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ハヤトの復讐2

大使館爆破は結構大事になりました。

 ハヤトはさわやかな朝を迎えたが、大使館のある地区の消防関係者および警察関係者は外事警察を含んで、朝の4時から大騒ぎであった。

 まず、消防署に午前4時前に中国大使館前を通過しようとした新聞の配送車から火事との連絡が入った。消防署は確かに大使館が赤々と燃えているのを確認し、担当の港区の消防署は直ちに当直で組める人員で全力出動し、他の区の消防署にも出動を依頼した。


 現地に着いてみると大使館は赤々と燃えあがっており、また時折爆発音がしている状態であったので、消防車は直ちにホースを消火栓に繋いで外から放水して消火にかかった。そうする中、3階建ての建物のベランダには助けを求める人影があり、消防は開門を求めたが拒否の言葉しか返ってこない。


 やがて、大使の李サンズイがやって来たものの、より強硬に開門を拒否するが、その時点では外務警察の若松警視と外務省から駆け付けた職員が開門を大使に迫る。目の前で、助けを求めるもの2名が居て、助けることができるのは日本の消防隊のみということでは大使も許可せざるを得なかった。

 はっきり言えば、大使の李にしてみれば、助けを求める2人はどうなろうと関心はなかったが、その人命無視の体質を知られるわけにはいかないということだ。こうして、表の門が開かれてはしご車が入り込み、それに合わせて警官が入り込むのを防ぐのをもはや不可能だった。


 庭には、瓦礫に交じって大量の筒のようなものが散らばっている。

「警視!これは、バズーカ砲です。あれは、小銃だ」一緒に入り込んだ衣川警部が叫ぶ。


 そう、地下室にあった大量の火器は爆発で地上に巻き上げられたのだ。若松が、警官隊に指示して、拾い集めさせていたところへ、大使の李が駆け付けて怒鳴りつける。


「私は、消火と救命活動は許可したが、捜査は許さん!警官は直ちに去れ!」しかし、若松はその焼け焦げたバズーカを持って冷たく李に言った。


「確かに、ウィーン条約は大使館等の在外公館の治外法権を謳っていますよ。しかし、それはその公館での活動が、この場合には日本国の基本的な法を守るという前提でのものです。これは、明らかに我が国の法では重大な犯罪になる火器であり、爆発で飛ばされてきたものと思いますが、全体としてはずっと多いはずです。

 しかも、爆発が起きたのはこれらの弾薬類であった可能性が極めて高い。明らかに、貴大使館は国際的な法に照らしてもまた、我が国の法に照らしても重大な違反を犯していると思いますが、どうですか水島参事官?」

 最後に若松は大使のそばにいた、外務省の職員に問いかける。


「若松警視の言う通りです。この大量の火器の存在は、もはや貴大使館が我が国の騒乱の準備をしていたとしか思えません。まさにこれは戦争行為です。直ちに、私は大臣に連絡を取って貴国に厳重な抗議を申し上げる。

 この大使館が、我が国の騒乱を試みているのではないのを確認する捜査が終わるまで、本大使館は治外法権の一時停止とせざるを得ません。ご存知でしょうが、国の安全保障は在外公館の治外法権などよりずっと重いのです」細身の水島の言葉に、李大使は夜目にもわかるほど青ざめた。


「そ、それは……」もはや彼に語る言葉はなかった。


 外務省は、中国大使館が大量の銃火器を隠し持ち、それは国内で騒乱行動を計画していたとしか思えないこと、しかもそれが原因で発火した結果、焼死者6人、重傷5人の、軽症4人の被害を出して、首都の安寧を損ねたことを中国政府に厳重に抗議した。


 合わせて、声明で大使館の焼け跡の捜査を徹底的に行うこと、生き残った大使館要員に対する尋問を行う旨を宣言した。無論、中国政府は厳重に抗議して、日本が何らかの形で大使館を襲って館員を殺害したと非難し、大使館の調査、要員の尋問は許さない旨を言いたてた。

 しかし、捜査に関しては日本政府がすでに開始した以上、鎮火後の捜査で大量の焼けこげた銃器が見つかった。さらに、中国側にも立ち入りを許しそれなりの調査をさせた結果、襲撃の何の証拠もなく、銃器の存在は隠しようがないことから、明らかに弾薬を大量に備蓄した結果の何らかの失火ということになった。


 その日本での大使館で大火及び銃火器の発見は、中国政府にとっては政治的に極めて大きなダメージになった。この調査の結果から、日本のような先進国に、大量の銃器をもちこむような蛮行を行う国に、如何なる信頼も置けないというのが国際社会の総意になった。

 従って、日本の措置に関して中国の言い分に耳を貸す国はなかった。しかも、日本にも中国人が大量に入り込んで働いているが、そうした国は日本だけでなく数多いのだ。各国で、一斉に中国大使館への立ち入り調査の要請が出された。


 中国政府としては、日本の例を出されると拒否は非常に難しいが、悲しいかな大使館に実際に銃器を持ち込んでいる国が多いため許可は出せない。しかし、だんだん各国では国民の声に押されて、その調査・捜査への要求は、要請から要求、さらに命令と厳しくなってくる。


 中国政府は、その動きに焦って、カウンターとして問題の根源たる日本の大使館に内部の捜査要請を出した。中国政府内部では当初大使館の閉鎖命令という話があった。しかし、産業関係を総括する政治委員から、そうした争いから、日本との貿易が止まったら中国に根付きかけているハイテク産業への部品の供給が止まってそれらの産業が全滅するという話に、それは無理であるという話になったのだ。


 日本大使館は、本国の指示によって、あっさり中国政府の要請を受け入れ内部を見せたが、日本を始め各国のジャーナリストを数十人内部に集めていたので、中国の用意した冤罪をかぶせるための銃器・麻薬などは到底設置できなかった。


「やましいことがなければ、別に中を見せても問題ありませんよね」日本大使の弁であり、一方でやましいことが多すぎる中国には藪蛇になった。


 そうするうちに、マレーシアで、中国大使館から運び出したトラックに満載した銃器が摘発された。当然、中国にとってはそれしか手がないわけで、鼻薬をかがせて安全と思ったのが罠であったわけだ。

 これは、もちろんマレーシアのみならず世界中に大々的に報道され、マレーシア政府は大使館を強制捜査すると宣言した。しかし、これに対して中国政府は、強制捜査は戦争行為とみなすと発表し、実際に中国内の軍は臨戦状態に入った。


 しかし、アメリカ様にその手は使えず、マレーシアの例を見て強硬になった世論にも押される形で、連邦裁判所が中国大使館の査察命令を発した。中国政府も渋々それを受け入れ、その捜査の結果、いろいろなものは見つかったが、銃器について自衛用以外は見つかっていない。

 ヨーロッパの国々、ロシア等の大使館についてもアメリカに倣って結局査察を受け入れ、特に問題になるものは見つかっていない。

 しかし、マレーシアを始めとしてアジアの国々に対しては、査察をかたくなに拒んでいるがそれはそうだ。中国の周辺諸国の大使館には、実際に大量の銃器が隠されているのだから。


 中国、中南海ではこの騒ぎについて様々な議論がなされた。主席の周ジンペイが崔ジュンキョをねめつけて叫ぶように言う。

「何という不手際だ。これは全て日本の大使館の火事というか、貯蔵していた弾薬の爆発から始まったのだ。しかし、あのニノミヤという者の肉親を攫おうとして、その実行をした者はすべて捕らえられた。

 しかも、あの焼失した大使館にはその実行責任者の王中佐がおり、かれは当然のように死んでいる。どうも、あの火事は誰かが火をつけたとしか思えんが、そのニノミヤという者は魔法使いというではないか。そいつがやったのではないか。いずれにせよ、この件を管轄していたお前の不手際だ」


「しかし、実行したものは、尋問されたくらいで白状するような者達ではありません。ニノミヤにせよ、日本側に王中佐が実行の責任者であることをする術はないはずです」

 すでに絶対的な独裁者になりつつある周に、崔が恐る恐る反論するが、周から怒鳴り返される。


「あれが偶然だというのか!そんな偶然はある訳はない」しかし、急に周は冷静になって列席者を見渡して言う。


「そういう過ぎたことを言っても始まらん。推定で言っても証拠はない。すでにことは起きたのだ。あとはこの騒ぎをどう決着をつけるかだ。

 まず、大使館からの銃器の持ち出しは、マレーシアで摘発された以上もはや出来ん。しかも今まで手なずけてきた連中も、この件では強硬に査察を言い出しておる。しかし、実際の話として、あらゆる国に戦争を吹っ掛ける訳にはいかん。

 この件の皮切りは日本だ。あの爆発もあいつらの陰謀である可能性が強いとわしは思っている。日本に思い知らせれば他の国も、我が国に逆らえないと思い知るだろう」


 彼は再度列席者を睨み、軍事委員の祭ジンサイに命じる。

「釣魚島に上陸戦を仕掛けよ。必ずや日本はあの強気の首相の阿山の命令で反撃して来るであろう。そこで、彼らの艦船を撃ち滅ぼせ。数千人の兵が死ねば、あの強硬な阿山は退陣せざるを得ないだろう。どうだ。祭?」


 周からの命令に、まさか自分に話を振って来るとは思わなかった祭は焦るが、一応の答えは準備していたので答える。

「は、はい、釣魚島近海の戦闘はすでに検討はされており、わが軍は彼らの倍の戦力が集められます。正直に言って、わが軍にも彼らと同等の損害が考えられますが、間違いなく数の差で彼らの出してくる飛行隊と艦隊はほぼ全滅させることは可能です」


「よし、準備にどのくらいの期間を要するか?」周の再度の問いに、以前の検討と、東海艦隊の司令官の政中将との昨日の会話を思い出して答える。


「はい、そうですね。うーん8日です。北海艦隊と南海艦隊からも艦艇の呼び寄せが必要ですから」


「よし8日でいいが、それまでに準備を完了して、魚釣島近海に展開せよ」

 周が命じ、祭が「了解しました」と受ける。


「それで、楊首相、その場合の通商面の障害は?」

 周は首相の楊に向かって今度は日本との経済面の起こりうる問題を訪ねる。楊首相は、報復に日本大使館を閉鎖しようという議論が起きた時、現状では中国は却って日本に依存している面が強いことを述べ、反対したのだ。


「一定の影響はあるでしょうが、海空戦に限定するなら大きな問題にはならないでしょう。日本軍に言われる損害が生じた場合には、言われる通り日本の政権は崩壊するでしょうし、日本もまた我が国への輸出に輸入は無視できない量になっていますからそれでも貿易は途切れないでしょう。

 しかし、アメリカとは釣魚島近海の戦闘では介入しないという話はついているとしても、調子に乗って沖縄などには絶対に手を出さないようにお願いしますよ」


 楊の答えに周は、「それは解かっている。今の段階でアメリカとことをかまえる気はない」そう答える、さらに外務を担当する高外相に命じる。


「まず、大使館の火事は母と妹を攫われかけて、逆上したニノミヤというものが起こしたもので、そのため多くの死者と重傷者を出したと、手なずけているマスコミのものに騒がせろ」


 高はそれに対して考えながら返事をする。「それは可能ですが、むしろ逆効果になるかもしれませんね。ニノミヤの母と妹を狙ったというのが我が国の国民であることはすでに新聞、週刊誌に書かれて知られており、しかも西中華航空機を使ったことで、政府が関与したことはバレバレです。

 西中華航空の貨物便は日本乗り入れを禁じられましたし、表に出せない運搬には今後不自由しますよ」


 高は列席者を見渡し続ける。「さらに、やはり大使館の大量の銃器が見つかったことで、日本人の我が国に対する嫌悪感は非常に強くなっています。それが、結び付けられたのは、100万人に及ぶ日本で働いている我が国の国民であり、さらに、いざことがあれば、我が国の海外にいる国民も国の指示に従うようにという『国防動員法』です。

 我が国の国民が大量にいて、彼らは母国の法で現地で兵になることを強制されうるその上に、その国の大使館には大量の銃器が隠されていた。これは誰でも警戒しますよね。

 実際、中国人ということで職を失うものが続出しています。ですから、そんなキャンペーンに意味はないと思いますし、我が国に対する反感が増すだけです。ただ、確かに戦闘で数千人の自衛隊員が死ねば、首相は責任を取らざるを得ないでしょうね」


 周も流石に馬鹿ではなく、高の言ったようなことは感じていた。やむをえず彼は高に再度命じる。

「わかった、日本で手なずけているマスコミと野党の連中にも、反撃は憲法に反すると言って騒がせ、損害が出たら退陣を焚き付けろ。それは出来るだろう?」


「ええ、野党の連中は自分の票のことしか頭にありませんから、与党の邪魔になることならなんでもしますからね。マスコミの連中には、日本を貶めることが生きがいみたいな連中がいますし、そういう奴らは金に弱いですから」高は応じる。



 ハヤトは、大使館の爆破の思ったより大きな効果に少し戸惑っていた。今では、日本のマスコミは完全に中国警戒論で沸き立っていた。ハヤトも、外事警察の若松にその夜の行動は匂わせていたので、待機していて出動はするだろうなとは思っていた。

 しかし、ひょっとしたらとは思っていたので、念動力で弾薬の上に火器を載せておいたが、そう都合よく外に飛び出て、中に入った日本人の目に留まるとは思っていなかった。


 ハヤトが、安井と遅めの朝食を取る駐屯地内の食堂のテレビでは、朝刊には間に合わなかったものの現場からの中継は行われており、興奮したアナウンサーが大使館の火事そのものより見つかった火器についてしゃべっていた。

 安井が、ハヤトを怪しみながら睨んで言う。

「ハヤト、お前今朝は遅かったし、まだ眠そうじゃないか。昨夜は何をしていた?」


「いやいや、母さんとさつきが心配でな。心配で寝つきが悪かったのよ」ハヤトの答えに安井は顔をしかめて返す。


「嘘をつけ。昨夜は清水さんの慰めてやろうという誘いも断っただろ。あれ、お前だろう?」


 テレビを指しながらの安井のその言葉に、ハヤトは真顔になって返事をする。「ああ、お前は知っておいた方がいいかもな。俺だよ、思ったより効果はあったな」


「うーん、まあ、聞いてなかった方が良かったかもな」安井は顔をしかめて言う。

明日も更新します。

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