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ハヤト衆議院議員になる

すみません。2日酔い気味のため、さぼって人の小説を読んでいました。


 ハヤトは、ガールフレンドの裕子の実家である森川家に来ている。

「まあ、いらっしゃい。あなたがハヤトさんね。なるほど、なかなか雰囲気があって見栄えがするわ。あら、失礼。私は瑞枝、裕子の母です」

 玄関でふっくらした中年女性が、ハヤトを裕子に導かれて入ったところで出迎えて、まずしげしげ見て彼について論評した後に頭を下げる。


「二宮ハヤトです。お嬢さんには何かとお世話になっています」ハヤトも頭を下げる。


「お世話にね」瑞枝はにんまり笑った後、「まあどうぞお入りください」そう言って招く。


「はい、お邪魔します」ハヤトは、すこし汗がたらりと出た思いがしたが女性に続く。裕子は後についてくる。


「どうぞ、お入りください」瑞枝は絨毯を敷かれた廊下を歩き、木目のドアを開けてハヤトを招く。ハヤトは中に入って、テーブルをはさんだソファの前に立つ。


 裕子も入って来て、「まあ、どうぞお座りください。主人はすぐに参ります」の声と共に3人ともソファに座る。ほどなくノックの音がして、ドアが開いて恰幅の良い口髭の男性が入って来た。後に若い男性が続いている。


 ハヤトが、立って男性を迎えて頭を下げて挨拶をする。

「二宮ハヤトです。今日はよろしくお願いします」


「森川健吾です。こちらこそよろしくお願いします」男性は、裕子の父の衆議院議員の森川健吾54歳である。


 若い男性も頭を下げて名乗る。「加山薫です。森川先生の公設秘書です」

 加山が向かい合う森川夫妻と、ハヤトに並ぶ裕子の横に座る形で5人がソファに座る。


「それで、二宮さんはここに来られるということは、千葉3区から出馬される決心をされたということですね?」森川議員がハヤトに問いかけ、ハヤトが答える。


「はい、そうですね。やってみようかなと思っています」


「うん、それは有難い。二宮さんは、住民票は選挙区の千葉3区にお持ちですよね?」


 議員が聞きハヤトが応じる。「はい、そうです。そういう意味では生まれた時から地元ですが、それでどの程度有利かはわかりません。選挙は難しいと言いますが、その点はどうなんでしょうか?」


「まず、私自身のことを言うと、私は前回千葉3区で、候補者7人の中で定員4人の枠で自民党の最下位で当選したわけで、得票が8万2千票ほどでした。

 選挙区で、自民党の笠谷議員、公平党の水谷議員、新進党の山田議員は大体盤石と見られており、そこに有名キャスターで隣の市の出身の、西村慎吾氏が出馬ということになっています。

 こうなると、はっきり言って、私が出ても非常に厳しいというのが正直なところです。しかし、二宮さんは明らかに西村慎吾氏より、知名度・地元での好感度ともに上ですし、現役の上位3人の票も相当に食えます。

 また、私も応援しますから、私の基礎票も6割から7割は二宮さんに入ると思います。

 ですが、ちょっとやってみようかという程度では、有権者は投票してくれないと思います。また、それでは私も応援できません。その点は、なぜ国会議員になりたいかという点が重要です。その点はいかがですか?」


 森川議員は流石に、4期目の現役の国会議員だけはあって、重々しくかつ説得力を持って話をする。ハヤトは、これだったら本人に続けてもらった方がいいのではと思いつつ答える。


「私は、お嬢さんから最初に話を聞いて乗り気になった時点では、自分で会社を作って運営しているうちに、余りに法律が多くて制度が複雑なので、これをすっきりしたいという程度の思いでした。

 しかし、社員とかいろんな人と話しているうちに、もっと重要なことがあるのに気がつきました。それは、すでにAIの実用化に伴って、表面化し始めてはいましたが、魔法の処方によって一気に加速された生産性の向上です。

 とりわけ、コンピュータやタブレットの入力を魔法でやれるようになって、事務仕事においては従来の2倍を超える生産性を発揮するようになりました。さらには、向上した知力によってさまざまな開発・発明が続出しており、生産現場においてもそれにAIの活用を組み合わせた省力化がすごい勢いで進んでいます。その結果として、一定の仕事をこなすのに必要な人数は従来の半分以下になってきています。


 我が国のGDPは、近年急激に伸びていますが、生産性の向上はその伸びをはるかに超えており、結局我が国にはそれほどの人手は必要ないのです。

 今現在は、あの地震と富士山爆発の後始末に、日本の半分が大わらわになっています。だから、現在の人手が欲しい時期はいいとして、この点は今後極めて大きな問題になると思います。

 そういうことに気が付いたのは、私の会社での求人にあります。その仕事は外国人に魔法の処方をする事業ですが、魔法の能力が高くて処方が可能な人が意外に簡単に募集できたのです。そういう魔力の大きい人は、体力・知力共に能力が高くて、本来簡単には募集できないはずなのにそうではなかった。


 つまり、ほとんどの若い社員は給料がいいのみで我が社に来たわけでなく、その能力を発揮するにふさわしい職がなかったのです。私は、だったらこうするという構想をまだ描けているわけではありませんが、このすでに顕在化しつつあるこの問題を解決していきたいと思っています。

 そのためには、一民間人より、国会議員として、その中で仲間を募り、制度を動かすことで解決していけるのではないかと思っています。魔法の処方は私がこの世界に持ち込んだわけですが、そのことで生じた問題を解決するのも自分の責任だと思っています」


 森川議員は、ハヤトが考えながら答えるのを聞いていて、『これはいけるな』と確信した。彼は、議員でもそれなりに昇っていく人は、それなりの雰囲気というか押し出しが必要だと思っていた。

 それと、議員になるには、少なくとも論理的に説得力を持って、話をすることは最低条件であるが、いま程度の話をできれば十分であろう。自分自身は、それほど国会議員にはなりたくはなかったが、祖父の時代からの地盤を保つということで、父の死でやむを得ずなったものだ。


 だから、地元のためにはそれなりには貢献はしてきたが、国レベルでは何の貢献もできず終わった。また、自分は金を集めるのは苦手で、結局15年の国会議員生活で先祖の資産をどんどん食いつぶしてきたのだ。


 一方で、この二宮という若者は、世界的なベストセラーの著者として、また異世界の勇者ということで、知名度という意味では日本人として一番であろう。また、とりわけ千葉県においては、魔法の処方が利根市発ということで、大きな好意をもって受け取られている。

 その彼が、本音として使命感を持って、生産性の向上による人手余りの問題に取り組むということを打ち出せば、当選は動かないであろう。


「うん、たしかに現在、AIがらみの人手余り問題には、議員の間にも問題にし始めているものもいるが少数派だな。自分の利益にならないことには、無関心なものが殆どだ。しかし、確かに何らかの手を打たないと2〜3年以内には深刻な問題になるだろうね。

 法律についても、議員にあまり問題視している人は少ないが、一般の人からは相当に苦情があるようだ。しかし、役人がどんどん作るのよ、草案を。あれが必要、これが必要って言ってね。それを議員の我々は否定するすべはないのだよね。いずれにしてもどちらもいい着眼だ。ぜひ進めて欲しいね」そう答える森川議員にハヤトが言う。


「しかし、森川先生が議員を続けられたらどうでしょうか。これも縁だから、何だったら応援はしますよ」森川議員は苦笑して応じる。


「いや、私は向いていないのを自覚している。やはり、議員は押しと割り切りというか冷たい面も必要だが、私はそれが無いのと、やはり情熱がないな。出来れば今後は趣味の下手な絵を描いて過ごしていきたい」その言葉に、妻の瑞枝が付け加える。


「そうなの。私が見ても、夫は国会議員には向いていないわね。それに今だったら、まだ今ある資産でそんなに不自由することなく暮らしていけるから、ここらで辞めて欲しいの。ただ、いまいる秘書については、二宮さんが引き続きよろしくお願いいたします」


「ええ、それは無論です。様子のわかっている人がいないとこちらも五里霧中で困りますから」

 ハヤトが瑞枝に応じてさらに聞く。

「ええと、衆議院の解散は10月半ばと言われていますよね。もう9月ですが、準備は間に合うのですかね。それと、森川先生は自民党ですが、党の公認とか必要なんじゃないですか?」


「はっきり言って、普通は間に合いません。でも、二宮さんの場合は別です。あなたが出馬を発表するだけで、全国ニュースになりますし、選挙区内においてはもっと話題になります。利根市は少なくともがっちり押さえられます。

 それと、党の方ですが、幹事長に話をしてすでに了解はもらっています。大歓迎だそうで、私としては少し悲しい面がありますが」森川議員が苦笑いして答える。



 翌日、森川議員が、自民党の3役の幹事長の山村亮一、朽木政調会長、及び細田総務会長に対して、ハヤトの件を話している。

「例の二宮ハヤト君が、私の所を昨日訪問して来まして、選挙に出たいということを伝えてきました。そういうことで、今度の選挙で、私は予定通り引退して、彼の応援をすることになります。彼の公認はよろしいですね?」


「おお、そうかね。君には申し訳ないが、それで千葉3区は2議席取れるね。その件は、首相と官房長官にも話をして、ハヤト君が党に入るのは大歓迎だった。彼は国際的に有名だから、今後はその面でも働いてもらえるな。公認は無論問題ない。彼は、金の面の問題はないのだろう?」


 山村幹事長が、いかつい顔をくしゃくしゃにした笑顔で応じる。

「ええ、個人資産で数十億はあるようですし、彼の場合はたいしてかからんでしょう」

 森川議員が答えるが、朽木政調会長が聞く。


「ちなみに、週刊誌で読んだが、かれは愛人と子供がいるとか。子供は認知しているらしいが。そのへんはスキャンダルにならないのかな?」


「ええ、大丈夫でしょう。相手の女性は10歳上で、結婚するつもりはなくて彼の子供が欲しかったようです。そう意味では、私も娘もその、もう出来ていますよ。

 週刊誌については、後追いで出た記事は読みましたが、最初のものは騒ぎにして貶めようという気がありありでしたが、インターネットでむちゃくちゃに叩かれたしょう?その後のいくつもの別の週刊誌の書き方は、『そういう、生き方もあっていいのでは?』という論調です。

 大きなマイナスにはならないと思います。大体、彼は利根市では有権者18万の半分以上はまず取れますね。今アナウンスしても盤石だと思いますよ」森川が答える。


「うん、二宮君の子供は、もともとは、政府がその女性、浅井みどりさんを焚きつけて子供を作ってもらったんだ。だから、ベビーシッターの派遣だけだけど政府でも援助している。生活費の援助するつもりだったが本人が断ったようだ」幹事長が付けくわえる。


「まあ、そうですよね。だんとつの世界一の魔力持ちにして、魔法の処方を始めた人物ですからね。しかし、間違いなく反対陣営はそのへんをつついてくるだろうし、その女性にはマスコミが押し掛けるぞ」さらに細田総務会長がすこし心配そうに言うが、森川が応じる。


「娘もその女性と親しいらしくて、二宮君が選挙に出たら応援すると言っているようですから。隠す必要はありませんよ。彼女は二宮氏の会社に勤めていますからね。あと、私の娘の件も出てくるでしょうが、本人も私も別にかまいません」



 10月15日総選挙の日程がすでに決まっている9月7日、ハヤトは選挙事務所として森川の事務所を借りて記者会見を開いた。

 このハヤトの衆議院選挙出馬の話は、全国的な大ニュースとして扱われ、多くのマスコミが取材に訪れた。ハヤトは、その席で現衆議院議員森川の支援を受けて、自民党公認候補として千葉3区の衆議院議員選挙に出馬することを発表した。

 また、その動機として、日本の生産性向上によって人手余りが現れる兆候をとらえてそれを是正すること、さらに複雑になりすぎた法体系を簡素化することを挙げた。


 同じ選挙区で、すでに出馬を発表している、有名キャスターで隣の市の出身の西村慎吾陣営はパニックになった。

「岸田先生、これはまずいですよ。私も知名度はありますが、あのハヤトには敵いません。森川さんには楽勝だと思いましたが、ちょっと見通しが暗くなりました」

 西村が焦って、支援者のベテラン県会議員の岸田に悲観的なことを言う。


「なにを弱気なことを言っているんです。候補者がそういうことでは話になりませんよ。幸い、彼は身の下に甘い点が弱点です。週刊誌によれば、愛人が数多くいて、愛人に産ませた子供までいるそうじゃないですか。週刊誌がそのあたりをはやし立ててくれますよ」


 岸田は強気に言うが、内心はそれでも票は減らないだろうと思っていた。今、言ったようなことは、すでに週刊誌に散々載ったが、浅井みどりの例から、結婚はしないで気に入った男の子供を産むというのが、最近のキャリアウーマンのトレンドになりつつあるのだ。


 岸田の勘は正しく、選挙の結果としてハヤトが22万票を超えてトップで、以下3人の現職が当選し、西村は5万票を取ったが当選に届かなかった。

 こうして、二宮ハヤトは28歳の千葉3区選出の衆議院議員になった。


すこしペースを緩めて週に4回に戻します。

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