資源詳細調査とその余波
ハヤトが詳細調査前に、調査対象に共産国と反日国は含まないと言ったことに関して、数か国から猛烈な抗議が政府にあった。しかし、流石に独裁国、不公平が著しいと言った点は、具体的な国名を言わない段階で自ら名乗り出る国はなかった。
ハヤトは面白がって、「じゃあ、自民党本部に来てもらいましょうよ。当事者という数ケ国の方と直接話しましょうよ」そう言って2日後マスコミの前で対決した。
出席したのは内外共に共産国と認めている、中国、ベトナム、ラオス、キューバに加えてロシアである。ロシアについては、自分たちは共産国ではないと考えていたようだが、ハヤトが記者にロシアを共産国として名指ししたので出てきたものだ。
さらに、反日国ということで韓国が出てきた。いずれも大使館の職員であるが、キューバとラオスについては大使自身が出席している。この会には、出席者は2人に限ると通達している。
司会は、自民党の職員が担当しているが、これは日本新世紀会の者の出席はハヤトが断り、一人ではまずかろうということで、自民党がベテラン職員を配置してくれたのだ。
なお、ハヤトは、前回の記者会見で随分思い切ったことを言っているが、これは日本新世紀会の水田に焚きつけられた面もある。彼がハヤトに言ったのはこのような内容であった。
「ハヤトよ。お前は、自分が地球上唯一無二の存在ということを自覚するべきだぞ。お前がわがまま勝手な奴だったら俺もそういうことは言わないが、お前は優しい方で頼まれたら嫌とは言えないタイプだ。
大体、俺たちの会だってお前はそれほど乗り気ではなかったはずだが、結局俺の押しに嫌と言えずに会長に収まったよな?」
「うーん、まあそうかな。今でも会長というのはピンとこないものな」
ハヤトが頭に手をやって答え、水田それを見ながら続けた。
「実のところ、最初に加賀女史がお前に資源探査と言った時は、そんなことができるとは思っていなかったよ。しかしこの前の首相などとの話で、これはとんでもないことを始めたことを実感したぜ。この資源探査は、この世でお前ひとりしかできないよな?」
ハヤトは頷いて答える。「うーん、自衛隊の白井君(現在2佐、自衛隊内で、まもる君の機能が果たせる2名の内の一人)にも試してもらったが無理だったから、まず他にはいないな」
それを聞いて、水田は言葉を続ける。「この資源探査は、結果によっては国々のパワーバランスを簡単に変える可能性があり、さらにその将来をガラリと変える可能性もあるほど重い。
だから、探査の対象国と順番を決めるのは日本にとっては極めて重い話で、80年以上前の戦争後、国際的な力を持ってこなかった我が政府には扱いかねると俺は思う。
だから、お前が決めるというスタンスを取った方がいい。今やほとんどの国の政治に携わる者であれば、お前がすなわち“まもる君”というのはほぼ判っている。
さらに加えてこの資源探査だよ。お前がこの世界でも2人といない特別な人間であることは、皆が知っている。だから、お前が気に入らない国の探査はしないと言っても通っちゃうのだよ。
政府も、ハヤトが言っているから仕方がない、ハヤトには命令できないと言っておけばいいのだから、楽なものだ」
ハヤトはそれを聞いて、顎をさすりながら上を向いて言う。
「うーん。まあ、そうだよな。探査に関しては給料をもらう訳でもないし、遠慮する必要はないよな。ついでだから、偉そうなマスコミや野党にも好きなことを言うか」
「おおそうさ、言え言え。お前を選んだのは選挙民だからな。あいつらから偉そうなことを言われたら、選んだ選挙民、いや国民全体に聞いてみると言えばいいんだ。
最近は5年程前に比べると随分マシにはなったが、まだマスコミと野党には足を引っ張るだけのために質問や意見を言う旧人類が多い。好きなように言い返してやればいいんだ」
水田がさらに焚きつける。
さて、自民党会館の記者会見室での関係国とのやり取りである。
自民党職員の山田氏の開会の言葉に続いてハヤトが言う。
「本日は、私は先日資源探査に当たっての、国と地方に係わる私の考えを表明しました。それに対して、言い分のある国の関係の方に集まって頂いているので、私の真意を説明しようということです。 なお、私の意見は私自身のものであり、日本国政府、自民党、日本新世紀会を代表するものではありません。よろしいですか?」
このハヤトの言葉に対しては、何人かは通訳を通して聞いているが、特に異論はないので言葉を続ける。
「では、ここには5か国の方が来ているのでざっくばらんに言いましょう。まず中国さん、あなたの国は独裁かつ共産国でアウトです。……うるさいよ。怒鳴るのだったら帰りなさい」
怒鳴り始めた中国の2人を、威圧をかけてハヤトが睨む。威圧にビビって黙った2人の中国の大使館員は無視して、ハヤトは続ける。
「さて、次はロシアですな。貴国は共産国でないことにはなっているが、なかば独裁の実態は共産国というのが私の判断です。また、ばれなければどんなルール破りでも平気でやるというのも私の判断で、80年前の戦争の時の強盗と火事場ドロボーはまさにそうです。
おかげで、我が国は多数の捕虜を強制労働に連れていかれ、その多くが亡くなり、いや殺され、我が国の領土の一部は軍事占領されたままです。あなたの国は、そのあたりを改めない限りはアウトです」
ロシアの2人の出席者はハヤトを睨んでいるが、必死に自分を押さえて一人が言い返す。
「い、いや、我が国の大統領、議員も民主的な選挙で選ばれている。共産国ではないし、ルール破りなどはやっていない。いろんな話があるが言いがかりだ」
ハヤトは平静に言う。「ほう。でもこれは私の主観だからね。お宅の国の、特にシベリア辺りには、資源がたくさんあるだろうな。惜しいね。そうだな、北方4島を返すのだったら考えてもいいけどね。さて、今度はベトナムですが、お宅も共産主義で腐敗がひどいよね」
それに対してベトナムの大使が、必死で反論する。
「私どもは確かに共産主義ですが、国が貧しく人々が公平に生きていくには、それ以外のシステムは取れません。また、我が国は他国の脅かしたりはしませんし、我が国にとって貴国、日本は最も重要な友好国です」
「うーん」ハヤトは考えるような顔をして上を向く。
そのハヤトに、自民党本部の山田氏が言葉を添える。
「たしかに、ベトナムは我が国からも進出する企業も多く、最重要な友好国の一つです」
ハヤトは、その言葉にベトナム大使に向き直ってきっぱり言う。
「わかった。確かに、他国に迷惑はかけていないよね。いいでしょう。東南アジアを調べる時一緒にやりましょう」それから、また出席者を見回して言葉を続ける。
「正直言って、ラオスとキューバは良く知らないのですよね。山田さん、どうですか?」
最後は、横の山田を向いて聞くと、彼がさりげなく答える。
「いずれも、失礼ながらまだ貧しいので、そのあたりを助けるためにも私個人としては探査はやってほしいと思いますよ」
それに合わせて、ラオスの大使が必死に言う。「我が国はベトナムよりさらに貧しく、国民皆が食べていくには共産主義以外には選択できません。我が国は、山がちで調査されていない地域も多く、それなりに資源もあると思っております。どうか探査をお願いします」
「うーん、解かりました。ラオスは探査対象に加えましょう。キューバも、少なくとも人々に圧政は敷いてないようだし、いいでしょう」ラオス・キューバ両国の大使館員は喜色を浮かべる。
「さて、最後に残った韓国ですが、言いたいことはありますか?」
ハヤトの言葉に、韓国の大使館員は、自らを押さえてこわばって言う。
「はい、我が国が反日ということはありません。いわゆる慰安婦合意は順守していますし、反日を叫ぶものは一部のものだけです。わが国はご存知のように最近経済が苦境でして、何とか資源を見つけたいと思っております。どうか、探査をお願いします」
ハヤトは、しかし迷う風もなくはっきり言う。「その割に、慰安婦像を撤去したと思ったら、今度は強制労働者像ですか。ソウルの大使館前に立ててね。
まあ、プサンの領事館は閉鎖したから、1カ所だけど。また、謝罪と賠償を求めていますよね。政府もそれに同調しているじゃないですか。私の判断では韓国は反日国で対象外です。以上!」
その模様は、ビデオで撮影されて世界中に出回った。
中国、ロシア及び韓国政府から、日本政府には猛烈な抗議があったが、「我々も、ハヤト氏にお願いしている立場ですから。彼がそのように言う以上強制はできません」いずれの場合もそのように言い返されている。
なお、ロシアについてはこのように付け加えている。「貴国の場合には、条件付きの拒否ですから、条件を飲めばO.Kですよ。良かったではないですか」
ハヤトは3週間かけて、日本周辺の資源探査の詳細調査を終わった。その期間は本会議中であったので、身分があくまで衆議院議員であるため、調査の間を縫って3日に1日くらいは議会に出席している。
しかし、それでも新人の身でさぼりすぎという批判が出ているのは承知しているが、政府側の強い要望もあって必要な手続きを行っており、党としての了解ももらっての話であり、彼自身は問題ないと思っていた。
しかし、野党の新進党、公平党及び共産党は、ハヤトの詳細調査の最終段階の時に、共同記者会見を開いて、ハヤトを非難して、彼に対する喚問を検討しているということを表明した。
「自民党議員である、二宮ハヤト氏の、資源探査と称する調査を優先している行動は国会軽視であり、さらにその調査は、日本を戦争に巻き込む危険性のあるものである。
我々は同僚国会議員の一員として彼の行動を非難する。非難する点はまず、一つは通常国会における出席率が低すぎること、二つ目は彼の調査が我が国を戦争に巻き込む危険性が高いこと、三つめは調査の対象について明らかに相手国を差別していることである」
非難の先頭に立っている、極端に首が短くぎょろ目の枝山新進党国会対策委員長が言う。これに対して、記者から質問が出た。
「しかし、ハヤト氏が今やっている資源探査は極めて効果が高いものであり、我が国にへの貢献が極めて大きいと思いますが、その点はどう考えているのですか?」
「今のところ発表されているのは彼らが概査と言っているもののみで、資源の量はわかりません。商業ベースに乗らないものでも、資源は資源ですから。
もし、それが有為なものであっても、国会議員がやるべきことではありません。やりたければ、お辞めになってやればよろしい」公平党の老年に差し掛かった薮田和江国会対策委員長が言う。
「しかし、そうはいっても探査ができるのは、ハヤト氏しかいないので、政府が頼んでやってもらっているようですが。つまりあなたは、日本のために意義があっても国会を休んでいくようであれば、議員の資格はないという訳ですね?」別の記者が抗議するように言う。
「そうです。人々から選ばれて、国会議員という職務についている以上、それを最優先するのは当然です。それに、二宮議員の行動は明らかに近隣国を挑発しています。
彼が攻撃された結果、戦争になったらどうするのですか」
これに対しては、さらに別の記者が挑発するように言う。
「いや、ハヤト氏一人が出ても出なくても、国会は変わらないと思いますが。心配しなくても国民は国会がそんなに大層なものとは思っていませんから。
それに、調査にかかる前には、随分挑発的なことを言っていた中国も結局黙ってしまって、尖閣諸島のEEZ内の調査の時も何もできなかったですよね」
「なんですって!国会議員を軽視するような貴方の言葉は許せません!」薮田が興奮するが、言った記者は知らん顔だ。
次にそれを横目で見ながら、共産党の西田国会対策委員長が言う。
「二宮議員の言ったことで許せないのは、探査を行うのを国をそのポリシーによって差別をしたことだ。国会議員の職にあるものが、あのような差別をするとは信じられない」
この言葉はインターネットで揶揄されている。「そりゃそうだろうな。共産主義の国がだめと言われたら、共産党の立つ瀬がないものな」
結局、自民党はハヤトの国会喚問など受け入れず、国会の一室でハヤトが野党の質疑に応えることになった。仕切り役として自民党の朽木政調会長が出席して、3つの各野党3人が出席している。
ハヤトの調査は終わっているので、結果の速報が各出席者に配られており、それを見て野党側のテンションは駄々下がりであった。
見つかった資源は石油が北海道沖で1.5億kL、本州周辺で0.7億kL、尖閣周辺で3.5億kLの合計5.7億kLであり、金鉱が岐阜の1080トンを始め合計1500トン余であった。
そのほかにも、値打ちは相対的に低いが、十分以上に商業ベースに乗る鉄、マンガン、石炭が見つかっている。石油と金のみでそれぞれ22兆円、6兆円の値打ちということで、早くも速報がニュースで流れ大騒ぎが始まっている。
まずは、進党の枝山からハヤトに質問があった。
「二宮議員は今回の通常国会の38日の内で僅か15日しか出席しておられない。この点はどうお考えですか?」
ハヤトが答える。「新人でありながら、この出席率は感心したことではないことは承知しています。しかし、国会の様子は調査しながらでもフォローは行っており、議論については承知しています。
また、日本については一昨日で終わりましたが、今後海外の調査を行う必要があり、もっと欠席が増える可能性も高くなります。皆さんは、そうした場合に議員の職を果たせないということで、私の議員辞職を促すと伺いました。
しかし、私に票を投じて頂いた皆さんに伺わないと、私も一存という訳にはいきません。また、そのあたりを考えると海外からの要望は新進党・公平党・共産党の御意志ということで、探査は全て断る、または国会閉会中にのみということで返事をすることも考えています。
再度確認しますが、皆さんは私に辞職を促したいのですね?」
枝山はその言葉にうろたえる。これだけの成果を上げたハヤトの探査を否定することは党としても自殺行為だ。
「い…いや、そういうわけでは。わが党は、二宮議員の調査の重要性に鑑み、出席できるときにしていただければ……」野党の皆は顔を見合わせてこれ以上追及はできないと首を振る。
「しかし、尖閣列島周辺の調査は戦争を招く危険性がありました。その点を我が党は非難します」
公平党の薮田議員がこのように追及するが、ハヤトはあっさり答える。
「では、尖閣周辺で3.5億kL、我が国の10年余(潤滑及び化学材料のみの用途)の使用に耐える鉱脈を中国に渡す、または塩漬けにするのですか?」
「いえ、そ、そうではありません。でも、そもそも平和は尊いものです」
薮田の、へっぴり腰の非難にハヤトは反論する。
「結局、今回中国は手出ししなかったし、もうできませんよ。なぜかというと尖閣を攻め取れる戦力を持たないからです。
結局、ああいう隙あらば攻め取ろうという相手には、それに勝る武力を持つしかないのです」
下を向いた薮田を見て、今度は共産党の西田議員が言う。
「探査する相手を、そのポリシーで差別するのは不公平です。公平にしなさい」
ハヤトは、平静にきっぱり言い返す。「あなたに命令されるいわれはない。この調査は私にしかできません。だから、自分で納得できないことはやりません」それで、議論は終わった。
次の更新は明後日です。




