バトル・オブ・ブリテン再び
読んで頂き感謝します。
多分、1ヵ月ほど更新頻度が落ちます。週1回くらいかな。
出版にあたっては全面改定になりそうです。
イギリス防衛軍、バーミンガム基地所属のロバートソン中尉は、響きわたる警報の中で、モーターバイクにまたがって、愛機スピットファイアⅡ(SFⅡ)に走り寄っている。何しろ、彼の仮眠宿舎から愛機の駐機場まで1.5kmもあるのだ。基地内は、夜間にもかかわらず煌々と明かりに照らされ、辺りは“らいでん”乗員用の四輪車と、“しでん”またはSFⅡパイロットのためのバイクの洪水である。
現在、バーミンガム基地には、戦闘機である“しでん”及びSFⅡが800機、攻撃機の“らいでん”の70機のための母港となって、仮設・常設の仮眠宿舎は満杯である。同基地からは、戦闘機と攻撃機はそれぞれ100機、10機がそれぞれ常時対空しており、これらが魔力レーダーで検知したアンノ機及びアンノ母艦の迎撃に即応することになっている。
『それにしても、攻撃の予測時期はほぼぴったしだったな』ロバートソンは、バイクを乗り捨ててたどり着いた、SFⅡのコックピットに乗り込みながら思った。
『おかげで、アンノ母艦への決戦兵器である、“らいでん”攻撃機の400機が日本から間に合った。あとは、200隻と予測されている敵アンノ母艦が実際に何隻来るかだな。しかし、欧州上空から母艦が消えたと言われているので、これらの艦は通常空間を移動するのではなくて、転移装置で異世界から現れるのだろう』
彼は、僚機に同僚3人がコックピットに収まったのを確認して、3次元操縦スティックを握ってそれをそれを固定したまま垂直に上昇する。計器には僚機4が同じ動きをしているのが確認しているが、周囲でも続々と離陸しているので、衝突・ニアミスを避けるために、管制AIとつながった機体AIが操縦している。そのため垂直上昇も加速度3G 、100mほど上空からの60度の角度の上昇は5Gで飛行している。人間の操縦では、危なくてとてもこのような極端な高G加速の離陸はできない。
目の前の管制盤の情報では、現状ではイギリス上空に112隻のアンノ母艦、アンノ機も2322機まで現れて未だ続々とその数を増している。ロバートソンはアンノ機を目指しており、彼の役割は可及的速やかにアンノ機の撃墜を行うことと、それが空中爆弾を放った場合には直ちに撃破することである。
無論、それはアンノ母艦が大型ミサイルを放った場合はより優先する。これは核爆弾ではないが、通常爆弾としては、常識はずれの1千トンのTNT火薬に相当する爆発力をもっていて、都市に落ちると大惨事になる。
防衛作戦の指揮はイギリス軍のギリヤー大将がとるが、防衛に当たる“しでん”戦闘機及び“らいでん”攻撃機の多くは日本人パイロットが操縦している。
それでも、“らいでん”はイギリス軍の生き残った12機と、日本側から機体の提供を受けた7機の19機、SFⅡの生き残った1700機余と、“しでん”の機体の提供を受けた520機がイギリス人操縦士によって運用されている。
ギリヤー大将が指揮を執るのは当然であり、これはその決断が地上への大きな被害を意味することが大いに考えられるからである。また、日本側が日本から飛行してきた機体をイギリス側のベテラン操縦士に譲ったのは、母国を守りたいという熱意に、日本側の比較的技量の劣る操縦士が操る機体を譲ったためである。
当初の予定通り、“しでん”と、SFⅡ戦闘機及び“らいでん”は空中に対空していたそれぞれ、千機と百機に加えて、それぞれ5700機、270機が離陸して空中に舞い上がった。残りの戦闘機5千機と攻撃機50機の全機も操縦員は機内待機である。
全体の判断とコントロールは、とても人間ができる規模ではないので、AIによっており、全体の戦略の決断のみが、ギリヤー防空司令官及びその参謀団の役割である。また、そのオブザーバーとして日、本側の河西大将とその参謀団が、特に日本側の戦闘機・攻撃機についての行動に係る意見を述べることになる。
ロバートソンが僚機4機と共に、AIの誘導に従って進んだ先には、アンノ機が2機現れる。
「BM14、BM15、敵機2を撃破しろ!BM16は我と空中爆弾を警戒!」編隊長のロバートソンの指示で、僚機の内2機はAIのアシストに従って攻撃態勢に入り、アンノ機をめがけてレールガンを撃ち放つ。秒速7㎞に加速された径25㎜の弾は、アンノ機を貫き半ばバラバラに引き裂く。
これらのアンノ機は、その前に空中爆弾を放っていたが、これらはすでに母機が破壊されているので操縦はされないため、飛び出した初速のままに向かってくる。ロバートソンのBM13と、僚機のBM16はガトリングガンで迎撃を試みるが、空中爆弾4基のうち3基の迎撃にとどまる。
「BM16追います!」BM16が10Gの最大減速して、ターンを行い秒速1kmの空中爆弾を追って、地上1㎞で撃破する。
ロバートソンは、戦いが信じられないほど楽なのに気がついた。前回はアンノ母艦を気にしながら、3倍の敵に当たっていたのだから、とても地上に落ちる空中爆弾など気にする余裕はなかった。
今回は、アンノ母艦には数倍の“らいでん”が取り付き、さらに“らいでん”機の数倍の“しでん”がその護衛についている。だから、自分たちは目の前のアンノ機のみを気にすればよいのだ。
一方で、日本防衛軍のイギリス派遣部隊のバーミンガム基地所属、皆木康夫3尉は自分の指揮機である“らいでん”112-23の中で、近づいてくるアンノ母艦の画像を見つめていた。彼の“らいでん”112-23号機は、空中待機機であり、あのコード番号、アンノ母艦017が5秒をかけて実体化した時、その出現点から35㎞の位置にいた。
直ちに機体の向きを変えて、3分でアンノ母艦017の艦体から8㎞の位置に近づき、AIが機体の向きを調整して、O.K.の表示が出た時、砲術士官の鹿島准尉が、機体に対して固定されている径150㎜のレールガンの1発目を撃つ放つ。さらに姿勢を制御して2基のレールガンの内のもう1基により2発目を2秒後に打つ。
どちら、アンノ母艦を貫き、弾の射出口からは、火柱と破片がバラバラと飛び散る。爆裂弾を撃ちだす低速レールガンを積んだ“しでん”改がやって来て、射出口にその爆裂弾を撃ち込み艦体が大きく振動したのは10分後であった、しかし、その時、鹿島准尉はレールガン6発を敵艦に打ちこんでいた。
結局、鹿島の機が撃破したアンノ母艦は、アンノ機を射出することはなく、そのあちこちに穴が開いて火が噴出している艦は、緩やかに地上に舞い降りた。しかし、アンノ機を射出できなかったのは、空中待機のらいでんが近くにいて、適切な射撃をした場合であり、多くのアンノ母艦は多かれ少なかれアンノ機を射出している。
アンノ母艦は結局178隻出現した。サーダルタ帝国にしてみれば、イギリス上空に天敵とも言える、“らいでん”攻撃機が多数遊弋して、待ち構えているのは誤算であったのだろう。彼らの偵察技術を含む科学技術は、地球に比べて相当遅れており、それを補うのが魔法であったわけだ。しかし、地球にはマナの濃度が非常に低いにも関わらず、戦闘機等のパイロットに魔法がある程度いき渡っていたのが圧倒的に不利に働いたことになる。
しかも、彼らの艦隊のコントロールは地球のAIのような、早く正確なシステムがない模様で、178隻の出現に35分を要しており、結果として“らいでん”によるアンノ母艦の各個撃破を許している。
結局、178隻の出現した艦は少なくとも1発のレールガンの弾を食らっており、そのうち18隻は異世界に転移して逃げ帰ってしまい、160隻が撃墜された。アンノ母艦については、AIによる射撃コントロールで、浮遊装置を破壊しないように努めたが、撃墜された艦のすべての浮遊装置の機能を保全することはできず、3隻が結局数千mの高度から自由落下した。
そのうち1隻は海に落ち、10㎞の範囲で高さ7m~1mの津波を起こし、沿岸の家屋などに大きな被害をもたらした。残り2隻は、レールガンのつるべ打ちによる落下軌道の変更の努力もあり農場に落ちて、直接の大きな被害はなかったが、生じた地震による被害が馬鹿にならなかった。
また、アンノ機については、結局7800機が射出され、それを、地上待機していた“しでん”戦闘機のすべても舞い上がって迎撃したので、やや地球側が優勢の機数であった。アンノ機に対して、機体の性能と武器で大幅に勝るSFⅡと“しでん”は、ほぼ一方的にアンノ機を撃破したが、やはり撃墜される機も、地上に落ちる空中爆弾もあった。
さらに、アンノ機も重量は15トンほどもあり、これが撃破されて地上に落ちてくるわけであるので、空中爆弾の地上への落下と相まって大きな被害を地上に与えた。
イギリス防衛軍は、むろんこうした被害は折込み済であり、できるだけ避難などの措置を取ったが、むろん完璧にはいかずそれなりの被害は出た。津波や地震による建物被害が馬鹿にならず、さらに、爆弾や機体の落下による被害を加えて建物被害が5千戸、死者が2820人、重傷者が1520人生じた。
しかし、イギリスは結局10万人を超える犠牲者を出しながらも、2度にわたるバトル・オブ・ブリテンを勝ち抜いたのだ。
アンノ母艦の墜落機には、イギリス各地に結成された特攻部隊が急襲した。機体の形状を保って地上に降りた157機のアンノ母艦に、各艦について50人の特攻部隊が破孔から攻め込んだ。大部分の艦には抵抗できるものは残っていなかったが、一部については多くの兵士が生き残っており激しく抵抗した。
バーミンガム近郊の農場に、ふわふわと落ちてくる巨大なアンノ母艦に向かって、バーミンガム警備隊のサミュエル中尉は、兵員輸送車でサイレンを鳴らして急行する。自分の部下7人に加え6名の工兵と、45人のバーミンガム市の武装警察隊が同行している。彼らが現地に着いた時、ちょうどアンノ機は農場に降りてくるところである。今は初冬なので、農場は都合よく刈り取り後である。
兵員輸送車は残念ながらオフロードは走れないので、農道から兵士と警官たちは機体に向かって駆けだす。長さ500mを越え、胴体の径が55mものアンノ母艦は近くに行くと圧倒的な迫力に満ちている。集まった兵士と警官は最も低い破孔に向かって走るが、胴体着陸しているものの、それでも高さは5m以上ある。作業車が寄って来て、梯子を伸ばす。
サミュエル中尉は梯子を登って、恐る恐る穴を除くと、キューンと言う擦過音がして、弾が飛んでくる。銃を持っているようだ。サミュエルはすぐ頭を引っ込めて、目だけを出すように伺いながら人影に向けて、拳銃を撃つ。弾倉を爆破されると被害が大きいのでレボルバーだ。
しかし、数秒後、レボルバーの弾が弾け、サミュエルは「アッチッチ!」と叫んでそれを放り投げる。敵は自由に銃を撃て、自軍は撃てない。一応、クロスボウは持ってきたが、頭も出せないようでは撃てない。お手上げだ。
サミュエルは基地に連絡して、しばし待つと、部下のローガン曹長が上空を指して小さく叫ぶ。「中尉!きました。“しでん” 改です」円筒形、灰色の不細工なそれは、ゆっくり、とはいえ時速500km位だろうが、舞い降りてくる。サミュエルは叫ぶ。
「皆、伏せろ。耳をふさげ」そう言いながら、サミュエルは中腰で円筒形の“しでん”改を目で追う。それはチカリと光る矢を放つ。光の矢は瞬間に上部に空いた穴から入り込んで、「ドン!」と巨大な音を音を立てて、破孔からばらばらと何かが降ってくる。
サミュエルはその時は目を瞑っていたが、破片がばらばらと降ってきたのを確認して叫ぶ。
「銃は持つな、クロスボウと槍に剣のみを持って突撃だ」そう言って梯子を急ぎ登り、中に躍り込む。しかし、もう戦いの必要はなかった。
そこには、気絶した人体30人ほどが転がっている。限られた空間でTNT火薬10トンに相当する爆発が起きたのでは、人体は耐えられない。
捜査の結果、そのアンノ母艦からは32人の気絶し、負傷した兵員が捕虜になった。また他のアンノ母艦も含めて、そのように捕虜になった兵員は275人に登ったが、サーダルタ帝国人は12人に過ぎず、残りは被征服民の兵員であった。
サーダルタ帝国人は基本的に英語を理解していたが、なかなか頑強で情報を漏らそうとはしなかった。一方で被征服民はその点は素直であったが、英語を理解する者はいなかった。
なお、最重要視していた異世界転移装置は、やはり懸念されたように破壊されたものも多かったが、それでも72基が無傷で回収できたので、必要数は確保できた。




