現在の魔法処方の事情
魔法処方について、まとめておきますが、また説明が多いと言われるかも。
2024年7月における魔法の処方の現状について説明しておこう。
人々の持つ魔力については、日本人が突出してその値が大きく、黒人を含んで有色人種は比較的大きいが処方ができるほどではなく、白人は非常に小さいことが解っている。
例外は台湾の人々であり、日本人を除いて突出して高く、処方ができる者も日本人が10%足らずに対して、その1/5程度の人数がいる。
処方の効果は、魔力の多寡によって大きく左右されるものであるが、魔力の高い日本人が、身体能力強化はほぼ全員が大幅に高くなり、知能増強が平均1.45倍に達する。
それに対して、有色人種の身体能力強化は1.2倍程度と限定的であり、知能増強でも1.2倍程度、白人への身体能力強化は殆ど効力がなく、知能増強は1.1倍程度で大きく劣る。台湾人は、身体能力強化は日本人の半分程度の効果であり、知能増強は日本人にやや劣る程度である。
しかし、より重要と考えられている知能増強については、アメリカの日系人の学者が、日本で研究した成果を生かして、魔力を増幅する効果のあるインプレッサーを開発した。それを、有色人の比較的魔力の大きい者が用いることで処方が可能になり、その効果は、知能増強については日本人と変わらない結果を得ることができる。
この技術は、当然日本でも開発されていて、アメリカと日本の交渉の結果、白人国についてはアメリカが、それ以外の国でアジア・アフリカについては、基本的に日本が処方の普及に責任を持つことになった。普及に責任を持つというのは一面では負担ではあるが、基本的に有料となる処方を、どういう風にどの順番に行うかは、大きな政治的な利権になる。
こうした経緯から、日本では処方が可能な年齢のものの処方はすでに終わっている。また、処方ができるレベルの魔力の人々を、最初に日本に送り込んで、計画的に国民に処方を進めていった台湾は、すでにこの処方の対象者については、90%以上の処方が済んでいる。
一方で、日本人以外の人々への処方は、1ヶ月ほど前に、アメリカが新技術を用いた魔力増幅処方を開始する前は、実質的に日本における有料のものが唯一の方法であった。
しかし、この処方を済ませた者は、管理している厚労省の外国人処方課の記録によると、1800万人であるが、魔力増幅処方ではないため、知能増強の効果が限定的であった。従って、日本において、インプレッサ―が開発されて、臨床試験も済んで増幅処方が実用化されたときには、過去に処方を受けた人に対しては無料で再処方する旨が通知された。
しかし、アメリカの責任において増幅処方を受ける場合は、半金を返す措置を取っている。
ここまでの処方は、35歳から40歳以上の一定の年齢を越えるものは実施できなかった。しかし、1年ほど前に、年をとると処方ができなくなる原因が発見された。この結果、ハヤトや妹のさつきなどの念動力や探査などの魔法が使える、ごく少数の魔法使いは処方ができることになった。
さらには、半年前に、新技術開発プロジェクトによって、重力エンジンの力場を使用した機械的な補助によって、普通の処方士によって処方ができる方法、『補助付き処方』が開発された。
新技術開発プロジェクトは、アメリカも共同研究を行っているので、この技術は、アメリカにはすでに渡っている。
この結果、日本では一定の年齢以上の人は、現役で働いている人を優先して、処方を急いでいる所である。ちなみに政治家など、ある一定の条件を満たしたものは、ハヤトやさつきなどの少数の魔法使いによって、すでに処方を受けている。
処方による効果は、すでに広く知られている。とりわけ心身ともに老化が進んでいる中高年にとっては、身体能力強化ができるようになることで、肉体作業において疲れにくくなり、さらに身体の様々な故障を自ら改善することができるようになる。
加えて、知能増強によって、知的作業の場合の日常業務に疲れにくくなり、気力も増すために、身体条件の改善も自分の意思で計画的に実施できる。このため、ほとんどの中高年の人が若返って健康になることが確かめられている。
このように、個人にとっては大きなメリットがあるために、誰もが処方を望んでいる。しかし、現役で働いていない年金生活者をどうするかは目下議論の最中である。これは、処方によって元気になることで、年金生活者が長生きすることになると、一定の寿命を前提としている年金の仕組みが破綻することが確実であるためである。
日本人についてはこのような状況であるが、日本人のみが処方の効果を享受することについては、すでに世界の国々からの風当たりが、暴風レベルに強くなってきている。
さらに、ハヤトが実施しつつある資源探査についても、すでに日本のみならず、北朝鮮(朝鮮共和国)と台湾がすでに終わって結果が公表されている。続いて、アメリカとカナダで実施している途中であるが、途中経過ながら、極めて莫大な発見が続いていることがすでに明らかになっている。
このことから、例によって国連において、日本が魔法の処方と資源探査というその成果を独占しているとして非難され、日本からするととんでもない内容の決議案が上程された。
「日本は、魔法能力を持つ人材を不当に独占して、魔法処方の効果を実質的に自国で独占し、さらに資源探査については、自国及び自国の恣意的に決めた国へのみ利益をもたらしている。
我々はこのことを強く非難する。我々は日本政府に対し、魔法の処方について、可能な人員を含めて国連の管理下に置き、資源探査ができるニノミヤ・ハヤトなる人物もまた国連の管理下に置くこと要求する」
この案の上程に危機感をもった日本政府は、決議の前に海外への魔法処方について計画を取りまとめて発表した。
日本人の場合には、魔法の処方ができる者は1割程度の割合でいる。問題は、魔力の高いこれらの人々は能力が高く、社会的な意味で有能で価値の高い人が多いことで、処方のみに専任させるわけにいかないことである。
処方を受けた人数は、12歳から40歳まで1600万人、35歳以上で増幅処方を受けた人が、現状で決議案が上程された2024年の4月で300万人である。従って、処方を行う能力のある人は200万人ほどもいる計算になる。
しかし、他の人に処方を行う気持ちがあって、処方士の資格を取得した人の数は、現状でわずか40万人である。
これらの人々に対して、政府がアンケートを行った結果では、場合によっては、海外に行って処方をしても良いとした人は10万人である。日本政府の案は、日本から処方士を送り出し、海外の魔力が比較的強いものを先行的に処方して、これらの人々に魔法増幅処方によって自国民の処方をしてもらおうというものである。
その処方は、5万人の資格持ちの処方士を、当該国に派遣して、増幅処方によって処方して、処方士として一定数養成する。
現状でわかっている限りでは、日本人/台湾人以外の有色人の高めの魔力量である200マリュー程度であれば、インプレッサ―を用いれば、1日50人程度の処方が可能である。そうすると、1人の処方士は年間200日×50人/日で合計1万人の処方が可能である。
各国の処方対象者を念のため12歳から40歳としてその人数を当面の処方の対象者とすると、対象者の1万分の1の処方を行えば、その後その国で効率よく処方をやっていけば、1年足らずでその国の若者対象の処方は終わることになる。
日本政府は、現状で無償援助対象国に対しては、派遣する処方士の宿泊のみについては、当該国が責任を持つことにして、それ以外は無償援助とすることにした。ODAの貸付対象国は必要費用の半分、それ以外は当該国の全額負担とした。
なお、費用は航空運賃を含む交通費、宿泊費・日当の他、処方士の人件費は請求しない代わりに、1人の処方については供与するインプレッサ―の費用を含めて日本円で20万円に設定している。
中高年者への処方については、現状のところでは、先述のように日本では補助付き処方が開発されて、すでに実用化している。ところが、日本人以外で知力増強の効果を100%得るには、魔力増幅処方に、補助付き処方を組み合わせる必要がある。
しかし、試験の結果、両方の機器を同時に用いると共鳴現象が起きて、魔力の増幅がうまくいかない現象が起きている。
このため、現状では中高年対象では、補助付き処方のみで処方が行える、日本人と台湾人のみが可能ということになっている。しかし、日本とアメリカで精力的に研究が行われているので、この点は、早晩解決されると見込まれている。
従って、現状では日本が行う外国への処方の援助は、先述の年齢範囲の若者が対象になり、対象国のその人数に対して1万分の1の人数の処方士を養成する、ということになる。なお、35歳から40歳の間の年齢のものの半分以上は、補助付き処方が使えない限り処方ができない。
日本政府は、国連の先述の上程された議決案の議決の日に、以上の魔法処方の援助案を総会にて提示した。
「日本国は、以上述べたような、魔法処方についての処方に係わる現状を踏まえて、お手元にあるような、援助の方法をまとめました。すなわち、日本の援助を望む国について日本が援助に合意した場合には、当該国の処方対象人数の1万分の1の人数に当たる処方士の養成をします。
そこに書いているように、これらの養成された処方士は、1年に1万人の処方ができるはずですので、1年強で当該国の処方は終わります。なお、資源探査については、二宮ハヤト氏にしかその能力がなく、政府も彼の意向を受け入れるのみです。
なお、お断りしておきますが、この議決案が仮に採決されても、日本国は決して受け入れません。なぜなら、この議決は、明らかに個人の権利を定めた我が国の憲法に違反しておりますし、国連憲章自体にも違反しております。
さらに、断言しますが、わが日本国民は、この国連の議決案に対して、怒りを持って見守っており、仮に議決された場合には、脱退をも辞さないでしょう」
日本の蔵石国連大使は決然と言った。
その後、彼に対して、援助対象国の順番はどうなっているかとの質問があり、このように答えた。「我が国で、動員できる処方士と、必要な人数の関係もあり、順番はまだ決めていません。しかし、その決定には当然ながらこの決議への賛否も関係してきます」
これを聞いた各国の委員は、前日のハヤトの言葉を報じたCNNの記事を思い出していた。
CNNの記者は、アメリカとカナダのその日の詳細調査を終えて、宿舎に戻ったハヤトに聞いている。
「ハヤトさんは、無論国連の議決案を知っていますよね。あれについてどう思いますか?」
「ハハハ!」ハヤトはまず笑って答えた。
「何という馬鹿な決議案だ。一片の決議で私、及び魔法の能力を持ったすべての日本人を縛れると思っているのですか。しかも、国連の管理下にね。
これは書いておいてください。この決議に賛成した国と地方については、少なくとも私が行う資源探査は決して実施しません」資源探査はハヤトにしかできず、日本政府もハヤトに命令は出来ないと言っているのだ。
総会の席が、蔵石の言葉を聞いて静かになった時、アメリカのホワイト大使が立ち上がり、意見を陳述した。
「いまこの席では、日本に対する要求の決議をしようとしているが、わがアメリカ合衆国も日本と似た立場にある。すなわち、我が国は先ほど日本の大使が説明した、魔法増幅処方と補助付き処方、両方の技術を持っている。
その増幅処方を用いて、すでに処方士の養成は概ね終わり、若者に関しては処方を始めているところである。
魔法増幅処方と補助付き処方を合成して行う、中高年への処方も近く技術が確立される見込みである。我が国は、日本とは長年の友誼関係があり、協力してこれらの技術を開発したものだ。
我が国の見解では、この決議案は個人の権利を侵害している面で、国連憲章に明白に違反している。なお、現状において、他国に対して魔法能力の処方を行う援助ができる国は、我が国と日本のみである。
したがって、ここで打ち明けるが、ヨーロッパ、ロシア、オーストラリアと南北アメリカは、わが合衆国の責任において、その他のアジア・アフリカについては、日本が処方の援助の責任を負うという分担にしている。従って、先ほどの日本の予定はアジア・アフリカ対象ということになりますな」
ホワイト国連大使は一旦言葉を切って議場を見渡して続ける。
「我が国は、無論決議案に反対だ。賛成した国は、あのハヤト氏の資源探査の対象にならないと聞いているが、これは大変だね。同情するよ。
我が国では彼の調査によって有望な鉱脈が続々と見つかって、国中が湧きたっているよ」
彼の話が終わり、2時間を置いて議決がされた。結局、賛成票はなく否決されたが、共同で議決案を出した中国と韓国も否決にまわって笑いものになった。
これは、本国から勝ちめは全くないところに、この上に嫌われることはないという本国からの指示であった。
その後、日本政府は精力的に処方の援助の準備を進め、2024年7月に最初の処方士の団体を、朝鮮共和国、モンゴル、フィリピン、東南アジア諸国、南アジアと東アフリカ3国に一斉に送り出した。無論、国連にあのようなふざけた決議案を出した、中国と韓国は無視である。




