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日本防衛軍欧州派遣部隊出撃

読んで頂きありがとうございます。

 ハヤトは、府中基地から105機の府中戦闘隊の“しでん”機と共に飛び立った。隊長は佐伯少佐29歳である。時間を節約する意味から、地上100mまで鉛直に上昇し、75度の角度をもって最初は5Gで急加速する。“しでん”の飛行は、摩擦熱の発生を防ぐため、地上25kmの成層圏を秒速7kmで飛ぶことになる。


 まず、高度25kmまで、機体の表面温度を500度以下に保つように加速を調整しながら上昇する。その後、水平飛行に切り返えて、10Gの加速で1000㎞の高度を規定の軌道速度7.2㎞/秒まで加速して、大圏航路を欧州に向けて飛ぶ。着陸は、水平飛行の状態で10Gにて減速、さらに5Gで下降する。


 これは、全行程1万㎞を1時間強の飛行でカバーするので、航空機として常軌を逸している。とはいえ、時間的に短いことは、狭い“しでん”のパイロット席で、操縦するものとしては有難いことではある。実際、イギリス軍側としては、日本から1時間強で飛んでくると聞いて、少なくとも10時間以上はかかると考えていたため大変驚いている。


「なに!日本は今夕中に“しでん”2200機、“らいでん”が80機出してくれるとな。それも24時に着くと!出発は何時だ?そんなに早く着くとは?」バーミンガム基地の飛行長のギブソン中佐は、ロンドン近郊のアリソン基地からの連絡に驚いて問いかえす。


「はい、こちらの時間で23時であり、日本時間の朝8時です。約1時間の飛行で着くということです」日本から暗号のインターネット通信を受けた中央基地から返事がある。


「そんな馬鹿な!あ、いや成層圏を飛べば1時間くらいで来ることは可能だな。しかし、2200機と80機とは有難い。一挙に戦力が倍増だ」ギブソンは呟いて胸をなでおろす。


 ロンドン郊外のアリソン基地、イギリス軍防空総司令部で、総司令官のギリヤー大将は戸惑って通信将校トマソンに聞き返す。

「なに!ハヤトが来る、あのハヤトが?」


「はい、そう書いています。国会議員でもあると書いているので間違いないでしょう」トマソンが答えるのを聞いて、ギリヤーは参謀長のマイン少将の顔を見る。


「いや、あり得ますというより、必然かもしれませんね。私もハヤトの手記は読みましたが、かれは“マナ”という魔法物質の濃度が高い世界では、凄まじい魔法が使えたようです。一方、アンノ、いやサーダルタ帝国か。サーダルタはそのマナを持ち込むことで魔法を使えるようにしています。

 ハヤトは、だからかってのように大威力の魔法が使えるようになるのかも知れませんよ。いずれにせよ、彼がこちらに来る理由は情報収集でしょう。我々にとっても、欧州本土のEU諸国がサーダルタ帝国の支配下に入って、その人々が我々の軍事的な敵になるのは悪夢です。


 しかし、一方ですでに、EU諸国がサーダルタの制空化にある以上、その住民は人質状態であるわけで、我々も攻撃はできないことになります。また、その上空で戦うということは、サーダルタ機の空中爆弾がばらまかれる状態になるでしょうし、さらに機体そのものを撃ち落とすことで、地上に大被害を生じることになります。

 客観的に見れば手詰まりですが、いずれにせよ情報が足りません。ですから、ハヤトが来るのは、その手詰まりを打開するための情報収集だと思います」


 マイン少将の言葉に、ギリヤー大将が応じる。

「うむ、いずれにせよ、君の言う情報は我々も絶対に必要だ。ハヤトが実際に手に入れてくれるのならこれほど有難いことはない。当方からも、助力できることがあれば何でもしよう。それに、当面2200機もの戦闘機と80機の攻撃機の応援は有難い。加えて、1日後には倍の応援というからな。受け入れ態勢は良いかな?」


「はい、各基地に割り当てておりますので、今晩のところは問題ありません。明日は機体そのものの収容は問題ありません。なにしろ、重力エンジン機は垂直に降りてきますからね、かっての滑走路が必要だった基地は十分な面積を持っています。

 しかし、乗ってくる人員の宿舎が問題ですが、当面基地内の住宅を空けさせて確保することにしています。また、機体のAEバッテリーについては3回の交換分を持ってくるということですから、明日の到着分まではこちらの励起サイクルに入れて励起は可能です。

 レールガンの弾については、同様に5回の弾倉交換分までは持っているようですし、こちらの弾と一緒の仕様ですから、補給は問題ありません。整備については、幸い重力エンジン機はジェット等のエンジン式に比べ極めて整備は簡単ですから、これも問題ないでしょう」マイン少将が答える。


「ふむ、それで、第1次派遣部隊の司令官である山賀少将とハヤト氏が到着次第話をしたいが、この両者の機はこの基地に着くのだな?」このギリヤー大将の質問にマイン少将が答える。


「はい、山賀少将は“らいでん”機の改造司令機に乗ってやってきますが、その直卒のしでん機110機、“らいでん”20機と共に来ます。ハヤト氏は府中隊105機と共にやって来ることになっています。各々別の基地から飛来しますので、時間は多少ずれるかと思いますが、到着次第ご案内しますが、ここへ?」


「うむ、この管制室が全体を把握してもらうのにちょうどいいだろう」そのように話し合っていると、レーダー計測担当将校からの報告だ。


「多数の航空機飛来!通知のあった日本機の信号があります!」

 さらに、通信担当将校から報告があった。


「日本機隊から連絡!『府中隊“しでん”105機着陸許可を求む』とあります、さらに司令直卒隊“しでん”110機と“らいでん”20機の着陸許可を求めています」


 これに対して着陸許可が出され、着陸したのはそれぞれ15分後であり、さらに7分後に、まず山賀少将が1人の将校を連れて管制室にやってくる。また、ハヤトが佐伯少佐と共にその2分後に入ってくる。

 広大な管制室に置かれた応接セットに、イギリス側がギリヤー大将とマイン少将に作戦部長のドラガー少将さらに、ギリヤーの秘書官が席を占めている。そこに、日本側が第1派遣隊の司令官である山賀少将及び参謀長の川辺大佐、さらに府中隊の隊長の佐伯少佐等の軍人に加えハヤトが座った。


 佐伯少佐は、偉いさんばかりのところで、気づまりであるがしょうがない。ちなみに、派遣隊の日本側の人員は、自衛隊出身者を除いた志願兵はその80%を占め、年齢は19歳から30歳までの若者である。自衛隊出身者も含めて、これらの若者は魔法の処方を受けたことによる知力増強の効果もあって皆英語は問題ない。


 一通りの挨拶の後に、ギリヤー総司令官から今日の闘いの説明があった。

「先ほども申した通り、我々のSFⅡは当初2500機でしたが、被害が大きく、結局何とか修理したものを合わせて、現状では1700機のみが稼働状態にあります。これは、敵が7500機もおり数的劣勢もあってのことですから、やむを得ませんでした。

 しかし、敵のアンノ機については殆ど全機撃墜したと考えています。なお“らいでん”攻撃機は20機ありましたが、現状では12機が稼働状態です。ですから、日本からの援軍で“しでん”でほぼ戦力は倍増、“らいでん”は当初の4倍増ですので、大変助かります。明日同じような戦力による侵攻でしたら、もう少し余裕を持って戦えるでしょう」


 その説明に山賀少将が沈痛な顔で言う。

「多くの犠牲を乗り越えての奮闘に敬意を表します。しかし、SFⅡと“らいでん”乗員について、反重力脱出装置による効果はいかがでしたか」


「おお、供与頂いた反重力脱出装置によって、助かる乗員が非常に多かったのですよ。実際、空中爆弾の爆発をよほど近くで食らっても、SFⅡの25mm特殊鋼の装甲はそれほど破れることはなく、墜落原因は振動による重力エンジンの故障が大部分でした。

 ですから、撃墜された結果になっても非常脱出ができたものが70%以上で、彼らは脱出して大部分助かっています。この点はWWⅡのバトル・オブ・ブリテンと同じで、自国上空の戦闘のお陰ですな」


 マイン少将は笑いを浮かべてそう言ったが、沈痛な顔になって続ける。

「一方で、市街地へのサーダルタの空中爆弾と、撃ち落とした彼らの機体による被害は悲惨なことになりました。

 現状で集計できているだけで、建物被害が2万3千棟、死者が7万6千人、行方不明者が2万3千人です。かってのロンドン空襲と違って、防空壕がないことが効きました」


 その言葉に対して、日本側も沈痛な顔になり山賀が悔やみの言葉を述べる。

「それは……。我々も心からお悔やみ申し上げる」


 落ちた沈黙を破ってギリヤー総司令官が話し始める。

「さて、御来援頂いた部隊の行動については、こちらのドラガー作戦部長が行先を割り当てておりますので、内容に問題なければそのようにお願いしたい」その言葉に山賀が応じる。


「その点は、了解しました。川辺君直ちに確認してください。いつアンノ、いやサーダルタの攻撃があるとも知れないので即応体制は取る必要があります。とは言え、宿舎、待機室等の手配はお任せするしかないが」山賀は答える。


 その言葉に応じて、川辺に加わって佐伯とギブソンが席を移して協議を始める。それを横目に見て、山賀が話を続ける。

「それで、ハヤト氏に今回一緒に来ていただきましたが、その目的について直ちに確認したいのです」山賀が言うのに応じて、今度はハヤトが言う。


「すでに検知しましたが、この基地にも損傷が少なく、マナの貯留タンクが残っているアンノ機がありますよね?」この言葉にマイン少将が答える。


「ええ、研究用に集めています。どうも、彼らの推進機構は良く解かりませんな。しかし、どうも圧搾タンクに貯留しているマナですか、それを使っているようですが、物質的には収支がどう見ても合いません」


「それは、魔法を使っているからです。まあ、それは置いておいて、私がそのマナを使って魔法を使いたいのですよ。地球ではマナが薄くて使えなかった様々な魔法をね。とりあえず、そのアンノ機について私は貯留したマナを使用したいので、いろいろ調査と操作をしたいのでその御許可を願いたい」ハヤトの言葉に、少々戸惑いながらもギリヤー総司令官が応じる。


「むろん、よろしいです。わが防衛軍にとっても重要なことですから。我々もあなたがどのように使うか是非見てみたい。ご案内しますよ」ギアリーはマイン共々立ち上がり、日本側がハヤトと山賀がついて来るのを見て先導する。


 そこは、巨大な格納庫であり、その中に細めの葉巻状のアンノ機が2機が横たわっている。長さは15mほどだろうか、翼のようなものは見当たらず、いずれもレールガンのよって打ち抜かれた穴が空いており、1機は少しひしゃげている。


「おお、マナだ。久しぶりに使えきれないほどのマナだ。さて、ギアリー司令官、まずあのアンノ機に入りたいのですが」ハヤトの頼みに、ギアリーは頷く。


「ええ、入りましょう」彼らは径2.5m程もあるアンノ機の横腹のハッチから潜り込んだ。そこは、長さ3mほどの座り心地のよさそうな座席が2つある部屋であるが、緑っぽい色で操縦装置らしいものはない。座席はベルトらしきもので、座った者を固定できるようてになっている。


「うん、こっちだな」ハヤトが言って、後部のハッチを開くと、そこには銀色に輝く直径1mに長さ3mほどもある円筒が2つ並んで取り付けられている。


「おお、これがマナのタンクだ。片方は半分程度、片方は満タンだ。ギアリー司令官申し訳ありませんが、このタンクはお借りします」

 ハヤトはそれを見るなり言って、ギアリーが「いいですよ。どうぞ。政府からも最大限の協力をするようにと、言われていますから」と答えるのを聞いて、タンクの取り付け部を覗き込んでその鋼材(?)を火魔法で焼き切る。


 ほぼ同時に、タンクがさっと消えるのを見て、皆目を剥くが山賀が聞く。「ハヤトさん、これはいわゆる空間魔法の空間収納ですか?」彼は、ハヤトの手記を熟読しており、その手記の記述から推測したのだ。


「ええ、たっぷりマナを使えてようやく空間魔法も使えます」


 ハヤトの答えに、マイン少将が聞く。

「ということは、手記に書いておられたような大威力の火魔法や、空間魔法によるジャンプも使えるのですか?」ハヤトはにこりと笑って答える。


「まあ、ジャンプは距離が知れていますがね。しかし、空間魔法はマナのタンクを常時持っていられるので、中のマナを使うには非常に便利です。一方で、飛行魔法もできるようなりましたが、加速はせいぜい0.5G程度で重力エンジンにはまったく敵いません」ハヤトはそう言って皆を見てさらに言葉を続ける。


「魔法は、技術の未発達なところでは万能の扱いを受けますが、この地球のように技術文明が発達しているところでは、使い方次第だと思うのです。離れたところに魔力を及ぼせる点が、魔法の最も大きなメリットでしょうし、空間魔法として収納、さらに距離が限られていても、ジャンプも大きなメリットでしょうね。それでは、欧州本土に出かけてきましょうかね」


 そう言うと、ハヤトは山賀司令官を見て頼む。

「では、山賀司令官、お話ししていたように乗ってこられた司令機を貸してください」


「承知した。乗り組みはパイロットと銃手のみだが、いいね」


 山賀が答え、ハヤトが言葉を返す。

「ええ、司令機は機関砲2基とレールガンが小口径と大口径が各1基ですよね。加えて“しでん”並みの加速強化型になっていますね」


「そうです。パイロットが桐島1尉、銃手が葛西2尉でいずれも最優秀のメンバーです。さらに“しでん”50機を護衛につけます」


 山賀の答えにハヤトは要らないと言おうとしたが、考え直す。

「いや、そんなに護衛は必要ない……、いや私はジャンプできるが、残った司令機はそうもいかんな。そうですね。お願いしましょうか」


 ハヤトは、アリソン基地の“らいでん”司令機に乗り込む。パイロットの小柄で童顔の桐島1尉と、銃手というが、射撃担当士官である中背で浅黒い顔の葛西2井尉が迎える。


「やあ、よろしくお願いします。聞いていると思いますが、最寄りのアンノ母艦にそうですね、50km程度まで近づいてください。私はその点で、アンノ母艦に向かってジャンプします。一応断わっていきますが、急に消えても驚かないでください」

 2人と握手しながらハヤトが言うと、葛西が浅黒い顔で驚いたように返す。


「ああ、ハヤトさんの超空間魔法のジャンプですか。しかし、敵ばかりの中に危険じゃないですか?また病原菌の危険性があるし、空気も呼吸できるかどうかわかりませんよ」 


「ああ、そうだった。空気については簡易呼吸器を用意してもらったはずですが、知りませんか?」 ハヤトの言葉に桐島が応じる。

「ああ、言われていた。あります。あります」

 桐島がプラスチックのケースを持ち出し、開くとプラスチックの簡易呼吸器が現れる。これは、アクアラングのように呼吸できるようにしたもので、アンノ機の空気が万が一呼吸できない場合に備えたものだ。


 ハヤトは、満足げにケースの中を見て言う。

「これですね。じゃあ出発してください」


よろしかったら、別に連載中の小説も読んでください。

ライの物語―魔法を科学で強化して、巨大魔法帝国の侵略を阻止せよ

https://ncode.syosetu.com/n8125eu/




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