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ニノミヤカンパニー魔法処方事業部

まだ、過去語りです

 ちなみに、オリンピックの競技での魔法による身体強化の取り扱いであるが、JOCは正式にIOCに身体強化の事を説明し理解を求めている。それは、日本人の競技者は競技には身体強化は使わないこと、そのための監視員をつけること、さらに新発明の魔力測定器(これで、客観的に身体強化が使った時は検知できる)をIOCに提供することをことで申しでた。

この措置によって、日本人競技者もオリンピックに参加したが、諸外国は魔法を使える日本人に懐疑的であり、実際にとりわけサッカーで銀やバレーボールで金といった団体競技で高成績を挙げたことで、声高に非難するものもでた。


 しかし、これは主として知力増強による効果であり、全体を俯瞰する能力が高く、知的な意味で鋭敏性が増して、かつクレバーな競技者が優位に立つのは当然であった。こうした実態も知れ渡るようになり、この東京オリンピックを境に、世界に日本人をスポーツ界から締め出す動きが生じ始めた。


ところで、日本国内においては、人々は魔法能力の処方を受け、身体強化を覚えると、トレーニング・ジャンキーになる傾向がある。このように集中して基礎体力を上げて、身体強化による自分の今までと及びもつかないパフォーマンスを自覚すると、強化を解いた時の動きでは満足できなくなる。


 このようなことから、2018年中に身体強化できるものたちの制限なしの競技会が、自然発生的にあちこちで行われるようになり、2019年の夏にはすでに様々な競技の全国大会が開かれるようになってきた。

 人々が様々なスポーツ競技を見るのは、一つには自分ではできないパフォーマンスを見たいという意味合いもあるのだ。その観点で言えば、100mを7秒から8秒で走れ、3m跳びあがれる競技者により行われるサッカーの大会を一度見れば、オリンピックの競技はすべてで物足りなくなるのは避けられない。従って、日本の競技団体は東京オリンピックを境に国際大会から遠ざかっていった。


 2021年1月、海外から、魔法の処方を受けたいという人々が押し寄せることは、文科省が設立した海外の人々への魔法の処方斡旋所への申し込み、それを受けての航空機の予約からしても確定していた。

 ちなみに中国人については、例の尖閣での戦闘をきっかけにビザなし渡航を止めており、事実上処方目的の来日は禁止している。中国も、それに対抗してビザなし渡航をなくしたが、このことで大きな混乱はなかった。


 これは、日本人従業員の生産性が劇的に上がった結果、海外生産の意味が薄れてきたことから、中国への日本からの投資は殆ど中国を抜け出すためのものに限るようになってきたことも大きい。

 単純に低賃金の労働者という意味では、いまやその莫大な援助から親日国になってきた北朝鮮(『朝鮮共和国』と名前を変えた)の賃金の方が、はるかに安く勤勉かつ素直で使いやすい、ということで日本から大挙して工場が移っている。


 ハヤトは、海外の人々への処方の解禁に先立って、文科省から頼まれたこともあって、NCに魔法処方部門を設けた。これには、責任者として、民間から文科省と経産省に頼まれて魔法処方に関わり、主としてハヤトの出番のアレンジをしてくれた加山雄介を据えた。


「加山さん、お聞きかと思いますが、文科省からも頼まれて今度、私も持っているNCに魔法処方部門を作りたいのです。これは、今後主として海外から処方を求めてくる人々を対象に考えています。

 それで、やり方はお任せしますので、その責任者でやって頂けませんか」

 ハヤトの頼みに、加山はその浅黒くハンサムな顔でニヤリと笑って言った。


「うん、そうくると思ったよ。俺のオフィスもたいして儲かっていないし、ここらで何か変えないといかんとは思っていたんだ。スタッフ5人は一緒でいいよね?」


「無論、スタッフの方は一緒でお願いします。ただ、ワールド・ジュエリーの田川も辞めさせて引き抜きたいのですよ。それと、処方の責任者として浅井みどりもかませたいのですが。いつまでも自衛隊でもないでしょうから」ハヤトが応じると、加山は笑いを深くして言う。


「あの田川君ね。無論歓迎だ。君との連絡役にも最適だしね。みどりさんは、たしかに処方の実務について文句はない。しかしいいのかな。オーナーが愛人を自分の会社に入れると、通常は碌なことにはならんぞ」


「うーん。それはあるのですよね。僕も、彼女と結婚する気はないのですよ。でも、一緒にいると癒されるし、女性の相手として大変気に入っています」

 ハヤトが頭を掻きながら言うのに、加山が応じる。


「たぶん、彼女は君にとって、君の本に出てくる王室専属の接待婦のロマニーのような存在かもしれんな。最初の経験といい、あまり性欲のはけ口に困ってはいなかったこともあって、君にはあまり結婚願望はないのじゃないかい?男の結婚願望は性欲からみの部分もあることは否定できん。みどりさんも、そういう意味ではロマニーのような人のような気がする」


 ハヤトはすこし考え込んで言う。

「うーん、僕にもほとんどないけど、彼女も結婚願望はあまりないとおもうのですよね。でも子供はほしいような。小さい子がいると顔つきが違いますよ」


「うん、そうだね。どうだい。政府も君に子供を作って欲しがっているよ。魔力において並ぶ者のいない君の遺伝子を持った子が欲しいのだよ。

 経済的には全く困らないのだから、子供を作りなさいよ。彼女も自衛隊にいる間は難しいけれど、辞めた後なら、なんてことはない。もっとも君が後で結婚したくなったら困るかもしれんがね」


 加山からそういう話をされて、笑って話を終わらせたその夜、みどりがいつもつけている避妊具を外すように言う。そして、ハヤトの目を見てささやくように言う。

「私は子供がほしいの。あなたとのね。自衛隊を辞めることを決めたのもあるけど、もう歳だし、いまのうちと思って。でも、あなたと結婚しようとは思っていないわ。産んだ子は立派に一人で育てるわ」


 ハヤトは、加山の言葉が頭に残っていて思わず頷いた。「ああ、いいね。みどりと俺の子だ」

 みどりが女の子を出産したのは2021年の夏であった。



 NC魔法処方事業部が発足し、2021年1月、押し寄せる魔法処理を求める海外の人々の処方を始めた。検定試験ができて後で測ると、1級を10人、2級を120人および処方後の訓練のためもあって3級相当のものを250人揃えており、一日6千人の処方が可能であった。


 料金は文科省とも協議の上で基本的な処方が一人5万円、処方士のための訓練を含めると一人10万円ということになった。年間の営業日は250日であるので、NCのみで年間150万人の処方が可能であった。

 しかし、他の事業所を入れても日本全体の最大の処方の能力は、当初年間400万人であり、世界中で数千万人待っている希望者には到底足りない。ちなみに、料金そのものは効果を考えれば良心的であると思われたが、これでも約500人の従業員で年間収入は約150億円で利益は充分であった。


 また、白人に関しては効果が低いのに有色人種と同じ価格というのは不公平でないかという話があったが、白人の方の処方が難しいので手間はむしろかかっており、その方から見れば、むしろ高くもらいたいということで同じ値段にしている。


 処方のため、日本に最も熱心に来たがったのは、当然効果が大きいことが解かっている台湾人であったが、希望者に対して受け入れ能力が圧倒的に少ない現状では、国ごとにの公平に見える割り当てにせざるを得なかった。


 ただ台湾については、世界でも日本に最も友好的な国であることを鑑み、日本政府から、処方をできるようになるレベルの人材を優先するように勧告して、1000台の魔力測定器を売却している。その結果、台湾は政府が音頭をとって、とりわけ知力強化をしてほしいとして選ばれた人材と魔力が1千以上のものが優先的に来日している。

 2023年春の現在では、受け入れ人数は全体で7百万人/年になっているなかで、台湾の割り当ては50万人/年になっており、すで8千人の魔法処方士が活躍しているので、台湾では5年後にはほぼ全員に処方が可能になると見込まれている。



 さて、話が逸れすぎた。ハヤトと同級生の会に戻ろう。

「ところで、さつきさん。その後は、東映から映画の話はなくなったの?」安井の妻の沙織が目をキラキラさせてさつきに聞く。


「ええ、ずっとお断りしてきて、東映さんからの話はなくなったけれど、今はテレビ会社やプロダクションからまだあるわ」さつきのすこし憂鬱そうな表情に沙織がうらやましそうに言う。


「さつきさんのアクションシーンは、アクセス2億超えでしたか。まだ今もすごいらしいですね。私だったら、映画やドラマに出て欲しいと言われたらすぐO.Kなのに」その妻の話に安井が少し慌てて言う。


「おい、おい、お前は俺の奥さんだぞ」その声と表情に皆から笑いが湧く。


「心配ないわよ。平凡な私にそんな話がある訳はないし、私にはあのアクションはできないわ」沙織が苦笑して言う。


 そう、中国の下請け工作員に襲われたさつきのアクションはスマホで撮られ、それを撮ったブロガーによってインターネットのアップされたのだ。その結果、全世界に広まってしまい、世界でも最も有名な一人になってしまったのだ。

 その結果、海外も含めた多数の映画会社、テレビ、プロダクションから様々なオファーがあったがさつきはあまり乗り気ではなかった。しかし全部断るわけにもいかず、週刊Yを通じてきた、Yテレビのオファーに応じた。

 

 学業優先ということで、半年ほどタレント活動をしたが、知名度の高さによって人気は高かったので、局側がアクションドラマの準主役に抜擢しようとしたところで断って、タレント活動から身を引いている。

 彼女がハヤトに言ったのは、自分はタレントなどに余りいい印象を持っていなかったところに、実際に付き合う人にいい印象の人がいなくて、この世界に身を置く気はなくなったということだ。


 ちなみに、ハヤトのそのアクションシーンの映像を見ているが、さつきが股間を蹴り上げた男が気になった。さつきの、拳銃の弾の発火と余りに素早い動きについていけず、だらしなくなにもできず睾丸をつぶされてしまったが、あの落ち着き払った態度は相当なプロだ。


 ハヤトは、入院している警察病院の庭に密かに入り込み、その男の感情を探ったが、それは、恨みに満ちている。さつきもこのレベルのプロに銃を持たれて付け狙われたら、身体強化をする前にやられるだろう。ハヤトはすぐ腹を決め、男の脳に行く血管を切る。1分後の意識が混濁するのを確かめて、ハヤトはそっと家に帰った。

 それは、彼が尖閣沖の戦いが起きる前に沖縄に行く前のことである。



「ところで、田川さんは斎賀さんといつ結婚なさるの?」安井から、田川たちの結婚が時間の問題だと聞いていた沙織がたずね、田川が少し顔を赤らめて斎賀洋子を見て答える。

「ええ、来年2月と思っています」その言葉に横の洋子も頷いて、今度は彼女から鹿島智子に聞く。


「鹿島さんは、どうなんですか?」


「ええ、もうちょっと、経済的に時間がかかりそうです。でも、田川さんはニノミヤ・カンパニー(NC)の重要なお役なんでしょう。うらやましいですわ」智子は、すこしぽっちゃりしたおっとりした感じに似合わず、言いにくいことをはっきり言う。


「ええ、でも僕はハヤトのお陰で、ワールド・ジュエリーに入れてもらって、次はNCに引っ張ってもらって。でも人が足らなくて忙しいですよ。ところで、清水は結構魔力はあるんだろう。どうだ、NCに入らないか?」

 この言葉から、給料面で不満のあった清水も、NCに入って田所の同僚になることになった。


 なにしろ、転職によって年収で言えば2倍程度になることは確実なのだ。その後、会は和やかに続き、皆ほどほどに酔って上機嫌で帰っていった。


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