戦闘!
遂に戦闘に入ります。
さらに、艦隊の総司令官である広山は、座って待機している水井を向いて言う。
「水井特防衛担当官、敵への攻撃を開始してくれ」
「はい!了解しました!」
水井は広山に向けて敬礼し、直ちに魔法を振り絞ってマーキングしていたミサイルの炸薬を発火させた。彼は、相手の3群のうち、最も大きい東海艦隊が前評判からも、その艦隊行動からも最も練度が高いということを艦長や、情報士官から聞いていたので、最初に東海艦隊の料理にかかったのだ。
時間との勝負のいま、手ごわい敵から先に片付けるのは当たり前の話である。最初に処理されたのは空母遼寧である。まさに艦載機の発艦を行おうとしていた時、艦側のミサイル・サイロの中の一発がはじけた。
それは、艦対艦ミサイルの200kgの炸薬が発火爆発したもので、当然6発の並びの同じサイロの弾頭も誘爆した。その結果、断続的ではあったが合計1200kgの高性能爆薬が爆発した衝撃はすさまじく、まさに離艦しようとしていたSu20改はその衝撃を受けて海に転げ落ちた。
加えて、空母遼寧の右舷はこのことで大きく削り取られ、5分後には20度もの傾きを見せ沈没も時間の問題となった。艦隊司令部は、幸い左舷にあったため、司令要員は命を失うことはなかったが、黄総司令官は衝撃によって壁にたたきつけられて失神した。
さらに、陳空軍司令官は倒れてきた棚を足で受けて骨折したが、日常の運動を欠かしていない政少将のみはとっさに床に伏せて無事であった。
しかし、すでに司令機能を失った遼寧でできることは何もなく、政少将は、結局2人の上官を助けだすのが精いっぱいであった。『あの日本の“まもる君”が、攻撃にも使えて、実際に使ってくるという予測は本当だったのだな』艦隊の指揮も執れなくなり、むなしさで一杯の政少将の遼寧を去るときの感慨であった。
こうして、東海艦隊の艦が1隻また1隻とミサイルが爆発して、多くの場合は同じサイロのミサイルの爆薬に誘爆していく。一方で、自衛隊の各護衛艦は、水井が東海艦隊を2分以内に片付けるということで、北海及び南海艦隊に対艦ミサイルを放った。
自衛隊側の護衛艦は基本的に相手各艦について3発を撃ったが、当然中国側の両艦隊の各艦は迎撃ミサイルを放ち、システムの弱点はあるものの自衛隊側の大体3発に2発を迎撃した。加えて、バルカン砲でさらに迎撃されるものもあり、狙った23隻のうち2隻は2発以上が命中し、6隻が1発命中、他は破片を浴びる程度で済んだ。しかし、これらについては水井による破壊が待っていた。彼は生き残った各艦のミサイルの炸薬を順次爆破していき、最終的には7分で全艦の処理を終えた。
一方、東海艦隊の艦は、数秒に1隻のミサイルを爆破する水井の破壊によって、その爆発のあった艦はほぼ例外なくシステムがダウンして、機能を失って攻撃も防御もできなくなった。しかし、さすがにそれなりに訓練を積んだ艦隊だけはあって、約半数12隻が対艦ミサイルを放ったが、僚艦の爆発を見て慌てての発射もあり、あさっての方向に向いて飛翔していったものも多く、実際に護衛艦に向かったものは45発であった。
一方で、北海・南海艦隊は、護衛艦の対艦ミサイルに狙われたわけであるが、練度の低い両艦隊と言えども、さすがに平均各艦6発の対艦ミサイルを自衛隊艦隊に向けて発射したが130発のミサイルの内、寄せ集めのシステムを碌に調整していないため半数はあさっての方向に飛んでいき、60発が護衛艦隊に向かった。
しかし、東海艦隊のミサイルはその半分は東海艦隊の艦艇を片付ながら水井が撃墜し、ハヤトが北海・南海艦隊からのミサイルは、航空部隊の殲滅の間を縫って撃墜に当たり、2/3程度を片付けている。
こうして数の減った残りの大部分は自衛隊のイージス・システムの餌食になった。しかし、何事にも完ぺきということはなく、2発はミサイルによる迎撃に失敗して、護衛艦ありあけとはりまに迫った。
これらのミサイルは最後にはバルカン砲によって撃墜されたが、ありあけについては破片による被害が生じて、1名の海士、仁科1士21歳が腕をえぐられる怪我をした。
彼は、日本名“尖閣沖海空戦”における唯一の負傷者ということで、時の人になったしまった。ちょくちょくテレビにも出演するようになって、その負傷を見せて体験談を語ったが、そのうちに、ひょうきんな人柄から人気者になり、半年後には自衛隊を退官してタレントになっている。
ちなみに、尖閣沖に向かった攻撃機と戦闘機は各300機のうち、攻撃機の43機、戦闘機の33機が途中で機体の故障がでたということで引き返しており、うち15機は不時着している。
しかし、余りに数が多いということで後に調査が行われた結果、機体に問題はなかったというものが半分あり、パイロットは営倉に入れられ、懲役刑を食らっている。しかし、後の結果を見れば彼らが賢かったというネットの評判になった。
こうして、攻撃機は257機、戦闘機267機が尖閣沖の自衛隊艦隊に向かったが、これらの機のパイロットは、最初の空対艦ミサイルを撃ったことになったことで、すでに戦端を切ったという意識がなかった。
それは、いきなり始まった。各機体の翼に吊るしているミサイルの弾頭が次々に爆発していくのだ。対艦ミサイルということで200kg近くの高性能火薬が詰まっている弾頭が爆発すると、それを吊っている攻撃機はあっという間にばらばらに爆散する。
しかし、戦闘機の場合は吊るしていた総重量50kg内外の空対空ミサイルでは、翼は吹き飛ぶものの胴体部に大きな損傷はなく、片翼になってきりもみ状態にはなるが、新米はそれを立て直せずそのまま墜落していくものの、それをコントロールできる腕のあるベテランは脱出可能であった。
この編隊のあるベテランパイロットが、ハヤトによりたちまち爆発していくミサイルに気が付き、「ミサイルが爆破されている、ミサイルを捨てろ!」そのように送信した。
次々に爆発していく僚機にパニックになったパイロットは、その声に狙いも何もなく闇雲にミサイルを発射する。ハヤトは400km彼方からそれを感知して『却って危ないな』と思い、自衛隊の艦隊に向かう対艦・対空ミサイルは爆破する。
半数以上が爆破され、ミサイルを捨てた中国空軍の100機程度の攻撃機と、150機程度の戦闘機は、ミサイルを捨て帰還しようとするが、そこに空中管制機に誘導された自衛隊機が到着する。
すべての自衛隊機は空対空ミサイルを定数積んでおり、それらを中国機めがけて全弾撃ち放ち帰還する。約200機の自衛隊機から放たれた、約1600発の空対空ミサイルは中国軍の如何なるエースパイロットにも避けようはなく、極めて運のよい戦闘機2機が生き残って基地に帰還したのみであった。
ちなみに、最初にミサイルが暴発したのはハヤトの仕業である。これは、中国軍の思惑通りに近接した後にミサイルを撃たれたら、勝ちは動かないとしても自衛隊側に相当な被害が生じることは間違いない。ズルかもしれないが、ハヤトにしてみれば、そんなナンセンスな制限を自らにかける方がおかしいのであって、まったく良心の呵責などはない。
結局、空母遼寧轟沈、他の駆逐艦とフリゲート艦の半数は轟沈し、浮いている艦も見かけも中身もすべてスクラップになっており、その後6時間以内にそのまた半数が沈没した。
開戦から1時間後に浮いている艦は、18隻のみでその内7隻はその2時間後に沈没した。残った11隻のうちで部分的に機能が残った艦は8隻であり、自航能力があるのはわずか3隻であったが、これらは全て白旗を掲げて降伏した。
しかし、艦隊のとりわけ北海・南海艦隊の乗組員の大部分は戦闘が始まった途端に逃げる構えをして、ミサイルが爆発または当たりそうになると海に飛び込むという、考えようによってはとんでもない行動をした。東海艦隊にしても、艦が被害を生じた時点で我先に飛び込んで逃げ出している。これらの水兵は、あらかじめ逃げる用意をしていただけあって、用意周到であり、浮きや水食糧まで準備していた。この辺りの逞しさは日本人にはできないことである。
これは、彼らが父母または祖父母から『危なくなったらすぐ逃げろ。そして日本の艦に向かって泳げ。日本人は中国兵と違って助けてくれるから』と常々言われてきた成果である。
また海に逃げた彼らにとって、先述の周到な準備と晩春の温暖な水温のために意外に死者は少なく、8千人以上が日本の護衛艦に救い上げられた。生き残った艦にも、当然多くのものが救助されたが結局1万5千人の乗組員の内の1万人を超える乗員が生き残った。
しかし、戦闘機に各1名、攻撃機に各2名乗っていた航空兵は、逃げ戻れた2機の戦闘機のパイロットの他は、非常脱出できたわずか25名のベテランが生き残ったのみであった。
ちなみに中国軍の潜水艦については、彼らも6艦が日本艦隊に近づき射点に着こうとしたが、日本の地震観測網(?)に簡単に検知され、ヘリに4隻が撃沈され、2隻は日本の潜水艦に撃沈された。これで、さらに約600名が海底で戦死したのだ。
中南海はすでにお通夜状態であった。生き残った艦からは、海軍の完全な敗戦はほぼ正確な報告が上がっており、その後生き残った機体が基地に到着して、空軍の壊滅も報告された。
潜水艦については、今のところではわからないが、敵に何の損害はないことはあきらかである。
軍事委員の祭ジンサイは、そのような悲惨な報告のある都度、自分を睨むすでに独裁者である周主席の眼光に生きた心地がしなかった。誰がどう見ても言い訳のしようのない完全な敗戦である。
戦いで死んだ、空軍の700人以上、海軍の5000人余は政の感覚では大した話ではないが、海軍と空軍の最良の機材が大量に失われたのだ。核ミサイルが対日本で無力化され、通常兵器においても陸を除けば戦力は半分以下になったことになる。
「DF-21Dです。対艦弾道弾であれば、かれらの艦隊を滅ぼせます」
崔は言い、総参謀長の明リョウタクがなかば賛同する。
「かれらは、北朝鮮のロフテッド軌道の弾道弾を落として見せました。ですから、対艦弾道弾を落とす能力があることは明らかです。しかし、今のところ数に対する対処能力が一つカギだと思います。
私は、わが航空部隊の異常なミサイル発射は彼らが燃料に着火して発射させた可能性が高いと思います。そうであれば、わが方が近づくことを嫌ったわけですから、飽和攻撃は有効かもしれません。
現在、発射可能なDF-21Dは約100発です。しかし、これは全くの賭けですね」
「うむ、しかし、我々にはもう残された手段はそれしかない。それ以外には日本への屈服を認めるしかない」周主席が言うが、首相の楊ジンカクが重々しく口をはさむ。
「確かに、周主席、あなたにはもうそれしかないですな。現地での騒乱を狙って、大使館に武器を秘匿するというリスクを冒し、結果として世界中から我が国が爪はじきというより敵視される結果を招いた。それを、強引に押し切ろうと日本に戦いを仕掛けたが見事に破れた。
結果的に言えば、あの日本人ニノミヤの母と妹に手を出そうとしたのがそもそもの躓きでしたな。多分、日本大使館の件も彼の仕業でしょう」
楊首相が言葉を切って、中国の政治の舵をとる出席者の面々を見渡した。この楊の言葉に、すでに話の通っている皆は深く頷く。楊は言葉を続ける。
「これまでも、夜郎自大な野望で軍事的な冒険を続けた結果、一挙に西側を警戒させ、さらに強圧的な手法に海外民間企業も、我が国を離れようとしており経済も甚だよろしくない。
我が国には今やすでに敵しかおりませんぞ。
あなたが、その最後の手段を失敗した場合には、これを解決する手段はあなたに全ての間違いを背負ってもらって、アメリカ、日本をはじめとした国々に今までの傲慢を謝るしかないでしょうな」
楊の静かな声に、周はなかば頭に血が上って「衛兵!」と呼ばわるが、答える者はなく、出席者の周を見る目は冷たい。
周は状況を理解した。皇帝になろうとした男は、姿勢を正し襟を整えて、最初に楊首相を次には皆を睨みつけて言う。
「よろしい、わかった。では、最後の賭けに出るとするかな。祭軍事委員、DF-21Dを発射できる限り全弾、日本艦隊に向かって発射せよ」3時間後、祭のもとに95発のDF-21Dの発射準備が整ったと連絡がきた。




