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重力操作及び新動力システムの開発1

間に合いましたので、続けてアップします。

 結局、新世紀日本会の政策のなかで、重力操作の技術の応用については閣僚の積極的な同意があり、早急な実用化を目指して、新技術開発プロジェクトが急きょ立ち上げられた。

 リーダーは、京大の工学部生産工学科教授の仁科博士であり、彼は民間企業で様々な指揮してきた経験をもつ技術開発のエキスパートである。重力操作の理論を確立したのは、同じく京大の物理学科の2人の若手准教授であった。


 その論文の価値を認めた彼らを指導する立場にあった物理学科の教授が、仁科に早期の実用化を目指して相談した結果、大学の若手研究者が大挙して集まった。皆、世紀の発明であることは認識していたのだ。

 その周知を集めた結果、僅か2年足らずでベンチレベルの試験の成功を経て、重力エンジン車の開発に成功している。現状では、そのプロトタイプの車両は、普通車のセダン程度の大きさで地上30cmほど浮き上がり、時速100km程度までの走行が可能であり、まずまずの実用段階にある。

 しかし、バッテリーの容量の限界で走行距離は100km足らずである。従って、画期的な原理に基づいてのものではあるが、むしろ既存の自動車より能力が低いという結果になっている。

 

 重力操作(力場)技術の開発としては、ベンチレベルの試験機を中高年の人々の魔法の処方に用いるように製品化することが一つの重要なテーマである。

 しかし、これはすでに開発済の技術の改良でことが足りるので、早期完成を迫られていることもあって、製品化としては3ヵ月後の完成をターゲットにしている。


 さらに、現在完成しているプロトタイプの車両から、飛行できる車両、重力操作による旅客及び貨物飛行機、さらに戦闘機、及び宇宙船まで進化させることが最大のテーマであった。

 しかし、このためには重力操作の出力を大幅に上げることが必要であり、そのため電力を力場に変換する高出力コンバータの開発がまず大きなターゲットである。

 さらに、なにより求められるのはコンパクトかつ高出力の電源である。


 開発は4グループに分けられた。

 第1グループは、中高年への処方を通常の魔法処方士によって行えるための補助装置を開発することである。これは、M器官への魔力による働きかけを邪魔する膜を、処方の邪魔にならないように、一時的に力場によって操作する装置“処方補助器”を開発するものである。

 この処方補助器と処方士の組み合わせで中高年の人の処方を行うことになるが、この補助器無しでは、処方が行える能力、探査及び念動力の3つの能力を持つ者しか、中高年の人々の処方はできないのだ。この開発責任者は東大の只野博士であり、そのグループには京大の重力操作装置を開発したメンバー、さらに医者等も含まれている。


 第2グループは、重力操作のコンバータの出力アップを目指すグループであり、リーダーは全体のリーダーである仁科が兼務している。さらに、理論を確立した2准教授と他大学から多数の研究者、加えて機械部分の開発のために多くの民間エンジニアが加わって最大のグループになっている。


 さらに、第3グループは発電機システムの開発グループであり、現在建設中の核融合発電設備の理論とシステムを開発した大阪大と東北大から、核融合発電システム開発の実質的な指揮をとった大阪大の八木博士がリーダーについている。

 しかし、数百万kWの規模にしか適用できない、巨大システムである建設中の核融合発電機を、移動する航空機等に納めるのは困難だろうと懸念されている。


 第4グループは、電源としての高効率バッテリーの開発グループである。これについては、いわゆる電子の缶詰としての、バッテリーとするための励起の理論解析が九大で行われ、実装置化の進行中ということで、そのリーダーである矢島博士が横滑りでリーダーになっている。



 これらの研究開発のためには、関連する官庁、大学、民間の研究者及びエンジニアが総計156名招集され、博士号を持つ者だけで82名が加わっている。

 これに加えて、アメリカ合衆国から大統領と日本国首相の篠山の約束に基づいて、全て魔法の処方を受けたアメリカ人の研究者の35名が来日して各研究グループに加わっている。その他にもこれらの開発の補助をする助手の立場の者がほぼ同人数、さらに庶務的な役割の者もおり、総員で500人の大部隊になっている。


 プロジェクトの実施の場所は、未だに震災の傷跡が生々しく残っている関東地方を避けることになった。そこで、比較的被害の軽かった名古屋市の緑区に建設されている、新技術開発研究所の新設の施設を使っている。

 ここは、元々全国から研究者を集める予定であり、構内に宿泊施設も整っており非常に都合の良い施設である。さらには、震災の騒ぎもあって、施設の建設は先行したが、実際の運用は1年程遅れる見込みであったため、ちょうど良いということで使われることになったものだ。


 なお、これらのグループには、その年齢のために、魔法の処方を受けていない者も20%ほど混じっていたが、必要な能力を持つハヤトの妹のさつきにより、全員が急遽処方を受けている。

 予算については、とりあえず政府の予備費から日々必要な費用は支出し、最終的には補正予算として組むことになっている。

 当面の暫定的な予算として、250億円が割り当てられているが、実施設の技術が完成した場合には、建設に当たっては別途予算を組むことになっている。なお、研究の経費については日本とアメリカが2:1の割合で支出することで合意しており、開発した技術の権利も同じ割合で持つことになっている。


 全員が、従来であれば天才級の研究者とエンジニアで構成された各グループは、驚異的な速度で様々な障害を打ち破り、ほぼ毎週のレベルで画期的なブレークスルーを成し遂げていった。

 とりわけ有効であったのは、中高年の研究者・エンジニアの長い経験を有効に使って、増強された知力による判断を加えての様々な提言であった。

 

 こうした研究開発の結果、当初予想された通り、第1グループの研究の進行が最も早く、わずか1ケ月後にはプロトタイプの装置が完成した。完成後、直ちに超音波による映像の監視のもとに、M器官の膜の操作の試験が行われて、所期の能力が発揮できることが確認され、その状態で処方士による処方が行えることも確認できた。

 その確認は、医療関係者によっても行われ、文科省、厚労省の同意のもとにシステムの最終化が行われ、開発開始後2ヵ月後には1万セットの量産に入った。


 以下は、その開発初期の第1グループ主要メンバーによるミーティングである。

「ええと、必要なシステムはそのブロックチャートにあるように、まず被処方者の頭を動かないように拘束する椅子と頭の拘束設備です。

 それから、モニタリングのためにM器官を映し出す透視システム、それとその透視システムで監視しながらM器官の前面に発達している膜をめくる力場装置ということですね」


 リーダーの只野博士が皆の理解を確認するように、見回しながらプロジェクターの図を指しながら説明する。アメリカ人も混じっているので、言葉は英語である。皆内容は十分理解していて、特に質問も出ないので、只野は続ける。


「固定装置は、この〇〇製作所のものでいいでしょう。高さは自由に変えられるし、頭の固定は圧力センサーの設定によって安全に自動でできます。どうですか?」

 これも特に異論は出ないので、只野はさらに続ける。


「さて、次は、頭の中の透視する方法としてレントゲンは放射線の問題でオミットするとして、MRIになりますね。超音波は残念ながら頭蓋骨の中は探れません。ただ、MRIは結構大げさな装置になりますので、簡易版を作りました。それほど像はクリヤーではありませんが、目的には十分です」


 只野は簡易版のMRI探査器による映像を見せたが、十分クリヤーでこれも異論はないので最後に言う。「では、最後の肝心な重力波による力場装置ですよね。これは、人間の脳内に力をかけるということから、万が一ということもあってはならないということを頭に置いて頂いて、岸村さんに説明をお願いします」


 細身で小柄な京大の岸村が、只野に代わってプロジェクターの前に座って、装置の写真を写してから挨拶のしるしに、小さく頭を下げてから話し始める。

「岸村です。これがベンチテストに使った装置です。あまり大きさには気を使っていませんので、ちょっと大きいですが、一辺30cmの箱程度には収まるように小さくなります。

 これは、発生する力の強さ、また力の及ぶ範囲を限定するのは可能で、この開発の話を聞いてから、どの程度の精度で操作できるか確かめてみました。

 その結果、今の装置では力の強さは最大5kgから0㎏まで連続的かつデリケートに調整可能ですが、力の及ぶ位置としては5cmの範囲でしか絞れません。従って、M器官そのものが3cm位の楕円体ですから、必要な精度は出ていないと思いますが、どうでしょう?」


 リーダーの只野は、それを聞いて首をかしげながら答える。

「そうですね。すこし力の制御の範囲と精度が少し荒いですね。せめて2cmの精度は欲しいと思います」


「そうでしょうね。いや、幸いやり方はわかっているので、その程度か、もう少し精度は高められるでしょう。1週間ほど時間を下さい」岸村が応じてその日のミーティングが終わる。


 岸村は、5日後にメンバーを試験室に呼ぶ。

 そこには、試験台の上に置いた50cm×50cmほどの鋼製の台に、不細工な様々な機器を取り付けた装置をおいてある。


「さて、皆さん。この装置で必要な精度は得られたと思います。今からその実証試験をやってみましょう」そう言って岸村は装置を指さし、さらに机の上の1mほど先においた小さな円筒を指さして言う。


「あの円筒には幅2cm、長さ4cmで厚さ1mmの軟質ゴムの膜を貼り付けています。M器官とその膜を真似たものです。あの膜をまくり上げてみます」

 そう言って、装置を微妙にコントロールし始める。


 最初に膜が震え、次に下端がずり上がり中間が膨らむが、やがて下端が前面におしだされてきて膜がまくれ上がる。

「おお!綺麗にまくれた」見ていたメンバーから拍手が巻き起こる。


「うん!これだったら十分でしょう。ありがとうございます」只野が岸村に握手を求める。


「いや、認めて頂いてありがとうございます。これから、製品らしく装置化するわけですが、メーカーのエンジニアさんの出番です。よろしくお願いします」

 岸村が只野と握手をして、皆の方を向いて話しかける。


 その後、医療機器メーカーのエンジニアが中心になって、たたき台のCAD図を作成した。それをもとに、グループ全体で何度も細部を見直して、ケースと部品を設計し、一部は内作し、一部は外部に発注して、塗装もしていない状態で組みあがったのが開発を始めて1ヶ月後だったのだ。



 むろん他のグループは第1グループのように順調にはいかなかった。

 それでも、第2グループは、すでにできている電力から重力波のコンバータの大出力化ということであったので、すぐに原理を理解した優秀なメンバーから様々なアイデアが出された。それらのアイデアを整理分類して、効果・実現性などを評価した結果、3つの対策に絞られた。


 さらに、それぞれの対策について、実験装置を組み立て試験した結果、2つについては明らかで大きな効果が認められた。

 加えて、アメリカからの研究者により、装置を組み込んだ機体を、力場による膜で覆うことで、空気抵抗を減少させるという方法が提案された。この方法について試作実験した結果、空気抵抗の大幅な減少がみられ、大幅な速度上昇が見込まれた。


 これらの周知を集めた改良の結果、戦闘機程度の大きさで十分な動力が得られれば、マッハ5程度までの速度が得られ、現状の旅客航空機程度であれば、マッハ2程度の速度を出すことが可能である。さらに、貨物船の代替として、1万トン程度の航空貨物機で、現状の旅客航空機程度の速度が出せるところまで改善された。しかし、これらは十分な動力があってのことである。


 核融合発電機の小型化は難航した。

 現状建設中の核融合発電機は、炉の中でトリチウム(3重水素)をプラズマ状態にして、核融合反応を起こすものである。これは、炉の中心で2千万度の温度を保つ必要上から、炉は巨大にならざるを得ない上に、この超高温で蒸気を作りだして、タービンを回して発電するためシステムは複雑で巨大なものとなる。


 この開発された方式の画期的な点は2つある。一つ目は、核融合反応の理論の確立によって、水素をトリチウムに変換するシステムを組みこんでいる点にある。この結果、普通の水素をいわば燃料にすることができるのだ。

 さらに2つ目は、1億度と言われていた、必要なプラズマ温度を低く抑えても核融合反応を起こすことができる点にある。


 それでも、5百万kWの出力の建設中の設備は発電機本体のみで200m四方の面積を占める。さらに、初期の連鎖反応を起こすには百万kWの電力が必要になるなど、周辺の電源設備、発電した電力の送電設備などが概ね本体と同じ面積になっている。

 その建設費も膨大で、約7千億円の予算になっているが、出力110万kWで3千億円と言われる従来原発に比べれば、この場合の5百万kWの出力を考えると大幅に建設費は低い。


 この場合の小型化の解決策は、意外なところにあった。

 第4グループのバッテリーの原理は、金属のバッテリーにする媒体に、電磁力と金属の融点に近い熱をかけて、金属原子を原子的に励起することで電子を原子から分離させて、当該金属をいわば電子の缶詰にするものである。

 この名付けて『原子励起発電方式』は、その励起の段階で陽子が順次分解して電子に変換するので、物質が電気エネルギーに変換されることになる。言ってみれば、核融合において物質が熱に変わる代わりに、この場合は物質が電力に直接変換することになるのだ。


 九大で行われていたこの研究は、すでに試験設備の組み立てが細々と始まっていたが、予算の制約で完成までに2年以上かかると見られていた。

 しかし、名古屋に移ってからの、プロジェクトの立ち上げに伴って、その研究の途方もない将来性から、日本新世紀会の議員からの全面的な後押しもあって、予算については実質青天井になった。

 さらに、奨励されている各グループの相互交流のなかで、当然第4グループの研究が詳しく知られることになった。


 その結果、第3グループの研究者は自分たちの熱核融合発電システムとの比較をして、自分たちの方式では原子励起発電方式にどうやっても発電という点では敵わないという結論を得た。しかし、彼らは熱を発生するという点では電気を熱に変換するより効率面で優れているとの検討結果も得ている。

 そこで、この阪大・東北大グループは、熱核融合炉を用いた金属精錬などの大コンビナートを形成することを提案して、製鉄などの企業と共に3年後にその実用化をしている。


 6ヵ月後、プロジェクトメンバーに加え、急きょ集められたエンジニア・職人の活躍で超バッテリー原子励起試験機が完成した。

 この励起装置の規模は大きく、本体のみで20m×20m×高さ10mの容積が必要であるが、1時間に100本の標準10㎏の銅シリンダーの励起が可能である。励起によって蓄電された銅シリンダーは5千kW時の電力を出力できるので、この励起装置は50万kWの出力とも言える 。しかし、発電機としては同規模の励起装置によって20基の1トンのシリンダーを励起と出力を繰り返して発電するもので、百万kWもの出力が可能となっている。


次は金曜日のアップになると思います。

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