猫又、大会に出る為に街に行く
エルフの森の中だとさほど感じ無いが、冬になると寒さが厳しくなるフェアリーランド。
最初の年から冬場の山籠りはザディには厳しいだろうと武術大会に参加がてら街へ。
前回の修行中も度々参加していたサクヤは大丈夫と判断。
(歴史変化的に)
秋は収穫祭のイベントで結構な場所で武術大会が行われている。
今回は比較的近いウィンディアで武術大会に参加する予定だ。
極意伝授から数カ月
ザディも剣技だけならサクヤと五分に打ち合えるようになってきていた。
普通、剣術(実戦的な)の習得には何年もかかるはずたが…
元々エルフの精鋭部隊の一員で才能があった為、比較的スムーズに技を習得していった(サクヤ談)。
実際には、常人と比べて徒歩と車位の差はあったが…
(普通、それを天才って言うけど…)
「ザディ、これから街へ行きます」
「買い出しですか?」
「いいえ、違います。
前にも少し言いましたが、武術大会に参加する為です。
後は情報収集ですかね」
侵攻軍は力だけで勝てない相手でしょうから…
「あの…サクヤ殿も参加を?」
「はい、そのつもりですが、何か?」
「…いえ、なんでもないです…」
ということは、1試合“確実”に負けると…
いや…
負けるだけならいいんです。“死ぬ可能性がある”ということなんですよ…
問題は…
事前に死亡防止結界が張ってあると聞いているザディ。
彼の言う“死ぬ可能性”とは肉体的死亡ではなく、精神的死亡の事を差す。
朝の鍛練を終えて、早速、出発する2人。
道中、冬籠り前の凶暴且つ高換金の魔物や大型動物を数多く狩りながら進む。
前回、ギルド登録をする事なく猫王国に行きましたから冒険者ギルドは不可ですね。
そのまま、お店に卸してもいいんですが、税金や手数料で結構減るんですよね。
今回はハンターギルドか商人ギルドに登録しておきますか。
結構な量の素材をボックスに詰め込みサン・ウッド領に入る。
サン・ウッドの森側の領地は平野側に比べると幾分か幅が狭い。
その為、大会会場のあるウィンディアにはその日の内に着いた。
「ザディ。お願いがあるのですが、いいですか?」
城下町の関所の手前でそう切り出すサクヤ。
「はい?なんですか」
「エルフの部隊員ということは、ギルドに登録はしてないですよね?」
「はい、必要ないですから」
「冒険者ギルドに登録して貰えませんか?
私はハンターギルドのみの登録で済ますつもりですが…
今後、対人の依頼を受けないとも限りません。通行証代わりにもなるので登録お願いします」
「別に構わないですよ。
なんせこの先何年かは着いていくつもりですから…
行きますよね?外国」
頷くサクヤ。
ザディは確信する。
この先の対人の依頼…
人は人でも、魔人(亜人)や竜人、それも魔王や精霊王と呼ばれるような人(?)に対するものだと。
~…~…
久しぶりのウィンディア。
と言っても、
実際にはサクヤは来たことが無い事になっているし、ザディも初めての人国の首都。
当然、通行証の無い2人は街の入り口で手続き待ちをする事になる。
しかも猫又とエルフの珍しいパーティー。
目立たないはずはなく、注目の的だ。
「…猫又もエルフもこの世界ではそれ程珍しいものではないはずなのですが…」
「…いや、十分珍しいですぞ。
何年か前に猫又討伐の依頼を出したのは私達エルフですし、パーティーリーダーが自分ではなくサクヤ殿ですから…」
「…その討伐対象の猫又は私ですね、きっと…」
「……」
あまり目立たくなかったサクヤだが…かなり悪目立ちしてしまっているようだ。
せめてもの救いは、猫又討伐の事が噂程度でしかウィンディアに流れていなかったこと。
その当時者達が来たことがバレてもさして影響は無いだろう。
順番は待たされた2人だったが、手続きはすんなり通りウィンディアの街に入る。
街に来るに当たって狩ってきた獲物がものをいった形だ。
お祭りで人が集まり、物不足ぎみの首都。
そこに納品に来た者達を無下にはできない状況なのだ。
「まずは私がハンターギルドに登録します。
宿の確保と大会エントリーを早急に済ませたいので」
街道を歩きながらサクヤが言いだす。
ザディも無言で頷く。
2人共、思ったより街に人が多い事でその2つを済まないと野宿の上、大会に出れないという可能性が頭に過ったのだ。
昔(正確には未来)の記憶を頼りに狩人達のギルドを目指す。
(決してゴンやキルアなんて奴がいる所ではない)
出店が建ち並ぶ商店街を抜け、住宅街手前の路地を曲がる。
そこに何軒か見覚えのある看板が並んでいるのが目に入る。
「では入りましょう」
「…ハンターギルドとは冒険者ギルドの隣なのですな」
「ザディは人族の街の造りに慣れていないのでしたね。
ギルドはだいたい固まってあるのがセオリーです。
納品や取引、情報の交換や共有をスムーズにする為です。
戦争が多い国なら別ですが、大抵その街や国の防衛の要がギルドになります。
優秀な魔法使いや戦士に弓士をすぐに出せないと…最悪、魔物に街を蹂躙されますからね」
「…なるほど、人族は個々が戦士や魔法使いではないのでしたな」
エルフのほとんどが戦士や魔法使いとしての能力が高い事もあり、国の戦闘部隊でもない限り、特別ギルドのような人員を確保する施設作る必要がない。
ザディには初めての経験、知識になったようだ。
特に問題もなく手続きを済ませ、ギルドカードを貰い納品を済ませる。
多少、値の張る獲物が多いので驚かれたが、大会に出る事等の世間話もしたのでそれほど疑問には思われなかった。
やはり大会出るような者達は皆、調整がてら魔物を狩ってくるようだ。
ある程度まとまったお金が入ったので、そのまま宿探しをする事に。
「…しかしどこも満室ですな…」
「ある程度は覚悟していましたが、ここまでとは…」
サクヤの経験ではそこまで宿取りに苦労した事がなかったので少し不安になる。
実際、前回の時間軸からは…
「仕方ありません。予定を変更です。
大会エントリーを済ませ、冒険者ギルドへ行きましょう」
「登録をするんですか?」
「そうですね、それもありますが…
本命はギルドの宿舎です。
ギルド、特に冒険者ギルドには特殊な任務が多々あります。
その為、食堂や宿舎を併設して24時間体制で運営していることが多いのです。
しかし、時期が時期ですから解放していない可能性があります…
最悪、ホールで一夜を過ごす事も考えてます」
「まぁ、雨風を防げればどこでもいいですからな」
「そうですね」