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アメリカ合衆国の本音

総合評価1万Pを超えました。皆さんのお陰です。

今後もよろしくお願いいたします。

 2023年6月の、ホワイトハウスでの主要閣僚による会議である。

 国務長官のマリー・シュワッツが口火を切る。「皆さん、よくご存知のように、わが国の世界No.1といういう位置は、徐々に日本という存在に脅かされつつあります。

 過去、あの国は多くの弱点がありました。貿易戦争に脆弱であること、ハードにはそれなりに強くてもソフトが弱いこと、食料・エネルギーが自給できないこと、安全保障面で脆弱であること、等々ですが、最後の安全保障は我々が与えたあの憲法がありましたからね」

 そう言って出席者を見渡すが、みな苦々しく首を振る。それを見てシュワッツは続ける。


「しかし、彼らは突然魔法というファンタジー上の概念を実用化しました。それも、ニノミヤという個人の出現によってです。その結果、どの人も持っている魔力によって、身体強化と知力増強が実現できました。これは皆さんもご存知のように事実です。

 日本人の場合の、1.5倍から2倍になるという身体強化は、まあさまざまな機械が使える現在ではさほど脅威でありません。しかし、知力増強は平均で1.45倍と言われ、これは冗談ごとではありません。一方で、白人種は魔力が非常に小さいということで、魔法の処方を受けても身体強化は効果なし、知力増強は平均で12%程度です。


 この程度と言っても無視できるレベルではありませんが、問題は日本人との差です。さらに、問題なのはその処方ができる人材を生み出せる国が、今わかっている範囲では日本と、日本に比べればその出現率は少ないものの台湾のみということです。

 従って、現在、我が国の国民が魔法の処方をしようとすれば、日本に行かなくてはならないのです。加えて白人以外の人種は魔力がその2倍以上あるということで、その場合の知力増強も20%を超えていて白人に明らかに勝っています。結局、魔法の処方については白人が圧倒的に効果が低いのです。

 それでも、知力増強の効果が示されている以上、我が国の国民もその処方を受けたいわけですが、それを行える人材が事実上日本にしかいません。現在、日本のこうした処方の受け入れ人数は年間700万人であり、中国が締め出されているので我が国には年間100万人が割り当てられていますが、例えば1億人を処方するには100年かかるわけです。


 その結果何が起きているかと言えば、日本のみに起きている極端に急速な技術革新です。例えば、日本は我が国の牙城であったソフトウェアの面ですでに我が国を凌駕していますし、そのデータ取り扱いの面、さらにこうしたものを活用した、最も成長の可能性の高い情報技術のハードの面でも同様です。

 さらに、彼らの弱点であったエネルギーでも、メタンハイドレートの採取を実用化していますし、それで間もなく国内需要を満たそうとしています。さらには核融合炉を建設中で、2年後には完成すると言っています。また、近年の希少資源の不足においても自国の問題はすでに解決済ですし、今後同じことが生じても世界に先がけて解決するでしょう。


 安全保障の問題は、かの中国との戦いをパーフェクトゲームで終わらせましたが、少なくとも日本の国は遠距離からのミサイル攻撃からは安全です。

 ちなみに、かれらは“まもる君”によりミサイルが撃墜され、艦船や航空機が破壊されたと言っていますが、CIAの分析では、かのニノミヤこそがあの主役であったとみています。彼らの弱点であった憲法も、自衛は十分できるように改定されましたし、現状で彼らの弱点は唯一、食料だけです。


 しかし、もしその面の問題が起きればすぐに彼らは解決するような気がします。実際、セルロースからのでんぷんへの変換はすでに実用化されていますから、後は大規模な装置化のみで彼らにとっては難しいことはないでしょう。

 それらの結果、彼らのGDPは5年で1.5倍になって、あまりの技術優位に高くなった対ドル円の75円/ドルになったこともあり、かっては4倍以上だった我が国と日本のGDPの差は、現在を21兆ドル対10兆ドルで、ほぼ2倍になっております」シュワッツ女史は言葉を切った。


「マリー、現状は皆理解している。問題は、ではどうするかだ」大統領のジョン・エドソンが少し苛ついて言うのにシュワッツ女史は淡々と答える。


「そう、そこです。最大の問題は、白人の場合に有色人とりわけ日本人に比べて魔力が低く、その処方の効果が低いということです。しかし、我が国には日系人、日本人の遺伝子を持つ者も数多いのです。これからの話は、医学顧問の、アンジェラ・ワトソン博士に譲ります」


「2018年、魔法の処方が始まった年に、たまたま我が国の日系研究者、ミケル・イシグロ博士が東京大学で研究していたのです。彼も、初期に処方を受けた結果、幸運なことに魔力が強く処方をができるレベルでした。

 また、彼の研究室の隣室で魔力の測定器を開発していましたことから、彼も魔法の研究に打ち込み、機器による魔力の測定、増幅等の研究の最先端にいることができました。

 人種による魔力の差、あるいは処方による効果の差を明らかにしたのは、彼らの周辺の研究室の成果です。その結果から、彼はこうした差が生じるメカニズムを研究し、身体強化については魔力に依存するので改善はできませんでしたが、知力増強については日本人並みに改善する手法を開発しました。

 さらに、問題になっている処方についても魔力の増強のインプレッサ―を開発して、それを使うことによって少し魔力の強い有色人であれば、処方ができる方法を開発しました」


 ワトソン博士の話の途中で「オー」という嘆声が巻き起こり、話を切ると拍手が鳴り響いた。

「素晴らしい。そのイシグロ博士には特別表彰をしなくてはな」口々に言う中で、ワトソン博士は話を続ける。


「むろん、イシグロ博士だけではこれだけの功績は上げられませんでした。彼は、1年半前にMITに帰って来たのですが、その際にMITの研究者が全面協力したのはもちろんですが、東大から日本人研究者も3人同行したのです。

 これは、どうも日本政府も同意の上のようですが、東大側もこころよく我が国への同行を認めたのです。当然これらの日本人は、皆すでに知力増強はされており、イシグロ自身も彼らの助けなしには、この成果は達成できなかったことを認めています」


 その話に大統領は激しく言う。

「なぜだ、日本政府が人材を送って白人が知能増強の効果を上げることを認めた?信じられん」


「大統領閣下、私自身もそう思いました。しかし、イシグロは主任教授のミチナガから帰国して研究することを促され、帰国時にこう言われたそうです。

『今わかっているように、日本が突出して知能が高くなった場合には、必ず日本人は世界で孤立する。それは、日本人にとっても不幸だが、その強化された能力の成果を十分に味わえない世界も不幸だ。

 大体道筋はついているから、君は必ず少なくとも知力増強については、日本人以外の人種も日本人に劣らないようにできる手法を生み出せるはずだ。また、そうした人に処方を可能にする方法もね』確かに、この開発がなければ、我が国の日本に対する政策は相当に厳しいものになったでしょう」

 ワトソン博士が大統領に応える。


「それは、そうでしょう。全く見返りが期待できないところに、国を動かすものが投資するわけはありませんもの。でも、事実、そのことで我が国は魔法能力の面で、日本とたぶん台湾以外の国に対してイニシアチブを握ることができます」


 シュワッツ女史がクールに言うと大統領も賛同して言う。

「そうだな。これは非常に大きいアドバンテージだ。しかし、ワトソン博士、日本も同じ開発をしているのではないかな?」大統領の問いにワトソン博士は答える。


「そうでしょうね。基本的な考え方と、装置のモデルはすでに日本ででき上っていたようですから、知力増強を済ませた人材を、数多く使える日本ではすでに完成しているでしょう」


 それに対して、シュワッツ女史がコメントする。

「すでに、一定の年齢以外の全国民の処方を済ませている、彼ら日本人にとってはその技術はそれほど価値のあるものではありません。

 その上に、開発に必要な人までつけて我が国に帰したということは、日本にこれを全面的に押さえるつもりはないと思います。しかし、この辺は日本と交渉してみましょう。

 それで、ワトソン博士、当面国民の一定の割合に対してこの処方を行うための、必要な予算、人材、さらに最短スケジュールは策定していますよね?」


「はい、当面、1億人に対して処方を行うとして概略の計画を立てました。必要な人材は、日本の例にならって軍人を充てます。この場合処方を行うものとして有色人の兵士5万人動員します。しかし、まず機器を製作しながら軍人を処方していきますので、その準備期間が半年必要です。

 その後、彼らは、機器を使って1日に10人処方できますから、一日に50万人の処方が可能で、年間実働200日とすれば、1年で処方を完了します。予算は機器費が1セット2千ドルで1億ドル、諸経費が一人につき年間1万ドルとして5億ドルですから、合計の費用は8億ドルくらいのものでしょう。

 むろん軍人ですので、人件費は考えておりません。ただ、その準備に、MITを始め、いくつかの大学の協力が必要です」ワトソン博士が説明する。


「合計1年半、費用は10億ドル以下か。わかった、その線で進めて欲しい。財務長官、国防長官、問題ないな?」大統領が頷き、両長官に尋ねる。


「はい、大統領、問題ありません」

 財務長官アーサー・デビットソン、国防長官マイケル・ケントがそれぞれ頷いて返事をする。


「では、この技術を我が国としてどう活用するか、マリー、君の腹案は?」大統領が今度は国務長官、シュワッツ女史に話を振る。


「はい、この技術はいずれ漏れ、世界に広がっていくと思います。しかし、日本の例にみられるように、時間的なアドバンテージは大いに享受すべきだと思います。日本は、我々にそう4年程度のアドバンテージを持って先行しています。

 しかし、今回の技術開発の協力にみられるように、日本には未だ世界では最も大きい存在である、我々と深刻に対立するつもりはないでしょう。一つにはコンピュータのソフト技術を始め、通信技術において我が国の牙城を、すでに食い荒らしているという意識はあるのでしょう。

 ですから、できるだけソフトに日本と交渉して、彼らの技術を手に入れ。彼らの現状に追いつくことが必要です。追いつきさえすれば、国民の知的レベルは並ぶわけですから、その人口の差と発想力、多様さで我が国が再度イニシアチブを握れるでしょう」


 シュワッツ女史の言葉にエドソン大統領は考えながら応じる。

「うん、日本についてはそうするしかないだろうな。しかし、日本以外について、特にヨーロッパだが、はっきり言ってEUの連中は気にいらん。

 彼らについてはこの技術は渡したくはないが、イギリスについては、EUから脱退して経済的に苦しんでいることもあるから、早めに渡してやりたい。ある程度の味方は必要だからな」


「はい、そうですね。最初はイギリス、いいのじゃないでしょうか」シュワッツ女史の答えに満足して、大統領は再度ワトソン博士に聞く。


「ワトソン博士、ところで、我が国では日本人の協力もあって、大体3年程度でこの技術を開発したようだが、他の国例えば、ドイツや中国がこの技術を独自に開発しようとすれば、どのくらいの期間かかるかな?」


「ええ、日本が積極的に協力しなけば10年かかっても難しいでしょう。開発には能力者の協力が不可欠ですから」


 その答えに大統領は満足して言う。「ふむ、それは有難い。日本の協力を得られれば当分はイニシアチブを握れるな。いずれにせよ、近いうちに日本を訪問しよう。マリー、日本と調整してくれ」


 さらに大統領は今度は国防長官マイケル・ケントに向かって聞く。

「マイケル、日本と我が国の現状の軍事的バランスについてブリーフィングしてくれ」


「はい、大統領。私は実はここの話が日本と軍事的な対立をすることになったらどうしようと、ひやひやしていました」国防長官はそう言ってニヤリと笑い、肩をすくめて続ける。


「まず、日本は大型の核ミサイル攻撃についてはまず万全ですね。しかし、例えば、我が国あるいはロシアが日本に向けられるすべてのものを集めれば、飽和攻撃で破壊することは可能かもしれません。

 しかし、この場合に使う多数の核爆弾のために、日本を滅ぼせても自分の国も放射能で無事には済まんでしょう。場合によっては地球上の人間は全滅するもしれませんな。原潜で近づいて、ピンポイントで都市部を破壊して大部分を殺し残りはその放射能で人々を殺すというのはあるが、これも迎撃されないという保証はない。

 いや、最初の一発は成功しても以降は迎撃されるでしょう。これは、我が国から売って彼らが大幅に改良した、イージス・アショアでも可能ですし、先ほど話の出たニノミヤと少なくとももう1名の能力者によっても可能です。そして、その場合これらの魔法使いによる報復は、凄まじいものになるでしょう。これは余りに危険です。

 次に、通常兵器による海と空の戦いでは、我が国も中国と同様に戦闘用の航空機、艦船すべて爆薬を積んでいます。あの尖閣沖の戦闘から、多分かれら魔法使いは魔法で爆薬に着火するのだと思います。しかも、その射程は千kmに及ぶのです。これは現状では防ぎようはありません。また、ご存知のように憲法を改正して、防衛については制限を外したあの国と戦うのは、ごめんこうむりたいと思っています」


 国防長官の言葉に、ワトソン博士が口をはさむ。「あの、日本では魔力を無効化するバリヤーを開発中のようです。ニノミヤのようなことができる個人がいるというのは、どういう破壊行為をされるかも知れないということですから、とりわけ魔法使いの多い日本には必要でしょうね」


「おお、それができれば、中国軍のような敗北はないな。ぜひその技術が欲しい」国防長官が表情を改めて言うが、大統領がそれに応じる。


「ふむ、それは欲しいが、日本はその技術は出さんだろう。無敵である自分を防ぐ方法を教えることになるからな。ワトソン博士、我が国でも開発を急がせてくれ」

 その言葉を最後に後は雑談になって、会議は終了した。


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