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タイ防衛軍の闘い

読んで頂きありがとうございます。

8月中は更新は週1回になります。



 タイ王国は、対サーダルタ防衛連盟に加盟して、防衛軍が結成されている。現状のところは“しでん”戦闘機100機、“らいでん”攻撃機4機の規模の小さい空軍ではあるが、その純然たる戦力はジェット戦闘機や爆撃機を400機以上装備した王国空軍とは比べものにならない。おそらく、“しでん”4機編隊で、空軍の全機を蹴散らせるであろうと言われている。


 対サーダルタ防衛連盟(議論の当初にはサーダルタと言う名は知られておらず、対アンノ防衛連盟と呼ばれていた)に加盟するかどうかは、タイ政府でも議論があり否定的な意見も多かった。その否定的な人々の論拠は、防衛連盟に参加したとしても、タイ国の現在の力では小さな部分にしかなれないという点であり、誠にもっともな話ではあった。


 それに対して、実質的に議論をリードして、国を挙げて挙げて連盟に参加することを決断させたのはミナール第2王子であった。ミナールは、あのハヤトの妹のさつきを妻として、長女リーティラ、長男アミルという2人の子持ちである。また、彼は稲田モデルに乗って高度成長政策の中で急速に発展しているタイ経済の、影を消し去るための懸命の努力を続けている。すなわち、従来から気にかけていた農村の貧困の撲滅である。


 彼は、Nカンパニーを設立して、主として農村出身者の若者の人材紹介業を始めている。そのために、まず若者に魔法の処方を受けさせ、その強化された知力の元で最大限の効率でビジネス能力の訓練を行って、各分野で最高度の人材を大量に育てている。

 そのためには当然指導者が必要であるが、その大部分は日本のNカンパニーから供給されるリタイヤ世代によっている。タイ国も近年になって、中高年の魔法の処方が行きわたってきたが、日本ではすでに希望者全員について終わっており、活力を増したこれらの世代の働き口に困る状態になっている。


 そこで、Nカンパニーを中心に、そうした人々の処方の実施して、彼らの培ってきたスキルを活かして、指導者としてアジア・アフリカ・中南米へ送り出しているのである。こうして企業において必要な高度な能力を身に着けた人材は、高い収入で企業に就職するか、または、派遣社員として働いている。


 企業である限りどこかで利潤が必要なのであるが、この場合でのNカンパニーの収入は、企業への紹介料と、訓練した個人からの職を得て後の訓練費の支払いによっている。その訓練がなければ、低い収入に甘んじるしかなかった人は、それなりのコストをかけて、高度なスキルを学びそれで高い収入を得る。その中から自分の訓練費を払うというのは、少なくとも個人にとっては悪いことではない。


 これは奨学金の仕組みと同じようなものであり、大体の償還期間は10年になっている。これは、ある意味で魔法の処方があるから成り立つ方法でもある。処方による知力の増強と活力の底上げがあってこそ、従来に比べてはるかに速く、高度なスキルを身に着けることができるのだ。


 しかし、この方法は農村部から結局優秀な人材を引き抜いて、外に追いやってしまい最終的にはその衰退につながることは事実である。つまり、農山村部をそれなりに栄えさせるためには、その地域における生産性の向上を図る必要があるのである。


 基本的には人々の暮らしにおける食費の割合が高いほど、農産物は相対的に高いのであるのから、農業の生産性を向上させることができると言えるであろう。しかし、家計における食費の割合をエンゲル係数というが、それが高いほど貧しいと一般には言われる。


 つまり、食うだけで精一杯ということになるのだ。2010年ころで、タイのエンゲル係数は35%、日本で25%、アメリカで15%程度であった。タイの今年2027年のその数値は25%であるから、そのころは貧しかったのは確かであるが、現在はより豊かになって農産物の価値は相対的に下がったと言っていいだろう。


 したがって、同じ人数で同じ量の生産を上げていれば間違いなく貧しくなるが、実際には農業従事者は年々減っており、17年前と比べると2/3程度になっている。結局、人々全体を豊かになったと実感するためには、農村においては、結局のところ作物の種類を変えない限り、機械化などを進めて従事者を減らすしかないのだ。


 だから、まず、乾季における灌漑を可能にする水路網の整備を国策で実施している。それと並行して、ミナールがこれも経営している農業会社、ミナール農業社は、主として稲の植え付け、刈り取りなどの機械をリースで貸すことで米作農家の機械化を推進している。

 年間を通じて温暖なタイでは、適切な施肥を行い、水さえあればいつ田植え刈り取りをしてもいいので、リース機械を年間を通じて効率よく使うことができるのだ。


 さらに、国際的な需要を見極めて価値の高い作物への転換も積極的に進めている。日本などの先進国で工場における農業生産を行っているが、それなりの品質管理さえできれば、自然の恵みで育ち収穫できる作物が設備投資、エネルギーへの投資が莫大な工場生産に負けるわけはないのだ。

 さらに、先進国の種苗の独占に負けまいと、日本とも協力して国を挙げて、最優秀の人材を投入して種苗の研究をしている。


 こうして、ミナールが貧困を撲滅しようと戦っていることは、タイではよく知られており、国民の敬愛はますます深いものになっている。

 その意味で、彼の意見は当然尊重されるが、彼は王家として対アンノ同盟への参加の是非を問う会議に出席して、このような話をしている。


「先に言っておきますが、私は同盟への参加は賛成です。本件については、私の義理の兄であるハヤト氏とも話をしましたので、彼の言ったことを紹介しましょう。

『今回の事案は、わが人類が初めて経験することです。アンノについては、自分がその思考を探った限りにおいて、間違いなくこの地球を服属させるために今地球を探りまわっています。また、相手は巨大な人口と多くの従属種族を抱えています。

 しかし、わが地球には幸いなことに、重力エンジンとほぼ無限のエネルギーが得られる、AE励起発電があります。一方で、アンノの大きな利点は、どこにでも好きなところに出現することのできる、異世界を渡る装置をもっている点であります。


 したがって、どこにも完全に安全なところはないのです。相手が自分の被害を省みず破壊に徹しようとすれば、東京・ワシントンですら安全ではありません。このためには、すべての国と地域は、防衛の仕組みを持っている必要があります。

 私たちの国タイが比較的安全と考えられているのは、単に重要性が低いという期待のみであると思います。だから、防衛同盟に参加することを勧めますが、参加には大きなメリットもあります。それは、最新の軍事技術と機材を入手できることです。

 日本は今全力を挙げて〝しでん”戦闘機、〝らいでん”攻撃機の他に多数の輸送機を生産しています。これらの半数は海外への供与、と言っても無料でありませんが、そのためのに建造されています。だから、世界最新・最強の戦闘機、攻撃機をほぼ原価で入手できるのですよ。訓練教官つきで』


 このような話です、確かに、同盟に加わる場合の負担は小さくありません。しかしながら、すでに1兆ドルのGDP にむけて、順調に経済成長している我が国に取っては過大なものとはいえません。なにより、これは自衛、すなわち自分のためなのです」


 この話で、議論はすぐにまとまり、タイは早期の同盟参加を申し入れた結果、タイの他に同盟に加わった、ベトナム、マレーシア、カンボジア、インドネシア、フィリピンの中で東南アジア地区のリーダー国となった。そのため、地区に割り当てられた、しでん900機、らいでん24機による訓練はバンコク近郊の空軍基地コラートで行われている。


 その後、タイのコラート基地、及びベトナム、フィリピンには魔力レーダーが送られ、検知された場合には直ちに各国空軍が集結することになっている。

 防衛軍の将兵は、空軍の中でも能力が高いもの達が集められることなった。これは、タイ空軍の将来の主要兵器は、“しでん”型に及び“らいでん”型になることが明らかであるため、当然の措置である。現状では、すべてのこれらの機種は防衛軍に回されているが、サーダルタ帝国の脅威が去った時には、防衛軍は空軍となるわけであり、その当該国の国軍に移管されることになっている。


 また、防衛軍は各国の名が冠され、司令官は当該国の軍人なのであり、また対サーダルタ帝国のみでなく、対外的な防衛の必要が生じたときはそのために働いて良いことになっている。しかし、いわゆる紛争で他国に攻め込むことは禁じられている。


 ヨーロッパへの、サーダルタ帝国の来襲は、驚きと来るものが来たという思いでタイでは受け取られている。欧州へのアンノ来襲に伴って、イギリスへ第1次の攻撃と大被害を出しながらの防衛成功、さらに日本からの大きな支援のもとに第2次の防衛成功と被害が第1次の侵攻に比べ、大幅に低かったことが報告された。


 イギリスの防衛戦の時点から、常時各国が分担して“しでん”50機と“らいでん”8機が上空での遊弋を始めている。イギリスの戦訓から、できるだけ早くアンノ母艦を撃墜して、アンノ機の射出を防ぐことが、致命的に重要であることがわかったのだ。


 防衛連盟本部からのタイへの連絡では、イギリスの侵攻の挫折により、他地区への侵攻の可能性があるという陽電子頭脳の計算結果があるとのことである。その場合は最も可能性の強いのは、東南アジアと中南米地区であるとされている。これは、イギリス以上の戦力で守られている日本や、アメリカに手はだせないが、その近郊の比較的弱体な地区の制圧を狙う可能性が高いということである。


 中国も可能性があるが、たぶん最強の敵と考えている日本の隣という点と、最初に狙わなかった点からその人口の多さ、及び単一の国という点が気に入らなかったではないかと電子頭脳は判断している。


「そうなの。連盟本部は東南アジアが危ないという判断なのね」さつきが、1歳のアミルに離乳食を食べさせながら、ミナールに相槌をうつ。彼女はとりわけ魔法の教授の多忙の間を縫って、可能な限り我が子の面倒をみている。


「ああ、そうだ。その判断は聞いてみるとなるほどと言う点はあるし、なによりそういう判断があった限り侵略があると考えて備えることが必要だ。また、サーダルタ帝国はイギリスの失敗から当然学ぶものがあったはずだ。

 イギリスほどの数での攻撃はないだろうが、仮に100隻のアンノ母艦の攻撃があったら、防ぐことはできないだろう。なにより、地上への被害を軽減できない。しかし、まあ電子頭脳は50隻くらいの攻撃を想定しているが、それでも完全に防ぐことは無理だ」


 ミナールは難しい顔をしているが、さつきはなおも問う。

「日本からの支援は?聞いている」


「うん、距離的に近いので即応体制をとってくれるそうだ。魔力レーダーに反応があり次第に、成層圏に上がり上空から攻撃するそうだ。“らいでん”100機、“しでん”3千機だ。

 大体1時間で来ることができる」


 そこに、もうすぐ3歳のリーティラが口をはさむ。

「お父様。あのサーダルタ帝国が私たちの国にせめて来るの?」少し舌足らずだがはっきりした口調だ。


「うん、そうなるかもしれないということだね。でも、大丈夫、兵隊さんたちが守ってくれるからね。それに日本からも助けにくるよ」ミナールが抱き寄せて言い聞かせる。


「日本から?じゃあ、ハヤトおじさんも来るかな?」

「うーん、ハヤトさんはちょっと忙しいかな。でも、お父さんもお母さんもいるからね」

「そうだね。みんなが守ってくれるね」リーティラは父に抱き着く。


 バトル・オブ・ブリテンⅡから10日後、タイの魔力レーダーに55の大きな反応があった。


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