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アフリカ東部日本自治区の建設

 西田洋二は、日本自治区建設団、ジンバブエ分区の現地分区長である。

 日本自治区建設団は、資本金1兆円の会社組織として発足した。現状の資本は全て民間資本であるが、政府からの出資はすでに閣議決定されており、2025年度には1兆円が投入されることになっている。この政府資金も含めて、資本金は順次増資され、最終的には5兆円になる予定である。


 日本自治区としては、当面モザンビーク、ジンバブエ及びマラウイから合計10万㎢の土地を購入する必要があるが、その購入には1兆円(130億ドル:1ドル/75円)を要し、今年に半分、来年には残りの半分を払い込むことになっている。

 合計130億ドルの土地代、モザンビークでは約78億ドル、ジンバブエでは39億ドル及びマラウイでは13億ドルはそれぞれの政府にとっては、年間予算に匹敵するもので小さいものではない。


 現状は、すでに策定された基本計画に沿って基本設計を進めている所であって、日本における設計班と、現地でその条件を確認しながら設計を進めている現地班に分かれている。

 ジンバブエ分区はジンバブエの東北部の3万㎢であり、標高は600m〜1100mである。開発の主目的が農業であり、地表の土はそれなりに肥えているが、問題は灌漑水である。この地区の降雨量は800〜1000mmで、それほど少なくはない。


 水源は、大きな川があればその流域で建設する貯水池か、または地下水であるが、この地区には大きな河川はなく、地下は岩盤である。従って、小規模なダムまたは地下水に頼るほかないが、平坦な地形の地下水源は規模が小さく到底農業用水に充てるに十分ではない。

 結局、比較的近い水源としてモザンビークのカヒラ・バッサ湖(標高370m)が選ばれ、そこからジンバブエ分区内に8か所に作られる、アースダムへ送水されることになっている。


 ダムの最高標高は1370mであり合計容量1億㎥であるが、年間2億トンが揚水される。ポンプは新開発の重力エンジンによるもので、水をプロペラで送る方式に比べ、力場で直接水を送るために極めて高い効率を持っている。

 これらは、湖での取水、さらに最大口径2000mm送水管の途中に、揚水高さ100m毎にブースターポンプが設けられて、最大揚程1000mもの揚水を行っている。


 なお、ジンバブエ分区の面積は3万㎢で、農地は2万㎢であり、農地は小麦の2期作を行うので、必要灌漑水量は降雨を除いて約2億㎥であるが、貯水ダムには降雨による流入水もあるので、通常で揚水能力の半分の送水で足りると計算されている。

 したがって余剰水が生じるが、これは人口250万人にもなる首都のハラレ及び、隣接する人口50万人のチトンギザの、不足する水源としてすでに強く要請されている。


 基本計画の中で、すでに道路網、鉄道路線、飛行場、市街地及び農地のレイアウトは策定されており、現在具体化のための基本設計が行われている。

 西田は、ジンバブエのモザンビークとの国境から60kmほど西に入った、将来高原たかはら市と呼ばれる予定のところに、仮事務所を作って、30人ほどの日本人の部下と、50人の現地人技術者と一緒に住んで準備作業をしている。

 ここは、標高が約1000mあるので、南緯17度といってもさほど暑くはないし、マラリア蚊もいないので熱帯性の病気からは安全である。


 なお、鉄道は現状ではモザンビークの自治区の沿岸に建設される港から、ハラレを結んで計画はされている。

 しかし、重力エンジン搭載の最大1万トン積みまでの飛行輸送機が、近い将来発達する見込みが立って、その重要性が薄れてきている。また、飛行場も重力エンジン機は長大な滑走路を必要としないため、現状では重力エンジン機を前提とした設計になっている。


 また、高原市は最終計画では人口30万人になっているが、隣接して工場団地が計画されており、ジンバブエで資源探査によって発見されるであろう、様々な資源を用いた工場生産が予定されている。 無論、100万kWのAE発電所が当面2基、及びAEバッテリーの励起のためのAE工場も計画されており、自治区への供給の他に、電力が未だ圧倒的に不足しているジンバブエへの給電も行うようになっている。

 

 さらに、学生数を当面4千人に設定している、国立東アフリカ大学は、その気候が良好なことから標高の高い高原市郊外に予定されており、できるだけ初期に建設されることになっている。

 農地については、小麦が標高1000m前後の比較的高い標高の土地に1.2万㎢、コメが標高600m-700mの低地に5千㎢となっており、その他が3千㎢となっている。1戸当たりの農地面積は原則として20haが予定されている。

 農家の集落は、基本的に耕作する農地から2㎞以内という条件で、ある程度集合させることになっている。これらの農民の家屋、さらに市街地の家屋と集合住宅は、基本的にパッケージ化して、いくつかの種類のユニットを組み合わせることで、余りに画一的にならないように工夫されている。


 準備作業については、ジンバブエ政府との協議も種々必要であり、そのため西田分区長はしばしばハラレへの150kmの道を車で飛ばしている。ちなみに、ジンバブエのインフラは、建設時点ではアフリカでは最もグレードの高いものであったが、長く経済的な混乱が続いて、例えば道路照明などはすでに残骸になりつつある。

 しかし、付属の構造物や舗装などは交通量の少ない地方では比較的良好である。その意味では、建設基地からハラレへは比較的良好な道路が使えている。なお、ハラレのジンバブエ大使館は10名の館員が増員されて、日本自治区の案件に当たっている。


 自治区建設に当たっては、大量の機材や資材を日本等から搬入する必要があるが、基本的には初期は在来の船舶を主として用い、その後は順次重力エンジンを用いた航空輸送機を使うことを予定している。

 これは、時速600kmの巡航速度により一日強で日本から移動できるもので、積載量は8千トンであるが、何よりのメリットはどこでも着陸できて荷下しができることである。初期の船舶による輸送時には、モザンビークの沿岸に建設されている港から反重力いかだを使うことになっている。



 西田洋二は56歳、日本の農水省からの出向であり、日本には看護士の妻と大学生の子供2人を残している。彼は、農水省では地方事務所の所長であったキャリアであり、いままで灌漑設備を中心とした地方の農業開発の指揮を執ってきたが、無論日本自治区のジンバブエ分区ほどの規模の開発の指揮を執ったことはない。

 部下には、面積としては最も大きい農地整備を担当する木川農地整備課長、道路を含めた都市インフラ関係の清水都市計画課長、空港・鉄道を担当する吉永交通課長、電力・通信を担当する松井電力・通信課長等が配置されている。

 かれらは、現在全員が現地に来ており、現地条件の確認にあたっているが、いずれも今後は日本と現地を往復することになる。これらのメンバーは、公務員出身では到底」まかないきれず、民間出身が多い。


 西田は、最初にこの出向を命じられた時、正直に嬉しいと思った。彼はその時点で1ヵ月前に魔法の処方を受けた結果、知力増強によって自分の頭脳の働きが明らかに増したのを意識していた。

 いつものように様々な書類を読んでも、斜めに読めばきっちり意味を捕らえられ、自分がアクションを取る必要のある事項については、論理的に採るべき手法が努力することなく浮かんでくる。

 さらには、いままでは2時間も仕事に集中すれば疲れを感じたものであるが、今では一日中集中した会議及や書類作成の仕事をしても全く疲れを感じない。


 また、身体能力の強化もそれを味わってみると、もっとそれをかさ上げしたという意欲が芽生え、トレーニングに精を出すようになった。その結果、体が引き締まり基本的な運動能力も上がってそのコンディションは大きく改善されて、いままでより身体的にも精神的にも圧倒的にタフになったと言えるであろう。


 看護師の妻も同じ時期に処方を受けて、同じように身体的には体が引き締まり、しわも目立たなくなって、精神的な活力も増してきた。その結果、長くご無沙汰であった夜の営みも、新婚の頃のように励むようになって、夫婦仲も大きく改善する結果になった。

 このように、いままでの業務のペースでは、時間を持て余すようになってきており、今後の仕事の配分をどうするかという点について、官庁全体の問題になりつつある。


 この点は、実際のところ日本全体の問題になりつつあって、実際に民間企業では業務全体の見直しに入っている。これは、すでに35-40歳以下のものは全て魔法の処方を受けており、彼らについては明らかに能力が向上して、日常の業務の効率はIT機器の発達と合わせて、大きく効率が上がって来ていた。

 しかし、処方に技術的には年齢の制限がなくなった結果、現役で働いている者全てに対して、急ぎ処方を行う施策が始まった。その結果、多くの経験と知識をもって、判断能力という意味でより優れた中高年の知力増強がなされ、彼らの能力が大きく上昇したのだ。

 そのため、若手に処方が行われた以上の効果が発揮され、また一段と日本全体の生産性が向上した結果になった。


 このように活力を増した西田にとって、激務になることがみえているが、かってない規模のプロジェクトでやりがいもある、日本自治区の一つの大きな部分の責任者に任命されたことは大きな喜びであった。

 まずは、現地で相手政府との交渉に並行して、場所がほぼ確定するのに合わせて、ジンバブエ分区の基本構想、基本計画を策定する。さらに、現地の仮設基地の計画を行って、早々に現地に担当者を送り込んで仮設事務所を含めた基地の建設を実施した。

 西田が現地に乗り込んできたときは、まだ現地事務所は2階建てのものが2棟あるのみで、電力もジェネレータによっており、宿泊もべニア板で仕切った部屋であった。


 西田は、今現在ちょうど現地に来ている部下の課長4人と、基地の作業ヤードで重力エンジン機“しらとり01”を待っている。モザンビーク、ジンバブエとマラウイの3か国の概査を終えたハヤトたちの一行が来て、一晩泊まることになっているのだ。

 基地は、初期の木造のものはすでに倉庫になっており、事務所棟などは日本から運んだ立派なプレハブの建物群で構成されている。食堂も、隊員の細君によって運営されており、客用の宿舎も準備されている。

 

 やって来るメンバーは、ハヤトに加え、JOGMCのエンジニア3名と外務省の2人に自衛隊員である“しらとり01”の乗員である。概査そのものには、3か国の研究者それぞれ3名一緒に来ていたが、その終了時に各国に降ろしている。

 概査の結果を踏まえて、詳細調査の対象ヶ所の案はすでに3か国のそれぞれに伝えているので、明後日の詳細調査開始までに、特別な異議がなければその対象を詳細調査することになる。

 詳細調査はモザンビーク、ジンバブエさらにマラウイの順番に行うことになっている。待っている西田とその部下の課長の1人がエンジン音はないが、かすかな風切り音を立てて近づいてくる、翼のない豆粒のような航空機を見つけた。


 最初に音に気がついて、それを目で追って見つけたのだ。翼を取り外した自衛隊の輸送機C1を改造した、“しらとり01”は奇妙な飛行機である。それが風切り音をだんだん小さくして上空まで来て、ぴたりと止まったかと思うと、今度は急速に降りてくる。

 みるみる巨大な機体が迫って来て、砂利敷きの広場にそれぞれタイヤが2輪ついた4本の足で砂利がきしむ音を立てつつ降り立つ。今は乾季なので地面は乾いているが、雨期だったらその車輪がめり込んで大変だと思う西田であった。


 まもなく階段が下りて、5人が下りてくる。西田も有名なハヤトの顔は良く知っているが、ハヤトが先頭で次が外務省の2人にJOGMCの3人であろう。自衛隊のクルーはまだ中に残っているが、今晩は彼らも降りてきて、一緒に食事をすることになっている。


 階段の下で出迎えるが、ハヤトが西田に手を差し出して言う。

「西田さんですか。私はハヤトです。こんな辺境でご苦労様です。せっかくこちらに来ましたので、ご苦労をお聞きしたく参りました」


「いらっしゃい、仮設の基地でたいしたおもてなしは出来ませんが、くつろいでください」

 西田が答え、2人は固く手を握り合う。

 その時ハヤトは持っていた、袋を持ち上げて言う。「少しですが、慰問の品を持ってきましたので、皆さんで召し上がってください」


 その後、順次握手と挨拶が終わり、事務所の会議室で協議が始まる。

「まず、こちらの準備とも絡みますので概査の結果をお知らせします。これをご覧ください」

 JOGMCのエンジニアが、プロジェクターの画面に浮かび上がった3国の地図と、それにさまざまなシンボルの点を示した図を指しながら説明を続ける。


「ご覧のように、ジンバブエとモザンビークは大漁ですね。ジンバブエには石炭と鉄の大鉱床、ニッケル、クロム、錫と銅も規模の大きな鉱床、バナジウム、金、プラチナについても大きな鉱床が見つかりました。

 モザンビークはボーキサイトと鉄は世界最大級の鉱床があります。後は石炭も大鉱床で、また銅も規模が大きいです。さらに、沿岸部に石油と天然ガスの尖閣沖程度の鉱床があるようです。

 マラウイについては、銅とボーキサイトの大きな鉱床がありますが、ここはその程度ですね」


 そのあとにハヤトが続ける。「まだ詳細調査をしていませんので、量までは言えませんが、ジンバブエとモザンビークについては、今後両国の経済状況は大きく改善されるでしょうね」


 その後、その内容に質疑があったが、西田がハヤトに聞く。

「ハヤトさん、私もモザンビークでのハヤトさんと、こちらでは有名なヤフワ・ジェジャートとの闘いのビデオを見ましたが、すごいものですね。普通の速度ではほとんど見えませんのでスロー再生して見させて頂きました。あの後ジェジャート氏とはどうなったのですか?」


「ええ、すっかり意気投合しちゃって、彼も調査が終わったら日本に暫く来ることになりました。彼は格闘技の天才でもありますが、大卒のエンジニアでもあります。日本自治区の建設については全面的に協力してくれるようです」ハヤトがにこやかに答える。


「おお、それは凄い。彼は、この地区では極めて強い影響力がありますから、それは助かります」西田が言う。


 その後自衛隊の3人も含めて、ハヤトを始めとする訪問者は、現場の人々と一夜の楽しい歓談を過ごした。その中で、西田を始めとするエンジニアは、口々にこの巨大プロジェクトに携わることのできる、大きなやりがいを述べるのであった。


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