開戦!
遂に開戦です。
中国艦隊は、東海艦隊の根拠地であるニンポー、またはその近海から3つに分かれて出発し、尖閣諸島、中国名釣魚島を目指したが、3つに艦隊を分けている。
これは、全体の半分を占める東海艦隊、1/4の北海艦隊、さらに残り1/4の南海艦隊であるが、全体を統括する司令官は旗艦となった空母遼寧に座乗する東海艦隊司令官黄リョウイ大将である。
空母遼寧には空軍から派遣されている、陳サイゼン中将が乗っており、出動予定の攻撃機、戦闘機各300機の指揮を執ることになっている。艦隊を3つに分けたのは、急ごしらえの編成では指揮に支障をきたす可能性が強いということで、北海・南海艦隊にはそれぞれの艦隊所属の中将の指揮官が指揮を執っている。
旗艦の空母遼寧においては、レーダーの索敵範囲にもうすぐ釣魚島が入るという、事実上開戦前の最後のタイミングで、白髪の黄総司令官に若手参謀長の政ギョウカイ少将に、空軍の陳チョンイ中将が協議をしている。
若手の政少将は、名うてのリアリストで物事に対する冷静な分析と、歯に衣を着せぬ物言いで知られている。
「陳閣下もお知りになっていた方がよろしいと思われるので、私どもの艦隊の問題点を率直に申し上げておきます」政少将が口火を切った。
「まず、わが東海艦隊は黄総司令官の下で、弾薬・装備もそれなりに整っており訓練もそれなりのレベルです。
しかし、全体の1/4を占める北海艦隊の司令官の民中将は、金で階級を買った軍人であり、その軍の規律は緩んでおり、弾薬・装備にしてもどれだけ定量を満たしているか極めて怪しいと考えています。そして、残念ながら南海艦隊はもう少しひどいと思われます」
一旦、口をつぐむ政少将を『そこまで言っていいのか』と言いたげに見ている空軍の陳中将は、沈痛な思いで自分の指揮下に入っている戦闘部隊の事を考えていた。
実際に、今回の出動が決まって出撃する機体を選定し、ミサイル、爆弾を集積して点検しようとしたところ、まず使えない機体が2割あった。さらに、ミサイルこそリストの8割があったが、あまり出番がないと言われている爆弾に至っては5割しか備蓄リストに対してなかったのだ。
『あれは、機体についての部品、ミサイル、爆弾はそれを買ったことにして頭の黒いネズミどもが着服したのだ。動くという機体もどこまで動くかあやしいものだ』陳中将は思う。
さらに大きな問題は、パイロットの練度である。情報部から上がってくる、航空自衛隊とわが方のパイロットの訓練時間では3:1程度の差がある。
これも、機体の数が揃えばいいという軍中央の、軍に対する浅い認識と、やはり燃料費を着服するネズミどものせいだ。今回ようやくそろえたかろうじて飛べる300機の攻撃機のうち半数は敵艦隊の近くまで飛んで、ミサイルを撃てればいい方で、爆弾は殆ど投下できないだろう。
機体も、結局新しいJH-7は半数であり、半数は古いQ-5であってたいした戦闘力はない。戦闘機もステルスのJ-20、100機をかろうじて揃えられているが、他はSu-27、ロシア製の劣化版であり、このパイロットも飛ばすのが精いっぱいというレベルが半数だ。
自衛隊は、戦闘機、戦闘爆撃機200機というが、彼らのパイロットの練度ははるかに高い上、我が国と違って頭の黒いネズミは居ない点で、わが方の600機と互角、あるいは上かも知れんな。
しかし、相手に犠牲を強いることはできるであろうし、生き残る数はこちらの方が多いだろう。結局、中南海の狙いはできるだけ相手を殺して、小日本の政権を崩壊させることだからな。
陳中将は、その自衛隊の何倍もの自軍の死者、ほとんどすべての兵が一人っ子で両親、曾祖父母の思いを背負っている、そのことを思って暗澹たる気持ちになった。
また、そうした兵の命を使い捨てることをなんとも思わない自国の指導者を思って怒りがまた募るのを感じた。
しかし、集中せねばならない、政少将が言葉を続けている。
「わが方の旗艦はこの遼寧ですが、ご存知の通りこれはウクライナからスクラップで買ったものを改修・整備したものであります。中にある司令部は大変このように豪華で立派でありますが、軍艦としては極めて脆弱で司令部としての機能も不十分です。
大体、艦載機は30機積んでおりますが、離艦時には燃料を半分、兵装も半分程度しか積めませんので、戦闘艦としての機能は極めてお寒いものです。
さらに、北海・内海艦隊の実力についてお寒いのは先ほど申しましたが、我が東海艦隊についても相当に問題があります。我々は、それなりに訓練は重ねてきて、必要な練度は保っていると思っておりますが、艦そのもののシステムに大きな弱点を抱えております。
これは、我が国の兵器体系すべてに言えることですが、数とカタログ性能が揃っていれば満足しているのですが、全体としてのシステムの実用に重きを置いていません。例えば、最新の055型駆逐艦、これは我が東海艦隊に12隻、他の2つの艦隊にの8隻加わっている最大の戦力であります。
この船体は、無論我が国で作っておりますが、ミサイル・システムはイスラエル、艦砲はスェーデン、レーダー・システムはスイス、全体の統御システムをフランスという具合です。全くの寄せ集めシステムの船体であり、それでも、全体のアセンブルを国内で理解してやっていればいいのですが、それは殆どなされておりません。
わが東海艦隊は、引き取ったのちになんとか動くようにしましたが、動作の時間に遅れが出る、実戦時の誤作動の可能性は大いにあり得ます。北海・南海艦隊の055型駆逐艦の状態も密かに調べましたが、何しろあちらは上層部が腐っていますから、問題はそのまま残されているようです。
結局、かれらの8隻の最新駆逐艦について航行は出来るが、戦闘システムが殆どあてにならないということです。それは、基本的に全体のほぼ半数の数を占めるフリゲート艦も同じだと思います。
なお、今回宗級の攻撃型潜水艦も10艦が駆り出されておりますが、日本にヘリ空母がおりますし、彼らの潜水艦も出ているはずなのでまず相手になりません。
ちなみに、敵の日本軍の海上の戦闘艦は我が方のほぼ半分です。つまり、ほぼ信頼できない半数の我が方の艦隊を除けば同数であるわけです。私は、艦隊同士のたたき合いになれば、わが方が全滅、日本側が半分または1/3が生き残ると思っております。
全艦体の乗員1万5千人の7割から8割が死ぬでしょう。日本側も、全部で多分5千人以上の乗員の1/3以上は死ぬでしょうね。それでも、中南海としては、日本の現政権を倒したという目的を達成したというでしょう。しかし、わが海軍はその構成のうちの最良の機材の半数及び戦闘員の最良の部分の多くを失うわけですから、10年以上は立ち直ることはできないでしょう」
政少将は長い話の後、陳中将を見つめて話を続ける。
「そうした、我々の望みは、大幅に日本側を上回る航空戦力です。航空部隊で、日本の航空部隊を退け、日本艦隊をある程度叩いていただければ、我々が勝利の状態に持っていける可能性が高くなります。無論、空軍とて、わが海軍と根っこが同じ問題があることは承知していますが、いかがでしょうか?」
陳中将は、話が終わった後の期待する政少将からの視線を受けて、思わず黄総司令官を見る。しかし、司令官もその視線に目で答え頷いている。
陳中将はあきらめて、空軍の今回出動する戦闘部隊の実情を説明し話を結んだ。
「結局、我々も頼みは日本政府が発表した、領海を越えない、最初の一発を撃たない限りにおいては、彼ら自衛隊は攻撃できないという点です。まさに、あの奇妙な憲法のお陰ですね。要は最初の一撃の時にどれだけ相手に接近してどれだけの損害を与えるかということに尽きます」
その言葉に、黄総司令官がため息をついて応じる。「はあ、そうではないかと思っていたが、空軍も同じであったか。それにしても、客観的かつ的確な分析ができる貴官が空軍の司令官で助かった。これが、買官の司令官であったらと思うとぞっとする」
「その点の人事は総参謀長の明が采配をふるったそうなのです。それで、海軍側としてどのような方針で?」陳空軍司令官の言葉に、政少将が応じる。
「こちらも一緒です。どうしても射程が長いと迎撃も攻撃も日本側に有利になる。ですから、出来るだけ近づいて戦闘を始めたい。その意味では、先ほど言われた日本側が引いたラインは有難いですね。
ああ、いま艦隊は釣魚島から500㎞の線を越ました。今後の、空軍との攻撃のタイミングの調整ですが、できたらわが艦隊は敵艦隊から50㎞程度で攻撃を開始したい。
出来ましたらそのタイミングの前、そう我が艦隊が80kmに近づいた時点で、彼らに接敵できるタイミングでお願いできれば有難いのですが、いかがでしょうか?」
「ええ、よろしい。航空攻撃は相手から10㎞で始めようと思っている。そのタイミングでは、彼らは殆ど対艦ミサイルは撃墜・回避できまい」陳中将が答え、政少将が付け加える。
「航空機が、音速以下の時速800kmで近づくとして、我々が時速約35kmだから、開戦は我々の艦隊が彼らから100kmの距離ですね」
自衛隊の旗艦あきづき艦内で、水井特防衛担当官(だれもが魔法担当官とよんでいるが)は緊張に掌が汗ばむのを感じ、その緊張を隠すために顎を撫でるふりをして拭う。
彼は、艦周辺のマップ半径700km程度が示されている大スクリーンのある指令室に、小さなデスクと座り心地のよい椅子が与えられている。そのスクリーンには、赤く示されている敵艦が多数近づきつつあるため、自分たちを殺そうと近づいてくるそれを見て緊張しない者はいない。
艦隊全体の総司令官のごま塩頭である広山慎吾海将が、その水井のしぐさを横目で見て、その緊張をみてとり柔和な顔で柔らかく笑って言う。
「水井君、まあ緊張はするだろうが、それは皆一緒だぞ。私だって、ほら掌に汗をかいている。緊張するのは当たり前だ。緊張しつつ、どんな事態でも対応できるようにリラックスに勤めることだな。ここにはたくさんの君の仲間がいて、心を合わせて一緒に戦うのだ」
その言葉を受けた時、水井は自分の肩に温かい手が置かれるのを感じた。それは物理的な手ではなくて、励ますべく送ってくれたハヤトの念だ。水井は、司令官とハヤトの励ましに奮い立つのを感じ、いままでやっていた、敵の艦艇の探査を続けた。
彼はハヤトと協議の上で、艦艇は水井、航空機はハヤトの役割を決めており、水井は近づく艦艇のミサイルの炸薬をマーキングしていのだ。探査の効率、スピードさらに炸薬の発火がどうしてもハヤトには大幅に劣る彼は、長時間探査が可能な艦艇のミサイルをマーキングして、探査の時間を大幅に短縮しようというものなのだ。
彼が必要と考えたマーキングが終わった時、通信担当官の朝野2尉が叫ぶ。
「広山司令官殿、本部から連絡です。衛星からの情報によると、中国本土の8カ所の基地からマークしていた攻撃機が離陸して上空で集結しているそうです。
また、戦闘機の離陸も始まったそうなので、多分20分もすれば本艦のレーダーに映るかと思われます。また、スクランブル状態であった、那覇基地のF15が離陸にかかっています」
それに対して、広山司令官は短く応じ、自分の端末で情報を確認している。
「朝野2尉、ありがとう。わかった」
緊張のなかで、やがて敵の航空機のピンクの点が多数現れ近づいてくる。敵の艦隊の先頭は100kmの線を越えたところである。
「敵航空機が400kmの距離です」計測班の海津海曹長が叫ぶ。
それからほどなく、「あ!敵ミサイル発射!」の声が聞こえる。
確かに先頭に近い機から何かが分離されてこちらに向かってくる。その発射に、またいくつかの機が続き、ミサイル様のものを発射する。
中国軍、南京空軍集団第8航空師団、第2大隊、第3分隊の斎少佐は、自分の機の空対艦ミサイルが突然発射されたのに仰天した。まだ、敵艦隊から350km余りもあり、射程範囲ではあるが、容易に迎撃される距離だ。
悪いことに分隊長の自分が発射したのを見た、僚機3機が発射してしまった。
「まて、これは誤作動だ、ミサイルは発射してはならん」斎少佐はマイクに叫ぶが後の祭りである。
護衛艦あきつきでは、広山司令官が艦長の山路2佐と顔を見合わせていた。
「彼らの空対艦ミサイルは、そんなに射程が長かったか?」広山の問いに、山路が答え開戦を促す。
「はい、射程内には入っているでしょう。しかし、あの距離なら迎撃が容易ですし、そもそも当たるかどうか怪しいと思います。それより、司令官殿反撃です」
山路が言うまでもなく、広山はすでにマイクを取り上げており、山路の言葉に頷いて命令を下す。
「尖閣派遣艦体の総司令官として命令する。敵はミサイルを放つことにより戦端を切った。従って、わが艦隊が全力で敵に反撃を開始することを許す。適宜、各指揮官の指示のもとに反撃を開始してくれ」それから、艦内の朝野2尉に向けて言う。
「朝野2尉、直ちに本部に連絡!また、近づいている航空部隊にも連絡せよ」
完結済の既作も良かったら読んでください。
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