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反攻準備2

読んで頂きありがとうございます。

 イギリスの反抗準備は着々と整っていた。しかし、いずれにせよ、日本からの大規模な増援無くしては、予想されるサーダルタ帝国の大規模な侵攻を、跳ね返すことは無理である。イギリス側としては、まず取り組む必要があるのは、“しでん”戦闘機 1万機、“らいでん”攻撃機400機に及ぶ増援部隊の乗員のための宿舎の確保であった。 


 戦闘機と攻撃機の駐機場は、垂直の離着陸が可能な重力エンジン機の“しでん”や“らいでん”には全く問題はなかった。これは、もともと長い滑走距離を必要とするジェット機を収容する航空基地においては、面積は十分あるのである。

 むしろ、宿舎あるいは待機場から機体までの距離が長く、そのための車両部隊が必要になった。宿舎については、ホテルなどを根こそぎ借り上げた上に、イギリス軍将兵の官舎を空けて、日本軍の搭乗員に提供することで、急場をしのいでいる。

 追い出された将兵は、少し遠めのホテルやアパート、あるいは知り合いの家などに地元住民としての人脈の・地脈を生かして潜りこんでいる。


 対サーダルタ同盟の会議が、アリソン基地で開かれている。これは、イギリスにおける、反抗作戦の最終化をするものであり、ミールク艦長情報による再侵攻まであと2日に迫った日のことである。

 この戦いは対サーダルタ戦争の帰趨を決めるものであり、その後のアクションも極めて重要であるので、対サーダルタ同盟及び各国防衛軍の主要幹部及びその補佐官が集っている。


 まず、アメリカからは対サーダルタ同盟の盟主になっている、アメリカ合衆国の元大統領である、ジェシー・スペード以下、同盟アメリカ防衛軍総司令官トマス・エリクソン大将が出席している。

 日本からは同盟日本支部長の山村慎吾、さらに軍事面の全権をもっている河西大将の他、キーマンのハヤトなども出席している。さらに、イギリスからは、同盟イギリス支部長のデビット・カーター及び同盟イギリス軍総司令官サムソン大将や防空司令官のギリヤー大将もむろん出席している。


 最初に、行政側のトップである、ジェシー・スペード代表が口火を切る。

「まず、イギリス防衛軍が、数的劣勢をものともせずにサーダルタ帝国の侵攻を跳ね返したことを高く評価し、連盟として心からの感謝を申し上げます。この成果なくば、その後の、ハヤト氏によるアンノ母艦への侵入と貴重な情報・機材の入手もなかったわけです。

 また、日本支部からのイギリス支援の早急な決断と即時の実施、さらにその後の情報の入手による大規模支援の決断と実施について、連盟を代表して心からの感謝を申し上げます。

 さて、今回こうして我が連盟が、今後の方針を協議するためにこの地に集うことになったのは、侵略者であるサーダルタ帝国のことが、侵略軍の上級将校からの聞き取りによって相当にわかって来たためであります。

 また、同時に異世界を渡る装置を入手することができましたので、近いうちにその複製を製造することも可能になると考えております。これらの情報をもたらし、かつ異世界転移装置をもたらして頂いたのは、今日この席に出席しているハヤト氏です。皆さん彼に拍手をお願いします」


 スペードの言葉に会場から拍手が巻き起こり、ハヤト立ち上がって一礼するのを見て、彼は話を続ける。

「さて、今日の議論の主題は、数日後に迫っていると考えられている、バトル・オブ・ブリテンを確実に勝利すること、そしてその後であります。以降の議論については、イギリス防衛軍の総司令官であるサムソン大将にリードをお願いします」


 白髪長身でやせ型のサムソン大将は、その声に立ち上がり、会場に向かって一礼して話始める。

「それでは、ご指名により始めさせて頂く。まず、予定で2日後に迫っている侵攻に大いに参考になると考えられる、第1次サーダルタ帝国の侵攻について簡単に総括したい。では、アンダーソン参謀長頼む」細かい話は若手金髪のアンダーソン少将に振る。


「はい、我がイギリス上空に現れたアンノ母艦は25隻であり、アンノ機は後にデータを分析した結果から、7156機現れたようです。

 これに対して、わが方は20機の“らいでん”攻撃機と、2480機のスピットファイアⅡ(SFⅡ)で迎撃に当たりました。SFⅡの25mmレールガンによる攻撃はアンノ機には明らかに有効でしたが、アンノ母艦には少なくとも当たっても、装甲を貫くことはできませんでした。

 一方で、らいでん攻撃機の150mmのレールガンは明らかに有効で、その弾は、ほとんどの場合母艦を貫いて、反対側に大破口をあけて飛び出しています。


 その戦いの結果は、データを分析した結果として、7000機以上のアンノ機の内、150機余は逃げ帰ったアンノ母艦に積まれて逃れたようですが、他はSFⅡまたは“らいでん”が撃墜したことになります。また、アンノ母艦は25隻のうち、17隻は撃墜しましたが、8機は異世界に逃れました。

 その一方で、わが方の軍事面での損害は、SFⅡの再度出撃が可能な機が1690機ですから、790機の損害です。また“らいでん”12機が稼働状態ですから8機の損害です。しかし、幸い反重力脱出装置もあって死者は156名、重傷者は212名と機体の損害に比べれば少なくなっています。戦死者が出たのは残念ではありますが。

 結局戦闘機のキルレシオは1:9程度ですから相当に良いと言っていいでしょう。


 ただ、民間人の損害はかなりひどいことになっています。

 現状では判明している限りでは、建物の損壊が2万4千棟であり、死者が9万8千人、不明者が3千人で、重傷者が4万2千人生じています。

 これらの内で多くの損害、たぶん65%は、彼らの空中爆弾の散布によっており、35%はアンノ母艦をはじめとする敵機の墜落によるものです。ただ、アンノ母艦の内で、撃破後に完全に自由落下で墜落したものは8機あまりで、他は比較的緩やかに墜落しています。

 これは、浮遊装置が不完全ながら働いていたせいであろうと考えています。この情報は、私殿のデータベースにアクセスしてもらえれば、ダウンロードできます。以上が第1次侵攻の報告になります」


 アンダーソン少将が言い終わると、アメリカのエリクソン大将が聞く。

「アンノ機母艦で、比較的緩やかに墜落したものについては、生き残った敵兵はいなかったのか?」


「いえ、いませんでした。少なくとも3隻については、人間にとって致死的な墜落ではなかったのですが、どうも自殺したか、させられたようです。捕虜になっている母艦の艦長の話では、サーダルタ帝国では、攻め込んだ異世界で、敵に捕虜になることは許されないそうで、捕えられそうになったら、自殺させる仕組みがあるそうです」アンダーソンが答え、それにサムソン大将が補足する。


「このように、わが軍としては、敵の1/3の数の戦闘機で、大部分の敵を撃破することができたが、自国上空を戦場にしたため、一般人に大きな被害が生じた。この点で、今やっているように、上空にわが方の攻撃機と戦闘機を遊弋させておき、戦闘機の射出を許さないようにすれば、民間への被害は大いに軽減できると思う」


 イギリス防衛軍の責任者は、そう言って出席者を見渡した後さらに続ける。

「今回、日本防衛軍の助力を得て、わが防衛体制は、“らいでん”攻撃機が410機余にSFⅡ及び“しでん”戦闘機を1万機以上揃えることができた。敵はアンノ母艦200機、戦闘機はすべて発進すると6万機に達する。しかし、情報によると、基本的にはアンノ母艦は世界の壁を抜けてからアンノ機の射出を始めるので、全機射出するのに30分ほどの時間がかかるという。


 その前に、“らいでん”のレールガンで損害を与えて、射出ができないようにすれば、アンノ機もせいぜい1万機以下となることは十分期待できる。敵が同数程度であれば、前回手が回らずに落下した空中爆弾も大部分を損害が出ないように落とせるであろう。

 さらに、損害の大きかったアンノ母艦の自由落下による墜落は、浮遊装置を破壊しないようにすることで避けられる。この場合、推進力が失われても、乗員が反撃してくることが考えられるので、“しでん”改によって大破壊力の砲弾を、レールガンの破孔から打ち込み、乗員を無力化する」サムソン大将は一旦言葉を切ってさらに続ける。


「こうすることで、アンノ母艦を捕獲して異世界転移装置を入手したい。それを、日本とアメリカで完成間近のAE励起発電機を積んだ大型戦闘艦に装備して、サーダルタ帝国のテリトリーに踏み込み、屈服を迫るのだ」沈黙が落ちたが、数呼吸後アメリカのエリクソン大将が口を開く。


「情報によれば、次回のイギリスへの侵攻には、現在欧州上空に居座っている母艦も、かなりの数が参加するという。それらの母艦を、今撃破できれば今後の闘いが楽になるが、これはできないのかな?」これに対しては、イギリスのギリヤー大将が応じる。


「確かにその通りですが、それは結局欧州上空に居座っている、サーダルタ帝国艦隊に戦いを挑むことになる。その結果、彼らが欧州市民を意図的に人質にすることが無くても、戦いの結果生じる空中爆弾の投下、及び敵機の墜落による損害が生じることになる。それを意識してか、あれらの艦隊は都市の上に張り付いている。

 結果、生じる数十万どころか数百万の損害の責任を我々は取れないし、EU諸国の首脳も取れないだろう。ただ、例の情報源によると、サーダルタ帝国は、我々が欧州に攻め込めば、結果的に欧州の人々を人質にとる可能性が強いが、一方でその命を人質に、他の世界、すなわち我々に屈服を迫ることはないということだ。彼らは、そういうことはできないメンタリティであるらしい」


 そこで、対サーダルタ同盟のリーダーであるスペードが言う。

「さて、空を支配された欧州のことは、彼ら自らどんな損害を被っても開放してほしいという要請がない限り、当面放っておくしかない。我々は、近く起こる予定のイギリスの防衛戦が首尾よく終わった後のことを考える必要がある。その場合の目的は、一つは欧州を開放して地球上のサーダルタ帝国の拠点をなくすこと、もう一つは地球への侵略の意図を挫くことだ」それに、同盟日本支部長の山村慎吾が応じる。


「その通りです。そのためには、サーダルタ帝国の帝国たる所以である、異世界の被征服国の開放が必要だと思いますね。多くの世界を支配している限り、今回はサーダルタ帝国が侵攻をあきらめても、またその気にならない保証はない。

 しかし、実際にはいずれにしても、被征服世界を調べる必要がありますね。ひょっとしたら、帝国の一部である現状を気に入っているかも知れない」山村に続いて、河西大将が転移装置を積む母艦について話をする。


「最初は、地球に繋がっているという、4つの世界の調査を始める必要がありますね。それで、いま日本では“ありあけ”型戦闘母艦が10隻建造中で、4隻については偽装が済んで試運転・調整中です。残り6隻は2か月後に完成します。2隻についてはイギリスの予約分で、現状では後半の6隻のうちの2隻になります。

 鹵獲した異世界転移装置は、1番艦“ありあけ”に積むべく、同艦を改装中であり、そう半月後には運転できるようになります。

 ですから、今回の防衛戦で転移装置が必要な台数が首尾よく入手できれば、試運転調整を入れても3か月後には、日本が8隻、イギリスが2隻の異世界転移が可能な母艦をもつことになります。

 ご存知のように、この母艦は“しでん”戦闘機を100機積めますが、残念ながら“しでん”ではアンノ母艦の装甲を撃ちぬけないので、1番艦“ありあけ”以外の母艦は“らいでん”を4機積めるように改装中です。その代わりしでんは80機しか積めませんが。

 それで、アメリカの場合の同クラスのギャラクシー級の建造状態はどうなっているのでしょうか?」


 それにエリクソン大将が答える。

「我が国のギャラクシー級は、すでに供用しているはずだったが、なにせわが国の製造業のレベルは日本に比べると低くてね。それでも、だいぶ復活はしてきたが。

 設計はほぼ共通のものを使っているので、ほとんど同じスペックだ。建造しているのは16隻で、4隻が日本の“ありあけ”と同じタイミングで、残りは4ヶ月ほど遅れる予定だ。

 16隻という数になったのは、原子力空母に比べると1隻の建造費は1/8であったため、このように大判振る舞いになった。乗せたスターダスト級の機数と、その戦力を考えると戦力は3倍以上はあるのに、このコストだからな」


「フーム、そうすると大体5か月後には、AE励起発電機を積んだ母艦が26隻揃うわけだ。従って、アンノ母艦から奪取すべき転移装置は、今ある1基を除いて25基と言うことになりますね」ギリヤー大将が言って、さらに続ける。


「しかし、サーダルタ帝国側は最大限の動員といってはいるが、次回の侵攻に母艦を200隻動員するという。それに対して、彼らの母艦と同等と考えるとしても、我々の母艦が26隻では戦力不足は否めませんな。

 ただ、わが方のアドバンテージは、“らいでん”攻撃機の積んでいるレールガンが、アンノ母艦に対しては絶対的な武器であることです。また、異世界に行けば、こちらの世界のような、撃破した場合の地上の被害といった制限はありませんから、戦いも楽になります。結局、その26隻をプラットホームにして、“らいでん”をうまく運用すれば、こちらの方が有利になりますな。

 ちなみに、今度日本は戦力化している500機の内400機を持ち込んでくれるということで、今も続々と到着しています。それで、アメリカの“らいでん”攻撃機に相当するのは、サンダーボルト攻撃機だと思いますが、何機戦力化しているのでしょうか?」それにエリクソン大将が答える。


「言われる通り、サンダーボルト攻撃機は“らいでん”に当たる。日本とは技術を共通化しているので、仕様はほとんど同じだ。こちらは、当方は700機が戦力化されており、近く、そう2ヶ月以内に追加の500機が戦力化できる」

 そのように、会議では活発な議論が行われた。


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