対アンノ防衛軍設立
この物語が出版されることになり、その準備に入っています。これも、読んで頂いている皆さんのお陰です。大変感謝しています。
対アンノ防衛計画の国会での正式決議は、果たして簡単にはいかなかった。現状のところでは、すでに始めている大規模な準備を、閣議決定を根拠に、あらゆる裏技を使って、人のやりくりと予算の流用を行っているが、総予算30兆円となろうかという総力戦のための計画を、国会の議決を経ずして実行はできない。
強固に反対したのは、共産党と新進党の左派と呼ばれる旧社会党・社民党崩れんの議員である。彼らは、対アンノ防衛計画を、それが国民の総動員体制を意味していることを指摘して、かっての太平洋戦争の状態に日本を持っていき、自民党を支配する一派が人々を支配しようとしていると、狂人のごとく言い立てた。
しかし、これらの国会の議論は、憲法57条の規定によって出席者の2/3の議決があれば、秘密会議とすることができるという条項を適用しているので、外に漏らすことはできない。
アンノの脅威を基に2/3の議決は容易に得られたが、1/4ほどの議員はいくら理を解いても納得しようとはしなかった。政府・与党側、ハヤト自身も含めた説得にも全く耳を貸そうとする気配のない、これら1/4に対してハヤトがごうを煮やして静かに言った。
「結局、あなた方は何を言っても聞く気がないのですね。現実に迫った脅威、それも自国民が抹殺されるか、あるいは奴隷にされる危険性より、あなた方は自分のかたくなな信念が重要なのですね。
私はあなた方より若輩者ですが、あなた方のそうした物事のプライオリティの解らない頑なさを軽蔑します。幸いにして、国会は多数決の原理で動いています。
少なくとも、ここにおられる議員の方々の2/3以上は、アンノという歴史上かってない脅威に対して、やむを得ず、かの太平洋戦争以来の、国家総動員体制に我が国を持って行かざるを得ないということを理解されております。議長、直ちに裁決に入ることを提案します」
そのハヤトの言葉に「賛成!」「賛成!」「賛成!」の怒号の渦が巻き起こり、「反対!」「これは暴挙だ!」などの声はかき消された。
「二宮議員の提案に賛成多数と認め、ただいまより採決に入ります」議長の声が響き渡る。
こうして対アンノ防衛計画の実施が採決されたのは、議論を始めて1週間後のことであった。こうした騒ぎの中で幸いであったのは、マスコミにかん口令が引かれたことで、未だ数多い左巻きのマスコミ関係者が、こうした左巻きの意見に対して偏った報道をすることはなかったことであった。
しかし、当然ながら、政府の公式発表とは違う実際の動きに気がつく者も多く、その何割かは頭から政府のやることは悪と決めつける類の者であった。かれらは、国民を総動員体制に持って行こうとする政府の危険性を言い立て、あるものは友人に訴え、街角に立って訴えた。
しかし、マスコミの訴えた者は相手にされず、出版・放送の形で表に出ることはなかった。なかには、放送によって発表しようとしたものもいたが、検閲システムに阻まれて発表できず、かれらは密かに拘束された。政府側も、何が秘密と言う公表ができない以上、秘密保護法などで逮捕は出来ないのである。これも、アンノとの戦端が開かれるまでの間である。
共産党は、こうした採決が出ても諦めなかった。その関心がどこに向いているのかはわからないが、ある意味では腹が座っている人々である。
共産党の衆議院議員は、その採決の後、議事堂内の党に割り当てられている部屋に集合した。
「こうなったら、マスコミを集めて今日の国会での暴挙を明らかにしましょう」若い東京都選出の女性議員杉田亮子が言う。
「いや、今日の議会は秘密会だ、当然それを漏らすと処罰されるぞ」老年に差し掛かった全国区の議員が言い、さらに、中年の労働組合あがりの中年の議員が言う。
「それに警告されたじゃないか。内容を漏らすと『外患罪』が適用されるとな。外患罪は死刑もあるからな。これは半端じゃないぞ」
「ではこの暴挙、暗黒の戦前に戻そうとする政府をそのままにしようというのですか?」最初に叫んだ女性議員がヒステリックに言う。
それらの議論を見ていた、白髪でいかつい顔の住田委員長が重々しく言う。
「うむ。今日の暴挙は看過すべきじゃない。この重要性に鑑みれば、記者発表すべきだ。私は国民は理解してくれると信じる。
そもそもすでに政府は情報管制を引いておる。これは明らかに憲法違反だ。情報管制を引いていても、生放送だと隠しようがないだろう。ただ、実際に外患罪で拘束されることがあるかもしれないので、発表は最低限の人数、そうだな、私と杉田君でやろう。もし私が拘束されたら、副委員長の山田君に後は頼む」
横に居た山田が頷いて言う。
「わかりました。もしもの場合の後は任せてください。マスコミには、私から公報の者に声をかけるように言っておきます」
共産党の本部事務所で記者会見が開かれた。見たところ、呼ばれたマスコミの8割がたが集まっているが、呼ばれたY新聞の片山は複雑な気持ちである。確かに、国会は秘密会ということで、情報が入ってきていないが、どういうことが話し合われているかは、マスコミの世界に身を置いているものなら大体は知っている。
またその延長で、今日重要な議決がされたのも承知しており、それは日本を対アンノ対策の総動員体制に持っていくものであろう。マスコミとして、それを報道できないのは釈然としないのは事実であるが、それを秘密にしなけらばならない事情を知っている以上、理解せざるを得ない。
今日の共産党の記者会見は、たぶんそれに対して直接には触れないまでも、それについて、苦情をいうものであろう。もし、内容をばらした場合には、場合によって死刑になる外患罪の適用なほぼ確実であるため、まあそれはないというのが、片山に限らず記者の思いであった。
しかし、記者たちは、一方で共産党の広報部が生放送を要求していると聞いて、内容の言及もあるかなと、ややわくわくする思いで、席についている共産党の最高権力者の住田委員長の言葉を待つ。
「本日は、秘密の内に国民の皆さんを、奴隷状態におこうとする政府の陰謀を、皆さんにお知らせするために、来ていただきました。
本日、与党自民党、真理党、維新の会、さらに新進党の一部によって、対アンノ対策法なる法律が採決されました。これは、日本をしてあたかも太平洋戦争の時のように総動員体制に持っていくものであり……」と住田が話を続けようとしたが、なだれ込んできた背広の3人と10数人の警官に遮られた。
背広の一人が、警察手帳を見せて厳しく言う。
「住田芳樹、杉田亮子、外患ほう助罪の現行犯で逮捕する」そうして、横にいた制服警官に命じる。
「両名を逮捕しろ」警官は2人を引きたて、「逮捕する!」と言って手錠をかける。
警官に遮られながら、周りには共産党関係者が10数人いて警官ともみ合っているが、なにやら喚いている両名に近づくことはできない。こうなることを予想していたマスコミ関係者は喜んで、その映像をとっている。
生放送のカメラは、現場のカメラはそのままを撮っているが、実際の放送内容はAIで変換した結果であり、住田が関係ない件で政府を非難している様子が写っている。片山記者は、引かれて行く2人を見て思った。
『まあ、実体的には未遂だけど、意図的にアンノに対して、日本にとって非常に危険な情報を漏らそうとしたのだ。死刑にはならないだろうが、多分一生刑務所を出ることはないだろうな』
この映像は、対アンノ戦争の後に放映されたが、実際にアンノによって大きな被害を受けた現実の後だっただけに、住田たちの行動に共感する者は殆どなかった。
日本はこの国会の議決をへて、さらに対アンノ戦争の準備を加速した。
国内では、生産体制の転換をしながら最大限の生産を進め、人員の配置転換と訓練が急ピッチで進められる傍ら、日本とアメリカが中心になって国際的な枠組み作りが急がれた。
そこで問題になったのは、いささか魔法の処方とその成果については、カヤの外に置かれた欧州、中国及び韓国の非協力な態度であった。実際に、国民の多くに魔法の処方を受けさせ、その知的向上の成果を享受しながら、さらに経済の高度成長を達成しつつあった国々が多く現れつつあったのだ。 それは、タイを始めとした東南アジア諸国、さらに日本自治区を中心として東アフリカの数か国であり、むしろかっての先進地域であった欧州は“世界の遅れた地域”になりつつあった。
実際に、今後確実に起こるであろう、アンノとの戦いにおいて、魔法の処方を受けていない人材は、主としてその知的な面と鋭敏さの面から一歩劣ると言わざるえない。
結局、欧州は早くからのアメリカの協力で処方が進んでいたイギリスを除き、中国及び韓国と共に対アンノ防衛軍に、人材と資金及び資材の提供を拒んだ。
対アンノ防衛軍は、何といっても最大数の軍人を抱えるアメリカを盟主として、日本、イギリス、タイを中心とした東南アジア連合、日本自治区を中心としたアフリカ連合、ブラジルを中心とした南アメリカ連合、ロシア、カナダ、オーストラリアが構成員となった。
これらの国々・連合から防衛軍に提供する人材は、全て魔法の処方を受けたものになり、比較的魔力が多いものになっている。
兵器は重力エンジン機とレールガンが主力兵器であり、これらについては、アメリカは自国の軍に供給する兵器の生産で手一杯、イギリスも同様であるため、日本がこれらの兵器廠となった。
この点では、日本政府のフライング気味の早めの手当てが、功を奏した結果となった。アメリカと日本では、かのUnknown対策会議の1ヵ月後には重力エンジン機のパイロットの訓練が開始されたが、その他の国々では1ヵ月から2ヵ月開始が遅れた。
訓練にあたっては、日本ではすでに使える飛行場が一杯であったため、日本で生産されたタンデムの“しでん”練習機、及び単座の戦闘機が輸送機型の重力エンジン機に積まれて、各国の飛行基地に輸送された。
その教官は日本人の自衛隊出身の教官に率いられた、日本で1ヵ月以上の訓練を受けた訓練生あがりであるが、日本でも教官の絶対数は足りないためにやむを得ない。
量産性を第1に考えて設計された“しでん”の量産はどんどん高まり、対策会議の2ヶ月後にはすでに月産2万機、3ヶ月後には月産4万機、累計6万機に達している。さらに、4ヵ月目の初めには、パイロットもすでに4万人が単独飛行で訓練を行っている状態であり、2万人は実戦可能なレベルに達したと判断されている。
これらの者は、大卒者は3尉それ以外は准尉として任官しており、また整備等を担当する工務担当者は尉官または曹、士に任官している。
しかし、これだけ派手な動きをしていれば、アンノに気がつかれないはずはなく、いつ侵略が始まってもおかしくはないと見られていた。戦略補助のための陽電子頭脳によるAIの判断では、会議から4ヵ月後には1ヵ月以内に手ごわそうな日本、アメリカ以外の、抵抗が薄い地域への侵略が始まるということであった。
しかし、その際には他地域への全面的な攻勢がある可能性もあるということでもあり、訓練生は実戦にも備えて激しい訓練を繰り返しおり、一方で任官したものは訓練を兼ねて哨戒任務についている。
瀬川英二は、大学2年生であって、卒業していないので准尉として任官した。配備された宮崎基地では、最初120機だった宮崎戦闘隊は240機に増強されて、第1大隊と第2大隊に分けられ、それぞれの大隊は3中隊各40機、中隊は各8機の5小隊に分けられている。
瀬川准尉は技量抜群ということではあるが、19歳と若年であるため第1大隊、第1中隊、第1分隊長を任されている。第1分隊の8機の列機の内6機は、単独飛行を許されたレベルの訓練生であるため、瀬川は最初の内全く気が抜けなかった。
それでも、すでに小隊を組んで1ヵ月を過ぎ、列機の隊員の癖も飲み込んできた。さらに、任官を済ませている矢代と訓練生でも優秀な見山に、それぞれ2機と1機を受け持たせてだいぶ楽ができるようになった。
今日はドローンから放たれた風船の射撃訓練だ。口径25mmのガトリング砲と同径のレールガンによって、径が2mあるバルーンをまずレールガンで1kmの距離から狙い、外したらガトリング砲で更に接近しつつ狙う。
マッハ2で接近して、時速500kmで飛ぶバルーンを狙うので、人間の判断では基本的に無理であり、射撃はAIによるが、人間の判断が入るのは射撃のタイミングの入力と機体の機動である。
列機はA1〜A2のコード番号で呼ばれており、A1が瀬川、A4が矢代、A7が見山である。
すでに、A8から順に行われた射撃はA2まで済んでおり、4機がレールガンで命中、残りの3機もガトリングガン10発射撃では命中している。最後の瀬川は、自分も軽々とレールガンで命中させて、『まずまずだな』と思い列機に命じる。
「ごくろう。射撃訓練を終わる。では基地に帰投する」
新しい連載を始めました。この小説も異世界版と言っていいかも知れません。
よろしかったら読んでください。
https://ncode.syosetu.com/n8125eu/




