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魔法処方士検定試験

できるだけ毎日更新します。

 安井が、そういう回想をしているうちに、電車は千葉駅について沙織と電車を降り、駅に近いロイヤルホテルに行く。

 2階のレストランの奥の部屋をとっているということで、『5年前のチェーン店の飲み会とはえらい違いだな』と安井は思って沙織とともに案内の人について部屋まで行く。


 今日はハヤトのおごりだ。なにしろ、ハヤトは『異世界ラーナラの勇者ハヤト』が今までに全世界で7千万部売れ、今でも年間100万部は売れている。さらに、ハリウッドで映画化もされてその権利料等の収入があり、これによる収入は合計100億円以上になり、これはニノミヤ・カンパニー(NC)の収入になっている。

 半分は税金で持っていかれているが、NCにはワールドジュエリー(WJ)からの宝石の売却代金の収入もあって、会社の現預金は300億円近くになっている。


 こうした状況で、ハヤトは3年前、自衛隊との契約を変更し、秘密の“まもる君”の機能は続けるものの、必要のある都度の出動ということで、契約の名目は“まもる君”のメンテナンス委託契約ということにしている。従って、今は千葉市のマンションを買って一人で住んでいる。

 また、彼は2年半ほど前に、NCを宝石及び著作権の金の受け取りのみでなく、魔法能力の処方を行う事業を始めた。これは、後述するように極めて好調であり、WJに勤めていた田川もそちらに移ってかじ取りをする一人になっている。


 安田が部屋に入った時、約束の午後5時には少し早いが、その部屋には回転テーブルに椅子が9つ配置されており、もうNCの社員になっている田川は来ていて、横に小柄な可愛い娘が座っている。


「よお、田川!久しぶりだな」安井の声に田川も気楽に応じる。


「お前も相変わらずでっかい声だな。いや奥さん久しぶりです。というより結婚式以来か。どうですか、安井との新婚生活は?」

 立ち上がって、頭を下げて声をかけられ、沙織は頭を下げて、顔を赤らめてお礼を言う。


「結婚式には、ありがとうございました。公人さんと生活ですか?ご想像にお任せします」田川の隣の女性が彼と一緒に立ち上がり頭を下げる。


「斎賀洋子と申します。よろしくお願いします」こうして挨拶を交わすうちに、同級の清水がやってくる。清水もふっくらした色白中背の女性連れで、女性は鹿島智子と名乗った。


 さらに、時間ギリギリで、ハヤトが浅井みどりと妹のさつきを連れてやってきた。

「やあ、やあ、みなさん、いらっしゃい。今日は楽しんでいただければ幸いです。ちょっと料理と合わないけど、回転テーブルが食べやすいのでこれにしました。僕は皆でつつくのが好きで、あまりコースものは好きじゃないもんで」


 ハヤトが言うが、実際に料理は中華のコースではなく、洋食あり、日本食あり、中華もありでむちゃくちゃだけど、皆絶妙な味だ。席についた皆は、初対面同士で挨拶を交わす。


「さつきさんは、今は大学院でなにをしているの?」安井が、大学院に進んだということを聞いているさつきに尋ねる。


「ええ、水田先生のお手伝いよ。先生が責任を持っている魔法能力処方検定試験は、滑り出したのだけど、やっぱり、実技が主になるので、判断が難しい面があってまだ判定手法を変更しなくてはならないのよ」


 さつきが答えるが、さつきは大学に入った時から、魔法の能力が非常に高いということから教授連の注目を集めた。中でも、教育社会学科の水田教授が、彼女が新入生の頃から彼女を引っ張り込み、利根市出身の同級生にも話をつけて、魔法学の系統的な研究をはじめたのだ。


 そういうことで、水田教授は今や我が国の魔法学の第一人者とみなされているが、そのため魔法処方士検定試験の責任者をやらされているのだ。しかし、彼のその研究もあって、魔法の処方がそれを実施した人によって効果に差が出るのがはっきりしてきた。従って、処方をできる人を区分しておかないと効率が悪いことになってしまうことが認識されることになった。


 その区分を国家資格として検定試験にすることになり、試行錯誤した結果、ようやく文科省の管轄で魔法処方士という名にすることが決まって、第1回の試験が昨年秋に行われたが、現在判定方法を手直し中ということだ。

 さつきの指導教官がその水田教授なので、魔法能力が例外的に高いさつきは非常に便利に使われているという訳だ。


 ちなみに、魔力を測れる計器は、さつきの高校の同級生で優等生だった天谷薫が入学した東大で開発されている。これは、やはり彼がその高い魔法能力に教授連から目をつけられて、研究室に引っ張りこまれて様々なことをやっているうちに、魔力を計器で測る方法を追及して完成したのだ。


 その単位はマリュー(Maryu)ということになったが、これは何のことはない魔力を呼びやすくなまらせたもので、その魔力計測器で測ることになる。

 その測定結果は、ハヤトで10万超え、さつきで1万レベル、浅井みどりの場合で5千程度、一般の人は数百ということで、魔法能力の処方ができるのは千以上とされる。


 ちなみに、尖閣沖海空戦でハヤトと共に戦った水井は、その能力の重要性に鑑み現在3佐であるが、彼で3万程度である。水井は、しばらくは自衛隊の唯一の実戦で使える魔法使いであったが、国をあげての調査の結果、2年前にもう3人見つかり、そのうちの一人を自衛隊で確保(つまり任官させた)している。


 この検定試験は、なかなか評価が難しい面があった。その処方の効果は、身体強化の場合は簡単にできる垂直跳びとか幅跳び、あるいは様々な敏捷性のテストである程度定量的に測れる。

 しかし知力については難しい面があり、例えばいわゆる知能テストは問題をちゃんと選べば比較が可能ではあるが、それだけが知力ではない。また身体強化の効果と知力増大の効果の、処方前に対する割合は一致しないことが解かっている。


 例えばある人に対して施術者Aの効果が身体強化1.4、知力1.3倍とすると、能力が劣る術者Bの場合には身体強化1.4の0.8を掛けた数値、知力はマイナス5%〜0%のあいだという結果になっている。また、この場合には身体強化と知力増強の効果が逆転することなかったことから、身体強化の効果が2割程度の差であれば、知力増強についてそれほど差はないとことになる。


 ここで、身体強化にしても処方士によってあまりにも差がある場合には、再度の処方が必要になるため効率的でないということで、効果が1級の術者の8割未満のものは資格を与えないことになった。

 これは、別の面から言えば、機械文明の現在において、アスリートは別として、身体強化より知力増強の方が圧倒的に重要であることを考えれば、最大で5%程度の差であれば許容できるということになる。


 また、処方士にとって別の重要な能力は、魔力が尽きるまでに処方できる人数である。これは大体のところは、魔力に比例するが、慣れとかその人の持っている性格的なものによっても、差があるということになっている。

 ちなみに、魔力は訓練、すなわち繰り返し使うことによって増大するが、大体20歳くらいで伸びは止まるようだ。さらに、魔力は努力する、あるいはいろんなことを我慢することでより伸びる要素が高いようであり、その意味で、頑張って勉強する、あるいは頑張ってスポーツに励んできた(いじめられた場合も同様)人の方の魔力が高めである。怠け者で楽をしてきた人の魔力は低いわけだ。


 ちなみに魔法処方士検定試験は1級、準1級、2級、準2級、3級までであり、この検定1級で、処方できる人数が一時に100人以上、効果は95以上になっており、効果が80以下の人にはいわゆる免許証は出さないことになっている。

 さつきが、検定のざっとした試験の説明に続いてつけ加えて説明をしている。


「1級の基準は私が数値のものさしになっています。これは、私をはっきり上回って、処方人数と効果を出せる人は、兄さん以外いないことが理由です。

 その処方人数は私が200人くらい、兄さんがその気になれば1万人位処方できるけど、100人くらいできる人は、天谷君などそれなりに見つかっているので、処方人数100人が1級よ。

 私の効果はだから100で、天谷君が95くらいでやっぱり効果95以上が1級よ。あ、ということは天谷君が1級の物差しなのね。ちなみに兄さんの効果は110位よ」


 これに、ハヤトの横に座っているみどりが自分に引き比べる。「私は検定試験を受け損ねたのだけど、じゃあ、私が処方は120人くらいが限度で、効果は感じとしてハヤトの9割弱程度だから、1級になれるわね」


「ええ!みどりさん結構高いのね。そうですね。十分だと思いますよ」さつきが応じる。


 ちなみに、日本における人々への魔法能力の処方は、基本的にはハヤトが中心になって、まず自衛隊員の処方を大体半年で行い、その中から処方が出来るとして選抜された隊員約1万5千人が、最初は高校、次に中学校、さらに大学の拠点校に処方して回っていった。

 こうして、処方された中から処方する能力のあるものは、次々にその仲間を処方するという具合に処方が進んでいった。


 ハヤトは、自衛隊の目途がついた後は、経産省の組んだプログラムに沿って、官庁、会社関係を中心に処方して回っていった。これもまた、学校と同様に処方ができるようになっていった人が他の人に処方するという具合に処方が進んでいった。


 ハヤトは最大で1日に1万人処方出来るが、実際には実施した日の対象人数は平均的には4千人であり、年間ほぼ150日間処方して回っていたので、自衛隊にいた2年半で個人として約180万人を処方したことになる。

 学生に対しては政府の方針により無料で実施したが、社会人については無料ではまずかろうということになって、一人3万円の料金を取っている。


 しかし、運動能力、知力が大幅に上がることを考えれば、個人にとってもその勤めている会社にとっても安いものである。この料金はあっせんした経産省と所属する防衛省がほぼ半分ずつ取り、ハヤトには出張費と言う名目で一人千円が払われた。


 けち臭いと言えばそうだが、それでも処方した100万人の社会人に対してであるから、全部で10億円である。これはニノミヤ・カンパニー(NC)に振り込みとはいかず、所得になったため、ハヤトの自衛隊に勤めている間の税たるや4割を超えてしまった。このようにして、今年の春に35歳以上の希望者を含め、中学生以上の日本人全員の処方がほぼ終了したのだ。



 このように日本では、大体全員の処方が終わり、処方士を国家資格にまでしてしまったが、諸国からの魔法関係の様々な要求はシャレにならない状況になってきていた。

 白人は先述のように魔力が平均で精々マリュー50程度と極めて低く、処方には手間をかかるわりに、効果として体力強化についてはほとんどなく、知力増強で10〜20%であった。

 さらに、非白人については魔力はマリュー100〜200程度が多く、体力強化については10〜20%、知力で20%前後の増強であった。


 しかし、海外の国々で唯一の例外が台湾であり、台湾の人々は魔力において日本人の半分程度と他に比べて高く、処方が出来るレベルのものが2〜3%の割合で見つかっている。


 日本と台湾を除けば、現状では魔法の処方が行えるものは見つかっていない。こうした諸外国人の処方の効果は、日本人に比べれば大きいものではないが、白人種にしても、知力の10〜20%の強化と言えばそれほど小さいとは言えない。従って、処方を望むものが大部分であり、日本に来れば処方ができるのでこうした人々は大量に押し寄せようとした。


 これに対しては、政府からの発表で2020年末までは、日本でも国民への処方の真っ最中で混乱しているし、海外からの人に処方する余力はないということで、当面海外からの処方目的の来日は断るが、2021年にはその開放をすると約束している。


 しかし、2020年の10月に、東京オリンピックで大量の外国人が来日した時に相当な混乱が起きた。来日した人々は、実際に大部分の国民が魔法に目覚めた日本が、そのことによって変わりつつあるのを実際に見たわけだ。

 当然、かれらはうらやみ、なんとか処方を受けようとするが、その処方ができる者は沢山いるもののそれを頼む伝手がない。少数のものは、日本人の伝手をたどって、個人的に処方をできるものを探して処方を受けて帰ったが、大部分はかなわず再度来日することを決心して帰国していった。


完結済の既作も良かったら読んでください。

https://ncode.syosetu.com/n9292dl/

https://ncode.syosetu.com/n4880ds/


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