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5年後の近隣諸国

その後、韓国、北朝鮮、中国はどうなったか。

5年後の時点で書いてみます。

 安井公人は、となりの席の、薄い緑のワンピースを着た新妻の沙織の顔を見てにやけている。

彼は、依然として朝霞駐屯地に勤め、現在2尉であるので高卒の幹部候補生あがりの27歳としては出来星である。これはハヤトを見出し、自衛隊に引き込んでその秘書役を務め、結果的に日本の数々の危機を救ったことになったご褒美である。


 沙織は旧姓山地で、大学の理系をでて自衛隊に入ったという言ってみれば変わり者で、現在24歳、もうすぐ幹部候補生を卒業して3尉になれるかということころである。女性が自衛官になる試験は、大変人気があって難関であり、これを突破したのは彼女が優秀な証拠である。


 身長は158cmであり、175cmの安井とちょうどいいバランスであり、短髪の柔らかい髪で、スポーツの得意な彼女は、すらりとした細身であるが筋肉がちゃんとついている。目が生き生きして、顔も引き締まってキリっとした彼女は、安井にとってはたまらなく魅力的であり、必死でくどいて1年の交際の後で結婚したのだ。


 安井自身は、自己評価は高い方ではない。彼の思いでは自分の顔は平凡だし、体型も平凡、体力・知力は魔力が比較的高かったせいであろうが、魔法の処方のお陰で同じく処方を受けた者のなかでも高い方であるものの、ハヤトに比べれば無いに等しいレベルだと思っていた。


 だから、彼女を口説くには熱意しかないとばかりに、同じ職場の彼女に嫌がられない範囲で熱心に迫った。しかし、周りの女性自衛官からすれば、極めて重要な人物の側近的な存在で、爽やかで明るく、その能力が高いのはすで知れている上に、出世頭の彼はそれなりに有望株であった。


 さらに、ハヤトの今や公然の恋人の浅井みどりの密かな根回しもあったのであろう。このカップルは、割にスムーズに結ばれることになり、今年の3月に結婚したのだ。彼女の父親は平凡なサラリーマンであり、安井が高卒ということで、最初はいい顔をしなかったが、あの二宮ハヤトの親友で、幹部候補生を経て、防大卒にも劣らない出世をしていることを聞いて歓迎に転じている。


 今日は5月29日であり、かの尖閣沖海空戦の5年後であり、記念日ということでもないが日曜日ということもあって、友人同士で集まって軽く飲もうかということになったのだ。

 出席者は他にハヤトの同級生であるワールド・ジュエリーに勤めている田川欣伍とエンジニアでメーカー勤めの清水健司がそれぞれ彼女を連れてくるはずであり、ハヤトは浅井みどりを連れて(連れられて?)くる。


 電車内を見渡して、安井は『それにしてもハヤトが日本をすっかり変えたな』としみじみ思う。

 ハヤトが帰って来てから、自分が北朝鮮の核ミサイルの問題で自衛隊に引っ張り込んで、彼の能力で北の核を無力化してしまった。

 その結果として韓国と北朝鮮のクーデターが起き、日本のそちらからの危機は去った。それにしても、“まもる君”はナイス・アイデイアであった。今や、こども達のアイドルと化して様々なアニメ、キャラクター製品に使われているが、これは一つには防衛省が自由に使うことを許したことも、広まった一つの原因であろう。



 韓国は、それほど変わらなかった。白前大統領の、賃金を政府が命令して無理に上昇させて、かつ公務員を大幅に増やせば経済が成長するという無茶苦茶な経済政策の後遺症に3年以上苦しんだが、現在はゆるやかな回復基調にあるがものの良いとは言えない。

 この間に、危うくデフォルトしかけたが、クーデター政権が慰安婦像を撤去して、日本との合意を守ると宣言した結果、日本とスワップを結ぶことができて、そのおかげでかろうじてそれを免れている。


 韓国は、ほとんどのシステムを日本から持ち込んだせいで、日本とほぼ同じ産業構成になっており、基本的には日本の輸出がいいときは韓国が悪く、逆は良いのである。今は日本が第2次高度成長時代と呼ばれるほどの技術革新が続いており、その製品に非常に競争力があって、韓国を始め他国製品を蹴散らしている。

 従って、韓国の景気が良いわけがないが、横ばいか少し下がりめという程度である。従って、韓国人もあまり元気がなく、慰安婦問題が殆ど偽りであったことを、クーデター政権に明らかにされたこともあって日本を罵る言葉にも勢いがない。


 クーデターで、臨時大統領に就いた金ユッケ中将は、2年後に行われた選挙で正式に選ばれ、現在も大統領の席にある。この大統領は、経済が良くないうえ、親日的ということであまり人気はないが、代わりはいないということ、また前代に白のようなとんでもない大統領を選んだことで、左派は人気がなく消去法でしょうがないとみなされている。どのみち、韓国の大統領は5年が任期で再選ができない。



 北朝鮮は、50年以上も独裁体制を築いていた、金王朝が倒れたわけであるが、この政権のうさん臭さは少しでも頭のある者には明らかであり、安ショジンを首班とする政権が、交代を公にした時も反乱などは起こらず、殆ど混乱はなかった。


 指導者に収まった安ショジン准将は、職名を臨時大統領としたが、核開発を止め、IAEAの査察も受け入れ、さらにドル偽札を製造を止め、麻薬の販売、密輸等を止めたことで、アメリカをはじめとする国際社会と和解した。

 さらに、日本と韓国に対して拉致被害者の情報を公開して、面会・帰国を自由にさせた。その結果、日本人の生存者28名の内、15人はその北朝鮮でできた家族と共に、または単身で日本に帰国したが、13人は残った。


 そのうえで、ひっ迫した食糧事情を明らかにして、緊急食糧援助を呼びかけた。

 アメリカにしてみれば、北朝鮮という頭の痛い問題が片付き、戦争をする必要もなくなったわけであるため、ある程度の食料を援助することに問題はなかった。


 日本は、新指導者が日本人ハーフ、しかも拉致被害者の息子ということが判ったとたん、いっぺんで北朝鮮に甘くなり、100万トンの備蓄米の半分を供与している。安は選挙で正式に指導者に選ばれてから日本を訪問して、母の故郷を訪れ大歓迎を受けている。

 この上に韓国も含めたこうした食糧援助によって、北朝鮮では虎の子の隠し財産を使わずに食料危機を乗り越えることができた。


 さらに、韓国からは、日本からスワップを結ぶ際の約束で無償20億㌦、有償50億㌦の援助、日本からは資金提供はなかったが、過去5年間で5千億円の無償資金協力事業、1兆円の有償資金協力事業を受けている。

 さらに、韓国・日本ほどではないが、やはり過去5年で各国から主として無償で100億ドルを超える援助を受けている。これらの援助は、2500万の人口に対しであり、日本などの先進国からすればわずかなものであるが、クーデター前のGDPが150億㌦程度ということを考えれば莫大なものである。


 日本の事業は主として、港湾整備、工場用地開発、農業開発・鉱山開発等に集中し、北朝鮮の教育レベルが思ったより高いことを知った日本企業が韓国企業とともに多数進出するのを手助けしている。その結果、5年経過した現在では北朝鮮のGDPは3倍の450億㌦となって、人々が少なくとも飢えることのない生活が送れるようになっている。


 ちなみに、北朝鮮の選挙は初めてのことであるため、準備が遅れて安臨時大統領が当初言った、1年以内ではなく2年後になった。

 選挙は50人の国会議員と大統領について行ったが、まだ民主主義が根付いていないこともあって、特に混乱なく安らが推薦した候補が当選した。地方は、今のところ国が任命したものが運営しているが、来年くらいには12の県の知事の選挙を行うべく準備をしている。



 ちなみに、日本と戦って無残に敗れた中国であるが、日本との戦いに先立って、アジアの多くの国と大使館に武器を備蓄しているということで対立していた。

 戦いに敗れた結果、中国政府は全ての責任を周前主席に押しつけた。尖閣沖で敗れ、対艦弾道弾が破壊されたその夜に、周は拘束され、臨時政府が首相の楊のもとで臨時執行部として施政を担うことが公表された。


 さらに、周は各国に大使館の査察を受け入れること、どういうものが備蓄されているか、周及び周と同じく拘束された政治委員崔ジュンキョ以外は承知していない旨が発表された。

 なお、崔ジュンキョについては、周の側近として、大使館関係の不透明な管理と他にとりわけ女性にたいする非人道的なふるまいが明らかになったとして、処刑されることになっているとの発表もあった。


 査察を受けた大使館のうち、12か国の大使館から武器の備蓄が発見されて各国に没収された。

 これに対し、首相の楊は声明を出している。


「様々な国の、我が国の大使館に武器が備蓄されていたことに対して、現在政権を担う者として、先に発見された日本も含めて深く陳謝するものである。この行為は前主席であった周と、崔政治委員が我々に隠れて行ったものであり、今後は2度とこういうことのないようにしたい。

 現在、主たる実行を命じたものとして、周前主席は拘束中であるが、厳正なる裁判によって、厳しく裁かれることになる。さらに、主として周から命じられ、その実行に際し、しばしば自らの欲を満たすための行動があった崔についても、同様に裁くがこの場合には死刑以外の刑はないと考えている。

 さて、こうしたことが起きたのは、一党独裁であって、個人に権力が集中するシステムのためである。また、我々指導者は共産党員によりは選ばれているが、これは普通選挙ではない。従って、我が国はより民主的なやり方として、一定以上の歳のすべての国民が参加できる普通選挙を行う。

 我が国では、これまで普通選挙を行ってこなかったが、1年後をめどに、まず政府の現在の首席、及び政治委員に当たるものの選挙を行いたい。選挙対象と、今後改める政府としての仕組み、及びスケジュールは3日後に発表する」


 このように、楊を首班とする現政府スタッフは、周と崔にすべての責任を押し付け、選挙もしない一党独裁を改めることで、今回の戦闘に敗れたこと、各国を敵にしたなどの不手際を逃れようとしたのだ。実際、すでに暴動は起き始めており、これを放置すれば間違いなく政府転覆に繋がると思われる状態の中のことであった。


 3日後には、中国臨時政府は、ロシア及びその衛星国のとっている政体を参考に、大統領、首相、副首相、並びに諸大臣等の政府に、上院200名、下院500名の国会議員からなる政治体制と、各国会議員の選挙区などのその各メンバーの選挙システムが示された。


 この選挙は1年後に行うということで、暴動はほぼ治まった。それは、本当の意味で危険な、政府を転覆させようという意図の暴動は、その指導者になり得るものが、自分も悪くても国会議員くらいにはなれると思ったためであった。


 この楊を中心とした臨時政権の決断は、後に国際社会からも平和な権力移譲の方法として称賛された。ちなみに、選挙は約束から半年遅れて行われ、楊が大統領に就任することになった。

 この中国という存在は、好むと好まざるに拘わらず、世界の経済の大きなピースであり、これが混乱のうちに崩壊するなどということは、世界経済にとっておおきな損失になりえたのだ。


 また、自国の中国大使館に武器を備蓄された各国にしても、経済・社会的な繋がりが強いから中国側もそういうことをしたわけである。したがって、このことをもって中国と国交断絶とはいかないわけで、中国からの特使による詫びを受け入れるしかなかった。しかし、今後中国大使館は、一定の査察を受けることを受け入れるのは、中国側としてもやむを得ない措置であろう。


 そういう意味では、もっとも深刻に中国と争った日本であるが、日本にとっても中国は重要な貿易の相手国であり、簡単に縁を切る訳にいかない相手である。また、日本にとっては、中国の主要な武装を破壊し、核ミサイルを日本にとって無力化した時点で、中国はすでに脅威ではなくなっていた。

 

 その上に、中国は周辺諸国に威圧的なスタンスを改め、20年前に帰ったように周辺諸国、日本を含む西側諸国に融和的になっている。まあ、かってと違い、経済力が大きくなっているので、また前のようにブイブイ言うのは10年足らず先だろう。

 それまでに、魔法によって国民の力がずっと上がっている日本が、その先に行っておけばいいのだ。したがって、日本と中国は尖閣沖の戦闘が起きなかったかのように付き合いを続けている。


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