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ハヤトの資源探査

 ハヤトは資源探査を行っている。

 JOGMEC(独立行政法人石油天然ガス・金属鉱物資源機構)という、長たらしい名前の組織の職員が2人一緒である。日本新世紀会の加賀沙代里がハヤトに資源探査を薦めたのであるが、彼女がJOGMECの理事長を紹介したのだ。

 以前、ハヤトが閣議で見せた資源のマップは、理事長の命令で、JOGMECと共に関東近辺の調査を行って作成したものだ。


 加賀議員も立ち会って、JOGMECの事務所で理事長以下5名の職員と、日本全土の資源調査について話をしたものだ。

「いや、ハヤトさんのこの結果は素晴らしいです。地域として限定的とは言え、最も調査が進んでいる関東周辺で、商業的に開発可能な3ヶ所の資源が見つかるとは信じられない結果です。

 同じことを、日本全体についてやって頂けるとは本当にありがたいことです。では、霧島君、調整した調査予定について話を聞かせて下さい」


 理事長の野村はそう言って、今後の調査について部下の資源探査課の霧島課長に説明を促す。

「はい、前回の調査でご一緒した結果、ハヤトさんの能力が半径100kmの範囲で鉱脈の在りかを感じ取れ、その10㎞内外の周辺に行けば、鉱脈の詳細な立体図を描けるということが解りました。

 従って、まずは日本列島の中心を、北海道の北の海の排他的経済水域(EEZ)から尖閣列島のEEZまで飛びます。

 さらに、ある程度重なりを持って、その中心線から150kmの間隔で中心線に平行に日本上空を縦断してもらいます。加えて、東京から小笠原諸島上を硫黄島まで飛びます。

 列島縦断の距離が約3千km、硫黄島までが約1千5百㎞ですが、これはビジネスジェットで飛んでもらい、鉱脈のターゲットを特定してもらいます。その結果を整理して、大きめの鉱脈について特定した点にヘリで近づき、鉱脈の立体図を作ってもらいます」


 霧島課長は説明を一旦切って、彼はハヤトが頷くのを確認して続ける。

「スタートは来週の月曜日から、各線を平均1日で飛び、連続4日でこの概査を終わる予定です。その後、その結果の整理と詳細調査計画に翌週一杯を見て、翌々週から計画に基づいた詳細調査にかかりたいと思います。概ねすでにお話ししたように、そういう予定ですが、そういうことでよろしいでしょうか?」


「はい、いいですよ。じゃそういう予定ということですね。それでいきましょう」

 ハヤトは答え、次いで聞く。

「皆さんの機構で、衛星からリモートセンシングで資源探査をやっていますよね。またさまざまな精密探査もやられているようですが、私の魔力で探る方法とどのように違うのですか?」


 霧島は、これに対してすこし歯切れが悪く答える。

「ええ、衛星からのリモートセンシングは非常に広い範囲で使えます。しかし、探査できるのは地表面のみですから、地表はまずくまなく探されている日本の場合には、新たな発見の見込みはほとんどありません。

 ほかには、既存の鉱脈と似通った地層の場所に、鉱脈があると見当をつけて調べる方法ですね。はっきり言って、全て地中に埋まっている鉱脈を調べるのは運任せのところがあります。

 また、そのような方法で場所が特定できれば、精密に調査は出来ますが、調査できる範囲が狭いので結局のところ精密に鉱脈の形が判るところまではなかなかいきません」

 

 そう言って、霧島はハヤトの顔を見て続けている。

「ハヤトさんの探査能力は、私どもから言えばまさに反則です。何しろ、さまざまな金属や石油・天然ガスなどを、感覚によって峻別して半径100kmで地下数百mの深さまで感知できます。

 これがまず素晴らしい。さらに、10㎞の距離は決して近くはないですが、その程度にまで行けば、その鉱脈の形まで描くことができるわけですから、鉱山を開発するものにとっては非常にありがたい調査結果になります。

 何しろ、まったく露頭がない鉱山を見つけることができるので、多分最初の概査のみでも、私どもが100年かかっても得られない結果が伴うことは確実です」

 やや、霧島の表情は恨みがましく言う。


「いやいや、今回のハヤトさんの協力は大変ありがたいのです。実際のところ、私どもの機構は会社組織でありまして、その活動、すなわち資源の発見によって、その権利を民間企業に売って活動の経費を出さなくていけないのです。

 しかし、なかなか成果が出ていなくて苦しいところではあったのです。そういう意味では、加賀議員のお話から、ハヤトさんをご紹介頂いた時は夢かと思いました。本当に御協力には感謝しています」


 野村理事長が、霧島の言葉を打ち消すように慌てて言う。霧島のそれを聞いて、はっと気が付きバツが悪そうに捕捉する。

「ああ、すみません。つい、いままでの苦労を思いましてすこし愚痴っぽくなりました。私も、ハヤトさんと一緒に調査に行かせてもらいますが、本当のに結果が楽しみです。私どもなりには当りを付けた地点と資源もありますが、それが正しいのかという点を確認できますから」



 そのような理事長への説明の後、ハヤトは資源探査課の霧島課長とベテランの村田専門官と共に、調布空港からリースのビジネスジェットに乗って調査を始める。

 速度は700km/時であり、東京から飛んだ関係もあり、重なる区間も多いこともあって約1万7千km飛んだことになったが、予定通りに4日で概査は終わった。


 調査は、7人乗りのジェット機の中で、ハヤトは正面にある小さな机の上にコンピュータを置いている。コンピュータの画面には、日本列島が映し出されており、ハヤトは画面上の地図と実際の地形を重ねながら、資源を感じる都度それを表すシンボルを魔力によって図上に記していく。


 場所は北海道沖のEEZ付近である。

「これは、石油ですね。上部はガスがありそう。結構規模は大きい、ほぼ真上なので3次元で形状を表します」ハヤトは口に出して言いながら画面を切り替えて、3次元の図をコンピュータ上に魔力で描きながら説明する。


 図には100mごとのスケール線は入っているので寸法が判る。「ええと、ここまでは液体で、ここまでは気体です」それに専門官の村田が聞く。


「ハヤトさんは、石油とガスの違いが判るのですか?」


「うん、いや。物質としては同じに感じるのだけど、密度が違う感覚です」ハヤトは目をさまよわせながら答える。

 それを横目に、コンピュータ上でハヤトの入力をモニターしている霧島が、CAD機能で容積を計算して、思わず言う。

「液体分のみで2億㎥、気体部が3千万㎥程度だ!すごい。これは完全な新発見だ」こうして、ハヤトと2人の専門家は、最初の日は旭川で降りて給油し、さらに調布に戻り給油と一泊した。調査では、このようにビジネスジェットの航続距離が2300km余なので、適宜給油と宿泊を繰り返したのだ。


 木曜夕刻、最後の硫黄島までのコースから、帰ってきたビジネスジェットは調布に帰りついた。「ハヤトさん、ご苦労様でした。本当にありがとうございました」

 興奮した顔でハヤトに礼を言う、霧島と村田であるが、やれやれと家に帰るハヤトと違って、呼んでいた車でJOGMECに帰る。


 午後7時、調査課の課員は全員の10人が残っている。霧島が自分のコンピュータからデータを課のサーバーに落とすと、4人がそのデータを開き、残りは後ろで見ている。

「おお、これは凄い」

「すげえ!」

「これは石油か!」

「これは金じゃん」


 口々に言う皆に霧島が指示を出す。

「では、機内から指示したように、図を整えて表の取りまとめを頼む」

 霧島は機内から作業方法は指示済みであったが、データは当然無線では飛ばせない。全員が知力増強を終わったメンバーがかかることで作業はあっという間に終わり、霧島は21時過ぎには帰宅することができた。

 5日ぶりに家に帰り、風呂に入り、妻からビールを注がれた霧島は、食事もそこそこにあっという間に寝てしまった。妻の亜美にとっては、今晩の夫の満足そうな顔は初めてと言っていいくらいのもので、『調査は、よほどうまくいったのね』と彼女も満足だった。



 調査から帰還の翌日の週末金曜日朝10時、霧島は、押さえてはいるが、興奮のあまり色白の顔を赤らめ鼻を膨らませて、会議室で野村理事長を始めとした幹部に、概査の結果を報告している。


「すごい結果ですよ、皆さん。まだまだ、日本には資源が眠っていました。それと、意外に我々が当りを付けた地点と重なっていました」

 と前置きした後、100インチのスクリーンに映したマップを見せる。それは日本列島を示したもので、飛行コースの線、さらに数種のシンボルの点が散在して、そのシンボルの凡例が示されている。


「このマップのシンボルに大小がありますが、これはハヤト氏が資源の規模が大きいと感じた地点です。それで、資源があると感知した点は全部で111ヶ所、大きいものだけでも上げると23ヶ所あります。

 お手元にも資料がありますが、まず北海道北部沖及び北西部沖の石油・天然ガス(①、②)、北海道の銅(③)金・銀(④)、鉄・マンガン(⑤)、石炭(⑥)秋田沖の石油・天然ガス(⑦)、岩手と秋田の銅(⑧)、岩手の鉄(⑨)、山形の金(⑩)、福島の金(⑪)、福島沖の石炭(⑫)、新潟の鉄・マンガン(⑬)、佐渡沖の金(⑭)、能登半島沖の石油(⑮)、岐阜の金(⑯)、静岡沖の石油・天然ガス(⑰)岡山のウラニウム(⑱)、高知の銅(⑲)、五島列島沖の石油・天然ガス(⑳)、熊本の金(㉑)、沖縄沖の石油(㉒)尖閣列島沖の石油・天然ガス(㉓)などです」


「ふーん、あるね。多いよ。しかし、関東地方で前に調べた地点は大きい規模には入っていないな?」調査部長の小笠原が、じっくりマップを見て聞くのに、霧島が答える。


「あれは、規模が小さいので大規模には入っていません」


「なに、資源量20トンと推定される金山も入っていないのか?」今度は野村理事長が驚いて聞く。


「はい、たまたま、⑪番の福島の金について、真上を飛んだので鉱脈の図が描けたのですが、資源量が100トンくらいはあります。それで、ハヤト氏の感覚では⑯の岐阜の金が断トツに大きいそうで、⑪番の10倍以上あるのではないかと……」


この霧島の答えに聞いていた皆が驚くが、野村理事長がせき込んでさらに聞く。

「なに!10倍以上?1000トン以上の資源量か?」


 霧島はそれに対して、顔を紅潮させて答える。

「確かに、我が国では飛びぬけて大きいです。資源量1000トンとして、トン当たり今の相場が40億円ですから製品として4兆円です。深さも300m〜1200mですからそんなに深くはないので、岐阜の一大産業になるでしょう。

 それだけではありません。石油・天然ガス資源が多い点です。とりわけ、日本の北端と南端のものが大きいようで、北端の北海道北の沖のものは概略調べましたが、多分2億k㍑くらいはあり、南端に至っては、同じくらいのものがいくつも散在しているようです」


「あちゃー、北はロシア、南は中国ともめる種か」小笠原部長が自分の額を叩いて言うが、野村理事長がそれを横目に続けて言う。


「うーん、まあ我々は、資源の量と在りかを淡々と調べるのみだ。ハヤト氏も、それほどは拘束できないだろうから、大物だけ鉱脈の3次元図を作ってくれ。北と南の調査は政府と相談してみる。ちなみに、北と南も調査に制限がないとして、どのくらいの期間が必要かね?」


「詳しくは来週に調査計画を作りますが、今の見込みだと1ヵ月は必要でしょう」霧島が答える。


 会議が終わった後、霧島は野村に呼ばれ尋ねられる。

「さて、霧島君ご苦労だったね。私は今から西野経産大臣に報告するのだけど、4日間の調査の中でのハヤト氏及び調査について君の印象を聞いておきたいのだよ。むろん、二宮ハヤトという人物が、本物の魔法使いということは私も承知している。一緒に仕事をしていてどうだったかね」


「そうですね。私も彼の本は読みましたし、私なりの先入観はあったのですが、本から受けた感じに非常に近かったです。それは真っすぐでぶれないということ、また欲がない人ですね。言ってみれは、彼の能力は知られている限り、地球上の誰も持っておらず、値段のつけようがないレベルの価値のあるものです。

 多分、彼が地球をくまなく調べれば、地球上の使える資源は倍増する可能性があります。でも、彼は我々に協力して別に報酬を求めようともしていません。ちゃんと必要なことをわきまえて一緒に働いてくれますし、魔法も技術もよく理解していますから仕事が効率的です。その上に体力・気力とも高く少々の事ではへこたれないと思います。


 しかし、ちょっと、政府にとっては、彼の協力を全面的に得るのはそう簡単ではないと思います。ちらっとでしたが、彼は『自らの心のままに動く』と言っていました。政府は今後、彼を政策に都合よくいわば他国へ貸し出したいと言い出す可能性があります。

 でも、彼は場合によっては断るでしょうね。そして、政府にはそれを強制すべき方法がありません。理事長もそうお思いだと信じていますが、彼こそがまもる君ですよね」


 霧島は言葉を切って、野村を見て頷くのを確認して続ける。

「彼を怒らすわけにはいきません。危なくて肉親を人質にとったりは出来ないでしょう。外国、特に中国などは彼を抹殺したいと願っていると思いますよ。しかし、それは危ないのです。尖閣沖の戦いで彼ともう一人だと思いますが、実質2人であれだけの戦力を消し去ったのです。

 しかし、今回の例に見るように彼は極めて有用なのです。結局、基本的には善良な彼の意に添うように国と世界が動くしかないと思います。

 諸外国も彼のことは気づいているでしょうから、『彼の意向だ』と言えばいいのです」

 

 野村は霧島をしばらく見つめて「そうだな。そのように報告しておこう」と言った。


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