河系が出来たのは知ってるニャ?』
「!!!」
そこから!?
『……冗談じゃなく、その辺からの話ニャ……
この辺で“神”って言われる存在が出て来るニャ』
え?最初に神様がいないと世界って作れなくない?
『鶏と卵だニャ……
その辺は話が進むと解ってくるニャ。
最初の頃に出来た銀河に“神”が生まれて、今の地球人以上の知能、文明が出来るニャ。
そしてその星が寿命を迎える。“神”は自分が生き残る為に自分が住める場所を探す、又は造る。その辺でやっと太陽系が出来るニャ』
随分と壮大な話ね……
『んでだニャ、時間をズズーと進めて猿っぽいのが生まれた頃、“神”が地球に降り立つニャ』
……科学的解釈はそこまで得意じゃないから置いとくとして、どこの宗教も“神”的存在が世界なり大地なり作ってから人に関わってるよね……
その地球に来た“神”って……
『まぁ、そんな感じニャ。
でも、聖書や古事記が間違っている訳でもないニャ。
この辺は僕も確信が持てて無いがニャ……“ここ”の宇宙を造ってから地球に来ればそれでいいし……
“神”と同じ宇宙だったとしても太陽系や地球の成り立ちに関わっていれば……』
ストッープ!ストップ!、ストップ。
……無理!その哲学なのか科学なのかわかんない理論で神を説明されても解りません!
無理!
『仕方ないニャ……
創世記を飛ばしてヨシュア記とかヨブ記に行っても解り難いと思うんだけどニャ……』
「食後にお飲み物は如何ですか?」
「白ワインください」
聖書で説明されても……
『……古事記や日本書記の前に大化の改新の話されても天皇って何?ってなるニャろ?』
た、確かに……
『ま、長すぎると飽きるだろうからニャ。
今、世界……って地球のニャ。
世界を動かしてるのはアメリカってのはわかるニャ?』
うん……なんとなく……
『そのアメリカを支えてる、もしくは牛耳ってるのは?』
……金持ち。
『お、外れじゃないニャ。
ユダヤ系の大富豪達ニャ。そんな彼らが軒並み名を連ねる団体にフリーメイソソってのがあるニャ』
……世界最古の友愛団体
って、オカルト好きな子達が話してたね……
最近だと……
『ゾルタコスゼイアソとかイルナミティ辺りだニャ』
うん……
『この辺の話題で話せばテレビやネットで知ってる人も増えるから、加奈でも耳にすることがあると思うがニャ。
その裏にいるのが今回戦争している天界と侵攻軍ニャ』
……確かに背景が解らないと、その……天界?と侵攻軍?ってのが何で?どうやって?争ってんのか解んないね……
『ニャろ?
だから、“神”の存在から話してるんだニャ』
……納得。
『今回、ニューヨークに行って加奈の会社のボス……ないし大ボスが僕達に期待しているのはニャ、天界と侵攻軍がどの組織に加担し、何をしようとしているのかを把握した上で……
“人間”、地球人の為になる方を手伝えってことニャ』
?……
天界の方を手伝えっては言わないの?
『そうニャ。
ぶっちゃけ、争ってる天界と侵攻軍。どっちも“神”寄りの存在ニャ。
お前の大ボス、ルシファーは“神”の信頼が最も厚い奴だったが、最初に天界に喧嘩売った奴でもあるニャ。
で、今じゃ天地冥界のバランスを保つ為、天界側で行動してるニャ。
更に今回、天界に喧嘩売ってる侵攻軍の奴等はそのルシファーや僕と同じ魔界の魔王達とその仲間ニャ。
で、侵攻軍のリーダーは元々僕と同じ“地球人”ニャ』
……複雑怪奇な登場人物相関図って感じだけど、
『期待するニャよ。
ベリトはどちらかと言えば復讐心から行動を起こしたニャ。人間の為じゃないニャ。
今回の“神”の争いに人間は……』
人間は?
『邪魔ニャ』
邪魔ぁ~?!
勝手に巻き込んでおいて邪魔~?
自分勝手過ぎない?!
『と、言ってもニャ……
まだ、“邪魔”って思って貰えるだけましなんだけどニャ……
羽虫程度の存在ならほっとくか……叩き潰すとか殺虫剤プシューニャ。
猿程度の存在まで進化したからニャ……ここで殺すには惜しくなった』
ちょっと待って!
その気になれば、直ぐにでも人類は滅亡出来るっての?
『まぁ……ニャ……』
その為の対抗勢力ってのが存在するニャ……
いろんなトコで
周りが暗くなった所で、一旦話を中断し休むことにした。