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ハヤトの資源詳細探査1

 JOGMECは詳細調査を始めるに先立って、概査の結果を発表して詳細調査の概要を説明した。

 無論、記者会見に当たっては、概査の結果の概要を開示していたので大騒ぎになり、内外から大勢の報道陣が押し寄せた。記者には、発見した資源の種類と位置を示した地図が配られたが、資源量の現状の推定値については発表されていない。


「以上の結果ですが、今後1ヵ月ほどかけて資源量を確定していく予定になっています。なお、調査は日本のEEZ内ので行う予定になっています。ご質問があれば、どうぞ」


 JOGMECの広報課の広報官が、概査の説明と今後の予定を簡単に言って質問を募ると、沢山の手があがるが、広報官は見回して一人の日本人記者を指名する。

「はい、所属先を名乗って質問してください」


「はい、M新聞の松崎です。この地図をみると、尖閣諸島からのEEZ内のデータも含まれているようです。この海域は、中国も領有を主張しているようですが、その点はどう考えているのですか?」


「はい、尖閣諸島は日本領で疑いありません。その問題は5年前の小競り合いで決着がついていると思います。さらに、すでに日本政府から、客観的的かつ説得力のある資料が配布されていますので、世界的にも了解が取れていると思っております。

 従って、もちろん尖閣諸島からの90カイリ内は我が国のEEZ内です」


 言い終わらない内に外人記者の一人が怒鳴り始めている。

「そこの人、うるさいので出て行ってください。話ができません。すみません、警備の人はその人に出て行ってもらってください」担当者は平静な顔で言う。


 それを想定して多めに配置していた警備の者が、騒いでいる記者をつまみ出す。しかし、怒鳴っていた記者と2人で来ていた一人が、顔を赤くしているが必死に自分を押さえて手を挙げる。


「はい。そこの人どうぞ」係員が指名する。


「新華社通信の劉です。釣魚島は中国のものです。日本は中国と戦争しようという気ですか?」


「いえ、あなたの言う釣魚島は日本の名前は尖閣諸島ですが、歴史的にも現実的にも日本領です。それが日本政府の公式見解であります。はい、他の人」広報官は相手にしない。


 次に質問した日本のA新聞は相変わらずである。

「他国と、争いになるような行動は慎むべきです」


「これは政府の方針で、われわれ特殊法人としてはその方針に従うのみです。戦争というのは、我々がやっていることに対して武力で邪魔をするならということですが、そんな強盗のような国があるのでしょうか?」

「いや、事実、中国は……」

「はい、それはあなたの意見ですね。次の方」


 などと、やり取りがあった後、イギリスの記者から質問があった。

「この探査というのは、どういう仕組みでやれらているのでしょうか?」報道官が答える。


「はい、多少でもこの分野の技術的なご理解があればおわかりでしょうが、これは機器によるものではなく、魔法によるものです」記者は続いて質問する。


「では、それを実際に実施するのは、ニノミヤ・ハヤト氏ですか?」


「そうです。良くお分かりですね。二宮ハヤト氏が概査も担当され、詳細調査も彼が実施します」

 報道官の答えに、何とも言えない沈黙が降りた。

 すでに、ジャーナリストであればハヤトがすなわち“まもる君”というのは常識の範疇であり、一人で一軍の働きをするハヤトのレジェンドがまた増えたことになる。


 それは、また仮に中国が調査を武力で妨害するということは、5年前の大惨敗を繰り返すことになることがほぼ明らかであるということである。この記者会見で、中国政府も日本が中国の領有の主張を相手にしないことは理解した結果になった。


 翌朝、中国外務省から強い抗議のコメントがあった。

「日本は、中国の固有の領土である、釣魚島を自国領と言い張り、中国の主権を無視して開発行為を行おうとしている。我が国は、この日本の行為は断固として許すわけにはいかない。もし調査を強行するなら戦争も覚悟すべきである」


 これに対しては、A新聞を始め日本の左巻きの論者が即時に「戦争は、断固として避けなければならない!」と大騒ぎし始めたが、早々にアメリカ政府の報道官からのコメントが出た。


「日本名センカク島については、日本政府の発表している領有の根拠は、客観的で説得力のあるものである。一方で中国の論は説得力がなく、同海域で石油資源の可能性が示された後に、領有の主張を始めたことは明らかである。

 この中国の論はこの海域のみならず、他でも多くみられる点である。しかしそうした時、中国政府は常に武力を背景に相手を威嚇するが、かれらにとって不幸なことに、日本は同じ海域で大惨敗を喫した相手であることである。

 中国が5年前と同じ行動をするなら、ほぼ確実に同じ結果になり、5年で相当に回復してきた彼らの戦力をすりつぶすことになるであろう。これは、我が国の軍の一致した意見である。

 我が国は、介入は無論しないが、再び中国の指導者の誤った決断のために多くの若者の生命が失われないことを望みたい」

 完全におちょくっているコメントであるが、また完全に正しい評価でもある。


 ちなみに、中国はスペード大統領の時代に、アメリカと協定を結び、両者の貿易収支はほぼ均衡するようになっている。アメリカも中国の安い商品なしには成り立たなくなっており、中国もまたアメリカの食料なしには自国民を食わしていけなくなっている。


 しかし、近年では日本がとりわけそうであるが、AIの発達で自動化が進んで、人間の働く部分がどんどん減ってきている。そういう意味では、現在は、中国がその世界の工場の地位を失いつつある過程であるということもできる。

 この点は、世界においていわゆる途上国が、その安い人件費を武器に、世界中から工場を集めるというモデルが、成り立たなくなってきているということを意味している。これを原因として、近い将来における南北問題が激化することは確実とみられている。


 日本政府は、大泉官房長官から夕刻の記者会見でこの件が述べられた。

「JOGMECの調査については、すでに皆さんも内容は御承知でありますが、日本の領内においてこれだけの資源が発見されるということは、政府にとっても嬉しい驚きでありました。

 資源がないということが、長く日本の代名詞のごとく言われてきたのですが、すでに採取がされて石油にとって変わりつつあるメタンハイドレートに加え、北と南の大油田、さらにとりわけ金鉱は国民の皆さんにも明るい希望を持たせるものであろうと思います。


 なお、今回たまたま最大の石油資源が尖閣諸島のEEZ内で見つかりました。この領有については、5年前に隣国との間で小競り合いがあり、その結果をもって決着がついたものと考えています。

 従いまして、わが政府としては中国政府のコメントに対し、外交ルートから強い抗議を表明し、すでに文書も送っております。なお、仮に彼らが今回の調査ミッションについて、武力を用いた妨害をするなら、これは完全に我が国の防衛の範囲になります。


 また、今回の調査は、衆議院議員である二宮ハヤト氏が主たる役割を担います。JOGMECのこの資源探査は、彼無しには成り立たず、まさに彼は我が国のみならず世界の宝であります。

 この点は、すでに調査しつくされていたと考えられていた日本及びその近海ですら、これだけの資源が見つかったのです。この調査を世界に広げたらどうなるか、ひょっとしたら世界の資源のひっ迫は解消されるかもしれないのです。

 その点から、彼に万が一のことがあってはならないということから、当然自衛隊の護衛を付けますし、使う機体は生存性の高い自衛隊機を使います」


 大泉の話に、世界における資源調査の話が出てきて会場は一気にヒートアップした。一斉に手が上がった中で、大泉はあえて金髪の記者を指名した。


「NTのジェシー・ローマンです。今、世界における資源探査というお話がありましたが、日本政府は外国へも資源探査を実施する予定でなのでしょうか?また、その場合は具体的にはどのような計画で行われるのですか?」


「はい、我が国も世界における資源のひっ迫は懸念しており、ハヤト氏にお願いして、徐々に探査を進めていくことを考えています。しかし、実際にどうするかについて、今のところ決まっているのは、我が国の友好国になった北朝鮮と、食料生産の自治区を設けさせていただく予定の、モザンビークとジンバブエの3か国です」

 大泉が答えると、初めて知ったモザンビークとジンバブエの大使館員が躍り上がって喜んでいる。彼らは、この記者会見に出席するように日本の外務省から勧められていたのだ。


 大泉は次いで別の記者を指名する。「朝鮮新報の〇〇です。北朝鮮が入っているのに韓国が入らないのはなぜですか」大泉が答える。


「北朝鮮は未だ世界の最貧国であり、また未発見の資源が相当あることは確実です。資源の発見は、北朝鮮の人々の貧困からの脱却に大きく貢献するのみならず、地理的に近い我が国にも大きなメリットがあります。韓国についてはハヤト氏の構想には全く入っていないようです。これは近年の貴国のマスコミの論調からすれば、私も判るような気がします」


 その記者は何やらわめき始めたので、警備員につまみ出されている。さらに、日本の記者から、中国が攻撃してきた場合には受けて立つのかという質問があったが、それに対して大泉はこう答えている。

「先ほども申し上げたように、ハヤト氏の安全を保つために万が一攻撃を受けたら当然反撃します。しかし、ハヤト氏を攻撃することは世界の将来に向けて攻撃するのと同じことですから、普通に考えたらできないのではないでしょうか。私はそう考えます」


 また、他国の調査に関してはどのような優先順位で考えているのか、という質問に対してはこう答えている。

「基本的には、我が国の国益が第一になりますが、一定のハヤト氏なりの基準があるようなのでここでは申しません。直接お聞きになってはいかがでしょうか。

 なお、この探査は、全くハヤト氏の好意で実施して頂いているものでありまして、場所を選ぶについては彼の同意なしにはできません」


 加えて、ハヤトの探査の報酬についての質問にも答えている。

「ハヤト氏は今は国会議員でありますが、探査は全くその責務には入っておりません。従って、政府として相当と考える報酬を提示しましたが、彼はすでに相当な財産と収入をお持ちであり、結局、調査中の経費を全て政府なり、JOGMECが持つということになっています」


 この記者会見の結果は、たちまち世界に流れた。当然、名指しで次の探査の対象に選ばれた、北朝鮮とモザンビークとジンバブエは大喜びであり、3か国とも政府としての感謝のコメントを出している。

 日本に土地を譲渡して自治区を作らせることに関して、経済的な苦境にあったジンバブエは当初から歓迎ムードであった。しかし、独自の経済ベースを作りつつあったモザンビークはそれなりに反対派もいた。だが、日本において発見された資源と、それと同じレベルで資源探査をやってもらえるということで、反対論は完全に消え去った。


 当然、各国から日本政府に探査の依頼が殺到したが、政府の答えは皆同じであった。

「政府としては国益を一番に考えて選定しますが、最終的に決めるのはハヤト氏です」


 内外の記者からの問い合わせがあまりうるさいので、しょうがなくハヤトは自民党会館で日本新世紀会として記者会見を開いた。出席者は幹事長の水田とハヤトのみである。

「では、今日はハヤト氏の資源探査についての会見ということで、まず日本新世紀会として、資源探査に関する説明を簡単にして、その後時間は概ね1時間ということで質疑を受けます」


 水田がそのように口火を切り、会の政策の一つとして資源探査があり、それに沿って今調査が行われていることが説明された。

「さて、それでは質疑を受けますが、大きい声を出したり騒ぐような人はすぐに出てもらいます。すでに、質問者は決めて頂きましたが、その順でお願いしましょう」


 水田は、あらかじめ記者には質問順を決めさせていたのだ。最初の質問者は日本の記者だ。

「M新聞の〇〇です。探査はハヤトさんがされるそうですが、他にできる方はいないのかという点が一つ、あとは具体的にはどのような概査と詳細調査を実施されるのかをお聞きしたい」


 これに対してハヤトが答える。「今のところ、地域を限定すれば資源探査ができる者は、知っている限り3人いますが、多分できる範囲は概査までだと思います。私の場合の概査の方法は、日本列島を縦断する3本の線に沿ってジェット機で飛ぶことで資源を感知します。感知は例えば金であれば、その感触をあらかじめ覚えておけば、大体地下1000mくらいまではその存在をキャッチできます。詳細調査は、その調べた資源の周辺に行ってマップに3次元でその鉱脈の図を描きます」


 M新聞の記者からは続いて、資源の量はどのようにしているかという質問があった。

「石油や天然ガスであれば、図を描ければ量は計算できますが、金属等は1㎏くらいのインゴットを用意しておいて、それと鉱石の量を比べることで鉱石の含有率を知ることができます」

 ハヤトの答えである。


 記者たちが最も知りたかった質問は、アメリカの記者から出た。

「ハヤトさんが、調査のキャスティングボードを握っているようですが、あなたはどういう基準で探査の順番を考えていますか?」ハヤトは平静に答える。


「まず、日本、次は北朝鮮、さらにモザンビークとジンバブエ、後は政府が決める順に基本的にやっていきます。しかし、国または地域については私が拒否権を持っています。

 その対象は、どちらかというと私の好みですね。独裁国、不公平が著しい国、共産国、それと反日の国です。逆に親日国の台湾は多分4番目になると思いますし、尖閣の石油開発は共同でやってはどうかと政府に提案しています」ハヤトの話にどっと会場は湧いた。


次回更新は明後日です

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