ミサイル撃墜法の確立
読者が継続的に増えており、モチベーションが高まります。
昨日は、前の作品を読んでこの作品を見つけたという方がいて、大変うれしかったです。
今回の作品の出あしがよかったのは、そのひとたちのお陰も多いかなと思っています。なにしろそれなりにランキングを挙げて注目されないとどうしようもないですからね。ただ、そうはいっても自分なりに好きなように書いていくしかありませんので、それが皆さんの嗜好に合うことを祈るのみです。
ハヤトは、朝霞駐屯地の中を身体強化なしで走っている。この駐屯地のみならず、自衛隊の基地は隊員が運動するためのシステムが整っているが、今彼が走っている外部と隔てる塀の内側を巡る道路もその一つであり1周で3kmを上回る。
ハヤトの、強化無しで中距離を走る速度は大体100mで16秒であり、1万mの世界記録並みの速さであり、これを4周走るつもりで走っている。彼は、食事が美味しかった昨夜の会食を思い出している。
自衛隊の基地には来賓用の食堂があり、高級レストランなみの飾りつけをして、コックもそれなりの腕である。
昨夜は、駐屯地司令官天野陸将補、司令官補佐の矢野1佐、教練隊長村越1佐、香川2佐、広報班長西谷2佐、紅一点で風間1尉が出席したうえで、洋食のフルコースであった。もっとも、ハヤトは、ラーナラでは5か国の国王や指導者を交えた会食はちょくちょくしていたため、この程度の食事には慣れていたが、日本では中学生であったため、それをフルコースだろうと思っただけで良くは知らない。
異世界のラーナラの場合には、食べるのに使うのはナイフとフォークに似たものであったため、その席で用意された地球のナイフとフォークは別に違和感はない。
その席ではハヤトが、ラーナラに召喚され3年間の訓練の後4年の旅をして、遂に人と血なまぐさい争いをしていた魔族とその指導者魔王を滅ぼした話をしている。その席の人々は、流石に戦争の専門家であり、ハヤトが経験した数々の戦闘の話を興味深く聞き、専門家らしい内容の質問を適宜して内容を把握に努めていた。
そう感じたハヤトは『たぶん、嘘か真かの判断は置いておいて、とりあえず信じるということにしたのだろうな』と思い、それはそれで要らない説明が省けるので有難い話だと考えている。
また、ハヤトの求めに応じて、自衛隊として何をハヤトに求めているかについて、まだ自衛隊として全体の意思統一はされていないとの留保の上で一通りの説明があった。
現在、北朝鮮が核ミサイルの開発を続けていることは、日本をはじめとする近隣諸国のみならず世界にとって深刻な脅威になりつつある。
何よりの問題は、条約破りで核兵器を開発した国は数多くあるが、他国の反対を押しのけての核開発を実施してきた国々は、少なくとも相手の国に撃ち込むなどとの言葉を国の発表として行ったことはなく、あくまで表向きは自衛手段として位置付けてきた。それに対して、北朝鮮は平気で他国を火の海にしてやるなどという挑発を平気で続けている。
核兵器というものは、持っている国そのものにある程度の信頼がおけないとその攻撃を受ける可能性のある国からすれば、物騒で放置できないということになる。
その意味で、北朝鮮はその核兵器を持とうとする目的が自国の人々の安全を守るためでなく、明らかに指導者の金一族の支配を永続化するためのものであることから、極めて危険なのである。
すなわち、北朝鮮が持っている通常兵器で有効なのは、ミサイルとソウルに向けた長距離砲やロケット弾のみであるとされ、戦車や戦闘機、戦闘艦等をもっているものの燃料がなく、殆ど訓練もされていないと見られる。
従って、こうしたミサイル、長距離砲、ロケット弾を打ち尽くせば終わりで、全く継戦能力はないと見られている。
一方で、指導者の金傍訓は人民のことなど全く考えておらず、自分と一族が今の地位を保てればよいと考えていることは明らかである。従って、仮に北朝鮮が核あるいは他国に向けた武器を相手に使えば、間違いなく国は滅び自国民の多くが報復によって死ぬことが判っていながら、自分の政権を保つためのみに相手を滅ぼすという脅しを使っているのだ。
実際に、自分の政権を倒すような動きを他国がすれば、そうした武器を使いかねないのが実際であり、自国が核ミサイルシステムを完成した暁には、周辺国をそれで脅しかねないのが北朝鮮という国なのだ。
「そういうことで、我が国もそのような北朝鮮に核ミサイルを持たすわけにはいかない、というはっきりした方向をだしています。しかし、危険なのはアメリカが、アメリカを核攻撃するなどと言う放送を平気で行うような国が、自国に届く核ミサイルの保有することを決して認めないということです。
近いうち、多分2ヵ月以内にアメリカが北朝鮮を空と海から爆撃するというのが我々の見込みです。これは、当然基本的には軍事目標を狙う訳です。
しかし、北朝鮮は日本からも運び込まれていますが、多数のトンネル掘削機があり、当然ミサイルサイトはトンネル内に設置されていて、場所を特定されているのは半分以下です」
しゃべっていた天野司令官は一旦言葉を切り、ハヤトを見つめさらに続ける。
「北朝鮮は、航空機、ミサイルもそうですがこれらの探知能力は比較的低いですから、アメリカ軍の初撃は殆ど妨害無しに成功するでしょう。これらは、指導者を含めて、多くの北朝鮮の兵器を破壊できると思います。
しかし、さっき言ったようにかなりのミサイル及び長距離砲、ロケット砲が生き残るでしょう。その時点では、金傍訓は生き残っていないでしょうが、その残した命令によって、それらは、アメリカ軍の攻撃に応じて全力発射されるものと考えられます。それが、北朝鮮の人々の多くの死を意味するにもかかわらず」再度、天野司令官は言葉を切りまた続ける。
「その場合、韓国は無論のこと、我が国も甚大な被害を受ける可能性が高いのです。現状で、北朝鮮が実戦配備しているミサイルは射程1000kmのスカッドと1300㎞のノドンがそれぞれ数百基です。またカタログ上の射程だけであれば、アメリカ本土に届くテポドン10基ほどがすでに配備されています。
生き残った長距離砲とロケット砲は、ソウルを射程内にある高層アパートなど住居群を徹底的にたたくでしょう。また、スカッドの多くは韓国の都市部を叩き、ノドンは我が国の西日本めがけて飛んできますが、これは殆ど迎撃できると踏んでいます。
最悪なのは核弾頭の小型化もある程度進んでいて、テポドンには積んでいるという情報です。成層圏に上がって加速を付けて降ってくるテポドンの迎撃は非常に難しい。これを何とかしなくてはならないというのが、現在の我々自衛隊が与えられた使命なのです」
司令官の話にハヤトは頷いて口を開く。「わかりました。北朝鮮のミサイルは問題ないでしょう。しかし、最近のインターネットを見ていると、中国の軍備拡張の脅威という話も多く出ていますし、尖閣列島ですか、そんな名前のところでかなり露骨に挑発をされているようですね」
それを聞いて、今度は司令官補佐の矢野1佐が答える。
「北朝鮮には中国も手を焼いているようですし、北朝鮮相手には現状ではアメリカも本腰を入れていますから、アメリカとことを構えなくないこの危機が過ぎるまでは中国が本格的な挑発をするとは思えません。
しかし、5年というオーダーで見ると、中国との関係は間違いなく危機一髪になると思われます。なにより、あの国はここ数年の傲慢なふるまいの結果、世界的な嫌われ者になってきており、その中で無理に無理を重ねてきた経済がすでにガタガタになってきています。また、彼らの言うGDPは甚だ怪しいというのが世界の通説になってきています。
今までのところ、経済成長という幻想で国民を抑えてきましたが、年間数十万件という国内の暴動が抑えきれないところまで来ています。そうした場合、中国指導部が選ぶ可能性が高いのがいわゆる平和憲法を持って、有効に武力を使えないわが日本を挑発することで人民の憂さを晴らすことです」
矢野1佐が一旦話を切ったところで、今度は香川2佐が引き継ぐ。
「そこで、我々自衛隊もそれに備えざるを得ないでしょうが、陸の我々としては自らが加わるような戦闘はまず生まれないように思います。結局、空と海と海中の戦いになっていくでしょうね。
しかし、この戦いでは我が自衛隊に利があると見られており、まず問題はないと分析されていますが、やはり問題は核ミサイルになります。二宮さんもご存知だと思いますが、中国はすでに核の大陸弾道弾を実戦配備しており、実用できるものは100基と推定されています。
これは、アメリカまでに届くと考えられており、そういう意味では日本へは確実に届きます。これに対する策としては、いわゆるアメリカの核の傘になるわけですが、仮に中国がアメリカに弾道ミサイルを撃ち込むと脅した場合には、自らの危険を冒してアメリカが日本を守るかどうかは甚だ怪しいと言わざるを得ません。
従って、仮に尖閣近辺で戦闘が行われ、わが自衛隊が勝った場合、我々はそう思っていますが、中国が核をもって屈服を迫る可能性が高く、それに対してアメリカの核の傘も怪しいということになります。結局問題はミサイルなのですよ」香川の話に、自衛官の皆は頷いている。
「じゃあ、いいじゃないですか。要はミサイルを撃墜できればいいのだから。ミサイルの大体の構造さえわかれば撃墜は十分可能ですよ。それに、仮に私が軍艦、いや護衛艦ですか。護衛艦に乗っていれば、相手の艦の撃つミサイルは撃墜できるかも。どれだけ、その撃墜までの時間が短縮するかにもよりますが」
ハヤトが平静に言うのに対して、今度は女性士官風間1尉が考えながら聞く。
「今日、二宮さんは火魔法ということでコインを溶かしましたよね。それで、ミサイル内でああいう風に局部的に高熱を出すことができますか?」
ハヤトは、少し考えたのちに答える。「ええ、出来ますよ。ただ範囲は狭いですが。そうか、ミサイルの燃料を熱することが出来て爆発あるいは燃焼すれば、コースを変えたり爆発させたりできますね」
「ええ、でもそれは固体燃料の推進剤の場合で、この場合は、酸化剤が最初から混じっているので、熱さえあれば爆発または異常燃焼させることは可能です。ただ液体燃料の場合は燃料と酸化剤は別になっているので発火させるのは時間がかかるでしょうね。
でも、液体燃料のミサイルでも多段の場合には切り離しの炸薬、あるいは通常は異状飛行に備えて爆薬を使っていますから、これを発火させれば軌道が逸れるあるいは姿勢が崩れますから撃墜したと言えるでしょう。ですから、固体燃料を探して発火させれば、短時間で撃墜できると思います」
風間が言い、ハヤトが頷いて同意する。
「そうですね。扱える電線を探すよりそっちの方がうんと楽そうだ」
構内を走りながら昨夜の話を思い出し、今日の10時からの協議が少し楽しみになっているハヤトであった。
そうやって、ハヤトは考えながら同じペースで走っているが、すでに多くのランナーを追い抜いている。正門の近くで追い抜かれたランナーは、日本陸連の強化選手の葉山清太2曹であったが、後ろから迫ってきてあっという間に追い抜いていった、長身のハヤトを唖然として見送った。
『自分もまだフルスピードではないが、あっという間に抜いていった彼は、初めて見る顔だが、どれだけ走るのだろう、あのスピードでは1㎞も持たないだろう』と葉山は考えたが、翌日改めて紹介されてなるほどと思ったものだ。
ハヤトが30分足らずのジョギング(?)の後、シャワ―を浴びて「一緒に飯を食おうぜ」と安井を呼び出す。安井は、ハヤトから離れるなと香川2佐から命令されているので、昨夜の来客用の食堂に用意された食事を一緒にとる。
それは、品数も6品ある和食で、よくホテルなどで供される比較的豪華なものであったが、ハヤトは食べながら安井に聞く。「安井たちの食事はどうだい?」
「無論、朝飯はこんなに食器は種類たくさん使ってなくて、飯と汁茶碗にトレイにバイキングの食い物を取る形だが、種類はそれなりにあるものから選べるし、味は問題ないぞ」
安井の言葉にハヤトは「だったら、まあ泊まるところは折角だから今のものを使わせてもらって、飯は皆と一緒に食うよ」
そう言い、さらに「まだ8時だが、10時までだいぶ時間があるがどうする?」と安井に聞く。
安井は少し心配しながら言う。「実は班長からロケットに使う推進剤を準備するので発火実験に付き合ってもらいたいということだ」
しかし、ハヤトはあっさり言う。「いいよ」
香川2佐以下の班員が準備した、推進剤の3種類については、いずれもハヤトの火魔法で熱を発することでものの3秒以内に発火させることができた。
一方、液体燃料については、実験ではボンベが爆裂して発火したが、高空のように空気のほとんど無いところでは発火しない。また、タンクの容量が大きいとやはり時間がかかるということで、やはり固体燃料のみを狙うことになった。
ご指摘により、液体燃料のロケットの撃墜方法を変更しました。