第2次朝鮮戦争終結とその後
読んでいただいて感謝します。
朝鮮半島編は終わります。
国境から北側に入ったところで、そうやって混乱している韓国の戦車部隊に人影が多数走り寄り、持っていた筒を戦車に向けて筒から火を放つ。その携行ロケット砲(バズーカ砲)が狙っているのはキャタピラーであり、狙われた戦車はそれを破壊されて擱座する。
無論人影は、戦車そのものの機銃を浴び、また戦車に続いていた韓国の歩兵の集中攻撃を浴びてあるものは、銃弾に倒れ伏し、あるものはロケット弾に銃弾を浴びてそれが爆発して爆死する。しかし、戦車に比べ人影の数が多く、残った80両ほどの戦車の半分ほどは擱座してしまった。
そこに、韓国軍のヘリ部隊がごうごうと音をさせて近寄ってくるが、戦闘爆撃機すら撃ち落とすミサイルの前には無力であり、たちまち30機中12機を落とされて慌てて後退していった。それに対して、歩兵を後ろに従えて北の戦車120両ほどが近づいてくるが、混乱しながらも韓国軍の戦車が反撃する。
流石に世代の違う韓国の戦車は強く、次々に北の戦車は撃破されていくが、やはりすでに3倍の数のある北側の戦車の集中的に砲弾を浴びて1両また1両と撃破されていく。
その戦車同士の戦いの傍ら、遂に歩兵同士の白兵戦が始まった。携行ロケット、手榴弾、小銃と銃剣に加え、それこそピストルも使ってのドロドロの戦いが繰り広げられた。
南の2万8千に対し、北の2万2千の戦いであるが、人数は少ないものの特殊部隊が7割を占める北は白兵戦に強いが、韓国も第8師団を中心に誇りをもって戦っている。銃弾を浴びて、血が飛び散る、銃剣に顔を刺される、手榴弾で臓器をまき散らしながら吹き飛ぶ、ロケット弾で2人・3人とまとめて血をまき散らしながら吹き飛ぶ。こうして、どんどん兵が死んでいく。
状況を見ながら、韓国軍朴少将は焦りを隠せなかった。航空攻撃は限定的なものにとどまり、戦車は何かの仕掛けで半数が無力化された結果、その数で圧倒的に負けて劣勢であり、ヘリは無力化された。
その結果、自軍はほぼ無傷の敵兵団と、いまや白兵戦の最中であるが、兵の練度は相手が上だ。すでに白兵戦の開始から1時間以上たった今、おそらく自軍の損害は3割を超えただろう。
通常であればすでに敗北であるが、引くとさらに付け込まれて、損害を増やすので引けない。これは米軍に攻撃を依頼してそのすきに一旦引くしかないか、とその決心をして崔中将に意見具申をしようとしたとき、北から何かの大音響が響き渡った。
それを合図に、何かの弾が次々に飛んできて、それがもうもうと煙を噴き上げ始めた。毒ガスか?しかし、味方もいる戦場に毒ガス弾を撃ち込むわけはない。これは煙幕だ!すると、うっすら見える範囲で、北の兵が整然と引いていっているのが見える。なぜだ?明らかに勝っている北がなぜ引くのか?
しかし、今のうちだ。「崔司令官、今のうちです。わが軍を引かせましょう。国境線の内側に引いて陣を構える。よろしいですか」朴の提言に、自軍の劣勢であることを認識している崔中将も同意する。
「よろしい、命じてくれ!」
朴の命に韓国軍はかろうじて秩序を保ち、煙でよく見えない中、息のある味方兵を連れて、国境を越えたあたりの丘の陰に陣を引いて集結する。やがて、煙幕が薄れたなかで、国境を挟み、1㎞ほど離れて、韓国と北の軍が対峙する。
すると、司令部の無線担当士官が叫ぶ。
「北の通信です。敵の通信担当士官と名乗っており、司令官文大将がわが軍の司令官とお話がしたいと言っております」
崔中将は、その声に朴と幕僚を見直して、彼らの同意の表情を見て士官が差し出すマイクを取る。
「韓国第1軍、司令官の崔中将です」崔がスピーカー機能をONにしたので北の将軍の声が聞こえる。
「朝鮮民主主義人民共和国軍の未来師団、司令官の文チョン大将です。本日、朝、前指導者であった金傍訓は国を誤った指導を行ってきたということで処刑されました。暫定指導者は安ショジン準将となりますが、指導者及び国の指導者については体制が整い次第人民の選挙で選ぶ予定です。
暫定指導者は金傍訓の命令で始められた戦争を止めたいと望んでおり、その命によりこの戦いの休戦を申し込みます」
まさに爆弾声明であった。至急暫定政府中央、キンメル中将にも連絡が行き、キンメルは駐留軍司令官と、駐留軍司令官は本国と協議して、結論は停戦を受け入れるというものであった。韓国の臨時政府の本音は、勝って停戦にしたかったが自軍の損害の概算を聞いて、そのための必要な手当てを考えると受け入れしかないという結論であり、アメリカ側は自軍に損害無しに停戦できるなら問題なしということであった。
そうしているうちに、まもなく出された北朝鮮の国営放送の内容に、その停戦は大きな話題ではなくなった。
「私は、わが朝鮮民主主義人民共和国の新しく暫定指導者になった、安スジュンと申します。年は35歳です。私は、前の指導者である金傍訓とは血のつながりはありませんが、軍における階級は准将でしたから一応将軍の一人ではありました。
我が国は、長く国際社会とは敵対してきました。その大きな理由は他国の制止を踏み切って核兵器を開発してきたからであり、しかもそれによる他国の破壊を公然と表明するなどの上です。従って、明らかにそうなる理由はありましたし、そのほかにも多くの余り明らかにできないような行為がありました。
こうした行為は、全て金一族の指導の下に行われており、これらはその一族が贅沢をして存続をするためだけのものであります。そうした努力の結果、最近はまさにアメリカ軍と一触即発の状況まで行ったわけです。
こうして国を誤った方向に導いたとして、我々新たな指導部は金傍訓を処刑しました。無論、金を処刑してすべてを彼の責任に帰するつもりはありません。
私も将軍であった以上その体制の一員であったわけですから、彼の誤りのその一端を担ってきたことは事実です。その点の総括、処罰は皆が出来るだけ納得する形で行います。
さて、わが政府は、このことも踏まえて過去の金王朝の政治を完全に改め、我が国からまず飢えを駆逐し、国民が貧しくとも公平で、静かに平安に暮らしていける国にします。国際的には、まず、武器としての核開発は止めることをお約束しますし、数々の国家的犯罪と言われる行為は直ちに停止します。
特に日本の皆さんに対しては、皆さんが大変憂慮されているいわゆる拉致被害者については、全ての情報を開示し望めば全員を帰国させます。これは、韓国についても同様です。
我が国は貧しい国です。また長く半ば鎖国状態にあって、国際社会の進歩に大きく遅れております。しかし、我が国はただいまから開いた国に致しますし、そうするにふさわしい体制にします。
今後の我が国は私が先ほど言った、貧しくとも公平で、静かに平安に暮らしていける国にするために国際社会の強力なご協力をお願いするものです。
現状のところ私は臨時の指導者であり、私を中心とする政府も同じです。これについては組織が固まり、落ち着き次第選挙を行って、指導者を選びます。その時期はおおむね1年後程度を考えています。
なお、韓国との国境における戦闘については、我が国も韓国も多くの将兵が死傷しました。指導者として亡くなった将兵に哀惜の情を禁じえません。また、この停戦を受け入れて頂いた国連軍に感謝致します。なお、最後になりますが、韓国に対する宣戦布告は取り下げさせて頂きますし、この旨の書類は直ちに発行します」
驚くべきことに、新たな北朝鮮の指導者は、自らテレビ放送でこうした過去の北朝鮮からすれば驚嘆することを語った。かれは、少し白髪が目立つ細身の厳しい顔つきではあるが柔らかな目つきの人物で、地味な浅緑の襟のついた軍服のような服を着ていた。
この放送は、直ちに翻訳されて世界中に重大ニュースとして流されたが、日本では放送から3時間遅れて首相と官房長官、外務大臣の会合の席でも再生された。
「これは、余りに今までと違いすぎて何と言っていいのかわかりませんね。しかし、拉致被害者が返されるというのは朗報です。結局、我が国が北のミサイル火星8号を撃墜したのがまわりまわってこうなったわけですね。
それが、韓国のクーデターを生み、その韓国のクーデターが、それも原因の一つになって北朝鮮のクーデターを生んだ」
加藤外務大臣がしみじみ言うのに合わせて篠山官房長官が同意して言う。
「そうです。しかし、火星8号が成功した場合に比べるとずっといいシナリオですよ。その場合、北朝鮮は瓦解したでしょうが、まず間違いなく韓国で数十万人が死亡し、我が国にも核ミサイルが降ってきた可能性はありました。
さらには、北から流れ出した難民が船で押し寄せたでしょうね。しかし、この安スジュンという指導者はずいぶん若いですが、なにか日本人的な顔ですね。また、ずいぶん地味な服をきていますね。なんだろうな、右の襟についているバッジみたいなものは」
それに対して拉致問題に大きな関心を払っている首相が言う。
「安スジュン氏が言っていたリストというのはいつくるのかな。どの程度正確なのかなあ」
その時であった、加藤の緊急時専用の携帯が鳴る。
「はい、加藤です。え、ええ!拉致被害者のリストが届いた!」そう携帯に応え、首相の顔を見る。
「すぐ送ってもらってください」首相の指示にそって、加藤が命じ10分後にはA4のぺーパーがその席に届く。それは58人分の日本語の名前入りのリストであり、名前、日本の場所(多分拉致された場所)、生存の有無、現在の住所が書いてあり、28人が生存していることになっている。
首相は秘書官を呼び指示する。「すぐ、拉致問題協議会の会長の安藤さんに連絡をとって、このリストを送ってください。この件では私が今夕19時に記者会見を開きますと伝えてください。だけど、安藤さんが記者会見を開くことは自由ですともね」
その後、首相は官房長官と、外務大臣を向いて言う。
「さて、リストが本物なら北朝鮮は言ったことを守ったわけだ。また、リストを公開した以上、間違いなく返すことは同意するでしょう。リストが本物とわかった場合には対北朝鮮をどうするかですね」
首相の言葉に加藤が考えながら言う。「この対応の素早さから言うと、かなり北の政府は優秀なようですね。また、指導者がテレビに出てきてしゃべった以上、言ったことは守るでしょう。核兵器の開発はすでに価値を失っているのもありますが、実際に止めるでしょうし廃棄にも応じるでしょう。
また、言われている偽ドル、麻薬、ハッキング等の止める可能性は高いと思います。そうして、それらの罪は前政権のものであると言われれば、そしてそれに何らかの措置を自ら下すと言っているわけですから、我が国が北に対して行っている様々な圧力は解くべきでしょう。
さらに、彼らが貧しいことは事実ですから、我が国の援助の対象になりますね」
それに対して、篠山官房長官が言う。「問題は日韓基本条約だな。あれにより、独立見舞金みたいな形で無償・有償の金を韓国に与えたわけだが、北朝鮮分も込みなのだよね。正式には韓国に『北朝鮮に払ってください』で終わりなのだけど、そうはいかないよね。でもそれは、韓国にはいずれにせよ言うべきだけどね」
「これは、日韓基本条約がある以上、我が国が現金を払う訳にはいかないでしょう。無償3億ドル、有償8億ドルが今どのくらいになるかと言う問題はあるしね。しかし、官房長官の言われるように韓国にはそういう約束だったという釘は刺すべきですね。
しかし、ODAで助けることは出来ます。北には鉱物資源が豊富であっても、そうした鉱山に十分な投資をしてこなかったため採掘量が限られているという情報もあります。また、インフラはどっちにしろボロボロでしょう。しばらく、最優先でODAをつけましょう。
また、私が聞いているのは、北朝鮮の教育レベルは必ずしも低くないというのですよ。少なくとも小中高の教育はしっかりしていると言います。そうであるなら、日本の民間からの投資も十分考えられるのではないでしょうか。
なにより、近いですからね。まだ、素朴な人たちのようですから、韓国のように国民全員が敵になるような国にならないように日本の味方にしましょう」首相がそのように言う。
記者会見の前に、首相の下には拉致問題協議会の会長の安藤から連絡があった。彼が言うには、わかる限りではリストは正しく、知らない名前も2割ほど含まれているのでリストは本物と判断されるとのことであった。
安藤にとって残念ながら、彼の妹さんは28人の生存者に含まれていないということであった。
それから、安藤の話に重要な点が含まれていた。
「島根の真田さんから連絡があったのですが、北朝鮮での新しい指導者安氏が拉致された自分の妹の良子に面影が似ているというのですよ。妹さんは生きていれば59歳のはずですが、残念ながらリストでは亡くなっています。
それで、画像を拡大して、気になった襟に着けたバッジを調べたところ、良子さんが行方不明になった当時の制服についていたはずの校章のバッジらしいというのです」
「ええ!北朝鮮の指導者である安ショジンは日本人女性の息子?」阿山は息をのんだ。
「それは、大変重大な話です。この話は、しばらくは伏せておいてください」
首相の言葉に安藤は「はい、わかりました。しかし、真田さんが……、電話してみましょう」そう答えたが遅かった。
すでに、興奮した真田は支援者の知り合いに話をし、知り合いから島根新聞の記者に話は流れた。バッジの件を確認した記者から、最初はその地方紙に、それから全国へと、たちまち日本中のマスコミに「北朝鮮の新指導者、日本人拉致女性の息子?」の文字が躍った。
その後、外務省による北朝鮮への交渉の中でそれは裏付けられ、病死した真田良子の手記が島根の真田家に届けられた。
その中で、彼女が最初は恐怖の中で暮らし、ショジンの父の安将軍の後妻として嫁いでショジンを生んでそれなりに幸せであったことが綴られており、生き残っている直接の肉親である母の順と兄の良治を始め一族の涙を誘った。
北朝鮮は約束を守り、核兵器は廃絶し、非合法活動は止め、国境を開いて積極的に世界のジャーナリストを始め、変わったところに行きたがる旅人を迎え入れた。
日本は、世論の後押しもあり、北朝鮮に対して最大限のODAを始め、上下水、道路等のインフラ及び農業と鉱山開発に注力した。また、北朝鮮の教育レベルが比較的高く、労働者として良質なことが知れると日本企業の工場進出が相次いだ。
韓国も日韓基本条約の事で日本からの申し入れもあって、無償20億ドル、有償50億ドルの援助を表明している。これは、白政権の経済音痴政策のため、再度経済危機に陥りかけたのを日本が500億ドルのスワップを結んで助けたことも影響している。日本政府も、金政権が少なくとも反日政策を採っていないのに敵視する必要はなかったのだ。
ちなみに、北朝鮮のピョングガン、韓国のチョルウオン付近で行われた戦いは、3日間戦闘と呼ばれた。この戦いで、韓国軍は夜襲で死んだ4千名に国境での白兵戦の陸軍と戦闘機とヘリのパイロットで約6千人の合計1万人が死に、戦闘機、戦闘ヘリ、戦車等の多数が破壊された。
北朝鮮側の死者は4千人、戦車はすべて破壊され、もってきた小型ミサイルも全て撃ちつくしたが、全体としては北朝鮮側の勝ちといっていいだろう。
この戦いで北朝鮮軍侮りがたしという評価が固まった。
更新は明後日になります。
思いがけず旧作を読んで頂いて感謝します。
以下完結2作、良かったら読んでください。
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